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ゲルマニウムについての考察
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岩盤浴の部屋は浴場に比べると混み合っていた。部屋は全部で5つくらいあり、そのうち1つはクーラーの効いた湯冷まし用で、1つは女性専用だった。
「女の子も同じ服着てるのか」
「ああ。ちょっと興奮するよな」
「かなり興奮するね」
山岸くんとは高校以来の付き合いだが、これまで女の子に不自由したところを見たことがない。というか、想像もつかない。出会った頃僕は童貞だったし、当時からずいぶん派手なことを密かにやらかしていた彼に比べたら僕の性生活なんて雨ざらしの犬小屋みたいにささやかなものだった(派手なことを・密かにーーーというのが彼なりの美学だった)。しかし詩乃と別れてからというもの僕の性生活は(山岸くんの数々の武勇伝に比べたらつつましいものであるにせよ)、犬小屋の如くささやかとは言いがたいものになってしまっていた。一時期は山岸くんとも女の子をシェアしたものだ。知らない女と会ったその日にというのもざらになった。知り合い程度の友達がセックスフレンドになるケースもあった。そして僕は古代人の貝塚みたいに無滅法に積み上げられてゆくコンドームの数だけ、確実に擦り減っていった。終わりのない堂々巡り。繰り返している…と、僕はいつも思った。閉塞感。そして、閉塞感………
❇︎
岩盤浴の部屋は想像していたよりずっと暑かった。ござの上にさらにタオルを敷いてその上に寝転ぶと、すぐに物凄い早さで汗が噴き出してきた。10分間いるだけでもつらいぜ? と山岸くんは言った。確かに。60度はありそうだ…。5分経つか経たないかくらいで、僕はひとりでペットボトルの水を買いに出た。
「なんだ? もうかよ」
彼は言ったが僕だったら、ミイラになった友人をかついで家まで送り届けることはできればしたくない。そうならない為にも水分補給は一番重要なのだ。もっとも、彼だったら僕をかついで送り届けるか? と聞かれたら、答えはもちろんノーだ。この男はまず100%間違いなく、ミイラ化していようが白骨化していようが関係なく、こうなったのは自己責任と判定して僕の死体を置いてここを去るだろう。しかしまず100%間違いなく、毎年一度は墓参りに来てくれるだろう。彼はそういう男なのだ。
僕たちはこの信じがたい灼熱の箱の中で、ほとんど一切口をきかなかった。もちろんマナーという手前もあったけれど、それとは別に会話の態勢すらお互い全く取らなかった。僕にはそういう関係は心地良かった。山岸くんは僕の75倍くらい友達が多い。その中であえて僕を岩盤浴に誘う理由の1つには、しゃべりすぎる必要がない相手だということもあるかもな…などと、ふと思った。
非日常的な暑さに身を委ねていると、実に様々な思考や感情が、僕の中で波のように打ち寄せては引いていった。それは意識を保ちながら夢を見ているようでもあり、過去の自分を生き直しているようでもあったーーーこんな暑さの中でも男は女を抱けるものだろうか…さすがに最後までは無理だろ? やるとしてもいつものペースじゃ不可能だ…前戯は飛ばす必要があるな…とにかく迅速に事を運ばなきゃならないのは間違いない…。最後に女の子と寝たのはいつだったろう…あのときあの子にかけた言葉はなんだっけ? …悪いけど・便利だったんだ・忘れてくれ。…オーケー、確かに俺は擦り減っている。これからもそうかって? ごめんだね、もうやめたんだ。傷つけたか? 誰を? みんなさ…そのとおり。みんな傷ついていく。でもそれは自己責任だ。俺たちはみんな同じ乗り物に乗ってるんだ。席を取られないように必死になって。蟻も猫も死刑囚もね。みんな同じさ。席を譲るのは勝手だ、好きにしてくれ…大事なのは! 責任は自分でとること…これだけだ。できない奴が多すぎやしないか? それっておまえのこと? …知るもんか。フェードアウト………
無言で物思いに耽っているようだった山岸くんも、彼自身の人生を生き直していたのかも知れない。それはわからない。でも僕は、彼はそういうことはしないような気がした、なんとなく。…もちろん、根拠なんてない。
「女の子も同じ服着てるのか」
「ああ。ちょっと興奮するよな」
「かなり興奮するね」
山岸くんとは高校以来の付き合いだが、これまで女の子に不自由したところを見たことがない。というか、想像もつかない。出会った頃僕は童貞だったし、当時からずいぶん派手なことを密かにやらかしていた彼に比べたら僕の性生活なんて雨ざらしの犬小屋みたいにささやかなものだった(派手なことを・密かにーーーというのが彼なりの美学だった)。しかし詩乃と別れてからというもの僕の性生活は(山岸くんの数々の武勇伝に比べたらつつましいものであるにせよ)、犬小屋の如くささやかとは言いがたいものになってしまっていた。一時期は山岸くんとも女の子をシェアしたものだ。知らない女と会ったその日にというのもざらになった。知り合い程度の友達がセックスフレンドになるケースもあった。そして僕は古代人の貝塚みたいに無滅法に積み上げられてゆくコンドームの数だけ、確実に擦り減っていった。終わりのない堂々巡り。繰り返している…と、僕はいつも思った。閉塞感。そして、閉塞感………
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岩盤浴の部屋は想像していたよりずっと暑かった。ござの上にさらにタオルを敷いてその上に寝転ぶと、すぐに物凄い早さで汗が噴き出してきた。10分間いるだけでもつらいぜ? と山岸くんは言った。確かに。60度はありそうだ…。5分経つか経たないかくらいで、僕はひとりでペットボトルの水を買いに出た。
「なんだ? もうかよ」
彼は言ったが僕だったら、ミイラになった友人をかついで家まで送り届けることはできればしたくない。そうならない為にも水分補給は一番重要なのだ。もっとも、彼だったら僕をかついで送り届けるか? と聞かれたら、答えはもちろんノーだ。この男はまず100%間違いなく、ミイラ化していようが白骨化していようが関係なく、こうなったのは自己責任と判定して僕の死体を置いてここを去るだろう。しかしまず100%間違いなく、毎年一度は墓参りに来てくれるだろう。彼はそういう男なのだ。
僕たちはこの信じがたい灼熱の箱の中で、ほとんど一切口をきかなかった。もちろんマナーという手前もあったけれど、それとは別に会話の態勢すらお互い全く取らなかった。僕にはそういう関係は心地良かった。山岸くんは僕の75倍くらい友達が多い。その中であえて僕を岩盤浴に誘う理由の1つには、しゃべりすぎる必要がない相手だということもあるかもな…などと、ふと思った。
非日常的な暑さに身を委ねていると、実に様々な思考や感情が、僕の中で波のように打ち寄せては引いていった。それは意識を保ちながら夢を見ているようでもあり、過去の自分を生き直しているようでもあったーーーこんな暑さの中でも男は女を抱けるものだろうか…さすがに最後までは無理だろ? やるとしてもいつものペースじゃ不可能だ…前戯は飛ばす必要があるな…とにかく迅速に事を運ばなきゃならないのは間違いない…。最後に女の子と寝たのはいつだったろう…あのときあの子にかけた言葉はなんだっけ? …悪いけど・便利だったんだ・忘れてくれ。…オーケー、確かに俺は擦り減っている。これからもそうかって? ごめんだね、もうやめたんだ。傷つけたか? 誰を? みんなさ…そのとおり。みんな傷ついていく。でもそれは自己責任だ。俺たちはみんな同じ乗り物に乗ってるんだ。席を取られないように必死になって。蟻も猫も死刑囚もね。みんな同じさ。席を譲るのは勝手だ、好きにしてくれ…大事なのは! 責任は自分でとること…これだけだ。できない奴が多すぎやしないか? それっておまえのこと? …知るもんか。フェードアウト………
無言で物思いに耽っているようだった山岸くんも、彼自身の人生を生き直していたのかも知れない。それはわからない。でも僕は、彼はそういうことはしないような気がした、なんとなく。…もちろん、根拠なんてない。
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