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守りたかった。ただ彼女の傍で、誰よりも守ってやりたかったんだとやっと自分に素直になる。
「……なんでそんなに自分のこと馬鹿にすんの?」
「馬鹿じゃないですか、馬鹿ですよ!自惚れて勘違いして馬鹿以外のなんなんですか?」
「認められたい?評価されたい?誰にされたいんだ?」
「……え?」
「自分のことだろ?意地でも割り切れよ、そんだけの仕事してて、なんでもっと頑張ってる自分を認めてやらないんだ」
そう言えば彼女が息を飲んだのが分かった。
涙をこぼすその瞳は大きく開き揺れていて、そんな瞳で見つめられるとたまらなくなった。
「もっと自惚れていい、勘違いじゃない、君はちゃんとここで仕事をしてる。その結果は実績と経験でちゃんと残ってる。仕事見てれば分かる、認めないヤツがいるなら連れて来いよ、俺が認めさせてやる」
「……もう……やめてください」
震える声が言う。
「……私なんかっ」
そんな言葉言わせたくない。
その思いで彼女の身体を引き寄せた。
小柄な体は俺の腕の中にすっぽりと包まれて、包んだ瞬間に体になじむように引き寄せられる。
「もう言うな」
抱きしめる腕の中で彼女が震える。その震えを抑えるようにきつく抱きしめる。震えているのにされるがままで押し返してこないのが逆に気持ちを高ぶらせてくる。
「この半年で……誰よりも信頼してる。認めてるから頼ってる」
もう誤魔化せない。
「いなくなると困る」
いてくれないと、困るんだ。俺のそばに、誰よりもそばにいて欲しい。
いい上司ではいれない、彼女の望む形には戻れない、その覚悟を決めて抱きしめる。その腕の中で震える体からゆるゆると力が抜けていくのがわかった。同時にすり寄るように体に体重がかかったと思うと、鼻をすする音がして彼女がまた泣いているのだとわかる。
「……泣くな」
「泣かせてるのは……久世さん……です」
ひどい鼻声に思わず笑ってしまったら彼女が拗ねた声で言ってくる。
「笑わないでっ……」
「ごめん」
「どうして……そんなに優しくするんですか」
抱きしめてた腕の力を緩めてそっと髪の毛を掬う。
柔らかな髪の毛から香る甘い匂いに鼻をくすぐられ、小さいけれど弾力のある身体を抱きしめているともうどうしようもなくなった。
その熱をもっと感じたい、そう思って手を頬に伸ばして柔らかな頬を包み込んだ。
「見ないで、ください」
その手を振り払うように顔を背けるから余計に見たくなる。
「いや、見るだろ」
「っ……なんでっ」
「見たいから」
「み、見せたくありません!」
抵抗するけど腕の中なので逃げる範囲が限られているから無駄な足掻きだ。
涙で濡れた頬を親指の腹でなでると、身体を一瞬ビクリとさせて、ためらうように見上げてくる。
漆黒の大きな瞳が、涙で潤んでいる。
その瞳に吸い込まれそうになって、腰を抱いていた腕の力が自然と強まるとそのままグッと引き寄せた。
身体が密着すると、ふたりの間にあった距離感はもうなくなった。
「久世さん……」
小さな声。とまどいを隠せないような、囁くような声。
赤いくちびるが俺の名を呼ぶだけで気持ちが昂って、俺はそのままソッと顔を近づけた。
「……なんでそんなに自分のこと馬鹿にすんの?」
「馬鹿じゃないですか、馬鹿ですよ!自惚れて勘違いして馬鹿以外のなんなんですか?」
「認められたい?評価されたい?誰にされたいんだ?」
「……え?」
「自分のことだろ?意地でも割り切れよ、そんだけの仕事してて、なんでもっと頑張ってる自分を認めてやらないんだ」
そう言えば彼女が息を飲んだのが分かった。
涙をこぼすその瞳は大きく開き揺れていて、そんな瞳で見つめられるとたまらなくなった。
「もっと自惚れていい、勘違いじゃない、君はちゃんとここで仕事をしてる。その結果は実績と経験でちゃんと残ってる。仕事見てれば分かる、認めないヤツがいるなら連れて来いよ、俺が認めさせてやる」
「……もう……やめてください」
震える声が言う。
「……私なんかっ」
そんな言葉言わせたくない。
その思いで彼女の身体を引き寄せた。
小柄な体は俺の腕の中にすっぽりと包まれて、包んだ瞬間に体になじむように引き寄せられる。
「もう言うな」
抱きしめる腕の中で彼女が震える。その震えを抑えるようにきつく抱きしめる。震えているのにされるがままで押し返してこないのが逆に気持ちを高ぶらせてくる。
「この半年で……誰よりも信頼してる。認めてるから頼ってる」
もう誤魔化せない。
「いなくなると困る」
いてくれないと、困るんだ。俺のそばに、誰よりもそばにいて欲しい。
いい上司ではいれない、彼女の望む形には戻れない、その覚悟を決めて抱きしめる。その腕の中で震える体からゆるゆると力が抜けていくのがわかった。同時にすり寄るように体に体重がかかったと思うと、鼻をすする音がして彼女がまた泣いているのだとわかる。
「……泣くな」
「泣かせてるのは……久世さん……です」
ひどい鼻声に思わず笑ってしまったら彼女が拗ねた声で言ってくる。
「笑わないでっ……」
「ごめん」
「どうして……そんなに優しくするんですか」
抱きしめてた腕の力を緩めてそっと髪の毛を掬う。
柔らかな髪の毛から香る甘い匂いに鼻をくすぐられ、小さいけれど弾力のある身体を抱きしめているともうどうしようもなくなった。
その熱をもっと感じたい、そう思って手を頬に伸ばして柔らかな頬を包み込んだ。
「見ないで、ください」
その手を振り払うように顔を背けるから余計に見たくなる。
「いや、見るだろ」
「っ……なんでっ」
「見たいから」
「み、見せたくありません!」
抵抗するけど腕の中なので逃げる範囲が限られているから無駄な足掻きだ。
涙で濡れた頬を親指の腹でなでると、身体を一瞬ビクリとさせて、ためらうように見上げてくる。
漆黒の大きな瞳が、涙で潤んでいる。
その瞳に吸い込まれそうになって、腰を抱いていた腕の力が自然と強まるとそのままグッと引き寄せた。
身体が密着すると、ふたりの間にあった距離感はもうなくなった。
「久世さん……」
小さな声。とまどいを隠せないような、囁くような声。
赤いくちびるが俺の名を呼ぶだけで気持ちが昂って、俺はそのままソッと顔を近づけた。
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