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四章
出て来ない言葉
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家の中には多くの植物があり、天井から吊り下げられた乾燥した薬草もあれば、地面に直接植えられた野菜や花などもあった。
メヌはベッドにマリポーザを横たえると、洞窟の入り口のほうに戻って地面に手のひらをかざした。すると大地が岩壁となって盛り上がり、入り口をドアのように塞いだ。
マリポーザはそれを見て、この岩のような老人は、メヌと言っていたが、大地の精霊ノモではないかと思いついた。
「Oru iea Gnomo?」
拙い精霊語で『あなたはノモですか?』と聞くと、メヌは嫌そうな顔で頭を振った。
「Y on Wmenu」
どうやらノモと言われるのが嫌らしい。なぜかはわからなかったが、マリポーザはそれ以上深く聞けなかった。
メヌは家の中にある植物の葉や茎などをいくつか摘むと、それをすりおろして布に塗り湿布を作ってマリポーザの身体に貼る。マリポーザはこの機会に精霊語を勉強しようと、胸の内ポケットから辞書を取り出した。
「えーっと、『これ』って精霊語でなんていうんだっけ……」
辞書を引きながら一人でブツブツ呟いていると、メヌがマリポーザの右手を掴んだ。ここにも湿布を貼ってくれるのか、と思ったがなんだか様子がおかしい。メヌは右手に描かれた魔法陣を見て目を見開き、何ごとか考え込んでいる。
「どうかしましたか?」
思わず自分の言語で話しかけたが、もちろんメヌには通じない。メヌは魔法陣を指差しながら、ゆっくりとマリポーザに聞く。
「Gfe zyz pfyq pe iea?」
言葉はわからなかったが、その動作から『魔法陣を描いたのは誰だ?』と言っているのだろうと見当がついた。
「Arturo zrug pfyq her nu」
辞書を引きながらたどたどしく、『アルトゥーロが私に描きました』と言うと、その名前を聞いたとたん優しかったメヌの目が怒りに染まった。
「Pfop voqporz …… !」
吐き捨てるようにメヌが言う。マリポーザはメヌの態度が豹変したことに驚いた。またさらに、メヌがアルトゥーロを知っている上に、激しく嫌っている様子にも驚きを隠せなかった。
マリポーザは一回も、アルトゥーロが大地の精霊ノモを召還したところを見たことがない。見たことがあるのは、水の精霊オンディーナと炎の精霊サラマンドラだけだ。
マリポーザが知らないところで何かあったのかもしれないが、アルトゥーロはいつも熱心に精霊術の研究をしていた。呼び出すことはあっても、精霊に対して危害を加えるような、悪意を持った接し方はしていないはずだ。
メヌはしばらく黙り込んでいたが、気を取り直して再び湿布を貼り始めた。マリポーザはほっとする。何があったのかはわからないが、今ここで敵対したくはない。
色々と聞きたいことがあるし、メヌに治療のお礼も言いたい。でも、辞書を引いて探しても「ありがとう」の言葉が見つからなかった。
(マエストロと一緒にいる間に、精霊語をもっと勉強していればよかった)
マリポーザは言いたいことが自由に言えず、自分の喉で言葉が止まって詰まっているような気がした。ありがとう、すら言えないなんて。精霊語の辞書を両手でぎゅうっと握りしめながら、マリポーザは自分の不甲斐なさに歯がみした。
メヌはベッドにマリポーザを横たえると、洞窟の入り口のほうに戻って地面に手のひらをかざした。すると大地が岩壁となって盛り上がり、入り口をドアのように塞いだ。
マリポーザはそれを見て、この岩のような老人は、メヌと言っていたが、大地の精霊ノモではないかと思いついた。
「Oru iea Gnomo?」
拙い精霊語で『あなたはノモですか?』と聞くと、メヌは嫌そうな顔で頭を振った。
「Y on Wmenu」
どうやらノモと言われるのが嫌らしい。なぜかはわからなかったが、マリポーザはそれ以上深く聞けなかった。
メヌは家の中にある植物の葉や茎などをいくつか摘むと、それをすりおろして布に塗り湿布を作ってマリポーザの身体に貼る。マリポーザはこの機会に精霊語を勉強しようと、胸の内ポケットから辞書を取り出した。
「えーっと、『これ』って精霊語でなんていうんだっけ……」
辞書を引きながら一人でブツブツ呟いていると、メヌがマリポーザの右手を掴んだ。ここにも湿布を貼ってくれるのか、と思ったがなんだか様子がおかしい。メヌは右手に描かれた魔法陣を見て目を見開き、何ごとか考え込んでいる。
「どうかしましたか?」
思わず自分の言語で話しかけたが、もちろんメヌには通じない。メヌは魔法陣を指差しながら、ゆっくりとマリポーザに聞く。
「Gfe zyz pfyq pe iea?」
言葉はわからなかったが、その動作から『魔法陣を描いたのは誰だ?』と言っているのだろうと見当がついた。
「Arturo zrug pfyq her nu」
辞書を引きながらたどたどしく、『アルトゥーロが私に描きました』と言うと、その名前を聞いたとたん優しかったメヌの目が怒りに染まった。
「Pfop voqporz …… !」
吐き捨てるようにメヌが言う。マリポーザはメヌの態度が豹変したことに驚いた。またさらに、メヌがアルトゥーロを知っている上に、激しく嫌っている様子にも驚きを隠せなかった。
マリポーザは一回も、アルトゥーロが大地の精霊ノモを召還したところを見たことがない。見たことがあるのは、水の精霊オンディーナと炎の精霊サラマンドラだけだ。
マリポーザが知らないところで何かあったのかもしれないが、アルトゥーロはいつも熱心に精霊術の研究をしていた。呼び出すことはあっても、精霊に対して危害を加えるような、悪意を持った接し方はしていないはずだ。
メヌはしばらく黙り込んでいたが、気を取り直して再び湿布を貼り始めた。マリポーザはほっとする。何があったのかはわからないが、今ここで敵対したくはない。
色々と聞きたいことがあるし、メヌに治療のお礼も言いたい。でも、辞書を引いて探しても「ありがとう」の言葉が見つからなかった。
(マエストロと一緒にいる間に、精霊語をもっと勉強していればよかった)
マリポーザは言いたいことが自由に言えず、自分の喉で言葉が止まって詰まっているような気がした。ありがとう、すら言えないなんて。精霊語の辞書を両手でぎゅうっと握りしめながら、マリポーザは自分の不甲斐なさに歯がみした。
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