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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
ジゼレーナの言った事は本当なのか
しおりを挟むsideアレン
思っていたよりも時間が掛かってしまった。彼女の抵抗が少なかった分時間が浮いたが、途中でユリ先生やエイレンに出会ってしまった事が原因だ。なぜ、ああも立て続けに知り合いに会ったのか。
結局ジゼレーナの姿を全員に見られてしまった。
布を被った変な姿だったが、誰も気付かなかったらいい。気付かれたら面倒だ。
───彼女の言った事は本当なのだろうか。
俺が目的の部屋で彼女を椅子に座らせて聞いた事。もちろん被せた布は取って。
「なぜ話した」
なぜ彼女は、リリアベルの危険を俺達に知らせたのか。
だんまりを決め込むと思っていたが、彼女は答えた。
「レオ様と同じですわよ……最後だから」
意味が分からなそうな俺を見て、加えられた答え。
「覚えていらっしゃらない?今日の事でしたわ。最後だから聞いてやっている。レオ様の言葉ですわ」
よく覚えているなと思ったが、それだけでは納得できない。
「リリアベルを死なせたかったのではなかったか。貴女の言う通り、殿下が忠告を信じない可能性もあった。だがあれだけ言えば、慎重な殿下がリリアベルの元に行くのは明白だ。それが分からなかったのだとしても、教える必要はなかった筈だ」
そう言った俺に、彼女は反論も言い訳もせず、沈黙が流れた。
もう帰ろうかと扉へと体を向けた時、掠れた声が聞こえた。
それは突然だった。令嬢らしい口調も消えていた。
「確かに私は、彼女に死んで欲しかったわ」
こちらが素か、俺を騙しに来ているのか。
視線を向けると、彼女はどこか遠くを見ていた。
「だったらなぜ」
「私は、できた令嬢ではないの」
最初の答えよりも意味が分からず眉を寄せると、彼女は静かに語りだした。
「王太子なのだから、将来は側室くらいできるし、私は彼の婚約者として、嫉妬してはいけない。愛を求めてはいけない。そう理解していたし、言い聞かせて来たわ。
けれど彼女が嫌がらせをされた時、私は嬉しかった。嫌な気分にもなったけれど。清々しかった。爽快だったわ。
彼女は皆を虜にする。誰であろうと。貴方もそう。そして彼もそうだった。嫌だったけれど、彼が少しでも休まるのなら良いかなって、思ってたの。寂しかったけどね」
彼女はそう言って悲しげに目を伏せた。
「そして彼は彼女に恋をする。
予感はしていたし、そうならないようにとも願っていたわ。
でも彼はまだ、自分の想いに気付いていなくて……。それがまた恨めしくて、辛かった。
彼が彼女を愛していても、私は彼の事が好きで……。
『彼から離れて』ってどれだけ彼女に言いたかったか。『私の婚約者なのだから』って。
でも、どんなに嫌いでも、どんなに憎くとも彼女は……」
そこで彼女は言葉を切った。
俺はその余韻に、途端に居心地が悪くなる。
「彼が愛している人で。彼が心を許せる人で。彼に必要な人で……。
だから精一杯我慢したの。彼の悲しむ顔を、彼が自身を責める姿を、見たくなかったから。だけど……」
彼女が俺を見た。
「覚えてる?」
俺はその青い瞳に少し違和感を覚えた。
理由は分からないが……前までの彼女と、何かが違うような。
「私が彼女の事で、彼に初めて責められた事件のこと」
理由を考えている間に、話は先に進んでいた。
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