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エピソード・瑠衣編
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結局入江凛子のことを聞けないまま瑠衣は数日過ごしていた。
気にならないは嘘になる、それでも太刀川が入江凛子とどうこうなっている気もしなかった。不安の中にある微かな自信は確かにあった。でもそれは太刀川と離れると一瞬で揺らいでしまう。
「若槻さん」
呼び声に振り向くとそこには今も脳内にいた人物が笑顔で立っていた。
「この書類に印鑑お願いしたいんですけど」
「あ、はい……今行きます」
なぜ自分を指名するのだろう、そんなことがチラッとよぎったが仕事だ。言われるまま席を立ちカウンターまで足を運んだ。
手元に置かれている書類に手をかけたとき、淡いピンク色のジェルネイルがされた綺麗な手元が書類を止めた。その動きに瑠衣が顔をあげようとしたとき、書類の上にスマホが静かに差し出すように置かれた。
その液晶画面に映された写真に瑠衣は目を見開く。
「大人しそうな顔して、やること大胆なのね」
瑠衣の身体が自然と震える。この震えはなんなのだろう、自分は人に責められるようなことをしているのだろうか。
入江が見せてきた携帯の中に映っていた写真は、あの倉庫で抱き合っていた太刀川と瑠衣の姿だった。
「くださいます?」
「――え」
「……印鑑」
ニコッと笑う顔が怖い。今のは本当に印鑑の話なのだろうか、瑠衣は高まる胸の音がうるさすぎて戸惑う。印鑑を持つ手が震えている、このまま押せばうまく押せないかもしれない、それも加わってますます手が震え出す。そんな動揺する瑠衣を見つめる入江は相変わらず余裕で色っぽい視線をよこしてくる。その目元が震える手に視線を落としながら小さな声で呟いた。
「営業は痛手になるでしょうね」
「え……」
「あなた次第です」
そう言って瑠衣の手を上から包むように抑えてきてそのまま書類にハンコを押した。入江の手は冷たかった。瑠衣の手が熱すぎただけかもしれないが。紙に印鑑を押し付ける力が強い、しっかり押すためだろう、そのためにかけられた力だと思うのに、悪意を感じる。
「充分楽しんだでしょ?ちょうだいよ」
耳元で囁かれた。その声には手の温度よりも冷たいものを感じた。視線をあげられない瑠衣にクスリと笑う声だけが聞こえて瑠衣はまた震えた。
「お時間とらせました、失礼します」
入江は不自然なほどの笑顔をオフィスに振りまいて出て行った。瑠衣の動悸はまったく治まらない。入江に言われた言葉だけが脳裏に張り付いて離れなかった。
気にならないは嘘になる、それでも太刀川が入江凛子とどうこうなっている気もしなかった。不安の中にある微かな自信は確かにあった。でもそれは太刀川と離れると一瞬で揺らいでしまう。
「若槻さん」
呼び声に振り向くとそこには今も脳内にいた人物が笑顔で立っていた。
「この書類に印鑑お願いしたいんですけど」
「あ、はい……今行きます」
なぜ自分を指名するのだろう、そんなことがチラッとよぎったが仕事だ。言われるまま席を立ちカウンターまで足を運んだ。
手元に置かれている書類に手をかけたとき、淡いピンク色のジェルネイルがされた綺麗な手元が書類を止めた。その動きに瑠衣が顔をあげようとしたとき、書類の上にスマホが静かに差し出すように置かれた。
その液晶画面に映された写真に瑠衣は目を見開く。
「大人しそうな顔して、やること大胆なのね」
瑠衣の身体が自然と震える。この震えはなんなのだろう、自分は人に責められるようなことをしているのだろうか。
入江が見せてきた携帯の中に映っていた写真は、あの倉庫で抱き合っていた太刀川と瑠衣の姿だった。
「くださいます?」
「――え」
「……印鑑」
ニコッと笑う顔が怖い。今のは本当に印鑑の話なのだろうか、瑠衣は高まる胸の音がうるさすぎて戸惑う。印鑑を持つ手が震えている、このまま押せばうまく押せないかもしれない、それも加わってますます手が震え出す。そんな動揺する瑠衣を見つめる入江は相変わらず余裕で色っぽい視線をよこしてくる。その目元が震える手に視線を落としながら小さな声で呟いた。
「営業は痛手になるでしょうね」
「え……」
「あなた次第です」
そう言って瑠衣の手を上から包むように抑えてきてそのまま書類にハンコを押した。入江の手は冷たかった。瑠衣の手が熱すぎただけかもしれないが。紙に印鑑を押し付ける力が強い、しっかり押すためだろう、そのためにかけられた力だと思うのに、悪意を感じる。
「充分楽しんだでしょ?ちょうだいよ」
耳元で囁かれた。その声には手の温度よりも冷たいものを感じた。視線をあげられない瑠衣にクスリと笑う声だけが聞こえて瑠衣はまた震えた。
「お時間とらせました、失礼します」
入江は不自然なほどの笑顔をオフィスに振りまいて出て行った。瑠衣の動悸はまったく治まらない。入江に言われた言葉だけが脳裏に張り付いて離れなかった。
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