王子様と偽りの愛のゲーム

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第2章:策略の始まり

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朝日が王宮に差し込み、新たな一日が始まろうとしていた。エリザは緊張した面持ちで、リヴィウス王子の執務室の前に立っていた。昨夜の出来事が夢ではなかったことを、彼女はようやく実感し始めていた。

「入りなさい」

低く落ち着いた声が中から聞こえ、エリザは恐る恐るドアを開けた。

執務室は、エリザの想像をはるかに超える豪華さだった。重厚な木製の家具、壁一面を覆う本棚、そして大きな窓から差し込む朝日。その中央に立つリヴィウスの姿は、まさに王子そのものだった。

「おはよう、エリザ。よく眠れたかい?」

リヴィウスの優しい微笑みに、エリザの緊張が少し和らぐ。

「は、はい!ありがとうございます、王子様」

リヴィウスは軽く頷くと、エリザに近づいてきた。

「これからは、私的な場では『リヴィウス』と呼んでくれていいよ。側近として、もっと親密な関係になる必要があるからね」

エリザの顔が赤くなる。王子様と親密な関係になるなんて、まるで夢のようだ。

「は、はい...リヴィウス様」

その言葉に、リヴィウスは満足げに微笑んだ。

(順調だ。彼女の心を掴むのは、思ったより簡単かもしれない)

リヵィウスの頭の中では、すでに次の一手が練られていた。エリザの純真さを利用して、宮廷内の権力闘争を有利に進める。それが彼の目的だった。

「さて、エリザ。今日から君の仕事を始めよう。まずは、宮廷内の人間関係を把握してもらいたい」

リヴィウスは書類を手渡しながら説明を続けた。貴族たちの名前、立場、そして彼らの間の複雑な関係性。エリザは必死にメモを取りながら、頷いていく。

「覚えるのは大変かもしれないけど、焦る必要はないよ。少しずつ慣れていけばいい」

リヴィウスの優しい言葉に、エリザは勇気づけられる。

「はい!精一杯頑張ります!」

その日から、エリザの新しい生活が始まった。リヵィウスの側近として、彼女は宮廷内を歩き回り、様々な情報を集めた。最初は戸惑うことも多かったが、エリザの純真さと誠実さは、多くの人々の心を開いていった。

一方、リヴィウスは常にエリザを観察していた。彼女が集めてくる情報は、彼の策略にとって非常に有用だった。しかし、同時に彼は奇妙な感覚に襲われることがあった。

エリザの無邪気な笑顔、彼女が一生懸命に仕事に取り組む姿。それらを見るたびに、リヴィウスの心に何かが芽生えそうになる。しかし、彼はその感情を必死に押し殺した。

(愛などという幻想に惑わされてはいけない。これは全て計算通りなのだ)

ある日、リヴィウスはエリザに新たな指示を出した。

「エリザ、今夜の舞踏会に出席してほしい」

「え?私がですか?」

エリザは驚いて目を丸くした。彼女のような身分の者が、貴族たちの舞踏会に出席するなんて考えられなかった。

「ああ。もちろん、私の伴侶としてね」

リヴィウスの言葉に、エリザの心臓が大きく跳ねた。

「で、でも...私には相応しい衣装も、作法も...」

リヴィウスは優しく微笑んだ。

「心配することはない。全て用意してある。それに、エリザの純粋さこそが、最高の魅力なんだ」

エリザの頬が熱くなる。リヵィウスの言葉は、彼女の心を震わせた。

(これは夢?それとも現実?)

その夜、エリザは豪華なドレスに身を包み、リヵィウスの腕を取って舞踏会場に入った。会場内は一瞬静まり返り、すべての視線が二人に集中する。

「リヴィウス王子様...まさか、あの方がお伴というわけではありませんよね?」

レイチェルが、嫌悪感を隠さずにエリザを見つめていた。

リヴィウスは優雅に微笑む。

「ああ、彼女は私の大切な伴侶だ。エリザ、こちらはレイチェル卿だよ」

エリザは緊張しながらも、礼儀正しく挨拶をする。

「は、はじめまして。エリザと申します」

レイチェルは鼻で笑うと、冷たく言い放った。

「まあ、王子様の気まぐれもたいしたものね。身分をわきまえない者を連れてくるなんて」

その言葉に、エリザは傷ついた表情を浮かべる。しかし、リヴィウスは彼女の手をそっと握り締めた。

「レイチェル卿、エリザを侮辱するのは許さないよ。彼女は私が選んだ人物だ。それだけで、十分な資格があるはずだ」

リヴィウスの言葉に、レイチェルは言葉を失う。エリザは感謝と喜びで胸がいっぱいになった。

(リヴィウス様が...私を守ってくれた)

舞踏会は進み、エリザはリヴィウスとともに優雅に踊った。彼女の純真さと、リヴィウスの気品ある振る舞いは、多くの貴族たちの注目を集めた。

しかし、その裏で、リヴィウスの頭の中は冷静に状況を分析していた。

(予想通りだ。エリザの存在が、宮廷内のバランスを崩し始めている)

舞踏会の終わり近く、リヴィウスはエリザをバルコニーへと連れ出した。月明かりに照らされた二人の姿は、まるで絵画のようだった。

「エリザ、今夜は素晴らしかったよ」

リヴィウスは優しく微笑みかける。エリザの心は、激しく鼓動を打っていた。

「リヴィウス様...私こそ、こんな素敵な経験をさせていただいて...本当にありがとうございます」

リヴィウスはゆっくりとエリザに近づき、彼女の頬に触れた。

「エリザ、君は本当に特別な存在だ。これからも、私の側にいてくれるかい?」

エリザの目に涙が浮かぶ。彼女の頬を伝う一筋の涙を、リヴィウスがそっと拭う。

「はい...喜んで」

エリザの答えに、リヴィウスは満足げに微笑んだ。しかし、その瞬間、彼の心に奇妙な感覚が走る。

(これは...何だ?なぜ胸が締め付けられるような...)

リヴィウスは必死にその感情を押し殺そうとする。これは全て計算通りのはずだ。エリザの純真さを利用し、宮廷内の力関係を操作する。それだけのことなのだ。

しかし、月明かりに照らされたエリザの瞳を見つめるうち、リヴィウスの心に小さな亀裂が入り始めていた。彼はまだ気づいていなかったが、真実の愛の種が、彼の冷たい心に芽生え始めていたのだ。

バルコニーから宮殿を見下ろす二人。純真な少女と、策略に満ちた王子。彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。真実の愛と偽りの愛が交錯する中で、二人の運命はどのように紡がれていくのか。それは、誰にも予測できないものだった。
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