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四章

岩の老人

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「ひ……っ」
 声にならない悲鳴をあげて、マリポーザは後ろへ後ずさった。

「Gfop oru iea zeymw furu?」
 大男が手を伸ばしてくる。マリポーザは走って逃げようと思ったが膝が笑って思うように動けない。

「Oru iea o fanom? Y fobum'p quum o fanom oreamz vuheru」
 なおも老人は何かを言うが、マリポーザには全く意味がわからなかった。

(いつの間にか外国に来てしまったのかしら……? 外国ってこんなに身長が大きな人がいるの?)
 混乱した頭を抱えて怯えた目で大男を見上げていると、その老人は困ったように頭をかいた。

 そして自分自身を指差して、ゆっくりと単語単語を区切って言う。
「Y on Wmenu」
『私はメヌ』
 頭の中に言葉がひらめき、マリポーザは雷に打たれたかのように硬直した。

 彼は精霊語を話している。

「Y on Mariposa」
 緊張で乾いた口を湿らせて、『私はマリポーザです』と恐る恐る告げた。するとメヌは心の底から嬉しそうに破顔した。言葉が通じて意思疎通ができたことに、マリポーザは感動を覚える。

「Iea kom qtuoc Ulunumpolyom! Pfop nocuq pfymwq uoqyur. Iea qfealz zret vi ni feaqu. Y gyll pocu koru eh iear ymxari」
 メヌは言葉が通じると安堵したのだろう。早口でまくしたてられて、マリポーザは困惑した。
(ごめん、そこまでは話せないんだ……)

 そんなマリポーザの様子に気づき、メヌは大きな口を閉じてしばし考える。
「Kenu」
 『来い』と一言短く言われて、マリポーザは考える前に足を踏み出した。

「痛……っ」
 足に激痛が走り、思わず座り込む。緊張が解けたのか、今頃になって自分の身体のあちこちが痛むことを思い出した。メヌが心配そうな顔をする。そして巨大な手を伸ばして、マリポーザの身体を掴んで自分の肩に乗せた。

 マリポーザは身をよじってメヌから降りようとしたが、その目を見て考えを変えた。
 今まで気がつかなかったが、大きな身体と顔に不釣り合いな小さな目は、とても優しい目をしていた。本気で心配をしてくれている、と言葉が通じずともわかった。

 マリポーザは肩に座ったまま大人しくメヌの髭につかまった。メヌはマリポーザを肩にのせたまま、赤い岩山を進んでいく。

 最初は何もいない荒れ地のように見えたが、進んでいくうちに違う表情が見えて来た。毛むくじゃらの野牛の群れが水辺で草を食み、巨大な砂ネズミのようなプレーリードッグの親子が巣穴から顔を出して周りを伺う。岩山の崖の急な斜面をものともせず、黒い山羊が自由自在に飛びはねている。

 マリポーザが今まで見たことがない景色にみとれているうちに、大きな岩山をぽっかりとくり抜いたような、洞窟が見えて来た。メヌはその中にずんずんと入っていく。

 洞窟の中はマリポーザの予想に反して、とても明るかった。

 洞窟の入り口から差す太陽光に加え、洞窟内には無数の光の球が空中に浮いていた。マリポーザが指でつつくと、光の球は粉になって霧散し、またしばらくすると球状に戻った。洞窟の中にはベッドや台所などがあり、まるで人間の一人暮らしの家のようだった。
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