あるクリスマスの風景

相原伊織

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       Ⅵ

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 クリスマス・イヴの朝、チャーリーはいつもより一時間ばかり早く目を覚ました。猫のニコライ三世も例年のイヴの朝同様、落ち着かずに家の中を歩き回っているらしく姿が見えなかったーーーかつてはヘルターの部屋を寝床にしていたが、チャーリーがやってきてからはいつの間にか彼女の寝室に移っていた。誰もに少なからぬ好感を抱かせる彼女の能力は、どうやら猫にまで及ぶらしいーーー。
 カーディガンを羽織り居間に出てみると、暖炉に薪をくべるヘルターがいた。彼はチャーリーが起きてきたことに気づくと、微笑みながらおはようと言った。「うまく寝つけなくてね。ニコと暖を取りながらしゃべり合っていたら、もう朝だよ」
彼の足元にはけだるそうに欠伸あくびをするニコライ三世がいた。
「こいつもうまく寝つけなかったらしい。なんていったって今日は、クリスマス・イヴだものね」
チャーリーは彼らにおはようを言い、周りをきょろきょろと見まわしながら、部屋の中を歩き回った。。そしてそのが、彼女の気持ちを逆撫でし、ひどく居心地を悪くさせた。まるで観客の中で自分だけが種を知らない手品を見せられているような気分だった。なぜだろう? …。でも、それが何なのかがわからないのだ…。彼女は神経を研ぎ澄まし、静かに目を閉じた。そして様々な記憶の断片に繋がる無数の絡み合う糸の中から、手繰たぐり寄せるべき一本を注意深く見極めようと試みる。彼女はそのうちの一本を手に取り、自らの《記憶のもと》へ、いざなわれるようにゆっくりとすべり降りてゆく………


《ツリーの飾り付けはいつも三人(二人と、一匹)揃って準備した。今年はチャーリーの用意していたハーシー・チョコレートの銀色の包み紙を、切り抜いたスケッチブックに貼り付けたオーナメントが一番の見物みものだった。日本の切り紙細工みたいに複雑精緻ふくざつせいちな雪の結晶や、頭上の輪っかを神々こうごうしく輝かせた何人もの天使たち…。きちんと作ってやらないとニコライがへそを曲げて邪魔するので、彼のために魚のオーナメントも欠かさず準備した。ニコライ三世はこのときいつも、クリスマス・プレゼントとして貰える新鮮な魚のことを考えているようだった。そしてチャーリーとヘルターも、お互いが交換し合うプレゼントのことを考えていた。チャーリーはヘルターに、金箔を惜しげもなく使った装丁そうていのチェーホフ全集と豪華な外箱入りのディッケンズ全集を揃えて買ってあげようと考え、ヘルターのほうはチャーリーに、ショーケースに並ぶ大小様々な高級絵筆と何十もの色鮮やかなインクを全部まとめて渡してやりたいと考えていた。…ほんとうはそうしたかったのだが、二人は現実には決定的に金が不足していたものだから、代わりに心のこもったささやかなプレゼントを交換し合った。
 二人が実際にプレゼントとして何をあげようとしているか、もったいぶったり相手に匂わせるようなことはこれまでなかったが、今年のヘルターは違っていた》


そうだ! あのとき…
 チャーリーは辿り着いた記憶の断片を前に、なおも核心に近づこうと歩みを止めなかった。
 あのときヘルターは、わたしになんて言ったんだっけ…?


《ヘルターは、チャーリーの切り抜いた雪の結晶に銀紙を貼り付けながら言った。その眼差しはどこか遠くを見ているかのようで、まるでーーー



そのとき、現実の玄関のドアベルが現実の部屋の空気を震わせた。


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