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五章
密談
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「よく来たな。悪いな、昨日来たばかりなのに、また僕の家に来てもらって」
フェリペは窓際に立ち、フェルナンドのほうを振り向いた。
「お前と二人で内密に話したいことがあったからな。まあ堅苦しいのは抜きにして、座って楽にしてくれ」
白ワインとチーズを用意してあるテーブルにフェルナンドを誘う。フェルナンドは戸惑いながら椅子に座った。
「どんなお話でしょうか?」
「マリポーザが脱獄した夜、お前はどこにいた?」
白ワインをグラスに注ぎながら、軽い調子でフェリペは聞いた。
フェルナンドは頬を引きつらせる。
「ジョルディと酒場にいました。先日お話した通りです」
「宮殿の西門の前でお前を見たっていう目撃証言があるんだよね」
「見間違いではないでしょうか」
「あと、その日の夜に出航する船のチケットも買っていただろう」
フェルナンドは顔を蒼白にして黙った。
「お前は、マリポーザにずっと同情していたよな。自分の身を危険にさらしてまでマリポーザを助けたかったのか」
フェルナンドは深いため息をついた。観念したらしい。
「誤解しないで欲しいのですが、決して彼女に恋愛感情を持っているわけではありません。私はただ、上の都合に振り回されるマリポーザを哀れに思っただけです」
「それで、船のチケットを手配して、西門の前で待っていたのか」
「はい。『精霊』の助けで西門の外までマリポーザが来るはずでしたから。私はあの日、ジョルディの誘いに乗って、街の酒場にいました。本当は一人で街に行く予定だったのですが、一緒にいたと証言できる人がいたほうが、後から都合が良いと思ったので。
適当に途中で切り上げようかと最初は思っていたのですが、ジョルディが都合よく、そうそうに酔いつぶれてくれました。そのため酒場を抜け出し、待ち合わせの場所である西門の前に行ってマリポーザを待ちました。しかし明け方近くになっても彼女が来なかったため諦めて酒場に引き返し、ジョルディを起こして宮殿の陸軍兵舎に戻ったんです。
宮殿に着くと『マリポーザがいなくなった』と見張りの兵士達が大騒ぎをしていて、大佐に大尉を連れてくるように言われました。大尉のお屋敷に向かう前に、太陽神の大聖堂の前を通ったら、フアナ様がおろおろとなさっていて。それでフアナ様もご一緒に連れて、ジョルディと大尉のお屋敷に向いました」
フェルナンドの話を聞きながら、フェリペの顔が苦虫を噛み潰したような顔に変わっていく。
「そのマリポーザを連れてくる予定だった『精霊』は誰だったんだ?」
そう聞きかけて、フェリペは考えを変える。
(いや、聞くのはよそう。聞かないほうが良いだろう)
そう判断し、別の質問に変える。
「『精霊』のほうからマリポーザを助けて欲しいと言ってきたのか?」
「いいえ、違います」
フェルナンドは強い口調で否定する。
「マリポーザが裁判にかけられ処刑されるかもしれない、その前に助けることはできるだろうか、と私から相談したんです。そうしたら『精霊』様がぜひ自分も協力したい、とおっしゃりまして……。私は驚いて止めたのですが、可憐な容姿にも関わらず芯の強いお方で……」
その時を思い出したのか、フェルナンドは困ったような、そして少し嬉しそうな柔らかい表情になる。一方フェリペはこれ以上ない渋面を作っている。
「私が、『そんな危険なことをさせるくらいなら、計画は中止します』と言うと、それなら自分一人ででもやる、とおっしゃるので、私も覚悟を決めました。もし万が一何かある場合は、私が命に懸けてでも『精霊』様をお守りしようと思いまして」
フェリペは机に両肘をついたまま、額を抱えた。
「もうわかった。『精霊』の話は良い。どちらにしろ、裁判ではこの話は終わったんだしね。船の乗船券を買うのだって、別にそれ自体にはなんの罪もない。結局誰も船に乗らなかったんだし、それはここだけの話にしておこう」
フェルナンドの肩から力が抜ける。フェルナンドはこれまで手を出さなかったワインに、やっと口を付けた。
フェリペは窓際に立ち、フェルナンドのほうを振り向いた。
「お前と二人で内密に話したいことがあったからな。まあ堅苦しいのは抜きにして、座って楽にしてくれ」
白ワインとチーズを用意してあるテーブルにフェルナンドを誘う。フェルナンドは戸惑いながら椅子に座った。
「どんなお話でしょうか?」
「マリポーザが脱獄した夜、お前はどこにいた?」
白ワインをグラスに注ぎながら、軽い調子でフェリペは聞いた。
フェルナンドは頬を引きつらせる。
「ジョルディと酒場にいました。先日お話した通りです」
「宮殿の西門の前でお前を見たっていう目撃証言があるんだよね」
「見間違いではないでしょうか」
「あと、その日の夜に出航する船のチケットも買っていただろう」
フェルナンドは顔を蒼白にして黙った。
「お前は、マリポーザにずっと同情していたよな。自分の身を危険にさらしてまでマリポーザを助けたかったのか」
フェルナンドは深いため息をついた。観念したらしい。
「誤解しないで欲しいのですが、決して彼女に恋愛感情を持っているわけではありません。私はただ、上の都合に振り回されるマリポーザを哀れに思っただけです」
「それで、船のチケットを手配して、西門の前で待っていたのか」
「はい。『精霊』の助けで西門の外までマリポーザが来るはずでしたから。私はあの日、ジョルディの誘いに乗って、街の酒場にいました。本当は一人で街に行く予定だったのですが、一緒にいたと証言できる人がいたほうが、後から都合が良いと思ったので。
適当に途中で切り上げようかと最初は思っていたのですが、ジョルディが都合よく、そうそうに酔いつぶれてくれました。そのため酒場を抜け出し、待ち合わせの場所である西門の前に行ってマリポーザを待ちました。しかし明け方近くになっても彼女が来なかったため諦めて酒場に引き返し、ジョルディを起こして宮殿の陸軍兵舎に戻ったんです。
宮殿に着くと『マリポーザがいなくなった』と見張りの兵士達が大騒ぎをしていて、大佐に大尉を連れてくるように言われました。大尉のお屋敷に向かう前に、太陽神の大聖堂の前を通ったら、フアナ様がおろおろとなさっていて。それでフアナ様もご一緒に連れて、ジョルディと大尉のお屋敷に向いました」
フェルナンドの話を聞きながら、フェリペの顔が苦虫を噛み潰したような顔に変わっていく。
「そのマリポーザを連れてくる予定だった『精霊』は誰だったんだ?」
そう聞きかけて、フェリペは考えを変える。
(いや、聞くのはよそう。聞かないほうが良いだろう)
そう判断し、別の質問に変える。
「『精霊』のほうからマリポーザを助けて欲しいと言ってきたのか?」
「いいえ、違います」
フェルナンドは強い口調で否定する。
「マリポーザが裁判にかけられ処刑されるかもしれない、その前に助けることはできるだろうか、と私から相談したんです。そうしたら『精霊』様がぜひ自分も協力したい、とおっしゃりまして……。私は驚いて止めたのですが、可憐な容姿にも関わらず芯の強いお方で……」
その時を思い出したのか、フェルナンドは困ったような、そして少し嬉しそうな柔らかい表情になる。一方フェリペはこれ以上ない渋面を作っている。
「私が、『そんな危険なことをさせるくらいなら、計画は中止します』と言うと、それなら自分一人ででもやる、とおっしゃるので、私も覚悟を決めました。もし万が一何かある場合は、私が命に懸けてでも『精霊』様をお守りしようと思いまして」
フェリペは机に両肘をついたまま、額を抱えた。
「もうわかった。『精霊』の話は良い。どちらにしろ、裁判ではこの話は終わったんだしね。船の乗船券を買うのだって、別にそれ自体にはなんの罪もない。結局誰も船に乗らなかったんだし、それはここだけの話にしておこう」
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