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学園

氷の世界・火の世界

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来週忙しくなりそうなので、あらかじめ投稿しておきます。
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先程は簡単な魔法だったので無詠唱だったが、今度は詠唱をした。
「…求るはかの厳しき冬、かつて冬の母がした様に、地を凍付かせよ…スニョーヴジュシュ 」
誰が聞いてもそれと分かる見事な北方の方言の発音だった。
まず、冷気が拡がり、それを追うように霜が同心円状に拡がっていった。
そこから霜は成長して行き、一帯の地面があっという間に氷で覆われた。
先生がアリナとの間に入って、クラスメイトのいる範囲に呪禁をかけていたので、間違って凍り付く事は無かったが、周囲から流れてくる冷気は生徒達の吐息を凍りつかせていた。
(神話にも出てきたが、大人でもまず出来ないこの魔法をどうして彼女が出来る?)
「終わりました。」
その一言に呆気に取られていた生徒達が我に返った。
アリナはこちらを向き、先生は呪禁を解いた。
「アリナに拍手。不完全ではあるようだが、一級魔法を見る機会はそうそう無いからな。」
生徒達は氷で覆われた地面の上ではしゃぎ始めた。
「先生もできますか?」
クロイスが聞いた。
「氷系の魔法は一切経験してない。大部分の効果が土魔法で簡単に代用できるし、土魔法の方が多くの場合優れていると言われているからな。ただ、氷魔法を使える人は珍しいから見て損はしない。それとアリナ、あの難易度の魔法を使えた事自体は凄いし、多少の応用が効くものとは言え、確か、文献にある本来の姿とかけ離れていると思う。それを心に留めて練習する事。それでは次はクロイスだな。」
実の所、クロイスとは仲がいいが、会う時は必ず屋敷の中なので一度も彼の本気の魔法を見た事がない。
「フレイム!」
完璧にできる魔法として実演したのはアリナと同じくフレイムだった。彼女と比べて若干炎の形が乱れていたが、一流と言える範囲だった。
(次はどんな魔法を出すのだろうか。)
「ブレネンデ・ストーム」
通常の何倍もの時間を費やして唱えられたそれは、炎の竜巻だった。
風と炎の組み合わせはその相乗効果で凄まじい威力だった。
『おお~』
クラスメイトの歓声が湧き上がる。魔法では2位といっても、流石に首席なだけはある。
(詠唱なしでできれば実用的だけど…まだまだ厳しいな。)
炎が途切れたり実用するには課題はあったが、彼の魔法の威力だけは確かで、先生もそれを強調していた。
「…だが、二つの魔法を同時に使う能力が成長しきっていない。もっと簡単な魔法どうしで、例えばウインドとフレイムの組み合わせで二つの魔法をバランス良く使う練習をすると良い。一定にだよ。今度は、メリー、同じように見せてくれ。」
メリーが最初に見せたのはフレイムではなかった。
「アクアキューブ!」
宙にポンと現れたのはボール大の水玉だった。
地味だからか生徒の反応は芳しくない。
(それとも先の二人と重なるのを嫌ったか?)
すると、それを宙に浮かせたまま次の魔法を唱え始めた。
みるみるその球は色が付いた。その後、空気を中に送り込み、シャボン玉が沢山できた。
魔法の補助を失っても尚浮いているそれからは嫌な香りがした。
(毒か何かか?)
「毒だからくれぐれも触れない様に。」
先生が言うと、数人が慌てて手を引っ込めた。
(確かに毒をある程度の狙いを付けつつ拡散するのには使えるかも知れない。)
「この後どうするんだ?」
クロイスが言った。
「確かに、シャボン玉が割れる前に毒をなんとかしてもらわないといけないな。」
メリーは何も考えが無かったらしく、顔色が悪くなった。
「誰か浄化魔法を使えるか?」
先生が呼び掛けをした。
(浄化魔法が得意な人はこのクラスにいないのか?)
もし、浄化魔法が得意な人がいれば、入学試験時に披露し、先生が生徒技能一覧表を通して知っている筈だが、そうでは無いと言う事は、人体に対して実用的なレベルに達している人が一人として居ないという事だった。
(今回は人体の浄化は必要無いからそれでも良いのか。)
しかし、先生とフレンの楽観的な予想とは裏腹に名乗り出る人は居なかった。
見かねた先生がアイテムボックスを展開して言った。
「メリー、割れる前に風でこの中に全てのシャボン玉を入れろ。」
先生のアイテムボックスの口もあまり大きくはない。離れた所から無数のシャボン玉を入れるという事はとんでも無く難しい。上下で殆ど色が分かれている物をフレンは見つけた。
(割れる!弱毒なら一個程度大丈夫か?でも万が一の事がある。)
魔法によって作られる毒は稀に薬草の物以上に強い毒となる事もある。ただ、その魔法は薬草の毒を再現する魔法の何倍もの難易度なので、その使い手はとても稀だ。しかし、シャボン玉を作るなどといった見た事のなかった組み合わせの魔法を使う彼女だ。可能性は無視できない。
次の瞬間、フレンの視線の先にあったシャボン玉が消えた。
『何したの?』
アリナの小声が聞こえた。
(あまり知られたく無いけど、言いふらさなそうだし…変に隠すよりはいいか。)
『アイテムボックスの口を離れた所に出した。』
『…?ところで、浄化を試してみても良い?』
彼女は悪気が無いようだったが、正直あまり気分は良く無くなった。
「できるなら初めからなぜ…!」
彼女が身構えた。
『しっ、声が大きい。』
彼女に制されて初めて無意識のうちに今にも掴みかかりそうな動きをしていたのに気づいた。
『ごめん。』
『実は一度も浄化はした事がないの。でも魔法陣の形は覚えているからその中でなら試せると思った。』
こうして聞くと理にかなった話だった。触れられる物体を対象に取らない浄化魔法はとても難しい。しかし、魔法陣をそのままそっくり再現する方法があればほとんどの魔法ができない事はない。そしてアリナには魔法に関して十分な技量があり、何よりも彼女は「視える」。
『じゃあアリナもアイテムボックスを開いて。その中に僕のボックスの口を開いて直接入れる。』
『そんな事ができるの?中は見れないし座標もないのに?』
そう言いながら彼女はアイテムボックスを開いた。
『…知りたかったら後で。』
この時、彼女の好奇心を見誤っていた。
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