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第一章 転生、そして冒険者に

#17 宿屋の姉弟

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 そこそこの大きさだけど、何故かこじんまりした感じがして良い雰囲気出してる…この大きな街には合ってないって思う人も中にはいるかもしれないけど、俺はこういう感じ結構好きだな。
 
 勝手知ったる感じでドアを開けて中に入っていく3人、何ていうか、自分の家に帰ってきたみたいな。

「メルはん、ただいま」

「メルさん~ただいまぁ~」

「メルさん、戻ったぜー」

 勘違いじゃなかった、もう自分の家だったわ…馴染み過ぎじゃないか?どんだけ居るんだよ、ここに……宿屋って連泊上限無いんだっけ?

「こんにちは」

 俺だけ普通の挨拶とか、一人アウェー感バリバリなんだけど…。

 と、奥の方からパタパタと音がして、女の娘と男の子の二人が出て来た。
 身長的にお姉さんと弟っぽいな。 

「あ、皆さんお帰りなさい!お仕事お疲れ様でした」

「お帰り、ねーちゃんたち」

「こらっ!ウォル、お客様にはきちんと挨拶しなきゃダメって言ってるでしょ!」

 しっかり者のお姉ちゃん──年の頃は中学生くらいか、アーネ達に比べると幼い感じに見える、赤毛の短めなおさげがチャーミングな可愛らしい娘だ──に、小生意気な弟──こっちは小学校高学年くらいだな、赤毛の癖っ毛でいかにもやんちゃっぽく見えるけど姉ちゃんには甘えてるってところか、整った顔立ちで意外とモテそうだ──って感じか、でも家の仕事手伝ってるのはエラいな、うん。

「ただいま、ミル、ウォル。お客さん連れてきたんやけど、メルはんおる?」

「すみません、お母さんは今夕食の買出しに行ってて…何か急に一品増やすとか言って」

 それってもしかして…俺のためか?だとしたら、なにもそこまでしてくれなくても…もう十分してもらってるのに、これ以上とか…。
 とか考えてたら、奥からまたパタパタと音がしてメルさんが顔を出してきた、さっき会った時と同じ柔らかな笑顔で。

「みなさんお揃いでお帰りなさい。あら?ナオトさん…でしたわよね?」

「はい、メルさん。先程はお世話になりました。お陰様でこの通り、無事冒険者になれました」

「まぁまぁ!それは良かったわ、お役に立てたみたいで」

「ええ、本当に助かりましたよ、ありがとうございました。これ、お返ししますね」

 銀貨1枚を取り出してメルさんに渡す。
 結局、借りたお金は漂流者特典ばっかりだったから使わずに済んだけど、あの銀貨があるのと無いのとじゃ、精神的に全然違っただろうからな…。
 そう思うと、ホント助かったわー。

「はい、確かに。返してもらったわ。それで、うちに来てくれたということは、お金も工面出来たということでいいのかしら?」

「はい、今日からしばらくの間お世話になろうかと思いまして。たまたま出会ったこの3人が同じメルさんの宿にお世話になってると聞いて、連れてきてもらいました」

「あら、そうだったの。それでみんな一緒だったのね」

「ええ。ということで、早速部屋をお願いしたいんですが…大丈夫ですか?」

「勿論、大丈夫よ。準備も出来ているわ。あぁ、ただ手続きは娘のミルにやってもらっていいかしら?私これから夕食の仕込みを主人と一緒にしなくてはいけなくて…」

 それは…ちょっとタイミング悪かったか、すみませんメルさん…まぁ娘さんでも手続き出来るんならこっちには何にも問題ないな。

「はい、分かりました。では今日からしばらくよろしくお願いします」

「もちろんよ、自分の家だと思ってゆっくりしていってくださいね」

 夕食の仕込みのために奥にまた戻っていったメルさん、何ていうかアットホーム的な感じでやってるんだな。

「ようこそ『精霊の歌声亭』へ。当宿の娘、ミルラテラノです、こっちが弟のウォルグザノンです。ご利用ありがとうございます。では、こちらの宿泊簿に記入をお願い出来ますか」

 そう言ってミルって呼ばれてた娘さんが弟含め自己紹介してくれて、宿泊簿を差し出してきた。
 あ、これ、また記入しなきゃダメか…と思ってたら、横からシータが来てくれた、もしかして代筆してくれるのか?

「ミル、この人な、漂流者なんや。せやからウチが代筆してもええか?」

「あ、そうなんですね、分かりました。ではシータさんにお願いします」

 シータ、気が利くなぁ…助かるわ、ホント。

「ありがと、シータ。助かるよ」

「これくらいどうってことあらへんよ、気にせんといて」

 そう言いながらスラスラと記入していくシータ、うん、書いた字は読めるんだけど、この字を書けって言われると無理っぽい…俺も早く字書けるようにならないと、また手間掛けさせちゃうな…でも覚えられるか自信無いんだけど、基本勉強とか苦手なんで。

「名前と…あ、年齢か、ナオトはん、歳幾つなん?」

「俺は18だよ」

「18ね…年上やったんや」

「そっか、俺の方が上なんだ」

「やね、ウチらみんな17やし」

 まぁ、今の俺とあまり変わらないんだな。
 そういやラナさんも17歳だったよな、確か…ん?もしかして、もう一人居た前衛って…いや、そんなわけ無いか、確かガズさんって厳ついおっさんの話しぶりだと、昔から知ってるって言ってたから国を出てきたみたいな感じじゃなさそうだったし、仮に姫だったとしても冒険者辞めたら国に帰らなきゃってみんな言ってたから、受付嬢とか出来るわけ無いもんな…。

「職はウチらと同じ冒険者、と。ん、これでええか?ミル」

「えーっと、はい、大丈夫ですね、ありがとうございます。お部屋は一人部屋でいいですか?」

「はい、大丈夫です」

「分かりました。泊数はどうなさいますか?」

「そうですね…一泊いくらになります?」

「一泊、朝夕二食付きで500セタルになりますね」

 うん、手持ちで十分何とかなるな。
 3日後にはまた手持ち増える予定だけど、どうしようかな…とりあえずパーティーのこともあるし、10日分くらいにしとくか。

「では、とりあえず10日間でお願いします」

 泊数伝えるのと一緒に大銀貨5枚を無限収納からカウンターの上に置いた、これで残りは…大銀貨2枚、銀貨8枚、青銅貨5枚か…明日からクエスト受けて報酬貰えるはずだし、無駄遣いしなけりゃ保つだろ。

「はい、10日分確かに。ご利用ありがとうごさいます。只今お部屋にご案内しますね」

 カウンターに置いた大銀貨をどこかにしまうようにしゃがんでる内に、弟のウォルがカウンターから出てこっちにやって来たけど…なんだろ?

「にーちゃん、部屋はこっちだぞ」

 あー、ウォルが案内してくれるのか、じゃあ折角だし案内してもらうとするか。

「お、ウォルが案内してくれるのか、ありがとな」

「あ、ちょっとウォル!もっと丁寧に言わないと駄目でしょう!」

 うん、お姉ちゃんは真面目でしっかり者タイプらしい。
 いつも弟に手を焼かされてるって感じか、頑張れお姉ちゃん。

「ふんっ!にーちゃん行こうぜっ」

 俺の手を引っ張って連れて行こうとしてるらしいから、黙って引っ張られるとしよう。

「おう、頼むな」

 奥の方にある階段に向かってるらしい…後ろでミルが何やらボヤいてるのが聞こえたけど、引っ張られたまま付いていくことにして、と。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「ウォルったらもう…!全然言う事聞いてくれないんだからっ」

「ま、あの年頃の男の子なんてあんなもんじゃねーか?誰でも」

「私たちぃとぉ同じでぇ~ナオちゃんもぉ~気にしないとぉ思うからぁ~大丈夫だよぉ~」

「それならいいんですけど…でもあの態度と言葉遣いだけは何とかしないと、お客さんが居なくなっちゃいます…」

「他の客だって気にしとらんやろうし、そないに心配せぇへんでも大丈夫やと思うけど…ミルも大変やな」

「大変っていうか、お客さんに迷惑掛けてないか気になって気になって…全部ウォルのせいですっ」

「ははっ、ま、そんな気にすんなって。可愛いもんさ、あんなのは。さて、アタイらも一旦部屋戻るわ。夕食時にまたよろしくなっ」

「あ、はい、分かりました」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ウォルに連れて来られた部屋は二階の角部屋だった、どうやら二階は全部一人部屋らしいから、姫達3人は上の階なんだろうな。

「にーちゃんの部屋はここな。部屋の中も説明する?」

「そうだなぁ、うん、お願いするかな」

「ん、分かった」

 ドアを開けて中に入ったウォルに続いて俺も部屋の中に。
 一人部屋だからそんなに広くはないと思ってたら、割とゆったりとしてた。
 シングルベッドの他に、テーブルと二人掛けのソファー、あとちょっとした机と椅子があって、一人二人なら部屋に来ても大丈夫そうなくらいの広さだな。

「中はこんな感じ。もの壊さなければ好きに使っていいよ」

「分かった、大事に使わせてもらうよ」

「ん。あとこっちがトイレとシャワーね」

 お、ユニットバスあるのか、まぁ多分これは先に来てた漂流者が広めたんだろうな…ちょっと快適過ぎるか?向こうの世界のホテルと変わらないんじゃね?

「使い方は、どっちも魔石に触れて魔力注ぐだけだよ」

「なるほどね…魔力ってどれくらい必要なんだ?」

「その辺は適当。満タンにしたら5日くらいは保つって言ってた。注いだ時に魔力漏れてきたら満タンだって、魔石が光らなくなるから分かると思うけど」

 そうなんだ、感覚でいいのか…んじゃ使いながら覚えるか。
 魔力の補充も見た目で分かるなら大丈夫っぽいな。

「了解、使ってみて覚えるよ」

「ん、部屋はこんなもん。後はご飯だけど、朝は三つ鐘から二時間、夜は九つ鐘から二時間の間ね」

 あ、そういえばこの世界の時間聞くの忘れてた…でも体感的に24時間っぽい気がするんだけどな…。

「あっ、と…ウォル、この世界の1日って何時間?」

「え。あ、そうか、にーちゃん漂流者なんだっけ」

「そうなんだよ、ごめんな変な事聞いて」

「別にいいよ。1日は12時間だよ。鐘が鳴るのは朝3時の3回、お昼6時の6回、夜9時の9回だよ」

 丁度半分だったけど…俺の体感が間違ってなければ、こっちの1時間って向こうの世界の2時間くらいな気がする…だとしたらなんとかなりそうだな。
 そうだ、ついでに年月も聞いておくか。

「1日12時間ね、分かった、ありがとな。あと、年と月も教えてくれると助かるんだけど」

「ん、30日で一月、12月で1年だよ」

 年月は大体変わらないらしいな、1年360日ってことね。

「曜日とかあるのか?」

「あるよ。1週間は風火地水闇光の6曜日」

「うん、大体分かった、ありがとな、ウォル」

「ん、これくらい何でもない」

 とか言って、手のひら広げて俺に差し出してる…あ、チップくれってか、ちゃっかりしてんな。
 まぁ、いろいろ教えてもらったし、チップくらいは、な。
 でも相場が分からん…ま、適当に渡そう、銀貨1枚でいいか。

「ほら、案内ご苦労さん。また何かあったらよろしくな」

 無限収納から銀貨1枚をウォルの手のひらに出してやったら、ウォルが目をキラキラさせて見上げてきた…なんだ?多かったか?

「こんなにいいのか?にーちゃん…ホントに貰っちゃうぞっ」

「あぁ、いいぞ。その変わり、ミルにも分けてやれよ?独り占めはカッコ悪いからな」

「ん…分かった、ねーちゃんと分ける。ありがと、にーちゃん!」

 おっと、そうだ、もう一つ聞いとかないといけないことがあったわ。

「あ、ウォル、悪い、最後にもう一個だけ。この辺に運動出来そうな広場みたいなのないか?」

「んー…うちの裏庭あるけど、見てみる?」

 お、裏庭あるのか、まぁ、広さにもよるけど最低限素振り出来るくらいあればいいんだけどな。

「裏庭あるんだな、んじゃ後でいいから教えてくれ」

「ん、分かった。もう少しで九つ鐘だから、それ鳴ったら夕飯食えるよ」

「了解、鐘鳴ったら降りてくよ」

「ん。じゃあ、また後で」

「おう、後でな」

 ちょっと小走りで出て行ったウォル、そんなに嬉しかったのか?チップ…まぁ、小遣いになるんだろうな、きっと。

 さて、と…夕食までまだちょっと時間あるっていってたからな、休憩しとくか。

 お、このベッド、中々感触いいなぁ…ふかふかで柔らかい。
 これも先に来てた漂流者の仕業ってところかな…あぁ……こんな柔らかいベッドに………横になったのは………何年振りだろう…………か………………。


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