冬の帝国と精霊対話師

アウグスト葉月

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五章

助けてくれたのは……

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 夜が更けても宴は続いた。際限なく飲み食いし騒ぐ兵士達を残して、フアナとマリポーザは一足先に寝室に引き上げた。

「二人っきりで話すのは、ずいぶんと久しぶりですわね」
「本当に、私が脱獄したとき以来ね」
 フアナのベッドの上に二人で横たわりながら、顔を見合わせてくすくすと笑う。
 キングサイズのベッドは二人が寝そべっても十分な大きさがある。シルクのネグリジェに着替えた二人の間には、マカロンやクッキーなどの焼き菓子と香茶を乗せた銀のトレーがあった。

「逃げ出すのを手伝ったのが私だって、いつから気づいていましたの?」
「牢屋を抜け出して、通風口を通り抜けていたときかなあ。その前から、なんとなく気づいてはいたんだけど。あのとき通風口を一緒に抜けた時にすごく近い距離にいたから、フアナの香水の香りが微かにしたんだよね」
「あら私ったら」
 フアナが目を丸くした。

「嫌ですわ。せっかくお兄様が小さい頃に来ていた服を引っ張りだして、男装までしましたのに。香水が残っていたなんて、ずいぶん間が抜けてますわねぇ」
「でもびっくりしたよ。フアナがそんな大胆なことをするなんて。誰も思いつきもしないんじゃないかなあ。こんなにおしとやかそうなお嬢様が、脱獄の手助けをしたなんて」
 二人は忍び笑いをした。

「小さい頃に皇帝陛下とお城を探検していたのが役立ちましたわ。隠し扉や隠し通路の位置は、何年経っても変わりませんもの。まさか、こんなことに役に立つなんて、あの時は思いもしませんでしたけれど」
「船の手配もしてくれてたんだね。本当にありがとう。フアナは私の命の恩人だよ。フアナがいなかったら、私は精霊界にも行けなかったし、きっとそのまま裁判を受けていたら処刑されていたと思う。
 危険な冒険を冒して私を助けてくれたこと、すごく、すっごく感謝してる」

「船の手配をしたのは私じゃありませんのよ」
「え?」
「マリポーザが捕まった後、私はお父様たちにお願いして、大聖堂に行儀見習いに行っていましたの。そこでは昼間はずっと礼儀作法のお勉強。夜は神官様に許可をいただいて、特別に礼拝堂で一人お祈りをしていましたわ。

 ですので、あの夜はお城からマリポーザを逃がしたあと、私は礼拝堂に戻りましたの。それから礼拝堂であなたが無事に逃げられるよう、お祈りをしていましたのよ。

 そうしたら、明け方近くになって外が騒がしくなったので、ああ、マリポーザが逃げたことが見張りの方々にわかったんだって思って。いてもたってもいられなくなって、大聖堂から外に出ましたの。

 そこでフェルナンドさんやジョルディさんたちとお会いして。それであなたが消えたって聞きましたわ。最初は『無事に逃げられたんだわ』と思ったのですけれど。よく聞くと、宮殿の敷地から誰も出ていない、こつ然と消えてしまった、と言うじゃありませんか。本当に驚きましたわ。マリポーザはどこに行ってしまったのかしらって」
 フアナは話しながら、そのときを思い出して涙声になる。

「ごめんね、フアナ。あのあと、魔法陣をどうにかしなきゃって思って、研究所に戻ったの。そこで足を滑らせて、偶然に精霊界に行ってしまって……」
 マリポーザはフアナの背中を優しくさすった。

「わかってますわ。さっき話してくれましたもの。
 でもあの時は、本当に心配で心配で。万が一、誰かに殺されていたり、何かの事故で死んでしまっていたら、どうしようって……。悪い想像が浮かんできてしまって……」
 鼻をすするフアナにマリポーザは手近にあったハンカチを差し出す。
「心配かけて、本当にごめんね。でもそれじゃあ、船を手配してくれたのは誰なの?」

 ハンカチを受け取りながら、フアナはいたずらっぽく微笑んだ。
「聞いて驚きますわよ。私だって、とても驚きましたもの。それは……」


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