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二章 外伝
外伝9
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外伝9 とある奴隷②
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昨日はやけに外が騒がしかった様な気がする。
スラム街なんてのは、基本的には静かなものだ。
これは騙されて奴隷に落とされてから得た知識だ。
勝手なイメージとしては常に野郎どもが騒いでるものだと思っていたのだけれど。
そんな事はないらしい。
冒険者や日雇い労働者の方がよっぽど元気だ。
たまに変な悲鳴は聞こえてくるが、そこはご愛嬌。
ここは活気とは無縁。
闇ギルドの周辺なんて特にそうだ。
誰もが死んだように生きている。
何か、あったのだろうか?
まぁ、俺みたいな奴隷には関係のない話なのだけれど。
仮に何かあったところで、な。
すでに生に絶望しているのだから。
言って仕舞えばこれはただの暇つぶし。
こうやって考えていないといつまで経っても時間が進まない。
1日が終わってくれない。
何が起ころうともはや興味も持てない。
思考の餌にしているだけだ。
だから、疑問に思うことがあっても答えが出てくることもない。
今の俺はもう生きている意味がない。
ただ、たまたま死んでいないだけの存在。
本当に生きているのかも怪しいものだ。
夢なんて抱けない。
日の光を浴びる自由すらないのだから。
やりたくもない仕事を必死こいてしていた、
少ない賃金で生活費を切り詰め貯金していた、
踏み台だったはずの過去すら輝いて見えてしまう。
そんな、ある日だった。
見覚えのない人達。
少年と、ローブを被ったこちらも子供だろうか?
そんな2人がやってきた。
とても奴隷という存在と縁があるとは思えない。
思いたくない。
口調から言って、おそらく少年が組織の人間でもう1人が客なのだろう。
世も末だな。
子供が奴隷を買いに闇ギルドになんて。
しかし、それにしたってなぜここに。
そんな疑問がふと浮かぶ。
ここは、俺みたいな価値のない奴隷が一応生かされているだけの場所だ。
年頃の子供なら、たとえ買うにしても見た目のいい若い奴隷を買いそうなものだが。
当然その手の奴隷も扱っているだろうに。
なぜわざわざ、見ていて楽しい場所でもないと思うのだけど。
そんな疑問とは裏腹に、ローブの客は少年の説明を興味深そうに聞いている。
奥にまで、品定めをしながら。
そして、俺の入った牢の前で足を止める。
詳しい価値は聞いたことがなかった。
そうか、銀貨10枚以下か。
この建物の奴隷が全部その値段。
そして、俺の値段は銀貨1枚。
なるほど、最底辺らしいぞ。
この建物の奴隷自体が安い、ほぼ捨て値みたいなものなのにその中でも最底辺だ。
……笑っちゃうな。
その説明を聞いた上で客は俺を買う事にしたらしい。
いや、正確にいえばちょっと違う。
俺をではなく、牢に入っていた全員をだ。
完全に値段で選んだ様だ。
どう使われるのか想像もつかない。
値段に文句はある。
しかし、俺も自分の使い道なんて思いつかない。
ただ、俺らを売った少年がやけに客相手に怯えていたのが印象に残った。
闇ギルドの人間だろうに。
何がそんなに怖いのだろうか。
顔は見えないが、背格好も小さく声も高い。
女か、声変わり前の子供か。
どちらにしても、それほど恐ろしい相手には見えないのだけれど。
契約が結ばれる。
奴隷の契約だ。
と言っても、俺たちは元から奴隷。
主人の書き換えだけだ。
特に何か大掛かりなものが必要ということはない。
解放でもしてくれないだろうか。
金持ちの道楽。
偽善でいいから。
そんなくだらない希望を抱いてしまう。
さっきまで死んでいるのか生きているのかも分からず、ただ生に絶望してたと言うのに。
俺の精神はなかなかにタフらしい。
でも、そんな希望は一瞬で吹き飛んだ。
契約をした後、客が俺の首に触れた。
その瞬間、言いようのない凄みの様なものを感じた。
自分みたいな人間とは生物としての格が違う、と。
何かが変わる。
これは人生の転換期だ。
そう確信した。
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昨日はやけに外が騒がしかった様な気がする。
スラム街なんてのは、基本的には静かなものだ。
これは騙されて奴隷に落とされてから得た知識だ。
勝手なイメージとしては常に野郎どもが騒いでるものだと思っていたのだけれど。
そんな事はないらしい。
冒険者や日雇い労働者の方がよっぽど元気だ。
たまに変な悲鳴は聞こえてくるが、そこはご愛嬌。
ここは活気とは無縁。
闇ギルドの周辺なんて特にそうだ。
誰もが死んだように生きている。
何か、あったのだろうか?
まぁ、俺みたいな奴隷には関係のない話なのだけれど。
仮に何かあったところで、な。
すでに生に絶望しているのだから。
言って仕舞えばこれはただの暇つぶし。
こうやって考えていないといつまで経っても時間が進まない。
1日が終わってくれない。
何が起ころうともはや興味も持てない。
思考の餌にしているだけだ。
だから、疑問に思うことがあっても答えが出てくることもない。
今の俺はもう生きている意味がない。
ただ、たまたま死んでいないだけの存在。
本当に生きているのかも怪しいものだ。
夢なんて抱けない。
日の光を浴びる自由すらないのだから。
やりたくもない仕事を必死こいてしていた、
少ない賃金で生活費を切り詰め貯金していた、
踏み台だったはずの過去すら輝いて見えてしまう。
そんな、ある日だった。
見覚えのない人達。
少年と、ローブを被ったこちらも子供だろうか?
そんな2人がやってきた。
とても奴隷という存在と縁があるとは思えない。
思いたくない。
口調から言って、おそらく少年が組織の人間でもう1人が客なのだろう。
世も末だな。
子供が奴隷を買いに闇ギルドになんて。
しかし、それにしたってなぜここに。
そんな疑問がふと浮かぶ。
ここは、俺みたいな価値のない奴隷が一応生かされているだけの場所だ。
年頃の子供なら、たとえ買うにしても見た目のいい若い奴隷を買いそうなものだが。
当然その手の奴隷も扱っているだろうに。
なぜわざわざ、見ていて楽しい場所でもないと思うのだけど。
そんな疑問とは裏腹に、ローブの客は少年の説明を興味深そうに聞いている。
奥にまで、品定めをしながら。
そして、俺の入った牢の前で足を止める。
詳しい価値は聞いたことがなかった。
そうか、銀貨10枚以下か。
この建物の奴隷が全部その値段。
そして、俺の値段は銀貨1枚。
なるほど、最底辺らしいぞ。
この建物の奴隷自体が安い、ほぼ捨て値みたいなものなのにその中でも最底辺だ。
……笑っちゃうな。
その説明を聞いた上で客は俺を買う事にしたらしい。
いや、正確にいえばちょっと違う。
俺をではなく、牢に入っていた全員をだ。
完全に値段で選んだ様だ。
どう使われるのか想像もつかない。
値段に文句はある。
しかし、俺も自分の使い道なんて思いつかない。
ただ、俺らを売った少年がやけに客相手に怯えていたのが印象に残った。
闇ギルドの人間だろうに。
何がそんなに怖いのだろうか。
顔は見えないが、背格好も小さく声も高い。
女か、声変わり前の子供か。
どちらにしても、それほど恐ろしい相手には見えないのだけれど。
契約が結ばれる。
奴隷の契約だ。
と言っても、俺たちは元から奴隷。
主人の書き換えだけだ。
特に何か大掛かりなものが必要ということはない。
解放でもしてくれないだろうか。
金持ちの道楽。
偽善でいいから。
そんなくだらない希望を抱いてしまう。
さっきまで死んでいるのか生きているのかも分からず、ただ生に絶望してたと言うのに。
俺の精神はなかなかにタフらしい。
でも、そんな希望は一瞬で吹き飛んだ。
契約をした後、客が俺の首に触れた。
その瞬間、言いようのない凄みの様なものを感じた。
自分みたいな人間とは生物としての格が違う、と。
何かが変わる。
これは人生の転換期だ。
そう確信した。
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