ゆびさきから恋をする

sae

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鬼上司と閉じ込められる(side千夏)1

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 依頼を終えたサンプルも増えたので十五時の休憩を終えて後片付けをしてからは報告済みの使用サンプルの返却作業にしようとサンプルや試験ファイルなどが保管されている資料倉庫に籠ることにした。一人で黙々作業は嫌いじゃないけれど誰もいない倉庫はどこか物寂しい。

(いや、むしろなんか怖い)

 まだ日が出ている時間だが今日はあいにくの雨模様で外はもう薄暗く、北奥の倉庫はさらに暗く感じた。無駄に明かりをつけて怖くないと自分に言い聞かせていた。
 換気扇の音と雨が天井付近にある小窓を叩くだけ。何も音がないわけじゃないけれど別に心休まる音でもなく、意識をすると怖さがついてきてしまう。
 なるべく考えないように、これ以上奥には進まないように、とにかく無心で作業に取り組もう。そう思い段ボールを取ってきて、持ってきたデシケーターを開けた。

 薬包紙に包まれたサンプルの山を取り出して依頼書と、もともと預けられていたサンプルを照らし合わせて片付け始める。
 どれくらい時間が経ったのか。ふと気づいて倉庫内を見渡すものの時計がなく。

(携帯……)

 そう思って実験室に置いてきたことを思い出した。定時になればチャイムが鳴るからまあいいか、とあまり深く考えずに作業を続けていると試験した依頼の依頼書が見つからない。

(あれ、この試験ってもう終わったよね?私以外にも試験してた人っていたのかな)

 ファイルを探しても見つからないので奥に行ってファイルを探してみる。

(どこかに紛れちゃってるのかな)

 棚からファイルを取り出そうとしているところに急に扉が開いた。

「あれ?ここにいたの?」
 久世さんだ。

「お疲れ様です」
 机に広がるサンプルと依頼書を見つめて片づけをしているのがわかったのだろう。とくに何をしているのかも聞かれることもなく、長い足が迷わず私に寄ってきて背後からファイルを代わりに取ってくれた。

「あ、ありがとうございます」
 背の高い久世さんに包まれるような形になって変にドキドキしてしまう。

「重いから気を付けて」
 机にファイルを置かれて頭を下げる。さりげなく優しい、これ簡単に落ちる子いっぱいいると思うからやめた方がいいですよ、はもちろん言わない。

「ありがとうございます」
「それいつのファイル?」
「えっと、先々月です」
「先月のある?」
「あ、それならそこに」
「ごめん、ちょっと借りる」

 密室空間、そこでそれぞれ無言でお互いの仕事をすることになった。

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