本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

文字の大きさ
34 / 41

(33)惚れ薬売ってます②〜クーポン券から始まる不幸って〜

しおりを挟む
「そ~言えば忘れておりました~」
 はい、と書店員魔族がケイトに温かい飲み物を出した。テイクアウト用の容器に入ったそれは。
「あ、"辺境カフェ"」
 のロゴとイラスト。
「出前してくれるんですよ~」
 有難うございますと受け取り、温かいと思ったら中は冷め切ったカフェオレ。蓋を外したら水滴が落ちてきた。テーブルの上に落ちる。
「あ、すみません」
「大丈夫です~」
 書店員魔族がドラッグストア"一服盛った薬局"のプライベートブランドで出している超お得キッチンペーパーでテーブルの水分を拭く。ケイトもよく利用するスーパーみたいな全国展開している店だ。
「出前してくれるようになったんですか。知りませんでした」
「先日の魔族襲撃事件がヤマ場だったでしょう~。多分、高位魔族はもうこちらには現れないから許可が出たという話でした~」
「許可?」
「内緒の話ですが、許可したのは勇者です~」
 ケイトがきょとんとした表情になった。
「自分の愛するものを危険にさらす訳がないので本当でしょう~」
「………………本当って?」
「高位魔族がもう来ない事ですよ~」
「じゃなくて、ですね?」
「?ああ!はい、愛するものですね?」
「勇者は甘いものが好みなんですか」
 ならば、ジョルジオにも差し入れとして何か渡して、さり気なく一緒に渡して貰うか。
 ………………なんか、乙女っぽくて嫌だな、この考え。
 ケイトが恥ずかしくなって独り心の中で赤くなる。いいんだ、存在認知されてなくても。
「情報によると甘いものは壊滅的に苦手だそうです」
「何で知ってるんですか。諜報員か何かですか店員さん」
 は?と言った後で思わずスン顔になって突っ込んだ。


「甘いものが破壊的に駄目なくせに、あのカフェオレ店には並々ならぬ執着をみせてまして、いえ、みせているようでして~」
「……成る程?」
「密かに通う様子を盗さ…盗み…隠れ…」
 ストーカーか。
 ケイトが沈黙する。
 例えば何百年も経って。知っている人はとうの昔に他界していないし、建っている場所も区画整理に合い、建物は何度も変わったし、あちこちに競合店が出来て人々の好む味に変化が現れても。あの店の味は変わらなかった。

「基本のものにミルクを増量で、がいつものオーダーだそうです」
「詳しくないですか?」
「お店に訊きましたから~。いつも窓側に座ってひっそりしているそうです。認識阻害の魔法を使っていても、男性一人ではやはり浮いておりました~」
 本当に良く見ている。
 ケイトは笑ってしまった。
「たまに先日お客様と一緒にいらっしゃった方ともいらっしゃるのだそうで」
「先日?ジョルジオ君?」
「浮くどころか場違い感しかなかったです~」
「そうなんだ」
 軽く相槌を打ったケイトに書店員が何か言いたげな表情を見せた。
「?何か?」
「スペイドソン様は余裕でいらっしゃる」
「?何の話…」
「勇者候補様……魔王討伐中に勇者が不在時は代わりに留守を預かる次席勇者」
「あの。質問が」
「何でしょう~?」
「創作じゃなくて魔王討伐関連の本を都立図書館で調べたんですけど」
「あら商売敵…言ってみただけです。どうぞ続きを~」
「そもそも勇者候補って何ですか」
「字の通りです」
「候補については特段記述がなくて」
「勇者関連は大神殿が管轄ですので、何を読み漁ったかは分かりませんが神殿の許可がない情報は載せてないと思われます」
「調べようがない?」
「御本人様にお訊きした方が早いと思われます~」
「………………そうなんだけど」

 勇者―――聖剣を扱えるただ一人の人間。
 神に選ばれた人間と言い伝えられているが、確かに人間に生まれてはいるけれど、その実は同じ魂がその役目を担っている。
 同じ魂でしか鍵たる存在になり得ないのに、候補とはどういう事なのだろう。
 それに今、正に本物の勇者がいるのに候補がいてましてと言っていた。
 よくよく考えてみれば不可解なのである。
 ケイトは悩む。
 そんなものだと普通に受け入れていたが、引っ掛かる事ばかりな気がする。
 うっかりは性格だが、うっかり過ぎると本人も自分を思ってしまった。


 いや、それよりも。
 一番考えなくてはならなかったのは、生まれる前に勇者とは関係なくなったはずなのに何故勇者関連と関わり合いが自分の身に今更の様にあるのか、だ。

 例の記憶は残ってしまったけど、勇者とは縁が切れて無くなったはずなんだ。


 なのに"だった"という記憶に感情が引きずられるのか無意識に存在を感じ取ろうとしてしまう。まるで未練があるかの様に。
 関係の無い人なのに。


「―――スペイドソン様?」
 名を呼ばれケイトが我に返る。
「大丈夫ですか?どこかお加減でも~?」
「大丈夫です」

 本当に今更。


 口唇を無理に引き結んでが笑みの表情を作った。
「今日はもう帰ります」
「スペイドソン様はお疲れなのでは~?」
「かも知れない」
 季節はいつの間にか冬のピークの二月に入った。ただ寒いというだけで身体は縮こまるし、何もしたくないし。
「ではこれを差し上げましょう」
 と書店員魔族が個人専用通信機を操作した。ケイトの端末に着信があった。
「?」
「一服盛った薬局のクーポン券です。知り合いの知り合いの知り合いが営業で貰ったものをさらに譲り受けた人から貰ったものです。誰かにコピーしてあげないと待ったなしで予期せぬピンチが訪れるそうですよ~」
「それ、不幸のチェーンメールなんじゃ!」
「無節操に撒き散らしても不幸は去らないそうなので私もとっときました」
「それを俺に使うという!」
「スペイドソン様も誰かに譲ってあげて下さいませ~」
「そっ!」
 そんな不幸のチェーンメールって分かってて送れる人いないよっ。
 

 いや、貰って喜ぶ人間が若干一名いるが、ケイトの頭の中に彼の存在は哀しい程に無かった。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

処理中です...