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:閑話・想定外のクリスマス3:
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辰之進とヴィクトールは大興奮していた。
「ヴィクトール、みろ、なんと素晴らしい彩葉の太もも!」
興奮気味の辰之進は、いかに素晴らしい太ももで、それを撫でれば彩葉がどんな反応を返すかを声高に喋る。恥ずかしいことこの上ない。
「彩葉……触らせろ」
するするとスカートが捲られ、辰之進の手がいやらしく動き回る。彩葉は「ばかっ!」と悲鳴をあげた。
「あとでたっぷり可愛がってやる」
耳元で囁かれて彩葉の体を快感が走る。
「すっかり俺好みの反応をするようになったな、彩葉。調教し甲斐があるな」
と、辰之進は満足そうである。
「私はこちらの、辰之進と疾風が笑い合う画像が好き。ビジネスの場では見せない、二人ともがフレンドリーな感じが目新しい」
「ほほう、なるほどな……この時は、確かにみんなリラックスしていた」
彩葉はあまりの羞恥心に体を縮こまらせていた。
画面に、たびたび己の体が大写しになるのだ。居た堪れない。
「辰之進……今度からキスマークは、きちんと隠れる場所につけることをおすすめするよ。というか……こんなちんちくりんの、どこがいいのだろうか……辰之進に相応しいパートナーは山ほどいるだろう」
ヴィクトールの蔑んだような目。
ぐさっと刺さる言葉、さらにあからさまな敵意を向けられ、さらに彩葉は小さくなる。
――そんなこと言われなくっても、自分が一番よくわかってるし……
ヴィクトールのスマホが鳴った。顰め面になったものの、ヴィクトールがフランス語で会話を始めるとすぐに明るい表情になった。と、そのスマホを辰之進に渡し、辰之進もそのままフランス語で会話をする。
辰之進の表情が明るくなったところを見ると、いい話が飛びこんできたのだろう。
パソコンを慌ただしく切り替え、これからオンラインミーティングであるらしい。
「辰之進、やりましたね」
「ああ、きみのおかげだよ」
「辰之進のためなら、なんだってやりますよ」
彩葉には、何の話かさっぱりわからない。ヴィクトールが嬉しそうに辰之進と握手をして抱擁する。
「すまない彩葉、待っててくれるか?
少し混み合った話で手が離せそうにないんだ」
「うん、こっちは大丈夫だから、お仕事頑張って!」
ちらり、とヴィクトールが彩葉を見る。そのなんとも言えない視線に、彩葉は萎縮してしまう。
「……辰之進、部外者は遠慮してもらいたい」
冷ややかな声だ。出て行け、と、言われているのだとわかってしまう。
「大丈夫だよヴィクトール、彩葉は俺の婚約者だから、全て知らせておきたい」
「しかしーー」
英語で会話を重ねて、辰之進がくるっと振り返りーー。
「あれ?」
「彼女は聡い子だね。素直に行ってくれたよ、辰之進。さあ、楽しもうじゃないか」
「え? な、何を?」
生き生きしたヴィクトールは、少し待っていて、と告げた後、シェフを引き連れて戻ってきた。
「君と、私と、新しいプロジェクトと、クリスマスに乾杯だ」
「お、おお、乾杯」
「……九条さん、お仕事ありませんか……」
彩葉は部屋を出たその足で、メイド頭のところへ行っていた。
「彩葉さん! その格好……」
「その……辰之進の婚約者をやめて、メイドに戻りたいな、と思って」
すっかり慣れたミニスカメイド服に身を包めば気分もしゃっきりする。
「何があったのかは分かりませんがーーいいでしょう。働いてください」
「ありがとうございます」
「では、螺旋階段をお願いします。年末年始にかけて、多くのお客さまが滞在予定ですから、階段も念入りに」
「はい!」
掃除道具一式を抱えて担当区域へ行けば、顔見知りの仲間が二人、笑顔で迎え入れてくれた。
「忙しくてね……手摺や窓を磨くところまで手が回らないのよ」
「螺旋階段は任せて!」
「じゃあ私たち、二階の廊下へ行ってもいいかしら?」
「はい。慣れてますから大丈夫」
二人がスカートの裾を巧みに抑えて階段を駆け上る。
「よし、お掃除頑張ろー!」
黙々と掃除に励めば、心に蟠るモヤモヤもヴィクトールのことも一時的にではあるが、頭の中から追い出せた。
「ふふっ……この汚れにはこっちの洗剤がいいかしらね……」
ふと、人の気配を感じて手を止める。螺旋階段を、辰之進とヴィクトールが上がってくる。
さっと道を避けて頭を下げる。
「彩葉!? お、おい、なんで……」
「辰之進、今はこちらに集中。メイドのことなんて放っておきなさい」
「待ってくれ、メイドじゃないぞ、彩葉だ」
「あなたの婚約者? 冗談でしょう。辰之進が大プロジェクト動かそうって時にそばにいないなんて、婚約者失格。もっといい人をパートナーにすべきだ」
「ヴィクトール! 俺は彩葉をーー」
「トップの経営者が、愛だけでパートナーを選ぶ? 面倒ごとを持ち込む女が本当にふさわしいとでも? 辰之進、あなたは本当に愚かだ」
彩葉は唇を噛んだ。
なぜかヴィクトールの言葉が心に突き刺さる。
「もう、いいや。傷の浅いうちに、メイドに戻してもらお……」
するり、左手の薬指から指輪を抜いて螺旋階段から投げ捨てた。
「ヴィクトール、みろ、なんと素晴らしい彩葉の太もも!」
興奮気味の辰之進は、いかに素晴らしい太ももで、それを撫でれば彩葉がどんな反応を返すかを声高に喋る。恥ずかしいことこの上ない。
「彩葉……触らせろ」
するするとスカートが捲られ、辰之進の手がいやらしく動き回る。彩葉は「ばかっ!」と悲鳴をあげた。
「あとでたっぷり可愛がってやる」
耳元で囁かれて彩葉の体を快感が走る。
「すっかり俺好みの反応をするようになったな、彩葉。調教し甲斐があるな」
と、辰之進は満足そうである。
「私はこちらの、辰之進と疾風が笑い合う画像が好き。ビジネスの場では見せない、二人ともがフレンドリーな感じが目新しい」
「ほほう、なるほどな……この時は、確かにみんなリラックスしていた」
彩葉はあまりの羞恥心に体を縮こまらせていた。
画面に、たびたび己の体が大写しになるのだ。居た堪れない。
「辰之進……今度からキスマークは、きちんと隠れる場所につけることをおすすめするよ。というか……こんなちんちくりんの、どこがいいのだろうか……辰之進に相応しいパートナーは山ほどいるだろう」
ヴィクトールの蔑んだような目。
ぐさっと刺さる言葉、さらにあからさまな敵意を向けられ、さらに彩葉は小さくなる。
――そんなこと言われなくっても、自分が一番よくわかってるし……
ヴィクトールのスマホが鳴った。顰め面になったものの、ヴィクトールがフランス語で会話を始めるとすぐに明るい表情になった。と、そのスマホを辰之進に渡し、辰之進もそのままフランス語で会話をする。
辰之進の表情が明るくなったところを見ると、いい話が飛びこんできたのだろう。
パソコンを慌ただしく切り替え、これからオンラインミーティングであるらしい。
「辰之進、やりましたね」
「ああ、きみのおかげだよ」
「辰之進のためなら、なんだってやりますよ」
彩葉には、何の話かさっぱりわからない。ヴィクトールが嬉しそうに辰之進と握手をして抱擁する。
「すまない彩葉、待っててくれるか?
少し混み合った話で手が離せそうにないんだ」
「うん、こっちは大丈夫だから、お仕事頑張って!」
ちらり、とヴィクトールが彩葉を見る。そのなんとも言えない視線に、彩葉は萎縮してしまう。
「……辰之進、部外者は遠慮してもらいたい」
冷ややかな声だ。出て行け、と、言われているのだとわかってしまう。
「大丈夫だよヴィクトール、彩葉は俺の婚約者だから、全て知らせておきたい」
「しかしーー」
英語で会話を重ねて、辰之進がくるっと振り返りーー。
「あれ?」
「彼女は聡い子だね。素直に行ってくれたよ、辰之進。さあ、楽しもうじゃないか」
「え? な、何を?」
生き生きしたヴィクトールは、少し待っていて、と告げた後、シェフを引き連れて戻ってきた。
「君と、私と、新しいプロジェクトと、クリスマスに乾杯だ」
「お、おお、乾杯」
「……九条さん、お仕事ありませんか……」
彩葉は部屋を出たその足で、メイド頭のところへ行っていた。
「彩葉さん! その格好……」
「その……辰之進の婚約者をやめて、メイドに戻りたいな、と思って」
すっかり慣れたミニスカメイド服に身を包めば気分もしゃっきりする。
「何があったのかは分かりませんがーーいいでしょう。働いてください」
「ありがとうございます」
「では、螺旋階段をお願いします。年末年始にかけて、多くのお客さまが滞在予定ですから、階段も念入りに」
「はい!」
掃除道具一式を抱えて担当区域へ行けば、顔見知りの仲間が二人、笑顔で迎え入れてくれた。
「忙しくてね……手摺や窓を磨くところまで手が回らないのよ」
「螺旋階段は任せて!」
「じゃあ私たち、二階の廊下へ行ってもいいかしら?」
「はい。慣れてますから大丈夫」
二人がスカートの裾を巧みに抑えて階段を駆け上る。
「よし、お掃除頑張ろー!」
黙々と掃除に励めば、心に蟠るモヤモヤもヴィクトールのことも一時的にではあるが、頭の中から追い出せた。
「ふふっ……この汚れにはこっちの洗剤がいいかしらね……」
ふと、人の気配を感じて手を止める。螺旋階段を、辰之進とヴィクトールが上がってくる。
さっと道を避けて頭を下げる。
「彩葉!? お、おい、なんで……」
「辰之進、今はこちらに集中。メイドのことなんて放っておきなさい」
「待ってくれ、メイドじゃないぞ、彩葉だ」
「あなたの婚約者? 冗談でしょう。辰之進が大プロジェクト動かそうって時にそばにいないなんて、婚約者失格。もっといい人をパートナーにすべきだ」
「ヴィクトール! 俺は彩葉をーー」
「トップの経営者が、愛だけでパートナーを選ぶ? 面倒ごとを持ち込む女が本当にふさわしいとでも? 辰之進、あなたは本当に愚かだ」
彩葉は唇を噛んだ。
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