えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲

文字の大きさ
29 / 58

一年前の再演(1)

しおりを挟む
 静かなざわめきの満ちる大広間。
 集められた王宮の重臣たち。
 張り詰めた冷たい空気と、息を呑む人々の視線。

 なにひとつ一年前と変わらない。
 ただ違うのは、それぞれの場に立つ人間の顔だった。

 一段高い壇上にいるのは、姉と姉に寄りそうテオドール、王太子であるジュリアンとその側近たちが。
 彼らに見下ろされる位置には、私がいた。

 大広間に連れてこられたのは、午後を少し過ぎたころだった。
 執務室にこもる私のもとへやってきたのは、まだ魅了されていないはずの官吏たち。彼らは姉の命令だと言って、私を半ば強引に大広間へと引っ張った。

 そして現在。
 多くの人々の見守る中で、かつての王太子さながらにテオドールの声が響き渡る。

「――――リリア・バークリー! 君がこの国にいられるのも今日までだ! 君がしてきたことは、もはや王宮中の人間が知っている!!」

 私は大広間の中央で、耐えるように両手を握りしめていた。
 この大広間に、待ちわびていたヴァニタス卿の姿はない。
 私の傍に立つ人間は誰もなく、無数の視線が突き刺さるだけだ。

「君は実の妹でありながら、本当の聖女であるルシアを妬み、陥れた。その結果としてフィデル王国は荒れ、魔獣が跋扈する土地になった。すべては君の罪だ。――僕は隣国オルディウスの人間として、ルシアを大切に想う者として、見過ごすことはできない」

 握り込んだこぶしが痛い。強張った肩が、かすかに震えている。
 荒くなりそうな呼吸を必死に押さえ、令嬢の顔を取り繕う。
 少しでも同情を買うような。少しでも哀れな令嬢の顔を。

「――――僕に媚びようとしても無意味だ。僕はルシアを元の地位に戻すためだけにここにいるのだから」

 その私の表情を鼻で笑うと、テオドールは顔を上げた。
 まるで自分がこの国の王であるかのように前を向き、集まった重臣たちを見回し――大きく一つ息を吸う。

「このオルディウスの第一皇子テオドールがフィデル王国に要求する! リリアの罪が明らかになった今こそ、ルシアの名誉すべての復権を! ルシアを再び、聖女の地位に!!」

「テオドール様……!」

 響き渡る宣言に、姉は感極まったようにテオドールを見上げた。
 いつも気丈な琥珀の目は潤み、頬はかすかに上気している。
 手は愛おしげにテオドールの腕に絡み、ぎゅっと固く抱き寄せる。
 そのままテオドールの肩に頭を預け、心まで預けるように目を閉じた。

「これでようやく、一年前の過ちが終わるのですね。私が聖女に戻って、この国は救われて――ああ、ありがとうございます、テオドール様……」

 閉じた目の端から、涙がこぼれ落ちる。
 テオドールは流れる涙を手で拭い、喜びに浸る姉に笑みを向けた。

「いいや、まだだよ、ルシア。君が失ったものを取り戻すには、これだけじゃ足りない」
「まあ。私はもう十分ですのに……」

 テオドールの手に、姉はくすぐったそうに微笑む。
 ゆっくりと再び開けられた目ははにかむようで、濡れた瞳にはあらわな恋慕の色があった。

「僕は君を『元の地位』に戻すと言った。なら、もうひとつ必要だろう、ルシア」

 その恋する瞳を見下ろして、テオドールは続ける。
 涙を拭った手を頬に添えたまま。姉に腕を絡め取られ、恋人のように寄り添ったまま。

「君と、王太子との婚約が。――君が王太子妃にならなければ、戻ったとは言えないだろう?」

「――――…………え?」

 目を見開く姉の顔に、私は握るこぶしに力を込めた。
 きつく、きつく。痛みさえも感じないほどに。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

従姉が私の元婚約者と結婚するそうですが、その日に私も結婚します。既に招待状の返事も届いているのですが、どうなっているのでしょう?

珠宮さくら
恋愛
シーグリッド・オングストレームは人生の一大イベントを目前にして、その準備におわれて忙しくしていた。 そんな時に従姉から、結婚式の招待状が届いたのだが疲れきったシーグリッドは、それを一度に理解するのが難しかった。 そんな中で、元婚約者が従姉と結婚することになったことを知って、シーグリッドだけが従姉のことを心から心配していた。 一方の従姉は、年下のシーグリッドが先に結婚するのに焦っていたようで……。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...