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一年前の再演(1)
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静かなざわめきの満ちる大広間。
集められた王宮の重臣たち。
張り詰めた冷たい空気と、息を呑む人々の視線。
なにひとつ一年前と変わらない。
ただ違うのは、それぞれの場に立つ人間の顔だった。
一段高い壇上にいるのは、姉と姉に寄りそうテオドール、王太子であるジュリアンとその側近たちが。
彼らに見下ろされる位置には、私がいた。
大広間に連れてこられたのは、午後を少し過ぎたころだった。
執務室にこもる私のもとへやってきたのは、まだ魅了されていないはずの官吏たち。彼らは姉の命令だと言って、私を半ば強引に大広間へと引っ張った。
そして現在。
多くの人々の見守る中で、かつての王太子さながらにテオドールの声が響き渡る。
「――――リリア・バークリー! 君がこの国にいられるのも今日までだ! 君がしてきたことは、もはや王宮中の人間が知っている!!」
私は大広間の中央で、耐えるように両手を握りしめていた。
この大広間に、待ちわびていたヴァニタス卿の姿はない。
私の傍に立つ人間は誰もなく、無数の視線が突き刺さるだけだ。
「君は実の妹でありながら、本当の聖女であるルシアを妬み、陥れた。その結果としてフィデル王国は荒れ、魔獣が跋扈する土地になった。すべては君の罪だ。――僕は隣国オルディウスの人間として、ルシアを大切に想う者として、見過ごすことはできない」
握り込んだこぶしが痛い。強張った肩が、かすかに震えている。
荒くなりそうな呼吸を必死に押さえ、令嬢の顔を取り繕う。
少しでも同情を買うような。少しでも哀れな令嬢の顔を。
「――――僕に媚びようとしても無意味だ。僕はルシアを元の地位に戻すためだけにここにいるのだから」
その私の表情を鼻で笑うと、テオドールは顔を上げた。
まるで自分がこの国の王であるかのように前を向き、集まった重臣たちを見回し――大きく一つ息を吸う。
「このオルディウスの第一皇子テオドールがフィデル王国に要求する! リリアの罪が明らかになった今こそ、ルシアの名誉すべての復権を! ルシアを再び、聖女の地位に!!」
「テオドール様……!」
響き渡る宣言に、姉は感極まったようにテオドールを見上げた。
いつも気丈な琥珀の目は潤み、頬はかすかに上気している。
手は愛おしげにテオドールの腕に絡み、ぎゅっと固く抱き寄せる。
そのままテオドールの肩に頭を預け、心まで預けるように目を閉じた。
「これでようやく、一年前の過ちが終わるのですね。私が聖女に戻って、この国は救われて――ああ、ありがとうございます、テオドール様……」
閉じた目の端から、涙がこぼれ落ちる。
テオドールは流れる涙を手で拭い、喜びに浸る姉に笑みを向けた。
「いいや、まだだよ、ルシア。君が失ったものを取り戻すには、これだけじゃ足りない」
「まあ。私はもう十分ですのに……」
テオドールの手に、姉はくすぐったそうに微笑む。
ゆっくりと再び開けられた目ははにかむようで、濡れた瞳にはあらわな恋慕の色があった。
「僕は君を『元の地位』に戻すと言った。なら、もうひとつ必要だろう、ルシア」
その恋する瞳を見下ろして、テオドールは続ける。
涙を拭った手を頬に添えたまま。姉に腕を絡め取られ、恋人のように寄り添ったまま。
「君と、王太子との婚約が。――君が王太子妃にならなければ、戻ったとは言えないだろう?」
「――――…………え?」
目を見開く姉の顔に、私は握るこぶしに力を込めた。
きつく、きつく。痛みさえも感じないほどに。
集められた王宮の重臣たち。
張り詰めた冷たい空気と、息を呑む人々の視線。
なにひとつ一年前と変わらない。
ただ違うのは、それぞれの場に立つ人間の顔だった。
一段高い壇上にいるのは、姉と姉に寄りそうテオドール、王太子であるジュリアンとその側近たちが。
彼らに見下ろされる位置には、私がいた。
大広間に連れてこられたのは、午後を少し過ぎたころだった。
執務室にこもる私のもとへやってきたのは、まだ魅了されていないはずの官吏たち。彼らは姉の命令だと言って、私を半ば強引に大広間へと引っ張った。
そして現在。
多くの人々の見守る中で、かつての王太子さながらにテオドールの声が響き渡る。
「――――リリア・バークリー! 君がこの国にいられるのも今日までだ! 君がしてきたことは、もはや王宮中の人間が知っている!!」
私は大広間の中央で、耐えるように両手を握りしめていた。
この大広間に、待ちわびていたヴァニタス卿の姿はない。
私の傍に立つ人間は誰もなく、無数の視線が突き刺さるだけだ。
「君は実の妹でありながら、本当の聖女であるルシアを妬み、陥れた。その結果としてフィデル王国は荒れ、魔獣が跋扈する土地になった。すべては君の罪だ。――僕は隣国オルディウスの人間として、ルシアを大切に想う者として、見過ごすことはできない」
握り込んだこぶしが痛い。強張った肩が、かすかに震えている。
荒くなりそうな呼吸を必死に押さえ、令嬢の顔を取り繕う。
少しでも同情を買うような。少しでも哀れな令嬢の顔を。
「――――僕に媚びようとしても無意味だ。僕はルシアを元の地位に戻すためだけにここにいるのだから」
その私の表情を鼻で笑うと、テオドールは顔を上げた。
まるで自分がこの国の王であるかのように前を向き、集まった重臣たちを見回し――大きく一つ息を吸う。
「このオルディウスの第一皇子テオドールがフィデル王国に要求する! リリアの罪が明らかになった今こそ、ルシアの名誉すべての復権を! ルシアを再び、聖女の地位に!!」
「テオドール様……!」
響き渡る宣言に、姉は感極まったようにテオドールを見上げた。
いつも気丈な琥珀の目は潤み、頬はかすかに上気している。
手は愛おしげにテオドールの腕に絡み、ぎゅっと固く抱き寄せる。
そのままテオドールの肩に頭を預け、心まで預けるように目を閉じた。
「これでようやく、一年前の過ちが終わるのですね。私が聖女に戻って、この国は救われて――ああ、ありがとうございます、テオドール様……」
閉じた目の端から、涙がこぼれ落ちる。
テオドールは流れる涙を手で拭い、喜びに浸る姉に笑みを向けた。
「いいや、まだだよ、ルシア。君が失ったものを取り戻すには、これだけじゃ足りない」
「まあ。私はもう十分ですのに……」
テオドールの手に、姉はくすぐったそうに微笑む。
ゆっくりと再び開けられた目ははにかむようで、濡れた瞳にはあらわな恋慕の色があった。
「僕は君を『元の地位』に戻すと言った。なら、もうひとつ必要だろう、ルシア」
その恋する瞳を見下ろして、テオドールは続ける。
涙を拭った手を頬に添えたまま。姉に腕を絡め取られ、恋人のように寄り添ったまま。
「君と、王太子との婚約が。――君が王太子妃にならなければ、戻ったとは言えないだろう?」
「――――…………え?」
目を見開く姉の顔に、私は握るこぶしに力を込めた。
きつく、きつく。痛みさえも感じないほどに。
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