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episode1「欠けた穴/その穴を埋めるため」
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強い雨の日だった。今日は九月二日、そろそろ台風がやって来る季節だ。雨が強いのも納得がいく。
ワンワンと、珍しくはしゃいでいる飼い犬『クロス』が僕の足を踏んずける。
「なんだクロス。そんなはしゃいで、今日はやけにご機嫌だな」
そう言ってしゃがみ、ポーチからビーフジャーキーを取り出す。もうすぐ家だからな、とクロスに告げようとして。
「……んあ?」
雨が降っている街中、傘もささずに空を見上げる少女を見つける。僕はその子を、知っていた。
「おーーい依里朱。そんなところでなに突っ立ってるのさ。風邪ひくよ。」
そういって僕の従妹、木ノ葉依里朱に駆け寄る。
「………」
相変わらず無表情なそいつの手を僕はグイっと引っ張って傘に入れる。どれほどどうしていたのだろう、すっかり体は冷え、パーカーが濡れ、いつ見ても美しいその顔に涙が伝っていた。
「………何があった…?」
依里朱は僕の肩に顔をうずめ、涙ぐんだ声で言った。
「パパとママが、死んだ」
ーーー桂木家ーーー
とりあえず家が近場にあったので依里朱を上がらせ、風呂に入れた。
両親が死んだ。依里朱はそう言ってた。でもなぜだ。二日前に零澄(依里朱の母)と会った時は何ともない感じだったが……。この二日でなにかあったのだろうか。
そんなことを考えながら夕食を作っていると風呂場の扉が開き、依里朱が出てくる。
「風呂ありがと。ごめん心配かけて…。」
「いいよそんなの。僕らの仲だ、困ったときは助け合えって零澄ママにも言われてただろ?」
若干慰めの意図も含めて発言したつもりだったのだが…
「もうそのママもいなくなったわけだけどね…」
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。やっべ。
「思い出すのもつらいとは思うが、死んだ両親はどんな状態だった?」
「体の所々に刺し傷、……部屋の窓が割れて…見慣れない靴の跡があった…。おそらく他殺だと思う」
だんだんと涙声になっていきながら話す依里朱の肩に手を置き、説明する口を止める。
こんな彼女を見るのは初めてなのでどう接したらいいかわからない。それ故に慰め方がこれであっているのかも分からないが、依里朱の悲しい顔は見ていられなかった。
「あのォ……依里朱はこれからどうするんだ?両親いないわけだけど、家に残るか?」
「警察とかの出入りもあるだろうし…家のローンも払えるわけでもない…。どうしたらいいのか分からない…」
ご飯を食べる手を止め、依里朱は頭を抱える。そりゃそうだ。今依里朱は中学一年生。自分の力だけで生活できるとは思えない。どうにかして依里朱を助けられる術はないものかと、僕は試行錯誤し……。
……やがて一つの案が頭に浮かんだ。
「もし依里朱が良かったらだけど……うちに住むってのはどう?過ごし慣れたところだし、なにより……依里朱のそばにはまだ人が必要だから…さ。」
「邪魔じゃなければ、そうしようかな。」
そういって微笑を浮かべる依里朱。まだ気持ちが整理できていないのだろう。若干無理しているように見えた。
「僕一人暮らしだからさ、家に誰かいた方が気持ちも落ち着くっていうか!」
「そんな頑張って慰めに来なくてもいいから」
当人にそう言われちゃしょうがないね。僕らは再び食事していた手を動かすのだった。
ーーーー時は流れ、PM23:00。
僕は自室の椅子に座り、考え事をしていた。
依里朱の両親の死、見慣れない靴の跡。どう考えても他殺と思える証拠ばかり。だがなぜ狙われたのが依里朱の両親だったのだろうか…。謎は深まるばかりでどうにも答えを導きだせそうにない。当然だ。僕らはまだ中学生、子供なのだから。
「~~~」
大きく伸びをする。今日は気を張り詰めすぎたせいか、ドッと疲れを感じる。
ネットサーフィンでもしようかと思ったその時、僕のスマホに一通のメールが届いた。
メールの内容を確認すると、ある仕事仲間が喫茶店まで来てほしいとのことらしい。
「……今何時だと思ってんだこいつ…」
とっくに深夜だというのに呼びだすとはなかなかにイカレてやがるな。
「……。」
『深夜なんでいけませーん。補導されるわアホンダラ。』
「送信……っと」
せっかくの稼ぎ場所を補導されていけなくなったら洒落にならないので深夜は行かないようにしているのだ。
中学生はバイトできないだろって?君のような勘の良いガキは嫌いだよ……。
そんなやり取りをしていると、さすがに眠気が回ってきたのかあくびが出る。
「……疲れたし寝るか…」
依里朱はしばらく学校に行けないだろう。事を大きくしないためにも、今は大人しくしてもらった方がいい。
明日のことは、明日の僕に任せよう。やがて僕の視界は徐々にブラックアウトしていき……
僕は深い眠りに落ちるのだった。
ワンワンと、珍しくはしゃいでいる飼い犬『クロス』が僕の足を踏んずける。
「なんだクロス。そんなはしゃいで、今日はやけにご機嫌だな」
そう言ってしゃがみ、ポーチからビーフジャーキーを取り出す。もうすぐ家だからな、とクロスに告げようとして。
「……んあ?」
雨が降っている街中、傘もささずに空を見上げる少女を見つける。僕はその子を、知っていた。
「おーーい依里朱。そんなところでなに突っ立ってるのさ。風邪ひくよ。」
そういって僕の従妹、木ノ葉依里朱に駆け寄る。
「………」
相変わらず無表情なそいつの手を僕はグイっと引っ張って傘に入れる。どれほどどうしていたのだろう、すっかり体は冷え、パーカーが濡れ、いつ見ても美しいその顔に涙が伝っていた。
「………何があった…?」
依里朱は僕の肩に顔をうずめ、涙ぐんだ声で言った。
「パパとママが、死んだ」
ーーー桂木家ーーー
とりあえず家が近場にあったので依里朱を上がらせ、風呂に入れた。
両親が死んだ。依里朱はそう言ってた。でもなぜだ。二日前に零澄(依里朱の母)と会った時は何ともない感じだったが……。この二日でなにかあったのだろうか。
そんなことを考えながら夕食を作っていると風呂場の扉が開き、依里朱が出てくる。
「風呂ありがと。ごめん心配かけて…。」
「いいよそんなの。僕らの仲だ、困ったときは助け合えって零澄ママにも言われてただろ?」
若干慰めの意図も含めて発言したつもりだったのだが…
「もうそのママもいなくなったわけだけどね…」
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。やっべ。
「思い出すのもつらいとは思うが、死んだ両親はどんな状態だった?」
「体の所々に刺し傷、……部屋の窓が割れて…見慣れない靴の跡があった…。おそらく他殺だと思う」
だんだんと涙声になっていきながら話す依里朱の肩に手を置き、説明する口を止める。
こんな彼女を見るのは初めてなのでどう接したらいいかわからない。それ故に慰め方がこれであっているのかも分からないが、依里朱の悲しい顔は見ていられなかった。
「あのォ……依里朱はこれからどうするんだ?両親いないわけだけど、家に残るか?」
「警察とかの出入りもあるだろうし…家のローンも払えるわけでもない…。どうしたらいいのか分からない…」
ご飯を食べる手を止め、依里朱は頭を抱える。そりゃそうだ。今依里朱は中学一年生。自分の力だけで生活できるとは思えない。どうにかして依里朱を助けられる術はないものかと、僕は試行錯誤し……。
……やがて一つの案が頭に浮かんだ。
「もし依里朱が良かったらだけど……うちに住むってのはどう?過ごし慣れたところだし、なにより……依里朱のそばにはまだ人が必要だから…さ。」
「邪魔じゃなければ、そうしようかな。」
そういって微笑を浮かべる依里朱。まだ気持ちが整理できていないのだろう。若干無理しているように見えた。
「僕一人暮らしだからさ、家に誰かいた方が気持ちも落ち着くっていうか!」
「そんな頑張って慰めに来なくてもいいから」
当人にそう言われちゃしょうがないね。僕らは再び食事していた手を動かすのだった。
ーーーー時は流れ、PM23:00。
僕は自室の椅子に座り、考え事をしていた。
依里朱の両親の死、見慣れない靴の跡。どう考えても他殺と思える証拠ばかり。だがなぜ狙われたのが依里朱の両親だったのだろうか…。謎は深まるばかりでどうにも答えを導きだせそうにない。当然だ。僕らはまだ中学生、子供なのだから。
「~~~」
大きく伸びをする。今日は気を張り詰めすぎたせいか、ドッと疲れを感じる。
ネットサーフィンでもしようかと思ったその時、僕のスマホに一通のメールが届いた。
メールの内容を確認すると、ある仕事仲間が喫茶店まで来てほしいとのことらしい。
「……今何時だと思ってんだこいつ…」
とっくに深夜だというのに呼びだすとはなかなかにイカレてやがるな。
「……。」
『深夜なんでいけませーん。補導されるわアホンダラ。』
「送信……っと」
せっかくの稼ぎ場所を補導されていけなくなったら洒落にならないので深夜は行かないようにしているのだ。
中学生はバイトできないだろって?君のような勘の良いガキは嫌いだよ……。
そんなやり取りをしていると、さすがに眠気が回ってきたのかあくびが出る。
「……疲れたし寝るか…」
依里朱はしばらく学校に行けないだろう。事を大きくしないためにも、今は大人しくしてもらった方がいい。
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