本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(14)取り敢えず親密度を★2にしたい男⑤ 映画館行きのプレのプレ

「わっ!?」

 驚き咄嗟に身を引くケイトとは対照的にジョルジオは淡々とした態度をしていた。
「いらっしゃいませ~」
 どうやら書店員だった。男の声にも女の声にも聴こえる中性的な声が語尾の間延びに似合っている。店員自体もどこか性別の判別しょうがない見た目をしていた。
「呼んでませんよ」
 疾く去れ!と言いたい態度のジョルジオだったが書店員が目を付けたのはケイトである。目が合ってケイトが狼狽えた。書店員が面白そうに微笑む。
「いらっしゃいませ~、この売り場は初めてですか?」
「は、はい」
「勇者シリーズが初めてでしょうか~?」
「いえ、電子書籍でなら数冊ほど…」
「ふむ。電子書籍ですか」
 突然ジョルジオがケイトを庇うように書店員との間に腕を割り込ませた。
 店員がいる方向から一瞬、凍えた空気が流れて来たような…とケイトが思う。が、気の所為だったらしいと思い直した。いやいや、まさかそんな。
 書店員が楽しげな笑顔になった。
「ここには電子書籍で扱っていない書籍も有りますよ~、ビバ!紙~!」
「有り過ぎて、よく分かんないですけど」
「では好みをお伺いしましょう~」
「!………好み?」
 瞬時に固まったケイトの横でジョルジオが「ちょ、ケイトさん!?何相手のペースに引き込まれようとしてるんで!?」と戦慄している。
「そう、好みです。勇者がソロ活動で魔王討伐を果たし世界征服をするサクセスストーリーや魔界の門までの道のりで仲間を増やしゲットして友情を深めたかと思いきや対立があり死ぬ寸前まで戦い分かり合い仲直りを経ながら魔王討伐に挑む心熱い青春物とか、似たような工程ですが仲間を育ててレベルを上げた後、死ぬほどこき使う育成モノとか、うっかり攫われた王女を嫌々渋々仕方無く救いに行くご褒美もの…ご褒美かは微妙なんですが、とかが有名どころですね~」
 如何?
 ミュージカルみたいに説明に音程を付けて喋る店員に二人して目が点になる。
「………………こき使う?」
「それ!今の勇者様ですよ、危険ですよ!」
 ジョルジオが低い声でひそっとケイトに耳打ちする。
 ああ、ジョルジオ君可哀想にー。とケイトがジョルジオを哀れむ表情をした。
「こき使い系ですか~、何代目くらいが良いですかね~」
 耳聡くケイトの呟きを聞いた店員が勝手に思案する。
「ならばこの辺とか~」
「!」
「!?」
 ジョルジオが持っていたタブレットが光り、本のページがめくれる映像が流れた後で数冊の背表紙が画面に出た。
「―――――――これはっ!?」
「こき使い系の候補です。過去の売り上げを元にお勧めとして挙げさせて頂きました~」
 もっと見たいですか、時間大丈夫ですか?と店員が訊く。
 なんとなく嫌な予感しかなくて、ジョルジオが無いと手を振る。
「………この本は他のと少し違うようですけど」
 ケイトが画面上に指で示したのはこき使い系でも、ノンフィクションを元にと銘打ってある。
「あ~、それは実録系の本ですね~」
「実録って。あらすじ読むだけでなら、どう見ても勇者が被害者の立場じゃないですか」
「強いからって仲間内での立場も強いかって言うと別。な典型のお話です~」
 そういうもんなの?
 ていうかそんな勇者いたの?
 誰それ。
「…気になるけど今日はいいや。あ、そうだなお姫様が攫われちゃう系の…」
「ご褒美系ですか迷惑掛けられて嫌になっちゃう系ですか~?」
 何それ!?
 顔に出ていたのだろう、だが店員は無表情に答えた。
「その時代の勇者の性格によって受け取り方が違うのです」
 語尾が伸びなかった。
 なに…?怖いよう。
「と、言う事は何ですか。お客様は勇者が主人公のラブストーリーがご所望で」
「え、は、いえ、そんな、女の子向けみたいな」
「あるあるある有りますよ~、売れない作家救済向けで作った駄作から色々~」
「何で下から勧めるんですか!?」
 ジョルジオが叫ぶ。隣りでケイトは目をぱちくりとしていたが特に何も言わなかった。しかし次の話題で思わずオウム返しで呟いた。
「有志が書いた薄い本、その名も同人誌。同人誌から総選挙で選抜されたアンソロジー集もございます」
「…同人誌?アンソロジー?」
「勇者様は物語を書く上で最適な題材なのでした~」
「すごいね、でもそれじゃ増々…」
「確かに!」
 びし!と人差し指を突き立てる。
「購買層は女性が多いです。でも好きな物に壁は有りません。有るのはお客様の中の壁です」
「………」
「ケイトさん、放っといて帰りましょう」
「お黙り下さい、そこのお客様。何でしたら貴方様のラブストーリーも販売して差し上げますよ」
「ジョルジオ君のラブストーリー!?」
 店員の言葉に衝撃を受けたケイトが叫んだ言葉にジョルジオが即座に動揺した。
「みみみみみ読みたいんてすかケイトさん、俺のラブストーリーなんか」
「え、販売して差し上げるって、もうあるって事なんだよね?」
「ないですないですないです」
「店員さん、それは個人を主人公にした創作をして出版してくれるというシステムですか?」
「あちらのお客様は勇者候補様でしょう~」
「ジョルジオ君、有名人!?やっぱり!?」
「違います!」
 すかさず否定の言葉が飛ぶ。
「くっ、こいつらの情報収集能力を侮っていた…」
 ぼそりと呟く。なお、ケイトには聴こえない。
「お客様はその様なシステムがあったら良いと思われますか?どういう話がお好みですか?ラブストーリーといえども種類がございましょう~?」
 ラブストーリーなんてドラマも見ないし小説も漫画も読まないし、興味の範疇外だし?
「………」
 けれど脳裏に浮かんだのは"彼"だった。

 俺の。

 俺の。


「ケイトさん?」
 俯いて無言となったケイトにジョルジオが声を掛ける。

 俺には一生無いよ多分。
 
 言葉を飲み込んで軽く笑う。
「別に好みはない。あ、そうだ先代勇者を題材にした読み物があればそれを…」
 ケイトさん!?とジョルジオが慄き叫ぶ。
「?五百年前の人なら別に…何怯えてるの?」
「普通です。通常運転ですっ」
 変なジョルジオ君だなーとのほほんと微笑むケイトの手を店員が握る。
「?」
「あ、こら!」
「お一人様ご案内~」

 ジョルジオがいる前で。
 ケイトと店員は跡形もなく消えた。
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