あなたはキスだけしてくれない

sae

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エピソード・瑠衣編

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 不安を煽り、自分の自信のなさを突きつけてくる。入江はそんな瑠衣の弱さを突いてくる。太刀川と付き合う前から自分に自信などなかった。付き合ったところで自分なんかが、その気持ちは消えることはない。

 いつだって不安と闘っている、それは誰にじゃない、自分になのだ。


「お荷物になりたくないでしょ?後悔したくないわよね?好きならなおさら……あなた自身が本気なら、ちゃんと考えなさい?」
「……」
 何も言い返せない瑠衣に入江は笑っていた顔をスッと消して睨むように言ってきた。

「調子に乗らないでよね」
 調子になど乗った覚えはない。そう思ってもそれだって言い返せないのが情けない。瑠衣は下唇を噛んで入江から放たれる言葉に耐えている。その姿が余計入江を苛つかせてしまった。

「悔しいなら言い返しなさいよ。そんなことも出来ない、自分の気持ちもちゃんと言えない……そんな女がよくあの人の隣に並んでられるわよね。何様よ、いい気になってんじゃないわよ!」
 体を突き飛ばされてその言葉を投げつけられた。フンッと鼻息荒く入江はそれだけ言うと倉庫を出て行った。

 ――お前さ、あんまり言いたい事言わねぇよな。

 太刀川にも言われたところだ。
 瑠衣は気持ちを吐き出すのが苦手だ。自分の自信のなさもそうだが、太刀川に釣り合ってない自覚もそうさせる。
 好きと言われても不安が伴う。信じられない、本当なのだろうか、そう思ってしまう自分が余計太刀川から逃げてしまう。

 しつこく言えば嫌われそうだ、本当は何度も聞きたいのだ。しつこいくらい聞きたい、それが本音。

 自分が太刀川にとって――特別なのかと。

 瑠衣にだって、本当は言いたい気持ちがあった。嫌われるのが怖くて、一緒にいれなくなることを思ったら言えなかった、それだけだ。

 倉庫を出て入江を追いかけたがもう姿がない。人事部へ戻ったのだろうか、タイミングを逃した……そう思うのに足が止まらない。

 瑠衣は仕事を放り出して入江を探して走り出していた。

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