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二章 外伝

外伝14

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外伝14 とある奴隷⑦
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 目が覚めた。
 外が明るい。
 まだ夕方、って事は無いだろうな。

 どうやら牢獄生活で想像以上に体力を消費していたらしい。
 もう朝だ。
 半日以上は寝たかもしれない。

 それを分かってて寝かせてくれたって事だろうか?
 あの後起こされる事もなかったし。
 ご主人、よくわからない人だがとりあえず俺たちを使い潰すつもりはないらしい。

 じゃなきゃわざわざこんな待遇しないだろうしね。
 運がいいのか、悪いのか。
 とりあえず俺の寿命は多少は伸びたって事だ。

 他の奴隷はまだ起きていない。
 俺同様疲れていたのだろう。

 ドアの前に服が置いてあった。
 あの後、一度来たらしい。
 洗われてボロボロになっちゃったからってことか。

 ……お優しいことで。

 おそらくは新品だろう。
 汚れてないし。
 新品の服を着るのなんていつ以来だろうか。

 今までで一番生活水準が高いかもしれない。
 体も洗ってもらっちゃったし。
 服も買ってもらっちゃったし。

 この生活を手放すのは、ちょっと惜しいな。

「おはよう」

 そんなことを考えていると、人が入ってきた。
 ご主人だ。
 鍵はかけていたはずだが、お金を払ったのがご主人なのは宿も知ってるだろうし別で貰っているのだろう。

 匂いを嗅いで、顔を顰める。
 あぁ、なるほど。
 だから昨日は問答無用で洗われたのか。

 ご主人は匂いに敏感らしい。
 そういえば、ボスもご主人がスラムに来たがらないとかなんとか言ってたな。
 染み付いた匂いはそう簡単には落ちなかったようだ。

 そうなるとますます俺たちを買った理由が謎だが。
 どう考えても臭いに決まってるのに。
 ……、案外お金は持ってないのだろうか。

 闇ギルドとの繋がりなんてお金を生み出すのがメインの目的だろうし。
 予算はかけられないのかもしれない。

「早速だけど、君たちにはやってもらいたい事があるんだ」

 やっとか。
 ずっと気になっていたんだ。

 俺としてはこの生活を手放したくない。
 そう感じている。
 だから、出来るだけ協力しようとは思っている。

 無理難題でなければ、だけど。

 やっすい奴隷だからね。
 いくら予算がないとは言っても、失って痛いって事は無いだろう。
 だから、使い捨てなら話は別だ。

「ちょっと、商売の手伝いをしてほしい」

 商売?

 俺たちみたいなのを使ってか。
 若い男なら労働力に。
 若い女ならその体自体が価値になる。

 俺らなんて。
 それこそ銀貨一枚で売られたぐらいだ。
 価値があるなら闇ギルドももっと丁寧に扱ってくれたと思うんだが。

 まぁ、でも使いしてって事はなさそうかな。
 それは良かった。
 それに、俺がやりたかったことでもある。

 自分の店を持つ事はもう叶わないだろうが。
 近い事ができるだけで幸せってものだ。

「あ、奴隷だからってタダでこき使うつもりはないからね?」

 ……え?

「儲けの一部を君たちに権限するから。そう、例えば自分を買い取る事も不可能じゃない」

 それって……

「まぁ、維持費が想像以上にかかるから。ちょっと値段は高額になっちゃうけどね」

 ご主人、甘すぎないかい?

 つまり、夢を諦めなくても済むってことか。
 金を貯めて、自分を買い取って。
 そうすれば夢にまで見た自分の店を開ける。

 まぁ、金はたいしてもらえないだろう。
 あくまで不可能じゃ無いってだけ。
 買い取ろうと思えば時間もかなりかかるはずだ。

 それでも。
 希望が見えるだけでも十分だ。

 そもそも、奴隷にしては恵まれすぎた環境にいるんだ。
 それを維持するだけに頑張れると言うのに、さらに夢まで見せてくれると。
 なるほど、ね。

「やる?」

 俺は、ご主人の問いかけに一も二もなく頷いた。

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