無法魔術師はかえりみない ~殺人容疑をかけられたので逃げまわってたけど、酒の勢いで女刑事を押し倒したら一緒に事件を解決することになった件~

佐間野 隆紀

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二章

二章⑬ 無法魔術師は慰める

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 西から茜色の日差しが差し込む中、最後まで遊んでいた子どもたちが母親の呼び声に応じて去っていき、いよいよ公園には僕とライラの二人だけになってしまった。

 僕とライラは隅っこにあるベンチに恋人同士みたいにならんで座り、そのまま僕はずっとライラの背中をさすり続けていた。

「すまない。何だか結果的に任せる形になってしまったな」
「いいよ。僕だって、たまには男らしいところを見せようと思ってたんだ」
「はは、そうか。確かに、あのときのおまえはちょっとだけカッコよかったな」

 そう言って力なく笑うライラは、やはりしっかり元気を失っていた。

「わたしは、自分を公平性のある人間だと思っていた」
「うん」
「だが、実際はそうではなかったらしい」

 ベンチに座ったままブラブラと爪先を遊ばせながら、ポツリポツリと語りはじめる。

「わたしは心の何処かでアレスへの憧れを捨てきれず、彼女が『嘘』を言うだなんて可能性を考えもしなかった」
「別にそれでいいんじゃないかな。誰だって好き嫌いはあるさ」
「そういうわけにもいくまい。わたしは法の番人たる自治警察の刑事だ。好き嫌いで物事を判断するわけにはいかない」
「でも、誰を信用して誰を信用しないかの取捨選択はしていかないと。いちいちみんなの言うこと全部を鵜呑みにしてたら前に進めなくなっちゃうよ」
「……おまえは優しいな」

 ライラが柔らかく口許を綻ばせ、僕の肩にペタンとその頭を押し当てててきた。

「こういうときにかぎって、そうやってわたしが欲しい言葉をくれる。そんなふうに甘やかされてしまったら、今のわたしなんてすぐにダメな人間になってしまうな……」

 そのままライラが体をずらし、僕の腕を無理やりどけながら脇の下あたりに無理やり頭を潜り込ませてくる。

 瞬間、ふわっと花の香りのようなライラの体臭が漂ってきて、僕は軽い目眩を覚えた。

「君がちょっとくらいダメになったところで、たかがしれてるさ」
「アテナ……」

 ライラがそっと顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめてくる。

 彼女が何を求めているかなんてもちろん分かっていて、僕たちはそのまま互いに引き寄せられるようにキスをした。

 昨夜の僕もこんな感じで彼女の心を解きほぐしたのだろうか。

 こういう普通の恋愛っぽいことには慣れていないので、背中の辺りがムズムズする。

「やはり、おまえを見初めたわたしの判断は間違っていなかった」

 人目がないのをいいことに長いこと唇を重ねていた僕たちだったが、やがてライラのほうから離れると、そんなことを言いながらベンチから立ち上がった。

 そして、僕のほうも無理やり立ち上がらせてくると、そのままライラは僕を引きずるようにして誰も足を踏み入れそうにない公園の端のほうへと連れて行った。

「え……? ど、何処に行くの?」
「いいから来い」

 公園の端にはポツンと倉庫のような建物が立っていて、ライラはその裏手のほうまで僕を引きずっていくと、意味ありげに目配せをしながら両手を広げるような仕草をする。

 刹那、音もなく螺旋のように光が瞬き、気づいたときには魔術によるドーム状の障壁が僕たちを包み込むように展開されていた。

 日頃から無法のかぎりを尽くしている僕が言えたぎりではないが、この街では特段の事情がないかぎり公共区域での魔術の使用は禁止されているはずでは……。

「これ以上に特段の事情などあるものか」

 ライラは端的にそれだけ告げると、あとはもう何だかよく分からない体術で僕を地面に押し倒してきた。

 自治警察の訓練で身につけたのだろうか。びっくりするほど抵抗できなかった。

「静かだろう? この障壁の中にいれば、外から見られることも聞かれることもない」
「そ、そうなんだ」
「潜入工作、逮捕術、その他諸々、そういった魔術は得意なんだ」
「こ、これ、使いかたあってる?」
「こういう使いかたもあると教えてくれたのは、おまえだろう?」

 ライラは僕の上に馬乗りになったまま顔を近づけてくると、ニヤッと意味ありげに笑ってみせたあとで、深く深く唇を重ねてきた。
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