大切な人

竹田勇人

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第5話 繋がり合い、繋げ愛

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僕の部屋で僕は上総と見つめ合っていた。今日は姉さんは部活の壮行会、母さんと父さんは2人で出かけていて家には僕と上総の2人きりだった。
「か、上総…」
「…ひ、久しぶりだね!こうやって2人っきりになるのって…」
上総は自分の口から発した言葉で顔をさらに真っ赤にした。
「そ、そうだな…」
「ね、ねぇ…そのさ…思い出したの?」
「…ごめん。」
今の僕はそれしか言えなかった。上総が悲しそうに微笑むのはこの上なく心が痛むが、あの日から何一つ思い出せない僕にはそれ以上何も言うことはできなかった。
「ううん、悪いのは私だから…」
上総はこの話をすると必ずそう言う。きっと上総は僕の知らないことを知っていて、何年間も苦しんでいると思う。だけど、僕にはそれを肩代わりすることも慰めてあげることもできない。それは自分が苦しむよりも何倍も、何十倍も悔しかった。
それから、今日は特に長く沈黙が続いた。
「ねぇ…」
顔を上げた上総はどこか思いつめた顔をしている。
「何?」
「今日はさ…ただこうやって、一緒にいるだけがいいな…」
その言葉の意味を僕は違和感なく理解した。上総の肩を抱き寄せて自分の胸に落とした。
「大きくなったね…勝の胸…」
「上総も…しっかりしたな…」
「うん…だって、それしか私は出来ないから…」
「…そっか。」
それを僕は否定も肯定も出来なかった。僕の記憶の中にそれを上総に決意させた記憶はない。だから僕は上総に何も言うことはできなかった。ただ、上総の背中に回した手を強くするしかできなかった。
「…ありがとう…好き。」
「僕もだよ。大好きだ、上総。」
ただ、こうして抱き合っているだけでお互いの体温や心音が手に取るようによくわかる。目の前に最も愛する人がいて、胸が痛いほど締め付けられるような距離感がもどかしい一方で妙な安心感がある。お互いを確かめ合うだけでも今は幸せと思えた。それは自分の気持ちに正直になるのに時間がかかったからかもしれない。そのまま気がつくと眠りに落ちていた。お互いの身体を温め合って支え合いながら朝を迎えた。
「あ…寝ちゃった…」
「う、うん…」
起きてすぐ目を合わせてすぐにそらした。恥ずかしさで頬が赤くなっている。
「朝起きてすぐに上総の顔が見れるって…幸せ。」
「私も今同じこと考えてた。」
「上総…」
「勝…」
お互いの顔が少しずつ近づいていく。息使いが近くなり、紅潮した頬の熱ささえ感じる。あとほんの数センチもない距離まで唇と唇が近づいた時、部屋のドアが開いた。
「あのさ…お楽しみのとこ悪いんだけど。」
「ね、姉さん!」
「あ、茜さん…//」
「2人とも仲良くするのはいいけど周りにも気を使ってね。」
「で、な、何の用?」
「遅刻するわよ。時計見なさい。」
姉さんに指差されて時計を見るともう遅刻ギリギリの時間だった。
「や、やばい!上総!急いで行くよ!」
「う、うん!」
「気をつけてね~」
「って、姉さんは?」
「昨日ちょっと疲れたから休む。」
「え~」
「しょうがないでしょ。早く行きなさい。」
姉さんはのんびり手を振っている。相変わらず適当というかなんというか…とにかく僕と上総は家を飛び出して全速力で学校へ走った。
滑り込みで教室へダイブした瞬間チャイムが鳴る。
「やった~、セーフ!」
上総は親指を立てて笑顔を見せた。
「あぁ、そうだな!」
僕もそれに応えて笑顔になる。先生に釘を刺されて席に着いた。昼休み、学食でいつもの4人で集まってご飯を食べていた。
「それで、お前たちは晴れておめでたって訳だ。」
大貴はいつものように皮肉るような口調だが、その口元にはほんの少しだけ笑みが見えたようにも感じた。
「ふぅん…でも、勝くんって意外と手が早いんだなぁって思って。」
その言葉の意味が僕はすぐにはわからなかった。上総もピンと来てないみたいで、2人で顔を見合わせている。
「赤崎、こいつら意味わかってない。」
「2人とも昨日と同じ服で2人とも同時に遅刻ギリギリに入ってきて、今朝までナニしてたのかなぁってね。」
そこまで言われて2人同時にピンと来た。直後に顔を真っ赤にする。
「ば、バカ!そんなこと、し、してねぇよ!」
「そそ、そうだよ。ひな、そそ…//」
2人して口をパクパクさせていると赤崎がクスクスと笑いだした。
「あははっ、2人とも同じ反応!やっぱりお似合いだね。大丈夫、分かってるから。2人ともそんな意気地ないもんね。」
「そ、その言い方もなんかな…」
「わ、私だって別に…//」
上総はそのあとの言葉を押し黙り、顔を真っ赤にして下を向いた。
「まぁ、2人とも、お幸せに。」
「そうそう、やっとなんだからさ。思いっきり楽しんで、私たち、邪魔しないから。」
「でも、ひなのおかげもあるから。ありがとう。」
「いいっていいって。ただのお節介だからさ。」
こうしてみんなで談笑しながらご飯を食べる昼下がりはとても落ち着いて、それでも上総はとても魅力的に見えて、いろんな気持ちが入り乱れた奇妙な心地よさだった。
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