ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

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:メイド、聞き逃す(上):

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 お仕置き。

 いったい何をされるのだろう、と、彩葉はぎゅっと目を閉じて身を硬くする。
 このお屋敷に来るまで、お仕置などされたことはなかったのだ。
 むろん、親が子へ行うお仕置きと、変態が彩葉に施すお仕置きは中身も目的も大いに異なるのだが。
 鞭で打たれるのだろうか。蝋燭を垂らされるのだろうか。それとも縛られて大黒柱や衣紋掛けに括りつけられるのだろうか――いや、この部屋には、大黒柱も衣紋掛けもない。あるのは、観葉植物やインテリア雑貨を引っ掛けるためと思われるフックくらいだ。
(吊るされる心配はなさそうね……)
 あるいは、恥ずかしいコスプレやポーズで屋敷内を歩くとか、淫らな言葉を言わされるとか……。
 どれもこれも、未知の世界である。
 どくん、と心臓と下腹部が強く打つ。
 ぎし、と、辰之進がソファーに乗ってきた気配がする。
「なに、するつもり……」
 思わず彩葉の声が震える。辰之進がネクタイで一つにまとめた手首をぐっと引っ張り上げる。かなり高く持ち上げられたところで、メイド服がびりびりと切り裂かれた。器用なものである。
「ひゃああ! 制服、勿体無い!」
 そこ? と、辰之進が笑う。
「制服の支給は何度でもしてやるさ。んーいい眺めだな……」
 じょきん、じゃきん、と布を断つ音がして、服も下着も全部が切り刻まれてしまった。ひやりとした刃物が肌に触れ、ぶるりと思わず震える。
「う、うそ……そんな……こわい」
「あ? ああ、安心しろ。痛いことはしない」
「ほん、と、に?」
「ああ。約束する。相手を痛めつけたり苦痛を与えたりするのは俺の趣味じゃないから――安心しろ、はさみも、片付けるぞ」
 体温が離れていき、抽斗が開閉する音がする。はさみをしまったのだろう。妙なところが律儀な男である。
 戻ってきた辰之進が彩葉の耳たぶをちろちろと舐めながら「おまたせ」と低く言う。ふぅっと息を吹きかけられて彩葉の背筋が大げさなほどに震える。
「そうだな……前回は縛ったまま放置して……ちゃんと気持ちよくしてやれなかった。そこは反省している」

 一瞬にして彩葉の首から上が真っ赤になった。
「思い出したみたいだな」
「あっ、この、変態っ」
「なんとでも」
 前回、何の理由でだかわすれてしまったが、彩葉はいきなりお仕置きをされた。
 メイド服を脱がされたかと思うと、裸体にエプロン一枚――つまり、裸エプロンにされた。
 それだけでも羞恥心が振り切れそうなのに、そのままローターをいくつも装着された。あちこちから同時に襲ってくる刺激は初めてのことだった。
 そこまでは覚えているのだが、そこから先は記憶がない。
 恥ずかしすぎて記憶から消したのかと思ったが、辰之進曰く、
「気持ちよすぎて意識飛ばして、快感が強烈すぎていろいろ忘れたんだろ」
 とのことである。
 嘘か本当か――いや、そんなことがあってたまるか! と、彩葉は思うのである。己はそこまで快感に溺れるタイプではない、と。

「忘れたいほどの快感――今日も味わわせてやるよ……」
 結構です、と言えばいいのに言葉が出ない。
 どこかで期待している自分がいるのだ。だがそれを、目の前の変態御曹司に知られたくはない。
 葛藤しているうちに、アイマスクが、外された。
「さ、これを見ろ」
 ぎょっとする彩葉をよそに、辰之進は鮮やかな手並みでソレ……赤いシルクのロープを操った。
「立て」
「ん……」
 のろのろと立ち上がれば、あっという間に、複雑な縛り方で縛られてしまった。
「どこで覚えるのよ、こんなもの……」
「専門家がいるんだよ、何事も」
「へぇ……勉強熱心なのね」
「当たり前だ。社長だからな……よし、どうだ? あそこの前に行くぞ」
 あそこ? と、指さされた方を見て、彩葉はぎょっとした。
「ちょ、ほ、本気!?」
 当然だとも、と、野獣はにっこりと微笑んだ。さぁっと血の気がひく。
「かっ、帰らせていただきます」
「どこへ?」
「自分の部屋っ!」
「その恰好で? やれるものならどうぞ」
 ぎゅっと抱きしめられ、彩葉は真っ赤な顔で項垂れた。
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