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(32)惚れ薬売ってます①クーポン券から始まる不幸って
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『あ、そうだケイトさん。俺、来年の春には大学復帰出来そうです』
『………………そうなんだ。良かったね。頑張ってたもんね、君』
******
ケイトの最近のお気に入りは書物奉行書店の2階にある勇者コーナーだ。
500年以上前には魔王討伐で盛り上がった国民感情に応える様にして、この広大な売り場の半分以上が勇者関連の本やグッズで埋め尽くされたという。娯楽の少ない時代のスーパースターぶりが想像に固くない。
現在はつい最近ネットでの拡散とテレビ局のニュースやワイドショーなどの情報番組で広く放映されてしまった勇者の素顔が人目に曝されてしまった為に、それまで情報規制を強いられてきたマスコミが国民総意と言わんばかりに勇者を祀り上げた結果、勇者自体に関心が集まり、ここの売り場もかなり拡大されたのだった。と、いっても電子書籍が主流の今となっては売り場に対して目に見えて大幅な売上増加にはなってなかったらしいが。
「これであの男はさらし者になった訳ですね。フッフッフ~」
「素顔がバレてしまっただけでさらし者じゃないですよ」
「映像では認識阻害の魔法が効かなかったんですね。知りませんでした。貴重な知識です」
「?」
「あの男は普段は認識阻害の魔法を使っていて、モブ…ではなく一般庶民に紛れ込んで生活しているのです。自意識過剰とゆーか何とゆーか。その魔法は人間の感覚に作用して目眩まし的な効果を発揮するものなので掛ける対象も範囲も、もっと広げるべきでしたね多分。電波や電子データに乗せられるようにカスタマイズしておくとか。まー、本人も知らなかったんでしょう。いいザマです~」
「目眩まし……」
「違った言い方をするのなら、特殊体質の人間が生み出した電磁波が他人の脳に干渉して錯覚を起こすのが認識阻害の仕組みなのでして、画像を映すだけのものではモニターというフィルターがあるので直接影響を与えられなかった、という。だからそのモニターをものともしない剛腕な電磁波の伝わり方を実行しなくてはならなかったのですね。勇者~」
「電磁波?魔法でなく?」
「そもそも魔法とは、魔力とは何でしょうね~」
「俺には無いので分かりません」
何故だか例の書店員(魔族)がケイトが来店する度に例え二階の書店員の縄張りに来なくとも姿を現しては付きまとい、強引に自分の巣穴へ招き入れては勝手に友誼らしきものをケイトに構築していった。ケイトはケイトで別段実害がないので今の所放置している状態である。
「いつも思うんですけど、何でそんなに詳しいんですか」
「観察対象ですので~」
「辛口なのがちょっと…」
に。と書店員魔族が笑った。
「お客様。お客様は勇者の事が心配で~?」
「いえ!心配だなんてそんな、俺なんかが!」
ケイトが精一杯に首と手を横に振る。ミルクティー色の髪の毛もぶんぶん振られた。
「ただなんか…今まで情報規制とかやってたのに、この間のは何もしないのかが気になるような、でないような…」
「あ~、もしかしたらですが自分の考えを言わせて頂けば」
ケイトが真剣な表情で聞く体勢を作る。
「魔王討伐が近いのかも知れません」
一瞬、ケイトは周りの雑音が聴こえなくなった。やがて聴こえてきたのは自分の心臓の音と店書店員魔族の声だけだった。
「魔王討伐さえ済んでしまえば一般人に戻りますのでプライベートは守られます。今一時、うっかり素顔を晒しても普段は認識阻害魔法も使ってる事ですし大体あの男は空間転移が出来るので行動にそんな支障がないはずです」
「………………一般人に戻る?先代みたいに王家から声が掛かったりしないのかな」
「予想ですが蹴り飛ばすと思われます」
そんな事になったなら。
書店員がやけに自信満々で答えた。
「象徴王家の外交に付き合ってやれる程、勇者は人間が出来ていません」
言い方が欠陥人間を言ってるみたいだった。しかも知ってる風な。
「と、思ってます~」
「…先代勇者と同じ事しそうなんだね」
本当は知ってる。だって同一人物なのだから、絶対に国や政府の言いなりにならない。自分のやりたい事を邪魔されるのなら護ったはずの人間界でさえ失くなってしまっても一切気にも留めないのだ。しないのは、そんな事をしたなら呆れて見下されて愛想を尽かされるからだ。人間界を護るのは伴侶を護るついでであって本来なら人間なんでどうでもいい。有害魔族を殲滅するのは伴侶に危害を加えられない為と、伴侶が他人が魔族から蹂躙されるのを嘆くから。伴侶至上主義なのだ。
勇者とは一般呼称の天と魔と、その間にある人間界とのバランスが崩れ修正が利かなくなった時に現れて、元の有るべき総生産熱量に戻す為に生まれてくる者だ。それぞれの界はそこに生を受けた者達の持つ熱量と活動による産出量、そこに無属性に産み出される人間界のエネルギーを取り合っている。常に対比され競っているかのような二者だが、天界は元々やる気がなく必要最低限の無属性熱量で満足していた世界だから放置しておいても構わないが、魔族側は意欲が有り過ぎて必要以上にエネルギーを取り込み増産し天界に手を伸ばそうとする。その手をぴしゃりと叩き、釣り合うまでにした後に、仕上げとして魔王討伐がある。魔王は崩れた世界間の象徴として存在した。聖剣は完璧にリセットする為の鍵であり、勇者は聖剣を扱う事が出来る唯一の存在なのだった。
これは聖魔であれ人間であれ、普通の立場の者には知り得ない事である。ケイトが知っているのは消える前提で話された記憶がまだ残っているからだ。
「王子も王女も幼稚園児と乳児ですからね~。くれると言われても~」
「そう言えばそうだったね」
そもそもの話がケイトが住んでいるこの国は王国とはなっているが、実質王家に実権はなく、王家は幸せな家族の象徴として存続されているのである。なので王族と婚姻を結んだとしても名誉はあるが権力はない。
どの道勇者が望むものは何も無い。
あるとすれば、とっとと魔王の息の根を止めて自由になりたいくらいだった。
『あ、そうだケイトさん。俺、来年の春には大学復帰出来そうです』
『………………そうなんだ。良かったね。頑張ってたもんね、君』
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ケイトの最近のお気に入りは書物奉行書店の2階にある勇者コーナーだ。
500年以上前には魔王討伐で盛り上がった国民感情に応える様にして、この広大な売り場の半分以上が勇者関連の本やグッズで埋め尽くされたという。娯楽の少ない時代のスーパースターぶりが想像に固くない。
現在はつい最近ネットでの拡散とテレビ局のニュースやワイドショーなどの情報番組で広く放映されてしまった勇者の素顔が人目に曝されてしまった為に、それまで情報規制を強いられてきたマスコミが国民総意と言わんばかりに勇者を祀り上げた結果、勇者自体に関心が集まり、ここの売り場もかなり拡大されたのだった。と、いっても電子書籍が主流の今となっては売り場に対して目に見えて大幅な売上増加にはなってなかったらしいが。
「これであの男はさらし者になった訳ですね。フッフッフ~」
「素顔がバレてしまっただけでさらし者じゃないですよ」
「映像では認識阻害の魔法が効かなかったんですね。知りませんでした。貴重な知識です」
「?」
「あの男は普段は認識阻害の魔法を使っていて、モブ…ではなく一般庶民に紛れ込んで生活しているのです。自意識過剰とゆーか何とゆーか。その魔法は人間の感覚に作用して目眩まし的な効果を発揮するものなので掛ける対象も範囲も、もっと広げるべきでしたね多分。電波や電子データに乗せられるようにカスタマイズしておくとか。まー、本人も知らなかったんでしょう。いいザマです~」
「目眩まし……」
「違った言い方をするのなら、特殊体質の人間が生み出した電磁波が他人の脳に干渉して錯覚を起こすのが認識阻害の仕組みなのでして、画像を映すだけのものではモニターというフィルターがあるので直接影響を与えられなかった、という。だからそのモニターをものともしない剛腕な電磁波の伝わり方を実行しなくてはならなかったのですね。勇者~」
「電磁波?魔法でなく?」
「そもそも魔法とは、魔力とは何でしょうね~」
「俺には無いので分かりません」
何故だか例の書店員(魔族)がケイトが来店する度に例え二階の書店員の縄張りに来なくとも姿を現しては付きまとい、強引に自分の巣穴へ招き入れては勝手に友誼らしきものをケイトに構築していった。ケイトはケイトで別段実害がないので今の所放置している状態である。
「いつも思うんですけど、何でそんなに詳しいんですか」
「観察対象ですので~」
「辛口なのがちょっと…」
に。と書店員魔族が笑った。
「お客様。お客様は勇者の事が心配で~?」
「いえ!心配だなんてそんな、俺なんかが!」
ケイトが精一杯に首と手を横に振る。ミルクティー色の髪の毛もぶんぶん振られた。
「ただなんか…今まで情報規制とかやってたのに、この間のは何もしないのかが気になるような、でないような…」
「あ~、もしかしたらですが自分の考えを言わせて頂けば」
ケイトが真剣な表情で聞く体勢を作る。
「魔王討伐が近いのかも知れません」
一瞬、ケイトは周りの雑音が聴こえなくなった。やがて聴こえてきたのは自分の心臓の音と店書店員魔族の声だけだった。
「魔王討伐さえ済んでしまえば一般人に戻りますのでプライベートは守られます。今一時、うっかり素顔を晒しても普段は認識阻害魔法も使ってる事ですし大体あの男は空間転移が出来るので行動にそんな支障がないはずです」
「………………一般人に戻る?先代みたいに王家から声が掛かったりしないのかな」
「予想ですが蹴り飛ばすと思われます」
そんな事になったなら。
書店員がやけに自信満々で答えた。
「象徴王家の外交に付き合ってやれる程、勇者は人間が出来ていません」
言い方が欠陥人間を言ってるみたいだった。しかも知ってる風な。
「と、思ってます~」
「…先代勇者と同じ事しそうなんだね」
本当は知ってる。だって同一人物なのだから、絶対に国や政府の言いなりにならない。自分のやりたい事を邪魔されるのなら護ったはずの人間界でさえ失くなってしまっても一切気にも留めないのだ。しないのは、そんな事をしたなら呆れて見下されて愛想を尽かされるからだ。人間界を護るのは伴侶を護るついでであって本来なら人間なんでどうでもいい。有害魔族を殲滅するのは伴侶に危害を加えられない為と、伴侶が他人が魔族から蹂躙されるのを嘆くから。伴侶至上主義なのだ。
勇者とは一般呼称の天と魔と、その間にある人間界とのバランスが崩れ修正が利かなくなった時に現れて、元の有るべき総生産熱量に戻す為に生まれてくる者だ。それぞれの界はそこに生を受けた者達の持つ熱量と活動による産出量、そこに無属性に産み出される人間界のエネルギーを取り合っている。常に対比され競っているかのような二者だが、天界は元々やる気がなく必要最低限の無属性熱量で満足していた世界だから放置しておいても構わないが、魔族側は意欲が有り過ぎて必要以上にエネルギーを取り込み増産し天界に手を伸ばそうとする。その手をぴしゃりと叩き、釣り合うまでにした後に、仕上げとして魔王討伐がある。魔王は崩れた世界間の象徴として存在した。聖剣は完璧にリセットする為の鍵であり、勇者は聖剣を扱う事が出来る唯一の存在なのだった。
これは聖魔であれ人間であれ、普通の立場の者には知り得ない事である。ケイトが知っているのは消える前提で話された記憶がまだ残っているからだ。
「王子も王女も幼稚園児と乳児ですからね~。くれると言われても~」
「そう言えばそうだったね」
そもそもの話がケイトが住んでいるこの国は王国とはなっているが、実質王家に実権はなく、王家は幸せな家族の象徴として存続されているのである。なので王族と婚姻を結んだとしても名誉はあるが権力はない。
どの道勇者が望むものは何も無い。
あるとすれば、とっとと魔王の息の根を止めて自由になりたいくらいだった。
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