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:閑話・想定外のクリスマス4:
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そのままーーというか深く考えることもなく家出をした彩葉は、自宅リビングでぼんやりとテレビを見ていた。
「はぁ……」
新しい年になって何日経っただろうか。だが彩葉の心は沈んだままだった。
いまだネットに出回っているであろう己の写真を見たくなくて、スマホやネット、SNSは、必要最低限にしている。
ただし廃人になってしまったわけではない。カウトダウン企画とお年玉企画があったため年越しギリギリまで仕事をしたし、年明けもすぐ、業務メールが変わらず届く。それを華麗に捌く彩葉は、もはや、立派なキャリアウーマン……を通り越して、社畜の様相を呈している。
「辰之進くんのところへ嫁に出して正解だったな」
「ちょっとパパ! まだ婚約段階だし! それも破棄したいし!」
そうかそうか、と、彩葉の父は穏やかに頷く。
「心の底から婚約破棄を願うなら、そのように話をつける。遠慮なく言いなさい。娘の幸せを一番に願うのが親だからね」
「……ありがとう、パパ」
「しかしリモートワークってのはすごいな……家出してきていながら、作業がほとんど滞らないんだろう?」
「え? うん、そうね。ここにいながら、会社や世界の人と会議が出来るし、生徒さんたちの様子もわかる」
たいしたもんだ、と、彩葉の父が感嘆した。
「やはり我が社も、もう少しリモートを進めたいなぁ……。彩葉、どうにかならんかね」
そのことね、と、彩葉もパソコンから顔を上げる。家出してきてから、父が何に苦戦しているのかが彩葉にも見えていた。同時に、それをどうするのが最善なのか、それも、考えていた。
なるよ、と、彩葉は一枚の紙を父に渡す。自分は、スマホを手にした。
「ほう?」
「パパ、思い切ってこのシステムを導入するのはどうかな……って思うのね」
「ふむ? そこまで大きくない我が社には宝の持ち腐れにならないかね?」
「意外と、そんなことないのよ」
話し合いをしながらメッセージアプリを立ち上げ、慣れた手付きで辰之進にメッセージを送る。
「パパ、辰之進自身が相談に乗ってくれるって!」
「な、なにぃ!? 彼は日本一多忙だろうに……」
「げっ、今から来るって……」
逃げなきゃ、と、立ち上がってキョロキョロする彩葉は、転びそうになりながら部屋を飛び出す。
「彩葉、待ちなさい。なぜ、辰之進くんから逃げるのかね?」
父の呼びかけに、彩葉の足が止まった。
「だって、パパ……このあたしが辰之進と釣り合うと思う?」
「思うよ」
「え」
「美男美女……は、さておき。辰之進くんは、会社をあそこまで育ててさらに歩みを止めずにビジネスを拡大させている。それは、人を見る目、世の中を見る目、あらゆることを読む力に長けて、育てる力をもっているのだと思うよ。その彼が、妻にしたいと望んだお前自身をもっと誇りに思ってはどうかな?」
「そんな魅力が……あるのかな」
「あるさ。自身の魅力は自分では気付け無いものだけれど……そうだね、辰之進くんのどこに惹かれたのか考えてごらん。おっと、惹かれてないもん! というのはナシだよ。彼に惹かれていることを認めなさい。それでもまだ婚約破棄がしたければいつでも言いにおいで」
穏やかに微笑む父に頷き返した彩葉は、リビングのソファーに腰掛けた。
お気に入りのクッションを抱えて、ため息をつく。
「パパ……どこに惹かれたかなんて、わかんないのよ」
愛されているのはーーわかっている。辰之進は、言葉でも態度でも過剰なほどに伝えてくれているし、抱かれているときも幸せだと感じる。
「結局、自分に自信がないのがいけないのよね……」
辰之進に与えられた山のような仕事をこなしてはいるが、それによって自分は何か成長しただろうか。何が学ぼうとしただろうか。
「ーー成長、してないんだろうなぁ……」
情けなくて涙が出てくる。もっと勉強がしたい。辰之進の助けになれるような、これなら誰にも負けないと言える何か強い武器が欲しい。
そう思った彩葉が顔を上げたとき、インターフォンが鳴った。
ーー辰之進!
画面に映る辰之進の姿に、彩葉の心臓がとくん、と、はねた。
「はぁ……」
新しい年になって何日経っただろうか。だが彩葉の心は沈んだままだった。
いまだネットに出回っているであろう己の写真を見たくなくて、スマホやネット、SNSは、必要最低限にしている。
ただし廃人になってしまったわけではない。カウトダウン企画とお年玉企画があったため年越しギリギリまで仕事をしたし、年明けもすぐ、業務メールが変わらず届く。それを華麗に捌く彩葉は、もはや、立派なキャリアウーマン……を通り越して、社畜の様相を呈している。
「辰之進くんのところへ嫁に出して正解だったな」
「ちょっとパパ! まだ婚約段階だし! それも破棄したいし!」
そうかそうか、と、彩葉の父は穏やかに頷く。
「心の底から婚約破棄を願うなら、そのように話をつける。遠慮なく言いなさい。娘の幸せを一番に願うのが親だからね」
「……ありがとう、パパ」
「しかしリモートワークってのはすごいな……家出してきていながら、作業がほとんど滞らないんだろう?」
「え? うん、そうね。ここにいながら、会社や世界の人と会議が出来るし、生徒さんたちの様子もわかる」
たいしたもんだ、と、彩葉の父が感嘆した。
「やはり我が社も、もう少しリモートを進めたいなぁ……。彩葉、どうにかならんかね」
そのことね、と、彩葉もパソコンから顔を上げる。家出してきてから、父が何に苦戦しているのかが彩葉にも見えていた。同時に、それをどうするのが最善なのか、それも、考えていた。
なるよ、と、彩葉は一枚の紙を父に渡す。自分は、スマホを手にした。
「ほう?」
「パパ、思い切ってこのシステムを導入するのはどうかな……って思うのね」
「ふむ? そこまで大きくない我が社には宝の持ち腐れにならないかね?」
「意外と、そんなことないのよ」
話し合いをしながらメッセージアプリを立ち上げ、慣れた手付きで辰之進にメッセージを送る。
「パパ、辰之進自身が相談に乗ってくれるって!」
「な、なにぃ!? 彼は日本一多忙だろうに……」
「げっ、今から来るって……」
逃げなきゃ、と、立ち上がってキョロキョロする彩葉は、転びそうになりながら部屋を飛び出す。
「彩葉、待ちなさい。なぜ、辰之進くんから逃げるのかね?」
父の呼びかけに、彩葉の足が止まった。
「だって、パパ……このあたしが辰之進と釣り合うと思う?」
「思うよ」
「え」
「美男美女……は、さておき。辰之進くんは、会社をあそこまで育ててさらに歩みを止めずにビジネスを拡大させている。それは、人を見る目、世の中を見る目、あらゆることを読む力に長けて、育てる力をもっているのだと思うよ。その彼が、妻にしたいと望んだお前自身をもっと誇りに思ってはどうかな?」
「そんな魅力が……あるのかな」
「あるさ。自身の魅力は自分では気付け無いものだけれど……そうだね、辰之進くんのどこに惹かれたのか考えてごらん。おっと、惹かれてないもん! というのはナシだよ。彼に惹かれていることを認めなさい。それでもまだ婚約破棄がしたければいつでも言いにおいで」
穏やかに微笑む父に頷き返した彩葉は、リビングのソファーに腰掛けた。
お気に入りのクッションを抱えて、ため息をつく。
「パパ……どこに惹かれたかなんて、わかんないのよ」
愛されているのはーーわかっている。辰之進は、言葉でも態度でも過剰なほどに伝えてくれているし、抱かれているときも幸せだと感じる。
「結局、自分に自信がないのがいけないのよね……」
辰之進に与えられた山のような仕事をこなしてはいるが、それによって自分は何か成長しただろうか。何が学ぼうとしただろうか。
「ーー成長、してないんだろうなぁ……」
情けなくて涙が出てくる。もっと勉強がしたい。辰之進の助けになれるような、これなら誰にも負けないと言える何か強い武器が欲しい。
そう思った彩葉が顔を上げたとき、インターフォンが鳴った。
ーー辰之進!
画面に映る辰之進の姿に、彩葉の心臓がとくん、と、はねた。
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