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(21)デートにしたかった男⑤
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……何だよこれ。
勝手に涙が出てた。
作り話だって知っているのに。
初めから本物じゃないって分かっているのに。
心の中は今ぐちゃぐちゃだ。辺りが暗くて良かった。周りに人がいなくて良かった。今顔なんか見られた物じゃない。
あの人に良く似たビジュアルで気持ちが掻き乱される。
酷い。
「ケイトさん」
声を掛けられるまで瞬時に世界を閉ざしたケイトは隣にジョルジオがいたの忘れていた。
それくらい、古傷がみしりと開いた音がした。
「これ……」
ハンカチが手渡される。
え?そんなに酷い?
無言で渡された。大丈夫とか泣かないで、とか余計な言葉はない。なくて良かった。今、ほんな気遣いな言葉を言われたら、もっと泣いてしまう。壊れた涙腺を治している途中なのに、また壊れる。しばらく数日は立ち直れない。
「汚くありません、大丈夫です」
そんな潔癖じゃないよ。
「有難う」
ハンカチを無意識で受け取ってしまった。
いつもなら『いいよ』と言って断っているはずなのに。遠慮もせずに優しさを受け取ってしまった。
お礼を言った後、少しおかしくて笑ってしまった。でも多分、笑ったようには見えないだろうな。暗さのせいだけじゃなく。
一瞬でケイトの中の緊迫した感情が薄れていく。折れかけた気持ちが遠くなった気がした。
けれど。
次の場面でくらりと揺らめいた錯覚に陥った。見たくないのに目が離せなかったからだ。
映画のスクリーンに目を戻せば、恐らくハイライトの一つであろう、プロポーズのシーンで勇者が指輪を渡して突っ返されていた。目茶苦茶怒られている。……すんなり受け取ってくれる様な人じゃなかったんだね。
どれだけ愛情を注いでも返してくれなくて、返してくれると分かってからも、返してくれるまでが待てなくて自分から倍の熱量で迎えに行ったんだろう。どれだけ好きなんだ。
あんな顔して。
暑苦しいよ。
苦しいよ。
何回絶望すればいいんだよ。
単に生まれる前に、それも一方的に絶縁されてた人の必要性に迫られているからと第三者的に設定されたのに、当の本人からは不必要とされた、"そういう事故がありました"という記録があっただけの自分なのに。なのにこの記録に感情は引きずられて振り回されてる。
誰か。
勝手に涙が出てた。
作り話だって知っているのに。
初めから本物じゃないって分かっているのに。
心の中は今ぐちゃぐちゃだ。辺りが暗くて良かった。周りに人がいなくて良かった。今顔なんか見られた物じゃない。
あの人に良く似たビジュアルで気持ちが掻き乱される。
酷い。
「ケイトさん」
声を掛けられるまで瞬時に世界を閉ざしたケイトは隣にジョルジオがいたの忘れていた。
それくらい、古傷がみしりと開いた音がした。
「これ……」
ハンカチが手渡される。
え?そんなに酷い?
無言で渡された。大丈夫とか泣かないで、とか余計な言葉はない。なくて良かった。今、ほんな気遣いな言葉を言われたら、もっと泣いてしまう。壊れた涙腺を治している途中なのに、また壊れる。しばらく数日は立ち直れない。
「汚くありません、大丈夫です」
そんな潔癖じゃないよ。
「有難う」
ハンカチを無意識で受け取ってしまった。
いつもなら『いいよ』と言って断っているはずなのに。遠慮もせずに優しさを受け取ってしまった。
お礼を言った後、少しおかしくて笑ってしまった。でも多分、笑ったようには見えないだろうな。暗さのせいだけじゃなく。
一瞬でケイトの中の緊迫した感情が薄れていく。折れかけた気持ちが遠くなった気がした。
けれど。
次の場面でくらりと揺らめいた錯覚に陥った。見たくないのに目が離せなかったからだ。
映画のスクリーンに目を戻せば、恐らくハイライトの一つであろう、プロポーズのシーンで勇者が指輪を渡して突っ返されていた。目茶苦茶怒られている。……すんなり受け取ってくれる様な人じゃなかったんだね。
どれだけ愛情を注いでも返してくれなくて、返してくれると分かってからも、返してくれるまでが待てなくて自分から倍の熱量で迎えに行ったんだろう。どれだけ好きなんだ。
あんな顔して。
暑苦しいよ。
苦しいよ。
何回絶望すればいいんだよ。
単に生まれる前に、それも一方的に絶縁されてた人の必要性に迫られているからと第三者的に設定されたのに、当の本人からは不必要とされた、"そういう事故がありました"という記録があっただけの自分なのに。なのにこの記録に感情は引きずられて振り回されてる。
誰か。
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