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第一章 誰が駒鳥を隠したか
【006】カサンドラ
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『――じゃぁ、改めて。はじめまして、俺は花の男子高こ……違う間違えた、今はエフィストと名乗っている、神様の雑用係だ!』
『はぁ……私は笠渡です。いえ、その、この身体はエマちゃんのなんですけど……』
そんな緩い挨拶が日本語によって交わされて、カサンドラとエフィストは出会った。
それは、エマの身体で覚醒した恵麻が、いったいどうしたものかと途方に暮れている時だった。
事件の末に監禁され、ただ沙汰を待つ日々。必要なことも不要なことも、じっくりと考える十分な時間があった頃である。
恵麻が恋人に浮気をされ更に事故に遭う数日前、彼女は暇つぶしにWeb小説を読んでいた。タイトルは――正直なところ覚えていない。「夜明けの空」と「花束」という単語があったことだけは、なんとなく覚えている。
その小説の主人公は、日本から異世界に転移した心優しき乙女。
愚かだった過去の己を悔やみ傷ついた王太子と、その乙女の交流を描いた……特に癖もないよくある物語。
そしてその、愚かな過去の王太子には婚約者がいた。その婚約者の名は「未来視の聖女エマ」。
農民の娘として生まれたエマは、銀の髪と夜明け色の瞳を持つ、美しい少女だった。しかし両親のどちらの顔とも似ておらず、不貞の子として疎まれたエマは周囲に隠されて育ち、結局は三歳の頃に神殿へ売られることになった。魔女であることによって両親の関心を得ることは出来ず――魔女であるからこそ、余計に疎まれた。
エマが聖女として神殿に入った二年後、過去視の聖女も神殿に入ってきた。金の髪と炎のように揺らめく赤と黄の瞳の持ち主は、エマと同じ年齢の高位貴族の娘。己こそが世界に愛されているのだと自信に満ち溢れた五歳の少女は、自分以外の聖女の存在を許せなかった。
過去視の聖女は周囲の人々を言葉巧みに取り込みはじめ、着実にエマを孤立させていった。そうしてたった一年で、未来視の聖女は過去視の聖女を虐げる陰気で陰湿な少女である……という認識が神殿内に浸透してしまった。片や農民の娘、片や多額の寄付を納める侯爵家の令嬢。多数にとって、真偽などどうでもよかったのだ。
国に聖女がひとりいれば恵まれていると言える状況で、年若い聖女が国内にふたりも誕生したという、優越感や安心感が目を曇らせた。
更に時が経ち、両聖女が十歳を迎えた頃。同じく十歳の王太子の婚約者の選定が行われ、未来視の聖女が選ばれた。聖女の奇跡は当人を起点とすることが多いため、未来視の聖女を王家に取り込み、その奇跡を国のために利用するという王と神殿の長による判断であった。
しかしそれに反発したのが、過去視の聖女とその家族。加えて、そんな彼らにそそのかされた、未来視の聖女の婚約者になったはずの王太子だった。
王太子は王や教育係に叱られても、たまたま優れた奇跡を持つだけの農民出の陰気な婚約者を冷遇し続けた。
更には未来視の聖女エマが陰気な性格であることは事実だったので、「未来視の聖女は陰気で陰湿であり、聖女に相応しくない存在」なのだという、半端な真実を含んだエマの噂は広がり続けた。
次第にエマの未来視の奇跡すら、彼女が自分を見て貰うための虚言であると認識されることになり、どんどん軽視されていった。
堤防が脆くなっている箇所の修繕が必要で、このままでは氾濫が起きることを信じてもらえず。
王城の尖塔のひとつに大きな雷が落ち、対策をせねば火災になることを信じてもらえず。
些細な嘘の起こす波紋が大きくうねり、最終的に国が荒れていくことを信じてもらえず。
未来視の奇跡は、すぐにその現象が発生するものではなく、危険を訴えるエマの声は誰にも届かない。
信仰と使命感だけで立っているエマの疲労は蓄積するばかりで、彼女の精神は限界を迎えていた。
両聖女と王太子が十五歳になった時、未来視の聖女が過去視の聖女の毒殺を試みたという理由で、未来視の聖女エマは拘束された。過去視の聖女による、奇跡を騙る嘘の過去視によって。
神殿内で孤立し、単身で売られてきた農民の娘であるエマには、毒殺などという手間のかかるものを実行する伝も手段も、何も持っていないというのに。
真の未来視は否定され、嘘の過去視は肯定された。疲れ果てたエマはすべてを諦め――その心は静かに死んでいった。
王都の神殿を離れ、遠方の修道院に押し込められたエマは食事も拒絶したためすぐに衰弱し、やがて息を引き取った。
これらが恵麻の知っている「未来視の聖女エマ」の物語であり、恵麻がエマを通して視た現実に重なる出来事である。
違うのは、まだ修道院への移送前なため、エマの身体がまだ生きているということだけだ。
小説ではそれから数年後に、かつて未来視の聖女の婚約者だった傲慢な王太子が、新たに婚約者となった過去視の聖女の欺瞞に気づく。王太子は急ぎ未来視の聖女に会おうとしたが、彼女が既にこの世を去っていることを知り、激しい後悔に長く苛まれることになる。
さらに数年後、異世界の乙女が転移してきて傷心の王太子と心を通わせ慰め……という本編は今となっては蛇足であり、どうでもいいことだ。
現実ではその後、御使いとして未来視の聖女の様子を見る目的で監禁場所を訪れたエフィストに、初対面で異常を悟られて事情を話した。
『………………あの、この世界って、実は小説の世界だったりしますか?』
『は?』
『アッ、すみません、なんでもないです!』
『残念ながらこの世はラノベじゃぁないんだよね。あー、いや、確かに俺らの状況の要素を抜き出すとラノベなんだけどさぁ……』
調査の後に戻ってきたエフィストによって轢死仲間であるとの真相を伝えられ、ぽろりと飛び出た恵麻の質問は即座に否定される。
しかし、念の為ということで、カサンドラは仕方なく疑念を説明させられた。
『ああ、そういうこと。それなら多分……なんだけど、未来視に流用している予測シミュレーションが地球の誰かの夢に接触したのかもしれない。稀ではあるけど、まったくあり得ない現象ではないっていうのは聞いたことがある』
『えぇと……? まぁ、はい。よくわからない事象だということはわかりました』
エフィストとの打ち合わせを重ねた恵麻は、彼の協力によって監禁から抜け出す手段を得る。無事に脱出を成功させて隣の国へと逃げおおせた恵麻は、そのまま魔女の師に預けられた。
師の助言によって長い髪を切り、染め粉を用いて色を替え、名を変え、生きる術を教わり――夜明け色の瞳を持つ銀の髪の聖女エマは、夜明け色の瞳を持つ赤い髪の魔女カサンドラへと生まれ変わった。
逃げた後に隣国とそこの神殿が結局どうなったか……噂以上のことをカサンドラは知らないし、知ろうともしていない。エフィストも、あれから何も言ってこない。
最早文通友達のような関係になってしまっているこの国の王子に聞けば、信頼できる情報を得られるだろうが――そこまでする意味も価値も興味もない。
「――それで、ねぇ、エフィストクン、今回の仕事って何なの?」
「あー、うん、そうそう。隣の子爵領を放っておくと厄介なことになりそうでさぁー……」
エフィストが混乱中のアーサーを弄りだしそうな気配を察知し、一瞬の思案に耽っていたカサンドラが頬杖をついて行儀悪く話の先を促す。
薬草と野菜を育てて薬を作る合間に日々の雑事をこなし、魔女として世界のために働くカサンドラには、元にいた国の現状という無価値な情報にかまける暇はどこにも無いのである。
『はぁ……私は笠渡です。いえ、その、この身体はエマちゃんのなんですけど……』
そんな緩い挨拶が日本語によって交わされて、カサンドラとエフィストは出会った。
それは、エマの身体で覚醒した恵麻が、いったいどうしたものかと途方に暮れている時だった。
事件の末に監禁され、ただ沙汰を待つ日々。必要なことも不要なことも、じっくりと考える十分な時間があった頃である。
恵麻が恋人に浮気をされ更に事故に遭う数日前、彼女は暇つぶしにWeb小説を読んでいた。タイトルは――正直なところ覚えていない。「夜明けの空」と「花束」という単語があったことだけは、なんとなく覚えている。
その小説の主人公は、日本から異世界に転移した心優しき乙女。
愚かだった過去の己を悔やみ傷ついた王太子と、その乙女の交流を描いた……特に癖もないよくある物語。
そしてその、愚かな過去の王太子には婚約者がいた。その婚約者の名は「未来視の聖女エマ」。
農民の娘として生まれたエマは、銀の髪と夜明け色の瞳を持つ、美しい少女だった。しかし両親のどちらの顔とも似ておらず、不貞の子として疎まれたエマは周囲に隠されて育ち、結局は三歳の頃に神殿へ売られることになった。魔女であることによって両親の関心を得ることは出来ず――魔女であるからこそ、余計に疎まれた。
エマが聖女として神殿に入った二年後、過去視の聖女も神殿に入ってきた。金の髪と炎のように揺らめく赤と黄の瞳の持ち主は、エマと同じ年齢の高位貴族の娘。己こそが世界に愛されているのだと自信に満ち溢れた五歳の少女は、自分以外の聖女の存在を許せなかった。
過去視の聖女は周囲の人々を言葉巧みに取り込みはじめ、着実にエマを孤立させていった。そうしてたった一年で、未来視の聖女は過去視の聖女を虐げる陰気で陰湿な少女である……という認識が神殿内に浸透してしまった。片や農民の娘、片や多額の寄付を納める侯爵家の令嬢。多数にとって、真偽などどうでもよかったのだ。
国に聖女がひとりいれば恵まれていると言える状況で、年若い聖女が国内にふたりも誕生したという、優越感や安心感が目を曇らせた。
更に時が経ち、両聖女が十歳を迎えた頃。同じく十歳の王太子の婚約者の選定が行われ、未来視の聖女が選ばれた。聖女の奇跡は当人を起点とすることが多いため、未来視の聖女を王家に取り込み、その奇跡を国のために利用するという王と神殿の長による判断であった。
しかしそれに反発したのが、過去視の聖女とその家族。加えて、そんな彼らにそそのかされた、未来視の聖女の婚約者になったはずの王太子だった。
王太子は王や教育係に叱られても、たまたま優れた奇跡を持つだけの農民出の陰気な婚約者を冷遇し続けた。
更には未来視の聖女エマが陰気な性格であることは事実だったので、「未来視の聖女は陰気で陰湿であり、聖女に相応しくない存在」なのだという、半端な真実を含んだエマの噂は広がり続けた。
次第にエマの未来視の奇跡すら、彼女が自分を見て貰うための虚言であると認識されることになり、どんどん軽視されていった。
堤防が脆くなっている箇所の修繕が必要で、このままでは氾濫が起きることを信じてもらえず。
王城の尖塔のひとつに大きな雷が落ち、対策をせねば火災になることを信じてもらえず。
些細な嘘の起こす波紋が大きくうねり、最終的に国が荒れていくことを信じてもらえず。
未来視の奇跡は、すぐにその現象が発生するものではなく、危険を訴えるエマの声は誰にも届かない。
信仰と使命感だけで立っているエマの疲労は蓄積するばかりで、彼女の精神は限界を迎えていた。
両聖女と王太子が十五歳になった時、未来視の聖女が過去視の聖女の毒殺を試みたという理由で、未来視の聖女エマは拘束された。過去視の聖女による、奇跡を騙る嘘の過去視によって。
神殿内で孤立し、単身で売られてきた農民の娘であるエマには、毒殺などという手間のかかるものを実行する伝も手段も、何も持っていないというのに。
真の未来視は否定され、嘘の過去視は肯定された。疲れ果てたエマはすべてを諦め――その心は静かに死んでいった。
王都の神殿を離れ、遠方の修道院に押し込められたエマは食事も拒絶したためすぐに衰弱し、やがて息を引き取った。
これらが恵麻の知っている「未来視の聖女エマ」の物語であり、恵麻がエマを通して視た現実に重なる出来事である。
違うのは、まだ修道院への移送前なため、エマの身体がまだ生きているということだけだ。
小説ではそれから数年後に、かつて未来視の聖女の婚約者だった傲慢な王太子が、新たに婚約者となった過去視の聖女の欺瞞に気づく。王太子は急ぎ未来視の聖女に会おうとしたが、彼女が既にこの世を去っていることを知り、激しい後悔に長く苛まれることになる。
さらに数年後、異世界の乙女が転移してきて傷心の王太子と心を通わせ慰め……という本編は今となっては蛇足であり、どうでもいいことだ。
現実ではその後、御使いとして未来視の聖女の様子を見る目的で監禁場所を訪れたエフィストに、初対面で異常を悟られて事情を話した。
『………………あの、この世界って、実は小説の世界だったりしますか?』
『は?』
『アッ、すみません、なんでもないです!』
『残念ながらこの世はラノベじゃぁないんだよね。あー、いや、確かに俺らの状況の要素を抜き出すとラノベなんだけどさぁ……』
調査の後に戻ってきたエフィストによって轢死仲間であるとの真相を伝えられ、ぽろりと飛び出た恵麻の質問は即座に否定される。
しかし、念の為ということで、カサンドラは仕方なく疑念を説明させられた。
『ああ、そういうこと。それなら多分……なんだけど、未来視に流用している予測シミュレーションが地球の誰かの夢に接触したのかもしれない。稀ではあるけど、まったくあり得ない現象ではないっていうのは聞いたことがある』
『えぇと……? まぁ、はい。よくわからない事象だということはわかりました』
エフィストとの打ち合わせを重ねた恵麻は、彼の協力によって監禁から抜け出す手段を得る。無事に脱出を成功させて隣の国へと逃げおおせた恵麻は、そのまま魔女の師に預けられた。
師の助言によって長い髪を切り、染め粉を用いて色を替え、名を変え、生きる術を教わり――夜明け色の瞳を持つ銀の髪の聖女エマは、夜明け色の瞳を持つ赤い髪の魔女カサンドラへと生まれ変わった。
逃げた後に隣国とそこの神殿が結局どうなったか……噂以上のことをカサンドラは知らないし、知ろうともしていない。エフィストも、あれから何も言ってこない。
最早文通友達のような関係になってしまっているこの国の王子に聞けば、信頼できる情報を得られるだろうが――そこまでする意味も価値も興味もない。
「――それで、ねぇ、エフィストクン、今回の仕事って何なの?」
「あー、うん、そうそう。隣の子爵領を放っておくと厄介なことになりそうでさぁー……」
エフィストが混乱中のアーサーを弄りだしそうな気配を察知し、一瞬の思案に耽っていたカサンドラが頬杖をついて行儀悪く話の先を促す。
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