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五章

だからなのか?

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「今回のことで、マリポーザを本当に大変な目にあわせてしまった。フェルナンドの言う通りだ。大人の勝手な都合で、振り回してしまったね」
「本当ですよ」
 語気を強めてフェルナンドは賛成した。

「だいたいいつも、立場だ体面だっていって、自分のことばかりで……。上級貴族だからって何をしても良いと思ってるんだ、あいつらは。そうやって、立場の弱い人間が虐げられても、あいつらは何とも思わない……っ」
 ワイングラスを持つ手に力を込めるフェルナンドを、フェリペは静かに見つめた。

「だから襲ったのか?」
「は?」
「だから僕たちを襲撃したのか、腹いせに」
 フェルナンドは息をのんだ。

「な、何のことでしょうか?」
 声が震えている。
「僕は最初、精霊使いに対する攻撃だと思っていた。精霊使いの敵なんてたくさんいたからな。太陽神教の神官たちや現皇帝陛下の反抗勢力、それに前女帝陛下の粛正の犠牲となった遺族たちも……。味方を探すほうが難しいくらいだ。

 でも、どう考えてもおかしいんだよね。弓は飛んでくるけど、毎回死傷者は出ない。とてもじゃないけど、本気で襲撃をしてきたとは思えなかった。

 そうすると、威嚇行動か嫌がらせなんだけれど。威嚇行動だったら、もっと直接的に脅迫をしてくるなりなんなりしないと意味がないよね。少なくとも威嚇をすることで、精霊使いにどうして欲しいのか意思表示をしないといけない。攻撃されたくなかったら『旅を止めろ』とか『精霊術を止めろ』といった何らかの条件を提示する必要がある。でもそれもなかった。

 そうすると、ただの嫌がらせだ。しかもすごく念の入った。馬での走行が困難な、険しい冬の道を何ヶ月も一緒についてきて、嫌がらせをする。そんな馬鹿な人間がいるか? そう考えると、外部ではなく内部の人間の犯行の可能性が高いよね。常に一緒に行動をしている仲間、つまり特殊任務班のうちの誰かだ。

 それで思い出したんだ。精霊術をそれぞれの村で行なうとき、僕たちは精霊を呼び出しやすい場所を調べるため、村の人に話を聞いて調査をしたよね。そのときフェルナンドはいつも猟師と話をして、その村一番の腕利きの猟師を連れてきていた。

 お前は金を渡すなり何かして、猟師に俺たちを襲うことを頼んだんだ。『何が起こっても対応できるようにする訓練の一環だ』とかなんとか言って」

 フェリペはフェルナンドのグラスにワインを注ぐ。フェルナンドは顔色を失っている。
「そんなのはただの推測です。証拠も何もない」
「マリポーザの故郷に再び行ったときに、僕が猟師に話を聞かなかったとでも思っているのか?」
 フェルナンドは唇を噛み締めて黙った。
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