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本編
第3話_秘密の逢瀬-1
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数日後のとある週末の昼過ぎ、住宅街にある小さな神社へ、一台の軽トラックが乗り付ける。
境内裏手にある駐車場へ停め、ダウンベストに前掛け姿の青年が、酒と調味料数本を両手にぶら下げ、敷地内の住居へ小走りに近付いていった。
「ちわっすー、花房酒店です」
玄関先からよく通る声が家の奥まで届き、やがて背中へ長く伸びる髪を揺らしながら、和服姿の家主が引き戸を開けた。
「ありがとう烈、配達ご苦労様」
「うっす。今日はいつものお神酒に、薄口醤油と米酢が1本ずつっすね。毎度あり」
「まだ半袖なんだ。元気だね」
「配達回ってると暑くなっちゃって。ホントはダウンも脱ぎたいところなんすけど、行く先々で心配されちゃうから、仕方なく着てますね」
そう軽く言葉を交わしながら帳簿へ書き込み、無造作に伸びた猫っ毛と耳の間にペンを差すと、烈は品物を手にあがり込む。
「今日は納屋へはいいからね。床下の方にだけお願い」
「了解!」
家主の葉月に指示を貰い、烈はキッチンの床下収納へ納品する。
烈は近所の個人酒屋『花房酒店』の若き三代目で、主に仕入れや配達、営業回りなどをしながら母と親子ふたりで店を切り盛りしている。
20歳なりたての上、継いでからも1年余りしか経っておらずまだ色々と不慣れだが、持ち前の明るさと恵まれた体格を生かし、店主として日々成長を重ねていっている。
一方葉月は、この小社『楠神社』の神主で、彼もまた若くして親から宮司職を継いでいる身である。
同居していた家族は、前宮司である父親の体調の都合で葉月を残して全員が母方の実家へ移り住み、それから4年余り独り暮らしをしている。
寂しく過ごしているかと思いきや、家族が移住した直後に趣味の武道場を敷地内に建てたり、料理の面白さにハマってシェフ並みの腕前を身に着け、近所の奥様方相手にオリジナルレシピ集を配るなど、割と好き勝手に充実した独身生活を謳歌している。
境内裏手にある駐車場へ停め、ダウンベストに前掛け姿の青年が、酒と調味料数本を両手にぶら下げ、敷地内の住居へ小走りに近付いていった。
「ちわっすー、花房酒店です」
玄関先からよく通る声が家の奥まで届き、やがて背中へ長く伸びる髪を揺らしながら、和服姿の家主が引き戸を開けた。
「ありがとう烈、配達ご苦労様」
「うっす。今日はいつものお神酒に、薄口醤油と米酢が1本ずつっすね。毎度あり」
「まだ半袖なんだ。元気だね」
「配達回ってると暑くなっちゃって。ホントはダウンも脱ぎたいところなんすけど、行く先々で心配されちゃうから、仕方なく着てますね」
そう軽く言葉を交わしながら帳簿へ書き込み、無造作に伸びた猫っ毛と耳の間にペンを差すと、烈は品物を手にあがり込む。
「今日は納屋へはいいからね。床下の方にだけお願い」
「了解!」
家主の葉月に指示を貰い、烈はキッチンの床下収納へ納品する。
烈は近所の個人酒屋『花房酒店』の若き三代目で、主に仕入れや配達、営業回りなどをしながら母と親子ふたりで店を切り盛りしている。
20歳なりたての上、継いでからも1年余りしか経っておらずまだ色々と不慣れだが、持ち前の明るさと恵まれた体格を生かし、店主として日々成長を重ねていっている。
一方葉月は、この小社『楠神社』の神主で、彼もまた若くして親から宮司職を継いでいる身である。
同居していた家族は、前宮司である父親の体調の都合で葉月を残して全員が母方の実家へ移り住み、それから4年余り独り暮らしをしている。
寂しく過ごしているかと思いきや、家族が移住した直後に趣味の武道場を敷地内に建てたり、料理の面白さにハマってシェフ並みの腕前を身に着け、近所の奥様方相手にオリジナルレシピ集を配るなど、割と好き勝手に充実した独身生活を謳歌している。
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