7 / 10
第7話 来るはずの男
しおりを挟む
これらの希少種を殺害するのは地球上でもラグランジュ・ポイントでも、太陽系内ならどこでも違法だ。それもあって、ここへは1人で来たのである。
知りあったばかりのファンの女性を連れてきて、ネットで暴露されたりしたら、それこそおれは芸能人を廃業せねばならないだろう。刑務所行きも確実だった。信頼している銅田さんにも狩猟の件は内緒である。
「それじゃあ早速、明日にでも行こうかな」
「お時間はどうします?」
「食事をした後、午後の1時でどうだろう」
「それでは明日の午後1時に参ります」
「寝てるかもしれないけど、遠慮なくチャイムを鳴らしてくれ」
「承知しました」
ソフィアはそれだけ言葉を残すと、再び室外へ出ていった。その夜もおれはコック・ロボットが調理した海の幸をいただいた。どれもマリン・スペースで獲れたての魚介類を調理したものだ。刺身や寿司、焼き魚等、どれも新鮮で美味い物ばかりであった。
酒は何でも選べたが、エデンの農場で収穫された米から作った日本酒を飲んだ。正確には日本で作ったわけではないので、エデン酒とでも呼んだ方がいいのかもしれないが。ほろよい気分になったおれは服を脱いで、真っ白なシーツが敷かれたふかふかのベッドに潜りこんだ。
翌日おれはチャイムの音で、目が覚めた。たっぷり眠った充足感に満ちている。室内にソフィアのホログラムが大きく投影されていた。
「開いてるから入ってよ」
おれは、インターホンのボタンを押すと言葉を発した。
「承知しました」
パースノイドのなめらかな声が返答し、しばらくするとドアが開く音がして、ソフィアが姿を現した。驚く事に、彼女(と呼んでいいものか微妙だが)はカーキ色のベレー帽と、上着とパンツを身につけていた。
「サバンナ・スペースにあわせてコスプレかい」
やわらかな笑みを、ソフィアが返した。
「江間様の分も、用意してますけど」
結局おれも、彼女が持ってきた似たような衣装に着がえさせられた。そして彼女に案内されて、サバンナ・スペースに到着した。
そこは予想した以上に素晴らしい光景が広がっている。キリン、シマウマ、サイ、カバ、ライオン、様々なけだもの達が抜けるような青空の下、放し飼いにされていた。ソフィアの運転する四輪駆動に乗ったおれは、渡されたライフルの使い方を教わり、次々に動物達をしとめていく。
銃声と共に野獣が倒れていくさまはダイナミックで、ヴァーチャル・ゲームでは味わえない体験である。殺したけだもの達の一部は、コロニー内のロボットに命じて剥製にした。これらの動物は狩るのも剥製にするのも禁じられていたが、あらかじめ入福が、剥製を作れるロボットを用意してくれていたのだ。
これらの行為は違法だが、子供時代万引きしたり、女の子のスカートをめくったりした時のような、背徳の喜びをおれは感じていた。そしてサバンナ・スペースでも、おれは新しいコンテンツをイマジネートしたのである。
どこまでも青い空、灼熱の陽光、野獣達、バオバブの木、大航海時代の探険家、リビングストン、暗黒大陸、今は失われたアフリカの大自然……そんなものをテーマに作曲したのである……そんなこんなで残りの12日間も、疾走するチーターのように、過ぎてゆく。
サバンナ・スペースに来てから12回ずつ昼夜を繰り返した後で、いよいよソフィアに連れられて、おれはドッキング・ベイに向かった。
「ちょうど今日本時間で、7月27日の朝7時半です。すでに宇宙船がドッキング・ベイで待機してます」
ソフィアがおれに説明した。
「地球に帰りたくなくなっちゃったな」
こんなに自由を満喫したのは一体いつ以来だろう。いや、初めての経験かも。
「大勢のファンが待ってますわ。帰らないと、みなさん寂しがるでしょう」
ソフィアがそんな台詞を吐いた。
「別に帰らなくたっていいのさ」
おれは、投げやりに言葉を放った。
「ずっとここにいたとしても、みんなおれのコンテンツで、楽しんでくれると思う」
だが、ここにずっと居続けるのは、叶わぬ望みとわかっている。来月には改装工事が始まるのだ。おれはドッキング・ベイに行き、そこで待っていた白いボディの宇宙船に乗りこむと、男性型のパースノイドが、出迎えた。こちら も金髪の白人の姿をしている。
入福には欧米コンプレックスでもあるのだろうか。いや、それは正直自分にもあるとおれは思った。22世紀になっても、太平洋戦争に敗れて以来の敗戦国根性が抜けきれてないのだろう。
「入福さんは、どうしたの?」
おれは、男性型のパースノイドに質問した。
知りあったばかりのファンの女性を連れてきて、ネットで暴露されたりしたら、それこそおれは芸能人を廃業せねばならないだろう。刑務所行きも確実だった。信頼している銅田さんにも狩猟の件は内緒である。
「それじゃあ早速、明日にでも行こうかな」
「お時間はどうします?」
「食事をした後、午後の1時でどうだろう」
「それでは明日の午後1時に参ります」
「寝てるかもしれないけど、遠慮なくチャイムを鳴らしてくれ」
「承知しました」
ソフィアはそれだけ言葉を残すと、再び室外へ出ていった。その夜もおれはコック・ロボットが調理した海の幸をいただいた。どれもマリン・スペースで獲れたての魚介類を調理したものだ。刺身や寿司、焼き魚等、どれも新鮮で美味い物ばかりであった。
酒は何でも選べたが、エデンの農場で収穫された米から作った日本酒を飲んだ。正確には日本で作ったわけではないので、エデン酒とでも呼んだ方がいいのかもしれないが。ほろよい気分になったおれは服を脱いで、真っ白なシーツが敷かれたふかふかのベッドに潜りこんだ。
翌日おれはチャイムの音で、目が覚めた。たっぷり眠った充足感に満ちている。室内にソフィアのホログラムが大きく投影されていた。
「開いてるから入ってよ」
おれは、インターホンのボタンを押すと言葉を発した。
「承知しました」
パースノイドのなめらかな声が返答し、しばらくするとドアが開く音がして、ソフィアが姿を現した。驚く事に、彼女(と呼んでいいものか微妙だが)はカーキ色のベレー帽と、上着とパンツを身につけていた。
「サバンナ・スペースにあわせてコスプレかい」
やわらかな笑みを、ソフィアが返した。
「江間様の分も、用意してますけど」
結局おれも、彼女が持ってきた似たような衣装に着がえさせられた。そして彼女に案内されて、サバンナ・スペースに到着した。
そこは予想した以上に素晴らしい光景が広がっている。キリン、シマウマ、サイ、カバ、ライオン、様々なけだもの達が抜けるような青空の下、放し飼いにされていた。ソフィアの運転する四輪駆動に乗ったおれは、渡されたライフルの使い方を教わり、次々に動物達をしとめていく。
銃声と共に野獣が倒れていくさまはダイナミックで、ヴァーチャル・ゲームでは味わえない体験である。殺したけだもの達の一部は、コロニー内のロボットに命じて剥製にした。これらの動物は狩るのも剥製にするのも禁じられていたが、あらかじめ入福が、剥製を作れるロボットを用意してくれていたのだ。
これらの行為は違法だが、子供時代万引きしたり、女の子のスカートをめくったりした時のような、背徳の喜びをおれは感じていた。そしてサバンナ・スペースでも、おれは新しいコンテンツをイマジネートしたのである。
どこまでも青い空、灼熱の陽光、野獣達、バオバブの木、大航海時代の探険家、リビングストン、暗黒大陸、今は失われたアフリカの大自然……そんなものをテーマに作曲したのである……そんなこんなで残りの12日間も、疾走するチーターのように、過ぎてゆく。
サバンナ・スペースに来てから12回ずつ昼夜を繰り返した後で、いよいよソフィアに連れられて、おれはドッキング・ベイに向かった。
「ちょうど今日本時間で、7月27日の朝7時半です。すでに宇宙船がドッキング・ベイで待機してます」
ソフィアがおれに説明した。
「地球に帰りたくなくなっちゃったな」
こんなに自由を満喫したのは一体いつ以来だろう。いや、初めての経験かも。
「大勢のファンが待ってますわ。帰らないと、みなさん寂しがるでしょう」
ソフィアがそんな台詞を吐いた。
「別に帰らなくたっていいのさ」
おれは、投げやりに言葉を放った。
「ずっとここにいたとしても、みんなおれのコンテンツで、楽しんでくれると思う」
だが、ここにずっと居続けるのは、叶わぬ望みとわかっている。来月には改装工事が始まるのだ。おれはドッキング・ベイに行き、そこで待っていた白いボディの宇宙船に乗りこむと、男性型のパースノイドが、出迎えた。こちら も金髪の白人の姿をしている。
入福には欧米コンプレックスでもあるのだろうか。いや、それは正直自分にもあるとおれは思った。22世紀になっても、太平洋戦争に敗れて以来の敗戦国根性が抜けきれてないのだろう。
「入福さんは、どうしたの?」
おれは、男性型のパースノイドに質問した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる