あるクリスマスの風景

相原伊織

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       Ⅷ

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 一人きりのクリスマス・イヴの夜は、ヘルターにとって三年ぶりだ。もっとも、猫を勘定に入れていいなら二人きりのと言えなくもないが、チャーリーのいないクリスマスはどこまでも寂しいものだった。今年は彼女と飾り付けたツリーがあるから、これでも幾分ましなんだろう…。彼の目の前には、人生の続く限りどこまでも、一人ぼっちのクリスマスが続いているように見えた。彼は、孤独だった。


 チャーリーの実家では、二年ほど前から彼女の母親が精神的な病で入院しており、ニューヨークに住んでいた姉夫妻を呼び戻し二世帯で暮らし始めていた。この冬初めての雪が降った日にヘルターはその家を訪れ、チャーリーのことを話したのだった。家庭のことは以前チャーリーから聞いていたので心配だったが、彼の目にはとても仲良くやっているように見え、きっと彼女もうまく馴染めるだろうと思った。姉が嫁いだ先はかなりの資産家で、妻の可愛い妹のためならいくらでも養育費は惜しまないとさえ、その旦那は言っていた。彼女の姉もひどくチャーリーに会いたがっており、彼女のことは自分が責任を持つと約束までしてくれた。帰り際に今までのお礼のつもりか金を(それも、ヘルターにしてみれば目の飛び出るような額だ)渡されそうになったが、彼は丁重に断った。どんな形であれ、金なんか受け取りたくなかった。チャーリーを身売りするような気がしたのもそうだが、とにかく。そこには金というものが介入するような余地は一切なかった。そして彼の中では、離れることで愛が終わるのではなかったからだ。ヘルターはチャーリーに対して今でも、純粋な意味での好意を抱き続けている。

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