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最終章 手を携えて未来へ

10-6. 共に生きるとは

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 ドガイに入ると、中央教会までは、前回も護衛してくれた騎士団が合流した。冒険者よりも遠いところで、どちらかというと邪魔する人が出ないように先導という感じだ。
 ドガイにもモクリークの領主館が吹き飛ばされた情報は伝わっているようで、道中で僕と繋がりを作りたい人が余計なことをしてドガイに火の粉が降りかからないように、という目的らしい。
 中央教会に着くと、大司教様が出迎えてくれて、大変でしたね、どうぞここでゆっくり休んでくださいと、労ってくれた。その孫を見るような優しい眼差しと口調に、思わず涙があふれてしまった。

 前回も泊めてもらった豪華な部屋で、のんびりと特にすることもなく過ごしている。
 ぴったりとアルにくっついて、ブランのブラッシングをして、アルと司祭様の話をぼんやりと聞いていると、あっという間に1日が過ぎる。


「やーーーーっ!」

 アルが斬られるところで目が覚めた。
 アルが死んでしまう。僕のせいでアルが。僕がこんなスキルを持っているから。アルが、お願い、アルを助けて。

「ユウ!大丈夫だ。俺は生きているから、ユウ」

 アルだ。ペンダントもある。生きてる。アルが生きてる。よかった。よかった。
 アルが抱きしめて、ゆっくり背中を撫でてくれる。胸にあてた耳に、アルの鼓動が聞こえる。足に当たっているのはブランのふわふわの毛だ。大丈夫。アルは生きている。ブランもいる。大丈夫、何も変わってない。

 アルのペンダントは、同じ石で新しく作ったものが教会経由で届けられた。寝るときもいつも着けていたペンダントがないと、あの時を思い出して落ち着かなかった。
 うなされては起きる僕のために、アルもちゃんと眠れていない。お昼にぼーっとしていると、アルがうとうとしていることがある。僕が起きている間は起きていようとしてくれているけど、アルが倒れてしまうから寝てほしい。
 アルの怪我はもう完全に良くなったと、ケネス司祭様が保証してくれた。ポーションをかけた時点で傷自体は治っていたけど、失われた血は戻らないので療養が必要だ。その影響もなくなって、もう運動をしても問題ないそうだが、僕が離れられないので、どこにも行かず訓練もせず、一緒にいてくれる。

 毎夜うなされて目が覚めてしまう。食べられず、眠れない日々は僕の体力をじわじわと削っていく。

「ユウ、焦らなくていい。カイドの時もホトの時も、時間とともに少しずつ回復しただろう?」
「でも、アルが」
「ここにいる。ブランもここにいる。大丈夫だ」

 アルが抱きしめながら手を握って、優しく諭してくれる。
 大丈夫、そばにいるから、そう言ってくれるアルの鼓動が眠りを誘い、アルに抱きしめられていたら、少しずつ眠れるようになった。


 教会の中でアルとブランと過ごす日々は、ゆったりと時間が過ぎていく。
 眠れるようになり、食べられるようになり、アルがそばに居なくてもパニックを起こさなくなったころには、季節がひとつ移ろっていた。

 栄養バランスの取れた消化のいい食事のおかげで、少しずつ体重が戻ってきている。
 悪夢を見て飛び起きる回数も減り、眠れるようにはなった。むしろ身体が回復しようとしているのか、すぐ眠くなってしまう。
 運動のために教会内の散策も始め、最初はすぐに息切れしていたのが、今は休みながらなら、朝ご飯とお昼ご飯の間は外で過ごしても平気なくらいに回復した。

「ブラン、そろそろ魔法使っても大丈夫だよね?」
『少しだけなら』
「やった!」

 背中に小鳥を乗せながら、ブランが答えてくれた。
 教会の庭の散策をするようになって、最初は遠巻きにされていたけど徐々に僕たちにも慣れたのか、ブランの周りに鳥が集まってくるようになった。小動物は近くには来るが、背中に乗るほどの大胆さはない。もしかして僕がもふもふ触りたいなあと思って見ているせいだったりするのだろうか。

「アル、あの後のモクリークのこと、教えて」
「ユウ、大丈夫か?」

 これまで、僕があのウルバのダンジョンでの出来事を思い出さないようにと、僕の前ではモクリークの話は全くでなかった。
 けれど、僕の気持ちも少し落ち着いた今、モクリークがどうなっているのか知りたい。
 しばらくは僕の様子をうかがっていたアルも、辛くなったら止めるから教えるようにと言って、今の状況を教えてくれた。

 僕が、アイテムボックスはもう使わないと宣言してドガイへと出国した後、教会が国には協力しないと王様の前で表明した。
 冒険者ギルドも国への協力を拒否し、ごたごたに巻き込まれないように国と貴族からの指名依頼を停止した。
 それを受けて王様は、僕たちを襲撃した強硬派を処罰し、モクリーク王国は今後僕たちの望みを妨げないと宣言した。

 今までの協力に感謝します。自由と安全は国が今度こそ保証しますので、いつでも帰ってきてください。
 という内容の手紙を、モクリークの王様からサジェル経由でアルが受け取っていた。

 将軍を始めとして、僕に軍の武器へ付与をさせようとしていた軍の関係者と貴族は強硬派と呼ばれていて、僕を冒険者として自由にさせるのではなく、国で保護してスキルを管理するべきだと主張していたらしい。
 その人たちのうちどれだけがあの襲撃に関わったのかは分からないけど、結果として僕がモクリークを出てしまったということが、かなり問題視された。王様は接触禁止を言い渡し、僕たちの国内での自由を保証していたのに、それに従わずにこういう結果を引き起こしたのだ。
 軍と貴族に粛清の嵐が吹き荒れ、首謀者と目される人たちには反逆罪が適用された。といっても200年周期に入った今、あふれに対応する人が減るのは困るので、奴隷契約にして特例でそのまま軍で働くらしい。そんな場合ではないというのもあるが、それだけ関わっていた人が多かったということでもある。
 僕たちが高性能な武器を貸し出しているダンジョン特別部隊は、そのまま国内のダンジョンを攻略して回っている。

 教会は、今まで僕たちがあふれの対応の費用を全て孤児院に寄付していること、マジックバッグも教会に寄付したこと、それなのに襲撃され、ショックを受けてアルの故郷であるドガイの教会に身を寄せていることを公表した。
 それを聞いた街の人たちは、僕たちに同情的らしい。直前に、僕がカイドで武器の強化を強要されていたことが公表されていたのも、余計に同情を誘ったそうだ。ノーホークから逃れてモクリークに来て、モクリークのためにいろいろしてくれたのに、軍のせいでまた辛い思いをしていると。
 そんなところに、僕たちが提供した武器を持っている軍の部隊である特別部隊が行けば、当然風当たりは強い。それでも、ダンジョンを放置するとあふれる可能性が高くなると言われているので、黙々と各地を回っているそうだ。


 現状を聞いて、じゃあこれからどうするのか、考えなければならない。
 モクリークに帰るのか、その場合どういうふうに国と付き合っていくか。ダンジョンに潜るのか、あふれの対応はするのか、教会の付与はどうするのか。考えることはたくさんある。国に貸し出している武器をどうするのかも決めなければ。

「アイテムボックスはこのまま使わないでいるか?」
「……使ったほうがいいよね」
「そう思ううちはやめておこう。使いたいと思ったらその時考えよう」

 このスキルがあるとアルが傷ついてしまうという、あの襲撃の直後のような焦燥感は落ち着いたけど、また同じことが起きたらという不安はある。
 それにアイテムボックスが欲しいのは、モクリーク王国だけではない。他の国から狙われる可能性だってある。
 ここドガイの王様も、僕に会いたがっているけど、教会が断ってくれている。モクリーク王国が神の怒りを受けているので強くは出られず、なんとか間を取り持ってもらえないかと教会に頼むしかない状態だ。
 けれど、アイテムボックスを使わないのであれば、僕はモクリークだけでなくどこの国ともギルドとも距離を置いたままだ。

「ユウ、これからどうしたい?ここにいるか?カザナラに帰るか?」
「……、僕はここに残るから、アルだけ帰ってほしい。ごめん」
「ユウが残るなら、俺も残る。ひとりにしないと約束しただろう?」
「ごめん、今はアルと一緒にいるのが辛い。ごめんなさい」

 ずっと考えていた。
 これからアルのそばで、僕はどうやって生きていくのか。
 ドガイに来てから、アルはずっと僕のそばにいてくれる。僕のスキルのために命を狙われ、眠れなくなった僕のために冒険者の活動も休止してそばにいてくれる。

 アルを僕に縛り付けていいのか。
 アルだけ冒険者に復帰するとしても、僕はここ教会かカザナラの別荘でブランと一緒に何もせず、ダンジョン攻略に行って時々帰ってくるアルを待っていればいいのか。
 周囲とのやり取りも収入も、何もかも全てをアルに頼る生活は、アルと共に生きていると言えるのだろうか。
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