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続 3章 ドロップ品のオークション

13-22. 寄り道

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 ドガイでの行事は全て終わったので、モクリークへ帰ろう。
 呪いの宝石については、ドガイの王様と大司教様に任せることにした。モクリークの王子様がちゃんと解決させないと許さないと強めに言ってくれたそうなので、きっとうやむやにはされないはずだ。

 借りていた部屋はすでに片付けが終わり、荷物も全て収納しているので、きれいだけど生活感がない高級ホテルのように見える。
 思い起こすと、アルとの関係における大切な決断は、いつもこの部屋でしている。アルが氷の花に誓ってくれたのも、この部屋だ。

「ユウ、どうした?」
「なんでもない」

 あのときの誓いは僕の胸の中にある。
 後ろ向きになってばかりだけど、その誓いに恥じないように、僕も頑張ろう。

 大司教様たちの盛大な見送りを受けて、リネに乗ってドガイの中央教会を飛び立った。いろいろあって、予定よりも長い滞在になってしまったけど、来たときよりも気持ちはスッキリしている。
 いろんな国を旅してみたい。それは、子どものころのアルが胸に抱いた将来の希望だ。ミダの周りの麦畑を見下ろしながら、いつかアルとブランと、付き合ってくれるならリネも一緒に、旅をしようと、心に決めた。

 山を越えてモクリークに入ると、アルがリネに降りるようにお願いした。カザナラも王都もまだ先なのにと思っていたら、モクリークに入って最初の街、コーモに降りるつもりのようだ。もしかして。

「ユウの好きな温泉に寄っていこう」
「ありがとう!」

 ブランが横でため息をついているけど、ごめんね。ちょっとだけ付き合って。
 盆地の中にある小さな街の門近くにリネが舞い降りると、街道を行く人たちが、大きく手を振ってくれた。神獣に会えたことを喜びながらも大騒ぎにはならない、その雰囲気でモクリークに戻ってきたと実感する。アルがリネと契約してすぐのころは、アルが現れると神獣を見たい人たちに取り囲まれて大騒動になっていたけど、最近は周りも慣れて、遠くから見られることが多いと聞いている。僕たちがこの国に来た最初のころと同じだ。なんだかんだありながらも受け入れてくれるこの国の柔軟性に助けられている。
 リネは僕たちを降ろすと小さくなって、すぐ近くにいた冒険者にどんなダンジョンがあるのか聞いているので、僕たちが温泉を楽しんでいる間に攻略してくるつもりなんだろう。


「ユウ、ギルドと教会に行ってくるから、風呂に入っていてくれ」
「僕も一緒に行くよ?」
「久しぶりの温泉だ。ゆっくり入れ」
「ありがとう」

 街に入り、前にも泊まった温泉宿に部屋を取った。温泉だとウキウキしている僕を置いて、モクリークに戻ってきたという報告をギルドと、それから一応教会にもしてくると、アルが部屋を出ていった。じゃあ遠慮なく入らせてもらおうと、お部屋の内風呂の扉を開けると、ブランが部屋の奥へと逃げていって、お風呂に背を向けて寝転んでいる。もう一緒に入ろうなんて言わないから、そんなあからさまに嫌がらないでよ。

 そろそろ紅葉が始まる季節だが、湯船から見える街を取り囲む山はまだ青々としている。それでも朝晩は涼しくなっているから、冬もそう遠くない。
 恒例のカークトゥルス合宿の前に、ティガーのみんなと一緒にダンジョンに行く予定だけど、アルもブランも僕のダンジョン復帰には消極的だ。
 僕がダンジョンに復帰したい理由の筆頭は、アルと一緒にいたいからというのだけど、僕は冒険者だからというのもある。冒険者としてこの国に受け入れてもらえた。街中の宿や屋台でも、少し気を遣われながらも、でも普通の客として接してもらえた。それは、足元の定まらなかった僕にとって、とても大きな拠り所だった。
 何かあるとドガイの教会に逃げ込んでいるけれど、僕は自分で思う以上に、この国が好きらしい。

「やっぱりまだ入っていたか」
「あれ? もう帰ってきたの?」
「報告だけだからな。俺も入っていいか?」
「もちろん」

 僕が取り留めもなく考えごとをしている間に、アルは報告を終わらせて帰ってきた。小さな街だから、移動に時間はかからないんだろうけど、アルはこれを見越して、時間を有効活用したっぽいぞ。それだけ僕が長風呂をすると思われてるんだな。まあ実際にしていたけど。
 湯船に入ってきたアルに近寄ると、お湯の中に座ったアルの膝の上に乗せられて、抱きかかえられた。

「ねえ、アル。僕はこの国が好きだよ」
「俺もだ。ギルドで『おかえり』と声をかけられたよ」

 ここが僕たちの帰る場所なのだと、僕たちだけでなくこの国の人たちも思ってくれているのが、相思相愛のようでなんだか嬉しい。もちろん一部には違う人もいるけど、人が集まればいろんな意見があって当たり前だ。誰もが僕を受け入れてくれる、そんな理想郷はきっとない。もちろんアルを傷つけたことは一生許さないけど。

「アルは、僕にダンジョンに復帰してほしくない?」
「俺は前のように一緒にいたい。でもユウには教会の手伝いのほうが合っていると思う」
「リリアンダにも同じことを言われちゃった」

 アルが苦笑しているけど、ダンジョンで僕の戦闘訓練を見たことがある人は、みんな同じように思っているんだろうな。多分僕はいまでも、Dランク試験には受からない。戦闘系の才能と適正のなさは、ちゃんと自覚している。

「冬のカークトゥルスと、後は気が向いたとき、というのがいいんじゃないか?」
「それが現実的なのかなあ」
「ブランが行きたいときもか」
「ブロキオンには行かない」

 買い取りにもオークションにも出せない魔剣がたまってしまうから、あそこは絶対に行かないぞ。遠くからのブランのもの言いたげな視線には気づかないフリだ。でもそんな僕の悲痛な願いもむなしく、いつかは行くことになるんだと分かっている。ブランのお気に入りだから、僕だって付き合ってあげたい思いはあるのだ。ものすごく行きたくないけど。行かなくて済むなら行かずに済ませたいけど。

「ユウ、不安に感じたら、すぐに言ってほしい。俺にはユウが何よりも大切だから、そのときはダンジョンに行かずにそばにいる」
「リネが拗ねちゃうよ?」
「それでもだ。きっとリネも分かってくれる」

 確かに、最近のアルとリネを見ていると、不平を言いながらも受け入れてくれる気がする。リネもいろんな人と仲良くなって、行動範囲を広げているから、ブランに無理やり連れてこられて始まったこの生活も、前よりは楽しんでくれているのだろう。
 リネもブランも、アルも僕も、誰も我慢も無理もせず楽しく過ごしていける、そんな日々を送りたい。
 それには、アルと離れているときの不安に僕が上手く折り合いをつけられるか、その一点にかかっている気がする。
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