痛くしないで!‐先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!‐

sae

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番外編

treatment5~治療を始めましょう

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 両手首を掴まれて視界が三嶌の手によって開かれると目の前に三嶌の端正な顔が飛び込んできて百合の頬は勝手に火照る。

「こんばんは」
「こ、こ、こんばんは」
 ただの挨拶、なのになぜこんなに甘く響くのか。三嶌が発する言葉は挨拶だって乙女をときめかせる甘い言葉に変わってしまうのか。百合はもう耳の鼓膜と脳みそが狂いだしてるのを実感している。三嶌は百合の手首を掴んだまま顔を覗き込んできて相変わらずの優しい声で囁くように言ってくる。

「待ってたよ、時間ぴったりに来るんだね。もっと早く来てくれたらいいのに」
 セリフもいちいち甘い。もうどこもかしこも甘くて百合の脳内がふつふつと沸き始める。

「す、すみません、お、遅くなりました」
 別に百合は予約時間に遅れてはいないけれど謝った。見つめられてそわそわしていると三嶌が片方の手をそっと離すとその手がそのまま百合の頬に触れてきて百合の体が跳ねた。

「ひゃ!」
「少し腫れちゃったね、痛い?」
 撫でるように右下をさすられて身がよじる。

「いいい、痛くはないです、平気です!」
「そう、良かった。奥、おいで?」
 そのままグッと引っ張られ百合は気づいたら診察室の椅子の上にいた。

「先に消毒してしまおうね」
 にこっと笑われてまた百合の胸はときめく。ずっとドキドキしている、今後の人生でドキドキする時間を今莫大に使ってしまっている、百合はそう思った。

(絶対寿命縮んでる……)

「ん、あーん」
「……あー……」
 百合の声も一緒に漏れた。それに三嶌が反応しないわけがないのにそんなことを露程しらぬ百合は無防備に口を開けている。
 腫れた部分に冷たい液体がかかって一瞬冷たさを感じたもののすぐに口の中に馴染む。バキュームが消毒液と唾液を吸い上げてくれるので苦しみも何もない。

「はい、おしまい。傷口もきれいだね。腫れもすぐに治ると思うよ、よく頑張ったね」
 椅子が徐々に起き上がって三嶌と距離が近づいていく。

「偉い偉い」
 そう言って頭を撫でられた。その手の温かさに百合の胸はまた躍る様に跳ね上がっていた。

(ふわぁぁぁーー!やばいやばいやばい、頭よしよしやばい、これ動画とかに撮っておけないかな、寝る前とかに毎日見て明日への活力にしたい……防犯カメラとかないのかな、データくださいとか言ったら引かれるかな)

 間違いなく引かれる案件だが暴走しかけている百合は病院内をキョロキョロ探してしまっていた。

「少しは歯医者怖いのなくなった?」
 三嶌の問いかけに百合はハッとして声の方に振り返り、聞かれた言葉を心の中で反芻させた。

(歯医者は……怖い、けど……)

 三嶌が優しい瞳で見つめてくる。その瞳に吸い込まれるように自然と言葉が落ちた。

「こわい……です。でも、先生だから、怖くない」
 三嶌の目力はまるで麻酔のように効力がある。全身が鈍く動いてだんだん身動きが取れなくなる。感覚が徐々になくなって自分の意思を失くしてしまうようだ。

 ピッと機械音が鳴ったと思ったら椅子がいきなりまた動いた。

「え!」
 驚いた百合は悲鳴のように声をあげた。

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