5 / 9
Ⅴ
しおりを挟む
チャーリーがきてから三度目の十二月がやってきた。小さな暖炉には二人で集めた薪がくべられ、部屋を暖かな空気と優しい色合いの光で満たした。日が落ちると暖炉の踊るような明かりはその強さを増し、擦り切れた絨毯のうえに不規則に揺れ動く陰影を描き出した。外ではこの冬最初の雪がちらつき始め、街の喧騒や人々のあらゆる想いを吸い込みながら、静かにしずかに降り積もってゆく…。チャーリーは暖炉のそばに座り込み、膝のうえで眠る猫が目を覚まさぬように時折視線を落としながらも、ヘルターの本に読みふけっていた。ディッケンズの『クリスマス・キャロル』だった。ヘルターは珍しく、朝から一人で出かけている。なんでも、クリスマスの準備のための「ちょっと野暮用」なんだとか。帰りが遅いのが少し心配だったものの、きっとわたしへのクリスマス・プレゼントに関係があるんだわ、とチャーリーは思った。去年はクリスマス・リースの実みたいに上品で深みのある赤いインクをプレゼントしてくれた…。普段用の黒いインクを買うお金をそれに使ってしまったみたいで、何ヶ月もずっとインクがなくって大変そうだったっけ。その前の年はわたしがボストンにきたばっかりで、ヘルターとっておきの秘密の場所から一面の夜景を見せてくれた…。わたしからはきらきらのツリーの絵のクリスマス・カード。次の年は………やっぱりきらきらのツリーの絵のクリスマス・カードだったな。特別なときにだけ使う金色の絵の具で、世界で一番素敵なクリスマス・ツリーの絵を描くの。裏面にメッセージをそえて…。ヘルターはいつも、ものすごく喜んでくれた。今年のクリスマス・プレゼントは何かな。わたしは、ずっとあげたかったけれど去年はあげられなかったとっておきの………
チャーリーの膝のうえでニコライ三世が目を覚まし、すばやくドアのほうに駆けていく。
「あら、ニコ…?」
少しあとで玄関のドアが開く音と、雪を払うバサバサという音が聞こえた。
「外は雪だよ、チャーリー。ただいま」
雪を払った上着をポールハンガーに掛けるヘルターの眼差しは、なぜかどことなく寂しげだった。「遅くなってごめんよ。退屈だったかい?」
「ううん。平気よ。おかえりなさい」チャーリーは後ろ手に本を棚に戻した。そしてヘルターが無事に帰ってきたことを喜び、噛み締めるかのように、首を傾けにっこりと微笑んだ。「ご飯にしましょうか」
チャーリーの膝のうえでニコライ三世が目を覚まし、すばやくドアのほうに駆けていく。
「あら、ニコ…?」
少しあとで玄関のドアが開く音と、雪を払うバサバサという音が聞こえた。
「外は雪だよ、チャーリー。ただいま」
雪を払った上着をポールハンガーに掛けるヘルターの眼差しは、なぜかどことなく寂しげだった。「遅くなってごめんよ。退屈だったかい?」
「ううん。平気よ。おかえりなさい」チャーリーは後ろ手に本を棚に戻した。そしてヘルターが無事に帰ってきたことを喜び、噛み締めるかのように、首を傾けにっこりと微笑んだ。「ご飯にしましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
夫に愛想が尽きたので離婚します
しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。
マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。
このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。
夫を捨ててスッキリしたお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる