37 / 69
四章
乾いた世界で
しおりを挟むはっとマリポーザは目を覚ました。
「う……っ」
身体を動かそうとして思わずうめく。頭も腰も何もかもが痛い。
「ここは……?」
上体を起こす。乾いた赤土が飛んでいく。
目の前には見たことがない光景が広がっていた。
こぶのように隆起した岩山が連なって、見渡す限り続いていた。高い樹は一本も生えていない。低い灌木がちらほらとあるが、ひどく乾いているようだ。
立ち上がって誰かいないのかと周りを見渡す。しかし、人はおろか生き物の気配を感じられない。ただただ固く乾いた岩山だけが、赤と白の縞模様の層をさらして目の前に無言で立ちはだかっている。照りつける太陽と吹き抜ける風の下、マリポーザは途方に暮れて呆然と立ちすくんだ。
そういえば、とポケットをまさぐり、くしゃくしゃに突っ込まれた紙を取り出す。フードの人物からもらった紙だ。暗くてよく見えなかったので、そのままポケットに入れてしまっていたのだった。開いてみると、船のチケットだった。あのフードの人物はどうやら、牢から逃がしてくれた上に、船で国を脱出する手配までしていてくれたらしい。
感謝をすると同時に、国から追われないといけないのか、という絶望感にマリポーザはとらわれた。
「あ……!」
はっと我に返って、胸元のポケットに手をやった。服の上から固い感触が右手に伝わってくる。それでもまだ不安だったので、本当にあるかどうかを確認するため、ポケットから辞書を取り出す。
マリポーザは自分の目を疑った。
「え……?」
辞書が、はっきりと見える。
今まではぼんやりと薄く輪郭が光るだけだった。しかし今は、焦げ茶の皮で装丁された羊皮紙の本だということが、はっきり見える。
左手でページをめくる。中にはアルトゥーロの字で精霊語とその対訳が書き込まれている。ぶっきらぼうで乱暴な文字だが、でもなるべく丁寧にと彼なりに気を使って書いたことが読み取れる。
「マエストロ……」
辞書に涙が落ちた。
マリポーザは辞書を抱きしめて声を張り上げて泣いた。一度声を出して泣くと止まらなくなった。色々なことが起こりすぎて、いっそ消えて無くなってしまいたい、と願う。
さんざん泣いて泣きつかれた頃、自分の上に影が差して暗くなっていることにマリポーザは気づいた。何気なく上を見上げると、そこには大きな男が立っていた。
マリポーザの倍はあろうかという身長で、雪だるまのように丸々としていた。長いひげをはやし、ベージュのベストと茶のパンツを身に着けている。
まるで大岩のような老人だった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる