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一枚か二枚か

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「一体いくらで雇われてるんですか?」

 相手の素性を予想した冨岡の問いかけ。言わずもがな危険すぎる賭けである。もしも見当違いの発言であれば、激昂されてもおかしくない。
 だが、真っ向から反論しても暴力でねじ伏せられるだろう。そうなれば冨岡に立ち向かう術はない。また、これ以上店前で揉めれば、真実など関係なく移動販売『ピース』の評判は落ちる。飲食店にとっては致命的なダメージだ。
 むしろ、男はそれを目的としているかもしれない。
 そう推測した上で、男に揺さぶりをかけることが咄嗟に思いつく手段の中では最善である、と冨岡は考えていた。
 すると男は分かりやすく狼狽える。

「な、なんだ。雇われてるってなんだよ」

 その反応から賭けに勝ったと確信し、冨岡は話を続けた。

「このまま俺を脅し続ければ、確かに店の評判は下がるでしょう。でも、何があっても売上金は渡しませんよ。その上、必死に抵抗します。確かに真っ向から殴り合えば、俺は負けるでしょうが、必ず一矢報いてみせますよ。さらに言えば、この店を潰されても俺はもう一度違う形で飲食店を出します。それでは『雇い主』からの依頼に答えられない。アンタは銅貨一枚だってもらうことはできないし、大きな傷を負い、自慢の暴力も行使できなくなる」
「はっ、だったらこの場で!」
「俺を殺しますか? 多少の金で、一生罪人として追われて生きていくんですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、男は言葉を失う。
 おそらく頭の中で、様々なものを秤に載せているのだろう。だが冨岡は考える余地を与えない。

「このままいいように使われていいんですか? 結局、罪を負うのはアンタで『雇い主』は安全な場所にいる。何かあれば切られて終わりだ。それでもいいなら、さっさと屋台を壊せばいい。けど・・・・・・一矢報いたいと、アンタも思うのならいい話がある」
「いい話だと?」
「ああ、そうだ。今、アンタはいくらで雇われてるんだ」
「そ、それは」
「今更隠そうたって無理があるよ。ここまでの話で否定しきれなかったことが答えだ。この店を潰した暁に、アンタはいくら手にする予定だったんだ?」

 追い詰めるような冨岡の問いかけに、男は思考力を奪われ俯く。
 そのまま黙るのかと思いきや、小さな声でこう答えた。

「き、金貨一枚だ」

 男は自分が割に合わない仕事を負わされているのだ、と理解できたらしい。嘘を見抜かれ、状況を暴かれ、軽いパニック状態の男は驚くほど素直に冨岡の言葉を受け入れる。
 彼の心の扉が開きかけた瞬間、冨岡は無理やり手を捩じ込んでこじ開けた。

「俺は金貨二枚、この場で払いますよ。だから俺についてください」
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