本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(28)大食いしよう!③

「じゃあ、俺も食べようかな」
 リスの顔で必死に咀嚼するジョルジオを放ったらかし、ケイトが自分で自分に課した使命を全うせんと、やる気を出した。大型鉄板をひたと見据える。
 リスの頬袋に激似なほっぺたを動かしつつ、少々恨めしそうに両目を半眼にしてジョルジオがそれを見つめた。

 いいんですけどねいいんですけどねいいんですけどねいいんですけどね。

 心の中で呟く。

 空元気でもいいから。
 あと少し食べれるようになって欲しい。
 前みたいに。

「ケイトひゃん、まじゅに、く、ほんなににににあしいああ?」
「……ケイトしか分からなかったけど、うん」
 生真面目に返事をしてからケイトがぷはっと吹き出した。
「ひょっと……」
「…ごめ…わら…つも………………ま、真面目に…だから…は、はは…」
「ああああいえくああい」
「ごめん、ごめんなさい、まだ口の中に食べ物入っている人に喋らすとかってマナー違反だよね、ごめん俺が悪かった」
「んふふふふんふふ」
 ケイトが手をひらひら振る。
「いいからちゃんと食べて」
 ケイトがくすくす笑う。
 言葉になってない返事をしてジョルジオがもごもごもと食べる。なんか顎が痛い。
 ほんっとに味は良いけど柔らかさが足りな…もしかして自分が食べているのが一番硬かったなんて、うん、有り得る。
 うーむ、と考える正面には厚切り肉をナイフで切るケイトが映る。さして苦も無く切って口に運ぶ様子は肉の柔らかさが察しられた。

 楽しそうに食べている。
 やっぱり空元気でもいいからと言ったのは嘘だ。憂い無く笑って欲しい。

 

 リスの頬袋がまだ健在のジョルジオをちらっと見ながらケイトは焼けた厚切り肉をナイフとフォークで切ってリズム良く口の中に放り込む。魔獣の肉は肉自体に普段口にする家畜の肉よりも甘みと旨味がある。
 生前の姿を見てみたいような見たくないような…。前にも思った事をまた思ったりして。

 噛み締める肉の食感にあれこれ思い、ふうっと息をついて目を閉じて開けたらジョルジオがいなかった。
「?」
 ジョルジオがいないだけではない。
 自分の周りが灰色の靄がかかっていて、全方位的に辺りが視えなかった。周りの楽しそうな賑やかな会話をしている声も何もかもが聴こえない。
「??」
 立ち上がりかけ、途中で止める。
 こういうのは下手に動いては駄目だと自身のどこかが警告する。
 
 この自分の中の警告に大人しく従うか、それとも。

 逡巡していると、隣りの席が明るくなった。
 自然と釣られるように視線が向く。
 二人連れが食事をしていた。
 鮮明に会話が聴こえてきた。



『誰が勝手に取り分けて良いって言ってました?』
『…ったく…食い意地の張る』
『それは!この皿の大きさの対比を見て言ってくれますかね?』
『実に順当だろう』
『食べ切れない悔しさを味合わなくて何の食い倒れ食堂だと!?』
『ならもっと食べてみたい物を頼め』
『言いましたね?』
『構わん』
『後悔させてやりますよ』


 金髪の二人連れ。二人共に今の時代の服装ではなかった。自分の意思を無視して目は彼等に吸い寄せられたままだ。

 すらりとした抜き身の剣の様な男に一回り小さな人が一方的に血圧高めで喋っていた。最初からシェアして食べに来たにしても、取り分で揉めている。
 後悔させてやる、と言った方は不敵に微笑んでメニュー表を広げた。それを『冷めるぞ』と窘めて、分取った料理を流れるように連れの男は口に運んだ。
 所で『食べ切れない悔しさ』とは何ぞや。ここの食堂に、そんな目的で来店するとは信じられない人を見た。
 黙って見ていると、テーブルにはわんさかと注文した料理が並べられた。ここの料理は普通の料理店の量の倍が当たり前。それがテーブルいっぱいに並べられたのだ。見ているこちらが青くなる。
 連れの方がさっきまであった料理を平らげて次を小柄な方へ催促する。指を差された料理の一部を取り分けて残りを食べ始めた。すぐに完食して次を強請る。このやり取りが続き、小柄な方はぐぬぬ…と悔しそうな表情をした。構わず連れの男は次々とリクエストを繰り返す。まるで追い付かない小柄な方に対して連れの男が一つの皿を取ろうとした。小柄な方が猛抗議をする。好物だったのかも知れない。
 お返しというか意趣返しというか、小柄な方がフォークに料理を突き刺して連れに差し出した。
 あ、あれ『あ~ん』だ。
 見てる方が恥ずかしい。ていうか、あれ?何か自分も似たような事をジョルジオにやったような…。ケイトが青ざめて赤くなった。
 独り羞恥に今更ながら悶えつつ見ていると、小柄な方は別に好意も色気も感じさせない笑顔だった。雰囲気も甘くなく、むしろ『引っかかれ 』的な。可愛らしく笑っているのに悪い笑顔に見えるのは何故だろう。引っかかるのかな、と凝視していると連れの男がぴくりと反応した。罠だと看破している。にも関わらず、フォークに突き刺された料理に飛びついた。『げ』とうめいて反射的に小柄な方が後退り、イスが後ろへ倒れそうになる。間一髪で連れの男が小柄な方の手首を掴み元の位置に戻した。はーっと胸を撫で下ろす小柄な方に勝ち誇りの微笑みを浮かべた連れの男の笑みにはどこか邪悪なものを感じずにいられなかった。

 視た事がある、二人連れの内の一人。この間見た人と同じ容姿なのに、どこか違うあの人。


『時間が稼げると思ったのに!』
『馬鹿か。こんな事をされたら乗らない訳ないだろう』
『そこは乗らないのが普通でしょう!』
『いいから早く食え。せっかく出来たてを持ってきたのに。カフェラテ店にも行くんだろう?いいのか、晩になるぞ』

 それ全部食うんだろう?
 自分の分は完食し腕組みをしている連れの男の上から目線な態度が小柄な方のムカつきの導火線を短くする。ぴきぴきとこめかみに青筋を立てて連れの男を睨みつけた。
 結局、ぎゃーぎやー言って言わせて食事が続いた。


 ………………………………勇者、胃袋も規格外。

 じゃれ合っている風にしか見えない様子に心を守っている殻のような物に穴が開いて、冷たい何かが入り込んできた気がした。

 こんなのは、見たくなかった。
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