ゲルマニウムについての考察

相原伊織

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ゲルマニウムについての考察

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 クーラーの効いた部屋の中は、先端が尖った無数の紫水晶の壁で囲まれていた。ちなみに先程の灼熱の箱は床が岩塩で、他にひのきの部屋だとかゲルマニウムの部屋だとかがある。どうでもいいことだけれど、この程度の客入りで果たして投下した資本を回収できるのだろうかと、少し心配になった。
「まぁ一杯やるか、アイハラ」
我々は同じ階にあるフードコートに行ってレジで金を払うと、4人掛けのテーブルに向かい合って腰を下ろした。テーブルセットと冷蔵庫がいかにも家庭用といったおもむきで、例の経営面の勝手な心配は一気に消え去った。客はぱらぱらといった感じで、60インチのTVの前に数人と、店員と調理カウンター越しに世間話をする老人がいるくらいで、日曜の娯楽施設とは思えぬ程度に静かだった。TVではサッカー日本代表の試合がリアルタイムで流れていた。どうやら3-0で勝っているらしい。2人で観るともなく眺めていると飲み物が運ばれてきた。
「とりあえず、お疲れ」
「お疲れぃ」
僕はグラスビールを、山岸くんはウーロンハイとざる蕎麦を注文していた。お通しの枝豆がひどく美味い。しっかりと塩気があり、しかも新鮮だった。…たとえ万に一つ冷凍食品だったとしてもだ。
「海外のサッカーは面白いよな。コーナーキックとかシューッ!って感じでさ。速いっていうか。おまえサッカー観んの?」山岸くんが言った。
「観るよ、好きだよ。ゴルフとプロ野球は嫌いだけど」
「へえ! 意外だな、観んのか。ところでこいつらなに戦ってんだ?」
「オマーンだって」
「いや、そうじゃなくてつまり… なにを戦ってんのかな」
「ああ。ワールドカップの予選らしいね」
どうやら試合はそのまま終了したらしく、やがて選手のインタビューが映し出された。
「こいつら…サッカー選手の眼って全然違うよな。こういう眼になりてぇよ」
「ふぅん…」僕の腕は檜の部屋で繰り広げられた壮絶な腕立て伏せジャンケンによって痙攣寸前だった。
「こういう眼になりたいもんだ」彼は繰り返した。「行くか」

 煙草は最後の1本で自販機も見当たらなかったので、半分にちぎって吸った。山岸くんがフィルターのついているほうを、僕がついていないほうを取った。我々はもう一度岩塩の部屋に入ってから、浴場に引き返すことにした。
「ゲルマニウムも入ってみてーけど、女性専用じゃあな…」
「なぜゲルマニウムの部屋は女性専用なんだろう?」
「さぁな。あれ用のゴミ箱なんかがあったりしてな。実のところゲルマニウムは女性の生理周期に良い影響を与えるが、男の性欲をつかさどる中枢を刺激しちまうんだ。マチガイが起きたら困るだろ? だから男はダメだ」
「あいかわらず適当なことを言うね。刺激してるのはあの手術着みたいな服じゃないかな」
「ノー。ゲルマニウムだ。おまえも気をつけろよ?」
「ゲルマニウムについての考察」
「イエス」

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