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エピソード・瑠衣編
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入江は別れろと言っているのだろうか。太刀川と別れなければ、太刀川を営業から異動させると言う意味だったのか。入江の言葉が何度も何度も頭の中でこだまする。瑠衣次第、冷たい声はそう言った。
――ちょうだいよ。
それにノーと言えば、太刀川に辞令が下りるのだろうか。考えるほど不安になる。
別れることも、太刀川に迷惑がかかることも嫌だ。このまま知らんぷりなど出来ない、出来るわけがないし、していいわけがない。でも、どうすることがいいのか全然わからなかった。
夜、太刀川と会う約束をしていた。めずらしくご飯を食べて帰ろうと誘われていたが瑠衣は家で会いたいと変更を頼んだ。外で二人で会うのが怖かった、入江がどこかで見ているかもしれない、その恐怖があった。
なるべく平静を装って太刀川と会ったつもりだったのに、会った瞬間太刀川は瑠衣の異変に気付く。
瑠衣の部屋に入るなり腕を掴んで顔を覗き込まれた。
「なんかあった?」
「――え」
「なに?仕事?なんかやらかした?」
「……ぁ、えっと」
言い淀む瑠衣に太刀川はまっすぐ見つめてくる。そのまなざしに瑠衣は直視出来ずに俯いた。その姿を見て太刀川が逃がしてくれるわけがない。
案の定顎を掴まれて顔をあげさせられると嫌でも視線が絡み合う。
不安で揺れる瑠衣の瞳を太刀川は見つめるがその揺れる気持ちを察知しきれない。
「どうした?外で会いたくないのもなんか思うことがあるからなんだろ?なんか話したい事あんの?」
「……」
何を、どういえばいいのか。
迷いじゃない、言いたい言葉が見つけられない。いろんな気持ちが交差してその中で結局前面に来るのが、嫌だと言う気持ちだけ。
別れるのも嫌だ。
太刀川の仕事に自分が迷惑をかけてしまうのも嫌だ。
入江に何も言い返せなかった自分も嫌だ。
責められてそれを飲み込んでしまったことも嫌で。
自分は、太刀川にとって何ができる人間なのか、そこにたどり着いて何も言えないのが一番嫌だった。
「瑠衣、前から思ってんだけどさ」
少し苛立ったような太刀川の声に瑠衣は肩を震わせた。
「お前さ、あんまり言いたい事言わねぇよな。なんで?俺の顔色伺ってんの?」
「ち、ちがっ……」
「言いたい事あんのに言わねぇヤツ、あんま好きじゃねぇんだよ。溜め込まれていい気しない、なんかあんなら言えよ。お前にとって俺ってさ、まだ自分のこと晒せない存在なわけ?」
太刀川の優しさだと分かっている。
言い方は冷たくても、瑠衣への気持ちを受け止めると言ってくれている、瑠衣だってそれは分かっている、はず、なのに――。
「――っ」
言えない瑠衣に、太刀川がため息を吐いた。
「俺ってあんまり信用されてねぇんだな」
さらっと髪を撫でられて、太刀川は瑠衣に背を向けた。そのまま玄関の扉を開けて部屋を出て行ってしまった太刀川に瑠衣は何も言えず、追いかけることも出来なかった。
ただ一人自分の部屋に取り残されて、瑠衣は胸を痛めていた。
――ちょうだいよ。
それにノーと言えば、太刀川に辞令が下りるのだろうか。考えるほど不安になる。
別れることも、太刀川に迷惑がかかることも嫌だ。このまま知らんぷりなど出来ない、出来るわけがないし、していいわけがない。でも、どうすることがいいのか全然わからなかった。
夜、太刀川と会う約束をしていた。めずらしくご飯を食べて帰ろうと誘われていたが瑠衣は家で会いたいと変更を頼んだ。外で二人で会うのが怖かった、入江がどこかで見ているかもしれない、その恐怖があった。
なるべく平静を装って太刀川と会ったつもりだったのに、会った瞬間太刀川は瑠衣の異変に気付く。
瑠衣の部屋に入るなり腕を掴んで顔を覗き込まれた。
「なんかあった?」
「――え」
「なに?仕事?なんかやらかした?」
「……ぁ、えっと」
言い淀む瑠衣に太刀川はまっすぐ見つめてくる。そのまなざしに瑠衣は直視出来ずに俯いた。その姿を見て太刀川が逃がしてくれるわけがない。
案の定顎を掴まれて顔をあげさせられると嫌でも視線が絡み合う。
不安で揺れる瑠衣の瞳を太刀川は見つめるがその揺れる気持ちを察知しきれない。
「どうした?外で会いたくないのもなんか思うことがあるからなんだろ?なんか話したい事あんの?」
「……」
何を、どういえばいいのか。
迷いじゃない、言いたい言葉が見つけられない。いろんな気持ちが交差してその中で結局前面に来るのが、嫌だと言う気持ちだけ。
別れるのも嫌だ。
太刀川の仕事に自分が迷惑をかけてしまうのも嫌だ。
入江に何も言い返せなかった自分も嫌だ。
責められてそれを飲み込んでしまったことも嫌で。
自分は、太刀川にとって何ができる人間なのか、そこにたどり着いて何も言えないのが一番嫌だった。
「瑠衣、前から思ってんだけどさ」
少し苛立ったような太刀川の声に瑠衣は肩を震わせた。
「お前さ、あんまり言いたい事言わねぇよな。なんで?俺の顔色伺ってんの?」
「ち、ちがっ……」
「言いたい事あんのに言わねぇヤツ、あんま好きじゃねぇんだよ。溜め込まれていい気しない、なんかあんなら言えよ。お前にとって俺ってさ、まだ自分のこと晒せない存在なわけ?」
太刀川の優しさだと分かっている。
言い方は冷たくても、瑠衣への気持ちを受け止めると言ってくれている、瑠衣だってそれは分かっている、はず、なのに――。
「――っ」
言えない瑠衣に、太刀川がため息を吐いた。
「俺ってあんまり信用されてねぇんだな」
さらっと髪を撫でられて、太刀川は瑠衣に背を向けた。そのまま玄関の扉を開けて部屋を出て行ってしまった太刀川に瑠衣は何も言えず、追いかけることも出来なかった。
ただ一人自分の部屋に取り残されて、瑠衣は胸を痛めていた。
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