17 / 98
埋もれた祈りを秘める雪の章
14.隠れ蓑の披露目
しおりを挟む
戻った辺境伯様は、執務室へ私とカイネ、イリアを呼び寄せた。
まっすぐに私たちを見つめ、山中で発見された魔晶石鉱脈について伝えられた。
「確かに確認された。量はまだ測れないが、財政を立て直すには十分な望みがある」
どきりとする。
あの仮説が、ただの思いつきではなかったと証明されたのだ。
魔晶石はいつも、発見された領地の管理下に置かれる。きっとお役に立てる。
けれど私は誇らしいというより、ただほっとしていた。
もし、私の考えで皆を振り回していたとしたら、耐えられなかったから。
「魔晶石……また突然、とんでもない宝が出たもんですね」
「ええ……」
けれど、辺境伯様の表情は厳しかった。
「確かに我が領にとっては良い知らせだ。だが、この国の現状に鑑みれば、過ぎた財産でもある」
とん、とん、と指先が机を打つ。
「いつまでも隠しておけるものではない。噂は必ず漏れる。下手を打てばこの領地が、搾取の憂き目に遭うか――悪ければ、争いの中心に置かれてしまう」
魔晶石は国の血液そのものだ。
その流れが変われば、王都の誰もが動揺するだろう。
まして、辺境で発見されたと知れれば。
「よってしばらくは公表せず、準備を進める。知るのはここにいる者と、調査を共にした三名のみだ」
「承知しました」
トトリとセレスとジークの名前は、もうすぐに思い出せた。
彼らなら心配ないと辺境伯様は考えているのだろう。それは私も同じだった。
「もっとも、いつまでも隠しおおせるとは思わないし、それは得策ではない。この国の人々に行き渡ることは悪いことではないし……だが、横取りはされぬよう、俺たちの権利として、適切な機会に公表しなければ」
そして辺境伯様は、ゆっくりと息を吐く。
「……ルーチェ嬢」
「はい」
「すまないが、暫くはあなたを隠れ蓑にさせてもらう」
「私を……?」
「あなたを、と言うより、あなたの持参金を、だな」
辺境伯様は自嘲気味に笑った。
「正直なところ、王宮に魔晶石発見を報告するより先に、借金をすべて返して、領内に金と魔晶石を回しておきたい。だが突然そんな羽振りの良いことをすれば、何か利益を生むことがあったのだと自分から公表するようなものだ。だから……あなたの持参金を運用したというかたちで、借金を返し、領内に支援をできればと思う」
「でも、それでは、支援のすべてが私の手柄ということになってしまいませんか」
「いいんだ。何より、そもそもあなたが魔晶石発見の手がかりをくれなければ、こんな話もありえなかった」
「……私は、お役に立てるのなら、なんでも構いません」
本心だった。
ありがとう、と辺境伯様は安堵した様子で溜め息をついた。
「それで、だ。そのことを発表する場を設けようと思う。ちょうど、家臣全員が集う機会があるんだ。冬の慰労と感謝、そして迎える新年の祝いとして……その席で、ルーチェ嬢のことも皆に紹介したい」
「え……」
目を見開く。
「俺の婚約者……妻になる女性として」
「……」
「あなたがよければ。……俺の隣にいてほしい」
言葉を失った。
私はまだ、この家の人間としてふさわしいのかさえ答えを持てていない。
けれど、あの日、手を握られた瞬間の温度が胸を過る。
「……はい。務めさせていただきます」
辺境伯様の瞳に、静かな光が宿った。
そのぬくもりが、冬の冷えた空気をそっと溶かしていった。
◆
会の準備は、思ったよりもずっと細かく、広い範囲に及んでいた。
招待客の名簿を確認し、席順を決め、給仕の段取りを整える。
冬の祝祭は慰労の意味も込められているため、失礼のないよう慎重に進める必要がある。
初めての仕事ではあったけれど、遠い昔に受けた淑女教育と、イリアとカイネの助けがあって、なんとかなった。
長机の上に広げられた書類を、辺境伯様と肩を並べて覗き込んでいた。
気づけば距離が近い。
少し意識してしまって、妙にぎこちない沈黙が落ちた。
「……その、こちらの席順ですが」
私が指差すと、ダリウスも同じ箇所に手を伸ばした。
指先が触れそうになって、二人ともわずかに固まる。
そして同時に手を引っ込めた。
その様子を、少し離れた場所で見ていたカイネがわざとらしく咳払いをした。
「……おふたりとも、もう少し離れてください。書類が見えません」
「別に近づいてなどいない」
反射的に言い返した辺境伯様は、言ってから余計に気まずそうに視線を逸らした。
カイネは肩をすくめ、ぼそりと呟く。
「はいはい、見ててこっちが照れますよ」
かすかに笑う声が、広間に小さく響く。
辺境伯様が困った様子で咳払いする。
そんな二人を、控えめな足音で近づいてきたイリアが静かに諌めた。
「カイネ。からかわないの」
「はいはい」
「怒るわよ」
「はい。すみません」
イリアはきっぱりした口調だったが、そこには柔らかい気遣いがあった。
「……次の頁を頼む」
顔を上げると、視線がぶつかった。
言葉にしなくても伝わる何かがあった。
それは、頼られているという確かな手応えだった。
私こくりと小さく頷いた。
◆
そうして、準備の時間は、目まぐるしく過ぎていった。
当日。
邸内の広間は、冬の飾り付けで温かな色に染められていた。
灯された燭台の光が壁に揺れ、静かにざわめく声が布越しに聞こえてくる。
まもなく、家臣たちの前へと出て行かなければならない。
鏡に映る私は、いつもよりずっと大人びて見えた。
今日は髪をゆるくまとめて、背中に垂らしている。
ドレスとアクセサリーは、亡き先代の辺境伯夫人が身につけていたものだという。
鏡に映るドレスは、冬の澄んだ夜を思わせる濃紺。
やわらかい光沢を帯びた厚手の生地は、古い織り機でしかできないという細かな縦模様が走り、光の角度で陰影が揺れる。
胸元から袖口へと流れるように施された銀糸の刺繍は、雪の結晶と小さな蔦草を連ねた文様で、氷の粒のような細かな輝石がひとつひとつ縫い留められていた。輝石自体はありふれたものなのに、こうして見るとまるで宝石のようだ。
腰から下は大きく広がりすぎず、控えめな線を描いていた。
裾には金糸の縁取りがさりげなく輝き、古い時代の格式を感じさせながらも、どこか繊細で優しい印象がある。
イリアたちが丁寧に手直しし、刺繍をほどこしてくれた。
生地の端まで、心が込められているのがわかる。
着付けを終えたイリアに礼を伝え、控え室へ向かったとき、そこに辺境伯様が立っていた。
いつもの黒の騎士服ではなく、礼装。
深翠を基調とした重厚なそれは、彼の凛とした雰囲気を際立たせ、息が止まるほど似合っていた。
思わず目を奪われてしまい、声が出なかった。
「……驚いた」
低い声が、静かに落ちた。
顔を上げると、辺境伯様がわずかに目を見開いて私を見つめていた。
「その……よく似合っている」
言葉が途切れ、彼が視線を逸らす。
頬がほんのり赤くなっているのが見えた。
「ありがとうございます。このドレスを許してくださって……とても、光栄です」
緊張で声が震えた。
けれど、それを隠す余裕もなかった。
「許すも何も。着古しだお下がりだと文句を言われても仕方ないところを」
「まさか!」
「……礼を言うのはこちらの方だ。母が見たら……きっと喜んだだろうな」
やわらかな声。
ふと、彼の礼装の肩に施された金糸が光を受け、まぶしく揺れた。
その眩しさに、思わず口にしてしまう。
「辺境伯様も、とても素敵です。お似合いです」
言った瞬間、顔が熱くなった。
けれど、辺境伯様も少しだけ目を伏せて息を整えるように沈黙する。
「……ありがとう」
緊張も、戸惑いも、少しだけ溶けた。
扉の向こうから、準備が整ったという知らせが聞こえた。
二人で顔を上げる。
これから、家臣たちの前に立つ。
私を、正式に婚約者として――未来の辺境伯夫人として紹介するために。
「行こう」
差し出された手に、そっと触れる。
エスコートしてもらうのは、厄災の烙印を見つけられる前、子供の頃に兄と並んだ時以来だ。
辺境伯様の手は、思っていたよりずっと温かかった。
私は、ゆっくりとうなずいた。
扉が静かに押し開かれると、灯された無数の燭台の光が一斉にこちらへ向かって流れ込んできた。
冬の冷たさを含んだ空気と、温かな熱気が入り混じったような気配。
小さなざわめきがその場に満ち、すぐに止む。
そこに並んでいたのは、戦場の鎧ではなく、長年この領地を支えてきた者たちの、誇りある正装だった。
分家の当主夫妻、古くから辺境伯家を守ってきた古参の家臣たち、開拓の時代から共に戦ってきた家々の代表者たち。
皆、決して裕福とは言えない質素な衣服を、丁寧に直しながらまとっていた。
糸のほつれをかくすための刺繍、磨き上げられた古びた徽章。
そのどれもが、ここで生きてきた証そのものだった。
冬の厳しさに耐えた皮膚の色、荒れた手指、深く刻まれた歳月を帯びた、静かなまなざし。
生き抜いてきた人々の気配が、広間いっぱいに満ちていた。
その視線が一斉に私へ向けられる。
――公爵家から下げ渡された娘。
――厄災を運ぶ令嬢。
そんな不安や警戒が、言葉にはならずとも確かにそこにあった。
喉の奥で息が詰まるような緊張が走った。
心臓の音が、耳の奥でひどく大きく響く。
それでも、私は静かに歩みを進めた。
裾と刺繍がさらりと擦れるわずかな音だけが、広間に溶ける。
掴んだ辺境伯様の腕を見て、ふと視線を上げると、目が合った。
大丈夫だと口に出さずに言われた気がして、思わず微笑み返す。
その瞬間、張りつめていた空気がほどけるように緩んだ。
誰かがそっと息を吐く気配。
温かい安堵が、波のように広がっていく。
拒絶ではない――そう感じた途端、胸の奥にじんと熱いものが込み上げた。
私の横に立つ辺境伯が、一歩前へ進んだ。
灯りが彼の礼装を照らし、その肩に静かな威厳を刻む。
背筋は真っすぐに伸び、まなざしは堂々としていた。
その姿は、ここに集うすべての人の拠りどころであるかのように見えた。
辺境伯様は静かに広間を見渡し、揺らめく燭光の中で言葉を発した。
「本日は集まってくれて感謝する。毎年、ここで皆に逢えることを得難い幸福に思う」
その声音は低く、力強く、それでいて穏やかだった。
聞く者すべてを包み込むような響き。
「長い冬の只中だが……皆に報告すべきことがある」
広間にいた人々が自然と背筋を正す。
「知らせていた通り、先日よりこちらのルーチェ・シェリフォード公爵令嬢を当家に迎えている。――私の……ダリウス・ヴァルトの婚約者、妻となる女性として」
視線が私に集中する。
落ち着いてそれを見返し、軽くドレスの裾を持ち上げて一礼した。
「……彼女には感謝しなくては」
辺境伯様は、眉間に皺を寄せている。早々に生臭い話で済まないが、と前置きした。
「彼女の持参金を運用することで、それなりの利益が出た。……恐らく、当領地の慢性的な借金問題はこれで解決する。具体的な試算はまた追って知らせられるだろう。その上で……まだ、余剰がある」
ざわめきが広がる。
「利益の配分方法については既に決めてある。辺境の警備を第一に、領の復興と生活の安定を最優先とする。災害孤児支援にも継続して充てる。それについては――」
辺境伯様は横目で私を見る。
あたたかく、信頼を込めたまなざしだった。
「ルーチェ嬢とも相談して決めた」
広間に驚きの気配が走り、それからゆっくりと理解の波が広がっていった。
ただの形式的な婚姻ではなく、本当に並び歩こうとしているのだと。
私は胸の奥が熱くなるのを感じた。
自分が役に立てた嬉しさ。
けれどそれ以上に、この人がどれほど多くの信頼を背に立っているかを、改めて思い知らされた。
――皆が、この人を慕っている。
――この人がいるから、この領は生きてきた。
「彼女はこれまでも既に、そしてこれからも、共に領を支えてくれる」
静かな声だった。
けれど、その響きは広間の隅々まで届くほどにまっすぐで、ひとつも揺れていなかった。
「……未熟な身ではありますが、皆様のお役に立てるよう努力してまいります」
ほんの少し震えてしまった声。
それなのに、広間はあたたかく満ちていった。
「流石公爵家のご出身、きちんとしておられる」
「厄災の烙印だなんて、ただの噂だったんじゃないのか?」
小さな囁きがあちらこちらから聞こえた。
「――妻に関するくだらない迷信に振り回される人間が、当領地にいるとは考えていないが」
辺境伯様の冷えた声。
「俺自身に舞い降りている幸運が、その取るに足らない噂を覆すことを願うとしよう」
「……」
胸が高鳴る。耳の奥がじんじんして、息が苦しいほど。
見れば、厄災と口にした人がそそくさと会場の隅に姿を隠そうとしているところだった。
辺境伯様に小声で言った。
「……構いませんのに」
「俺が構う」
辺境伯様は静かに私を見ていた。
深い蒼の瞳がやわらかく細められる。
「妻を少しでも悪く言われて、黙っている男はいない」
「……はい」
笑みがこぼれる。彼も同じようにかすかに微笑んだ。
◆
長いようであっという間だった会が終わり、静けさが邸に戻ってきた。
外は夕暮れ。雪明かりだけが淡く庭を照らしている。
「……疲れただろう」
控え室に戻った私へ、辺境伯様が声をかけた。
礼装の襟元を緩めて、髪も少し乱れている。
確かに、最近辺境伯領内に配分され始めた金、様々な支援、そして借金の完済が私の持参金によるものだと公表されて、随分感謝はされた。
中には私が辺境伯領を乗っ取ろうとしているのではないかという疑念を持った人がいないわけではないようだったけれど、私の様子を見て、そんな大それたことをできる女ではないと分かったらしい。傍らで辺境伯様が睨みをきかせてくれていたのも、安心した。
「辺境伯様こそ、お疲れさまでした。とても、素晴らしい場でした」
「いや。君がいてくれたから、うまくいったのだと思う。落ち着いていた。……誇らしかった」
そんなふうに言われるとは思わなくて、息が詰まる。
どうにか笑みをつくると、彼も照れくさそうに目を伏せた。
「私のほうこそ、辺境伯様が隣にいてくださって。とても、心強かったです」
「……そう言われると、報われる気がするな」
視線が重なった。
手を伸ばしたら届いてしまう距離。
けれど、その先へ踏み出すことができず、互いに同時に目をそらす。
「そろそろ休むといい。今日は緊張しただろう」
「はい。辺境伯様も、どうかゆっくりお休みください」
深く礼をして、扉を閉めた。
それだけなのに、背に受ける空気が名残惜しくて、しばらくその場から動けなかった。
胸の奥がまだ熱く波打っているのがわかる。
――誇らしかった、と言ってくれた。
あのまなざし。
あの距離。
思い出すたび、どうしようもなく心が震えた。
まっすぐに私たちを見つめ、山中で発見された魔晶石鉱脈について伝えられた。
「確かに確認された。量はまだ測れないが、財政を立て直すには十分な望みがある」
どきりとする。
あの仮説が、ただの思いつきではなかったと証明されたのだ。
魔晶石はいつも、発見された領地の管理下に置かれる。きっとお役に立てる。
けれど私は誇らしいというより、ただほっとしていた。
もし、私の考えで皆を振り回していたとしたら、耐えられなかったから。
「魔晶石……また突然、とんでもない宝が出たもんですね」
「ええ……」
けれど、辺境伯様の表情は厳しかった。
「確かに我が領にとっては良い知らせだ。だが、この国の現状に鑑みれば、過ぎた財産でもある」
とん、とん、と指先が机を打つ。
「いつまでも隠しておけるものではない。噂は必ず漏れる。下手を打てばこの領地が、搾取の憂き目に遭うか――悪ければ、争いの中心に置かれてしまう」
魔晶石は国の血液そのものだ。
その流れが変われば、王都の誰もが動揺するだろう。
まして、辺境で発見されたと知れれば。
「よってしばらくは公表せず、準備を進める。知るのはここにいる者と、調査を共にした三名のみだ」
「承知しました」
トトリとセレスとジークの名前は、もうすぐに思い出せた。
彼らなら心配ないと辺境伯様は考えているのだろう。それは私も同じだった。
「もっとも、いつまでも隠しおおせるとは思わないし、それは得策ではない。この国の人々に行き渡ることは悪いことではないし……だが、横取りはされぬよう、俺たちの権利として、適切な機会に公表しなければ」
そして辺境伯様は、ゆっくりと息を吐く。
「……ルーチェ嬢」
「はい」
「すまないが、暫くはあなたを隠れ蓑にさせてもらう」
「私を……?」
「あなたを、と言うより、あなたの持参金を、だな」
辺境伯様は自嘲気味に笑った。
「正直なところ、王宮に魔晶石発見を報告するより先に、借金をすべて返して、領内に金と魔晶石を回しておきたい。だが突然そんな羽振りの良いことをすれば、何か利益を生むことがあったのだと自分から公表するようなものだ。だから……あなたの持参金を運用したというかたちで、借金を返し、領内に支援をできればと思う」
「でも、それでは、支援のすべてが私の手柄ということになってしまいませんか」
「いいんだ。何より、そもそもあなたが魔晶石発見の手がかりをくれなければ、こんな話もありえなかった」
「……私は、お役に立てるのなら、なんでも構いません」
本心だった。
ありがとう、と辺境伯様は安堵した様子で溜め息をついた。
「それで、だ。そのことを発表する場を設けようと思う。ちょうど、家臣全員が集う機会があるんだ。冬の慰労と感謝、そして迎える新年の祝いとして……その席で、ルーチェ嬢のことも皆に紹介したい」
「え……」
目を見開く。
「俺の婚約者……妻になる女性として」
「……」
「あなたがよければ。……俺の隣にいてほしい」
言葉を失った。
私はまだ、この家の人間としてふさわしいのかさえ答えを持てていない。
けれど、あの日、手を握られた瞬間の温度が胸を過る。
「……はい。務めさせていただきます」
辺境伯様の瞳に、静かな光が宿った。
そのぬくもりが、冬の冷えた空気をそっと溶かしていった。
◆
会の準備は、思ったよりもずっと細かく、広い範囲に及んでいた。
招待客の名簿を確認し、席順を決め、給仕の段取りを整える。
冬の祝祭は慰労の意味も込められているため、失礼のないよう慎重に進める必要がある。
初めての仕事ではあったけれど、遠い昔に受けた淑女教育と、イリアとカイネの助けがあって、なんとかなった。
長机の上に広げられた書類を、辺境伯様と肩を並べて覗き込んでいた。
気づけば距離が近い。
少し意識してしまって、妙にぎこちない沈黙が落ちた。
「……その、こちらの席順ですが」
私が指差すと、ダリウスも同じ箇所に手を伸ばした。
指先が触れそうになって、二人ともわずかに固まる。
そして同時に手を引っ込めた。
その様子を、少し離れた場所で見ていたカイネがわざとらしく咳払いをした。
「……おふたりとも、もう少し離れてください。書類が見えません」
「別に近づいてなどいない」
反射的に言い返した辺境伯様は、言ってから余計に気まずそうに視線を逸らした。
カイネは肩をすくめ、ぼそりと呟く。
「はいはい、見ててこっちが照れますよ」
かすかに笑う声が、広間に小さく響く。
辺境伯様が困った様子で咳払いする。
そんな二人を、控えめな足音で近づいてきたイリアが静かに諌めた。
「カイネ。からかわないの」
「はいはい」
「怒るわよ」
「はい。すみません」
イリアはきっぱりした口調だったが、そこには柔らかい気遣いがあった。
「……次の頁を頼む」
顔を上げると、視線がぶつかった。
言葉にしなくても伝わる何かがあった。
それは、頼られているという確かな手応えだった。
私こくりと小さく頷いた。
◆
そうして、準備の時間は、目まぐるしく過ぎていった。
当日。
邸内の広間は、冬の飾り付けで温かな色に染められていた。
灯された燭台の光が壁に揺れ、静かにざわめく声が布越しに聞こえてくる。
まもなく、家臣たちの前へと出て行かなければならない。
鏡に映る私は、いつもよりずっと大人びて見えた。
今日は髪をゆるくまとめて、背中に垂らしている。
ドレスとアクセサリーは、亡き先代の辺境伯夫人が身につけていたものだという。
鏡に映るドレスは、冬の澄んだ夜を思わせる濃紺。
やわらかい光沢を帯びた厚手の生地は、古い織り機でしかできないという細かな縦模様が走り、光の角度で陰影が揺れる。
胸元から袖口へと流れるように施された銀糸の刺繍は、雪の結晶と小さな蔦草を連ねた文様で、氷の粒のような細かな輝石がひとつひとつ縫い留められていた。輝石自体はありふれたものなのに、こうして見るとまるで宝石のようだ。
腰から下は大きく広がりすぎず、控えめな線を描いていた。
裾には金糸の縁取りがさりげなく輝き、古い時代の格式を感じさせながらも、どこか繊細で優しい印象がある。
イリアたちが丁寧に手直しし、刺繍をほどこしてくれた。
生地の端まで、心が込められているのがわかる。
着付けを終えたイリアに礼を伝え、控え室へ向かったとき、そこに辺境伯様が立っていた。
いつもの黒の騎士服ではなく、礼装。
深翠を基調とした重厚なそれは、彼の凛とした雰囲気を際立たせ、息が止まるほど似合っていた。
思わず目を奪われてしまい、声が出なかった。
「……驚いた」
低い声が、静かに落ちた。
顔を上げると、辺境伯様がわずかに目を見開いて私を見つめていた。
「その……よく似合っている」
言葉が途切れ、彼が視線を逸らす。
頬がほんのり赤くなっているのが見えた。
「ありがとうございます。このドレスを許してくださって……とても、光栄です」
緊張で声が震えた。
けれど、それを隠す余裕もなかった。
「許すも何も。着古しだお下がりだと文句を言われても仕方ないところを」
「まさか!」
「……礼を言うのはこちらの方だ。母が見たら……きっと喜んだだろうな」
やわらかな声。
ふと、彼の礼装の肩に施された金糸が光を受け、まぶしく揺れた。
その眩しさに、思わず口にしてしまう。
「辺境伯様も、とても素敵です。お似合いです」
言った瞬間、顔が熱くなった。
けれど、辺境伯様も少しだけ目を伏せて息を整えるように沈黙する。
「……ありがとう」
緊張も、戸惑いも、少しだけ溶けた。
扉の向こうから、準備が整ったという知らせが聞こえた。
二人で顔を上げる。
これから、家臣たちの前に立つ。
私を、正式に婚約者として――未来の辺境伯夫人として紹介するために。
「行こう」
差し出された手に、そっと触れる。
エスコートしてもらうのは、厄災の烙印を見つけられる前、子供の頃に兄と並んだ時以来だ。
辺境伯様の手は、思っていたよりずっと温かかった。
私は、ゆっくりとうなずいた。
扉が静かに押し開かれると、灯された無数の燭台の光が一斉にこちらへ向かって流れ込んできた。
冬の冷たさを含んだ空気と、温かな熱気が入り混じったような気配。
小さなざわめきがその場に満ち、すぐに止む。
そこに並んでいたのは、戦場の鎧ではなく、長年この領地を支えてきた者たちの、誇りある正装だった。
分家の当主夫妻、古くから辺境伯家を守ってきた古参の家臣たち、開拓の時代から共に戦ってきた家々の代表者たち。
皆、決して裕福とは言えない質素な衣服を、丁寧に直しながらまとっていた。
糸のほつれをかくすための刺繍、磨き上げられた古びた徽章。
そのどれもが、ここで生きてきた証そのものだった。
冬の厳しさに耐えた皮膚の色、荒れた手指、深く刻まれた歳月を帯びた、静かなまなざし。
生き抜いてきた人々の気配が、広間いっぱいに満ちていた。
その視線が一斉に私へ向けられる。
――公爵家から下げ渡された娘。
――厄災を運ぶ令嬢。
そんな不安や警戒が、言葉にはならずとも確かにそこにあった。
喉の奥で息が詰まるような緊張が走った。
心臓の音が、耳の奥でひどく大きく響く。
それでも、私は静かに歩みを進めた。
裾と刺繍がさらりと擦れるわずかな音だけが、広間に溶ける。
掴んだ辺境伯様の腕を見て、ふと視線を上げると、目が合った。
大丈夫だと口に出さずに言われた気がして、思わず微笑み返す。
その瞬間、張りつめていた空気がほどけるように緩んだ。
誰かがそっと息を吐く気配。
温かい安堵が、波のように広がっていく。
拒絶ではない――そう感じた途端、胸の奥にじんと熱いものが込み上げた。
私の横に立つ辺境伯が、一歩前へ進んだ。
灯りが彼の礼装を照らし、その肩に静かな威厳を刻む。
背筋は真っすぐに伸び、まなざしは堂々としていた。
その姿は、ここに集うすべての人の拠りどころであるかのように見えた。
辺境伯様は静かに広間を見渡し、揺らめく燭光の中で言葉を発した。
「本日は集まってくれて感謝する。毎年、ここで皆に逢えることを得難い幸福に思う」
その声音は低く、力強く、それでいて穏やかだった。
聞く者すべてを包み込むような響き。
「長い冬の只中だが……皆に報告すべきことがある」
広間にいた人々が自然と背筋を正す。
「知らせていた通り、先日よりこちらのルーチェ・シェリフォード公爵令嬢を当家に迎えている。――私の……ダリウス・ヴァルトの婚約者、妻となる女性として」
視線が私に集中する。
落ち着いてそれを見返し、軽くドレスの裾を持ち上げて一礼した。
「……彼女には感謝しなくては」
辺境伯様は、眉間に皺を寄せている。早々に生臭い話で済まないが、と前置きした。
「彼女の持参金を運用することで、それなりの利益が出た。……恐らく、当領地の慢性的な借金問題はこれで解決する。具体的な試算はまた追って知らせられるだろう。その上で……まだ、余剰がある」
ざわめきが広がる。
「利益の配分方法については既に決めてある。辺境の警備を第一に、領の復興と生活の安定を最優先とする。災害孤児支援にも継続して充てる。それについては――」
辺境伯様は横目で私を見る。
あたたかく、信頼を込めたまなざしだった。
「ルーチェ嬢とも相談して決めた」
広間に驚きの気配が走り、それからゆっくりと理解の波が広がっていった。
ただの形式的な婚姻ではなく、本当に並び歩こうとしているのだと。
私は胸の奥が熱くなるのを感じた。
自分が役に立てた嬉しさ。
けれどそれ以上に、この人がどれほど多くの信頼を背に立っているかを、改めて思い知らされた。
――皆が、この人を慕っている。
――この人がいるから、この領は生きてきた。
「彼女はこれまでも既に、そしてこれからも、共に領を支えてくれる」
静かな声だった。
けれど、その響きは広間の隅々まで届くほどにまっすぐで、ひとつも揺れていなかった。
「……未熟な身ではありますが、皆様のお役に立てるよう努力してまいります」
ほんの少し震えてしまった声。
それなのに、広間はあたたかく満ちていった。
「流石公爵家のご出身、きちんとしておられる」
「厄災の烙印だなんて、ただの噂だったんじゃないのか?」
小さな囁きがあちらこちらから聞こえた。
「――妻に関するくだらない迷信に振り回される人間が、当領地にいるとは考えていないが」
辺境伯様の冷えた声。
「俺自身に舞い降りている幸運が、その取るに足らない噂を覆すことを願うとしよう」
「……」
胸が高鳴る。耳の奥がじんじんして、息が苦しいほど。
見れば、厄災と口にした人がそそくさと会場の隅に姿を隠そうとしているところだった。
辺境伯様に小声で言った。
「……構いませんのに」
「俺が構う」
辺境伯様は静かに私を見ていた。
深い蒼の瞳がやわらかく細められる。
「妻を少しでも悪く言われて、黙っている男はいない」
「……はい」
笑みがこぼれる。彼も同じようにかすかに微笑んだ。
◆
長いようであっという間だった会が終わり、静けさが邸に戻ってきた。
外は夕暮れ。雪明かりだけが淡く庭を照らしている。
「……疲れただろう」
控え室に戻った私へ、辺境伯様が声をかけた。
礼装の襟元を緩めて、髪も少し乱れている。
確かに、最近辺境伯領内に配分され始めた金、様々な支援、そして借金の完済が私の持参金によるものだと公表されて、随分感謝はされた。
中には私が辺境伯領を乗っ取ろうとしているのではないかという疑念を持った人がいないわけではないようだったけれど、私の様子を見て、そんな大それたことをできる女ではないと分かったらしい。傍らで辺境伯様が睨みをきかせてくれていたのも、安心した。
「辺境伯様こそ、お疲れさまでした。とても、素晴らしい場でした」
「いや。君がいてくれたから、うまくいったのだと思う。落ち着いていた。……誇らしかった」
そんなふうに言われるとは思わなくて、息が詰まる。
どうにか笑みをつくると、彼も照れくさそうに目を伏せた。
「私のほうこそ、辺境伯様が隣にいてくださって。とても、心強かったです」
「……そう言われると、報われる気がするな」
視線が重なった。
手を伸ばしたら届いてしまう距離。
けれど、その先へ踏み出すことができず、互いに同時に目をそらす。
「そろそろ休むといい。今日は緊張しただろう」
「はい。辺境伯様も、どうかゆっくりお休みください」
深く礼をして、扉を閉めた。
それだけなのに、背に受ける空気が名残惜しくて、しばらくその場から動けなかった。
胸の奥がまだ熱く波打っているのがわかる。
――誇らしかった、と言ってくれた。
あのまなざし。
あの距離。
思い出すたび、どうしようもなく心が震えた。
138
あなたにおすすめの小説
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
「ひきこもり王子」に再嫁したら「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と言われましたので、素直に従った結果……
ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」
この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。
選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。
そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。
クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。
しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。
※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる