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第十四話 性病と妊娠と

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 第十四話 性病と妊娠と
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「う~ん、めったにないかな。孕んじゃう人もいないわけではないけど、避妊魔法かけてればめったにあることじゃないよ」

「……あ、そうなんだ」

 少しほっとした。避妊魔法、なるほどそういうものがあるのか。しっかりとした手段がある以上、時代感以上に安全なのかもしれない。

 ここはママンの店だ。時代的背景から言えば何らおかしなことではないとは言っても、やはり自分の親の店で多くの嬢が破滅へと向かうなんてことが日常的に起きているかもしれないというのは何かと思うところがある。

 それに、知り合ったばかりとは言えあの新人ちゃんは他人ではなくもう知人程度には認識している。もちろん不幸な目に会いそうだからと言って助けようと動くかと聞かれればノーなのだが、かといって気分のいいものではない。

「私の店は基本全員にかけてるし、大きいお店はそう言う所が多いんじゃないかな?」

「なるほど」

 店がしっかり管理しているのか。さすが高級店である。それぐらい手をかけても惜しくないほどの人でないと働くことすらできないということの裏返しでもあるのだろうが。

 価値がなくなってしまえば、同情も何もなくあっさりと捨てられてしまいそうな気がする。それほどドライでシビアな世界、だからこそ金の生る木の内はしっかりと保護すると。

 魔法というのはこの世界で案外貴重なのだ。俺の家やこの店にですら魔力灯なんてものはないわけで、いくら避妊魔法が簡単な魔法だといってもそれなりの金額はかかるのだろうと簡単に予想できる。

 王都ではそれを当たり前のように使っているといううわさではあるが、いくら何でも富の一極集中がひどいように思う。でも、独裁国家なんて言うのはどこもそういうものなのかもしれない。

 前世でも、同じようなものを画面越しではあるが見た覚えがある。首都には高層ビルが立ち並び先進国にも負けないほどの街並み、しかしそれはすべて張りぼてで国の心臓たる国民は食うものにすら困り飢餓に苦しんでいる。

 このスラムの状況とそっくりである。先進国であり世界で最も成功した社会主義国家出身の俺としては、国内でそれほどの差が出来てしまうという感覚がいまいちよく理解できないのだが。

 しかしまぁ、言い換えればその格差を多少無視できる程度には個々の性産業にはお金が集まってきているということなのだろう。見た目の時代感に反して、店で働く嬢を守るシステム自体は進んでいるようである。

「まぁ、オプションで避妊魔法なしに出来るんだけどね」

「え?」

 ……そうか、そうだよね。

 いわゆる生ってやつか、現代でもあるのだから当然この世界にないはずがない。というか、魔法で避妊してるんだから実質も何も実際に生でいれてるわけで。その上避妊魔法を解くオプションか、闇が深いな。

 まさかその女との間に子供を作りたいわけでもないだろう。子供を作りたいわけではなく、はらませられるという征服感。これが刺激されるんだろうな。

 前世でも生でやろうとする馬鹿なんてあほほどいたしな。俺はクラスのコミュニティーから完全に孤立してたから詳しくないけど、隣のクラスの女子が妊娠して学校をやめたとかなんとか。

 どの世界でも男というのは変わらないらしい。

「そういう性癖の人がいるっていうのももちろんなんだけど。このオプションってほら店側の負担も減ることになるから、ほかのオプションに比べてお客さんから嬢に入る金額の割合が結果的に多くなるんだよね」

「……」

 そうか、このオプション入れると普段勝手に天引きされて避妊魔法かけられていた部分の金も浮くのか。新人とかあんまり売れてないことかだと、かなり大きな金額になりそうだな。

 こういうサポートがしっかりしている場所というのは、どうしても給料以外に従業員に対して発生する金というのが大きくなりがちである。結果、それほど給料が高くないという現実が起こるわけだ。

「結構このオプション使う子多いよ。何なら自分から積極的に進める子もいるぐらいだし。そういう意味では、望まない妊娠は滅多にないけど妊娠してやめる子は結構多いかな」

 この店は嬢もみんなかわいいしそれなりに高いのだろうけど、それでも客がプレイに払う金を見てしまうと明らかな目減りを感じるのだろう。そして、その解決手段が目の前にあったら手を伸ばしてしまうと。

 そしてその結果妊娠という状態になり、当然金のならない木を面倒見る義理は店にはなく、客も子供が欲しかったわけではなくはらませるという征服感が得たかっただけであり、そもそも貯金できるような人種ならこんなオプション付けずとも満足できる給金なわけで、結果破滅していくことになると。

 子供をおろすための費用もなく、当然子育てできるほどのたくわえなどあるはずもない。それどころか、子供が生まれるまで働かずに済む程度の余裕すらもない。

 そんな人間が何人もこの店を去っていくと。これまでも、そしてこれからも。変わることなく。やっぱり、こういう店ってのはどこもいつの時代も変わらないんだな。

「さっきの子も遠からずだと思う。お金が入用みたいだったし、なんかあんまり周りが見えてないみたいだったから」

 まぁ、だろうね。ホストにはまって風俗に来た時点で金が手に入るなら何でもやるとすでに覚悟が決まっちゃってる状態だろう。そこにこんなオプションの話があれば、一も二もなく飛びつきかねない。

 というか、何なら今日にでも飛びつくんじゃないか? 新人キラーのおじさんってことはこの店に当然詳しいわけで、オプションもしっかり把握しているだろうし。

 あの感じ、少し金をチラ見せされただけで即OKしそうな気すらする。自分の体の価値というのをどうしてそこまで低く見積もれるのか、自らの体に全てのリソースをかける予定の俺にはあまり理解できない感情である。

「もしかして、今日すぐにでも?」

 何だろう、レンくんのためならとか言って金のために避妊魔法なしのオプション選択する様子が容易に想像できてしまう。そして、そのまま破滅への歩んでいくさまも。

 あの新人ちゃんほど風俗嬢というイメージ通りの存在もそうそういないだろう。それほどまんまである以上、仕方ないと言ってしまえばそれまでなのだろうが。

 妊娠して働けなくなって、当然貢ぐ金なんてあるはずもなく用無しだと言わんばかりに捨てられて、そんな未来図が手にとるように想像できる。

「いや、それはまずないと思うよ。あの人プレイの時必ず避妊魔法と防病魔法かけるから」

「防病魔法?」

 なにそれ? 

「これ使うと、仮に相手が性病にかかってても移らないから」

 ああ、そういう。というか、そうか。避妊魔法ってあくまで避妊だけが効果であって、性病の予防とか言う効果は一切ない感じなのか。

 ゴムは避妊具という側面以上に性病の感染防止という側面が強いともいうが、避妊魔法ってただできなくするだけの魔法だもんな。結局生でやってるわけで、性病には無防備なわけか。

 しかし、新人キラーのくせに自ら望んでそんな魔法をかけるとは少々意外な気もするが。それだけ遊ぶ余裕があるってことは、それ相応の地位があってぽっくり死ぬわけにもいかないのだろうか。

 そう考えると、避妊魔法を全員にかけているといってもそれほどいい環境というわけでもないのか?

「これは避妊魔法と違って全員に掛けないの?」

 あるいは、そこらへんは時代感通り緩いのだろうか? 

 でも、この時代の性病といえば前世では当たり前のように治療で来た梅毒とかがかなりの猛威を振るっているイメージがあるんだけど。死の病なんて言われて恐れられていたらしく、罹ればまず助からないとか。

 流石に罹ったら百死ぬ病気に対して無頓着ってことはないだろう。いや、義務教育なんてないしそんなリスクすら知らないという人も多いのか? 

 この世界基準で言えば、小卒ですらエリートという感じだしな。識字率なんてものは低く、簡単な計算もできないなんて言うのは当然で、自ら調べない限り生きていくのに必要最低限の情報すら手に入らない。

 そんな世界のスラム生まれがまともな教養を持っているのか? 性病のリスクというものを理解しているのか? 非常に疑問である。と言うか、多分していないと思う。

「難易度が違うとかですごい高いのよ。全員に掛けるなんて事したら、多くの嬢が給料もらうどころかお店にお金納める羽目になるだろうし」

「そ、そんなに高いんだ」

 なるほどね。そういうことか。

 避妊魔法に比べて難易度が高すぎて採算が取れないと。そら商売破綻しちゃうなら、いくら手段があったとしても取れるわけないわな。慈善活動じゃあるまいし。

 それに、仮に採算が取れたとしても、その魔法を使えるレベルのある程度魔法の腕の立つ魔法使いにわざわざスラム街にまで来てもらわなければならないわけで。そんなの来てくれるのは少数だろう。

 それほどの腕があれば引く手数多で仕事に困らない、ギリギリ避妊魔法が使えるだけなんてレベルの魔法使いとはわけが違うのである。人手が足りなくなることは目に見えているだろう。

「あの人は、毎回高いお金払って防病魔法までかけてくれるしチップも弾んでくれるしで人気高いのよ。新人専だからって、デビューのタイミング見計らってる子なんてのもいるらしいぐらいにはね」

 おっさんモテモテやな。金に群がる女どもって感じだけど、実際群がられてる方はどう思ってるんやろな? 結構楽しいもんなんだろうか。

「私も初めての時はあの人のお世話になったし。そのあと新人であまり稼げない時期、私を気に入ってくれたのかわざわざ防病魔法つけてくれてね。全プレイにだよ? すごくない?」

 ほんとにすごいな、そのおっさん。金持ちなんてレベルじゃないだろ。前世でも風俗にのめりこむおっさんというのはかなりの数いたが、娯楽の少ないこの世界ではそれ以上に多いのかもしれない。

 この世界でどれほど金を持ったやつがいようとも、スマホ持った小学生の方が娯楽であふれた日々を送れるわけだしね。インターネットってほんと偉大で、人をダメにする最高の平気だと思う。

 流石、アメリカ軍の軍事機器だっただけのことはある。

「最近はお客さんがお客さんだし、もはや必須だけどね。十分お金はもらっているし、私が性病移しでもしたら大変だからね。この街の機能が止まっちゃうよ」

 おっさんがおっさんだとしたら、ママンもママンだな。

 なんだよ、一人の風俗嬢のせいで街の機能が停止するって。いくらスラム街でまともな行政ではないとはいえ、そこのトップそうがこぞって同じ女抱いてるってどうなのよ。

 井の中の蛙状態だとはいえ、仮にもこのスラムで上へと登っておきながら好きな女ひとり独占できないって。ちょっと情けなさすぎやしませんかね?

「当時は結構話題になってね。新人専が一人の女にのめりこんでるって言って、新人でまだ人気もあんまりなかった私にとってはありがたい限りだったよ」

 新人好きがそのまま常連さんになるって、結構珍しい気がするがどうなんだろうか? ママンには性癖のストライクゾーンから外れても、それでも通いたくなるほどの魅力があったのだろう。

 何か、魔性の女って感じだな。

 働き始めて早々に太客の常連さん捕まえるとか、やっぱりママンには容姿以外にもここで働く才能ってやつがあったんやろうな。話聞いてても結構楽しそうだし、まさに天職って感じか。

「何ならあの子の次狙ってみる?」

「え?」

 次って、次?

 おっさんの相手するの?

 狙うもなにも、普通に嫌なんですけど。そりゃ優良客らしいのはわかるけど、そもそも体を売る気のない俺にとっては優良客かどうかとかもはやどうでもいい情報である。

 この世界の風俗、想像通りあんまり安全そうじゃないしね。避妊魔法なんてものがあるなら当然その逆もと簡単に想像できるわけで、気づかない間に相殺でもされてたらと思うと恐ろしいばかりである。

「あの人の相手、多分あなたのことも興味あると思うわよ。私の幼いころそっくりだし、少し話に出したしたら結構食いついてたわよ」

「……勘弁」

 このおっさん、新人ちゃんとやるときにわざわざママンの指名料まで払ってるような人だ。俺とやるときも当然そうなるわけで、もしかしなくても親子丼とかやらされそうじゃないですかやだぁ。

 そうじゃないにしても、ママンと竿姉妹というのはどこかきついものがある。前世でも今世でも、穴兄弟も竿姉妹も作る予定は一切ない。なんか嫌だと思うのは童貞特有の潔癖だろうか?

「あら、残念」

 でも、そうか。ここまで豪快に女遊びしてママンの古くからの常連さんねぇ。もしかしなくても、この街の重鎮なんだろうね。

 2人っきりにならないのも、もしかしたら暗殺とか一応警戒してのことなのかもしれない。こういうスラム街での権力闘争にそんな手段はつきものだと言うし。女遊びの最中ですらそんなことを考えないといけないなんて、偉い人は偉い人で大変だな。

 というか、なんでママンはそこまで信用されてるのだろうか? 本当によくわからない人だ。

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