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(31)大食いしよう!⑥

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 人間の労働者に扮し、紛れて動くようになってからも魔族伯爵家の手駒の彼はいつも人間を自分等よりも下等の生物と見なし、見下してきた。誰もが使えるが魔力を動力とする魔導具よりも更により平等に使用出来る電気器具の発達により魔力を左程必要しなくなった人間は増々魔力が使える者が少なくなったから以前より警戒しなくても良くなったせいもある。
 だから、人間とはなんて愚かな下等生物なのだろうと鼻で嗤っていた。

 しかし、今の状況は何だろう。
 勇者とか何とか言う存在が魔界を脅かし、自分は人間界にやって来て人間からエネルギーを奪い取らねばならない状況になっているにも関わらず、その勇者の足下をすくってやっていると思えば多少の溜飲が下がる思いだったのだ。
 それが。
「人間、お前は何故分かったんだ」
「直で関わらなかったら多分ずっと放置しておいたかも」
「何?」
「お前の主の伯爵って別に大した事ないんだけど…」
「何を…!」
「そんな事より今の状況を注目したらどうなのかな」
「人間。この拘束を解け。そしたら本気を出さないでやる」
 バレたらもうしょうがない。的なセリフを吐いて魔族の男が上から目線でジョルジオに言った。
「本気?いいともどうぞ。本気出す前に殺られたんじゃないって納得ずくで消すから」
 嬲り殺しは買い言葉みたいなものだったけど、他のは気が変わったから自分の手で落とし前を付けるとジョルジオは決めた。
「でも悪いけど瞬殺だよ」
 とは言ったものの武器は所持していなかった。始末しなければと思う有害魔族がいるとは思っていなかったし。
 では魔法、魔法~?
 全っ然気乗りしない。
 じゃあ仕方無いから使える物を使ってみようかーー。
 意識して自分と最も関わりのある"それ"を思い浮かべた。

 掌に剣を召喚する。おや?と思って見てみると勇者がいつも『要メンテナンス!助けて!』と剣から訴えられているのを無情にも無視して使っている形状とは違った形状の剣が出た。
「~~~~あ~~~へそ曲げてるよ~~聖剣~~」
 がくっと肩を落とす。剣が八つ当たり拗ねまくっている。

 勇者が使っているのは所謂ロングソードと言われるものだ。王道中の王道そのものである。
 ところがジョルジオが召喚したのは片刃の剣だった。刀身に波立つ模様が美しい。"日本刀"と言うらしい。"ニホントウ"?日本とは何かな?商品名?人名?地名?あ、地名なんだ有難う聖剣教えてくれてーって日本ってどこだ?!知らん!!ていうか、違う!!
「………………包丁とかソロバンとか鍬とかよりマシか…いや、マシだなんて…」
 とほほほほ。
 勇者の無茶振りのしわ寄せがこっちに来た。
 ジョルジュは心底哀しい。
「?それは武器か?」
 敵に言われる始末。調理器具には見えないだろー?こんなデカいペーパーナイフもないだろうー?踊りでも使わな…剣舞があったか。聖剣で踊れとか洒落にならない。その前に踊れないぞ。なんちゃっても無理だぞ。
 で、本体は勇者が持ってるからレプリカなのだが、どうしてわざわざ違う剣種で出てくる必要性があったのか教えて欲しい。こら聖剣。
「そうだ。聖剣だよ」
 仕方無いから、精々格好付けて言ってみた。多分、説得力ない。
「嘘だ!そんな話聞いた事無い!」
 ほ~~~~ら、言わんこっちゃない。
 勇者様の莫迦!!
「お前が無知なだけだ」
 仕方無いので、でも本当の事をさらりと言ってみた。多分、激怒する。
「何だとぉ!!」
 予想通りでジョルジオは段々面倒になってきた。いや、初めから面倒だったのだが、輪をかけて面倒になった。
 ああ、勇者様はこのやり取りが嫌いだからスパッと片付けてるんだな。
 いつも見ている光景を思い出してジョルジオが黄昏れた。他人事だからと思ってサポートしながら呑気な気分で眺めていたのだ。魔界貴族にウザく絡まれるのを。いや、絡まれるのも形式上仕方無い事なのだと本人も言っていた。どうやらそれも"決まり事"の範囲内だらしい。でもたまに苛々して、すっ飛ばしていたっけ。主役って大変だーとか流して見てたら現在自分にお鉢が回ってきた。
 いやいやいやいや、瞬殺ですから。
 俺もうざ絡みからさっさと離れよう。
 でも待って。
「あのさぁ、本気出したらその輪っか、取れるんじゃないかなって思うだけどどうかな?」
 忘れていたが初歩的な質問を投げてみた。すると魔族の男は目に見えて動揺した。
「だよね。俺のこういう所がさ…」
 勇者様に…どうのこうの…と小さな独り言になってジョルジオが愚痴り始めた。魔族の男が『あ、面倒っぽくて、こいつ嫌かも』とジョルジオを見て顔を引きつらせていたが、今の彼にはそんなのどうでも良かった。
「甘いとか抜けてるとか、自分だって大概……あ!ケイトさんの所に早く戻らなきゃ」
 自分もぐるぐるから戻って来て男を見据える。視線の先にはとても嫌そうに自分を見る男がいた。
「ご免、今からやるから」
 朗らかに言って持っていた聖剣レプリカ八つ当たりの日本刀バージョンを力む事なく横へ一閃させる。
 目の前の男が悲鳴を発する事もなく上下に分割されて霧散して消えた。
 完全に消えたのを確認し、やれやれと嘆息する。さー、もーどーろっと思った矢先に勝手に剣を持つ手が動き、刃の部分が鼻先スレスレで止まる。ひえええと焦っていたら脳内に思念が割り込んだ。
『雑魚くらいで呼び出すな使うな!!』
「でもきちんと倒した後で苦情言ってくるなんて成長したじゃないか」
『だってそうしないと溶かして作り直すって言われたから!人格矯正してやるって!』
「……いつの話かな?」
『忘れたけどアイツなこた間違いない』

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