最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第一章 学園編

35話 弱さとの決別

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「う……頭、いってぇ……」


 目を覚ますと見覚えのない天井が迎えてくれる。ここはどこだろうとぼんやり考えながら頭痛のする頭を抑える。


「お、起きたか。坊主」


 すぐ近くで声を掛けられ、気配が無かったのでぎょっとしながら見ると、スキンヘッドのおっさんが立っていた。


「あ、えっと……誰だ? あんた」

「オレはヴァラン。よろしくな」

「俺はクロトだ。状況的に……あんたが助けてくれたのか?」

「まぁ、俺と言うべきか、あの獣ジャイアントウルフというべきか……体は動くか?」

「なんとか、問題ない」


 俺は手をグーパーグーパーしながら答える。体は少しだるいが、頭痛以外に殆ど痛みは無い。魔力も殆ど回復しているし、あの雪崩から時間が経っているのかもしれない。


「なら、ついてきてくれ」


 俺はベッドから降り、ヴァランに付いて部屋を出る。若干足取りがふらつく。魔族との戦いに加えて生身で雪崩を受けたダメージがまだ残っているらしい。
 部屋を出ると、一本の廊下に出る。両側にいくつかの部屋が並んでおり、それなりに大きな建物なのだとわかる。
 廊下の突き当りには上に上がる階段があり、そこを上がると今度は酒場のような場所に出た。


「ヴァラン、ここは……?」

「……ブルーバードだ」


 今度はヴァランとは別の声が答える。
 声がした方を見るとカウンターの向こうに紫の髪をオールバックで固め、サングラスを掛けた男がグラスを拭いていた。


「ブルー……バード? なんだそれ」

「…………」

「無視……?」

「わはは! 悪いな、クロト。あいつは昔っから無口で、気心知れてる奴らの中じゃそれなりにお喋りなんだがなぁ。初対面じゃ皆あんなもんなんだ」


 ヴァランは酒場のカウンター席にどかっと座り込む。座るとほぼ同時にレッグが瓶を投げ、ヴァランもそれがわかっていたのかナイスキャッチを見せる。
 ヴァランは銘柄を見る事も無く瓶の中身をガブガブと飲みだす。どうやら中身は酒らしい。


「なんだそれ」


 俺もヴァランに習い椅子に座る。俺には酒は飛んでこない。いや、飛んで来られても飲めないから困るだけなんだが。


「で、あいつはレッグ。うちのバーテンダーを務めてもらってる。んで、ここはセントレイシュタンの外れにあるお洒落な隠れ家バー、ブルーバードだ」

「セント……なんだって?」

「ん? おいおい、セントレイシュタンを知らないのか? エルトリア城下町に並んで大陸の三大都市に数えられてる街だぜ?」


 ヴァランはマジかよって顔で見てくるが俺が田舎者だという事をこいつはまだ知らないんだよな。


「知らねぇものは知らねぇよ」

「ヘレリル公爵領はわかるか? エルトリア十二公爵の一つで、ヘレリル公爵の最大の都市がセントレイシュタンだ」

「なるほど。で、俺はどうしてここにいるんだ? 俺の頭の中の地図が正しければ、ここからハングル公爵領はかなり遠いはずだ」


 ハングル公爵領は大陸の北東。ヘレリル公爵領は大陸の北西のはずだ。簡単に言えば大陸の端から端まで移動している事になる。


「ハングル公爵領に居たのか? お前らが倒れているのをオレが見つけたのはハングル公爵領の西、ヘレリル公爵領の東に位置するレオ公爵領だぜ。重傷を負ってるみてぇだったが、まだ生きていたから連れて帰ってきた」


 そうか、あの雪崩の影響でそんなところまで流されてきたのか。


「あ、そうだ! エヴァ……エヴァは?」

「ん? エヴァ? 誰だ?」

「俺と一緒に倒れてなかったか? 金髪の、ちっちゃくて、女の子の……」

「ああ、あの嬢ちゃんか。それならそろそろ……」


 カランカランと音がして扉が開く。


「ただいま……クロトッ!!」

「おっと!」

「うお」


 外から帰って来たエヴァが、手に抱えていた買い物袋を投げ捨て、飛びついてくる。投げ捨てられた買い物袋は間一髪のところでヴァランがキャッチした。


「無事でよかった」

「エヴァもな」

「さて、お熱いところ悪いが、一応命の恩人なんだ。事情ぐらいは教えてくれよ」

「ああ、そうだな。悪い」


 これまでに起きた事の一部始終をヴァランに説明する。雪山合宿の事、魔族に襲われた事、雪崩に巻き込まれた事。ついでに俺とエヴァの簡単な生い立ちも話した。
 最初は無表情で話を聞いていたが、フロリエルやリヴァの事を話したあたりから目を見開いたり眉がピクッと動いたり反応し始めた。
 チラッとレッグを見るとグラスを拭く手が止まっている。


「……なるほどな。そんな事情があったか。ちなみに、これからどうするつもりか考えてるのか?」

「とりあえずはエルトリア学園に戻らないと。仲間達も心配してるだろうし、俺らは行方不明になっちまってるだろうしな」

「そうか……一応、お前達が眠っていた間に帝国や学園で起きた事を教えといてやる。お前達の話を聞く限り、オレがお前達を見つけたのは雪崩が起きてからそう時間は経ってない頃だ。そこから一週間かけてここまで運んで来た。それから一週間と少ししてから嬢ちゃんが起き、その一週間後の今日、クロトが目覚めた」


 眠っていた間にかなり時間が経っている事に、正直驚きは無かった。体の調子を見ればそれぐらい眠っていたのだろうと想像が着く。


「そして、その間、エルトリアでは結構な動きがあった。まず、雪崩が起きた一ヶ月後、エルトリア学園の生徒がエルトリア城下町に帰還した。比較的最近の事だな。そこから生徒で気になる動きは無かったが、一つだけお前達が一番反応しそうな事があってな……」


 少し溜めるヴァラン。


「なんだよ」

「その……お前の昔話に出てきたイザベラって騎士……天馬騎士団ペガサス・ナイツの団長だろ? その騎士が、国家反逆罪で処刑される事が決まった」





「……は?」


 頭の中に浮かんだのはその一言だけだった。頭が上手く動かない。
 状況を理解しないまま、ただじっと座っている事も出来ずに勢いよく立ち上がる。椅子が倒れたが構ってられない。俺はヴァランに掴みかかり怒鳴る。


「おい、どういう事だよ! 詳しく言えよ!」

「わかった、わかったから落ち着けよ」


 ヴァランに押さえつけられ俺はもう一度椅子に座る。


「なんでも、イーニアス皇子に手を上げたらしい」

「……なんで、イザベラさんが……そんな事……」

「詳しい話はオレにはわからん。レッグ! なにか聞いてるか?」

「ああ……」


 今まで一度しか口を開かなかったレッグが話しだした。


「まず大前提にお前達は死んだ事になっている。魔族との遭遇、雪崩に巻き込まれた事。死亡したと判断するには十分な状況証拠だった。で、お前達が死んだ事を皇子が罵ったそうだ。それに怒ったその女騎士が手を上げ、今回の死刑にまで話が飛躍した。デルタアール皇帝も優秀な騎士団長を処刑する事を躊躇したらしいが、皇子と皇子に加担するブルックス大臣の意見に押されたようだ」


 俺は言いようもない怒りを覚える。


「……ここからエルトリア城下町までどのくらいかかる」

「馬車で一ヶ月ってところか」

「処刑執行日は…?」

「ちょっと待ってくれ。お前まさか……馬鹿な真似はよ……」

「アオーーーン」


 その瞬間、俺達の会話を遮るように遠吠えのような声が響き渡る。


「な、なんだ……」

「ああ、そうだ。忘れてた。あれはお前の知り合いか?」


 ヴァランが親指で指した方を見ると窓の外から巨大なウルフが顔を覗かせていた。


「え、いや、知らない。なんだあれ」

「オレも見るのは初めてだ。超級魔物、ジャイアントウルフ。お前達を見つけた時、すぐそばでお前達を守っていた」


 守っていた? ジャイアントウルフなら少し聞いたことがある。肉食で特に人間を食らう魔物。知性も高く一匹狼か、群れを従えるリーダーである事が多い。単独でも冒険者パーティを軽く全滅させるほどの知能と強さを持つ魔物だ。
 そんなやつが俺たちを食わずにむしろ守っていた? そんな話は聞いたことない。


「とにかくお前に関係があるんだろう。とりあえずはアレをどうにかしてくれ。もう食糧の半分を持って行かれてる」

「あ、ああ」


 俺はドアを開け、外に出る。
 第二の都市、セントレイシュタンにあるって言うからてっきり町中にあるのかと思ったが、そんな事はなく、小高い丘の上にぽつんとブルーバードは立っていた。
 周りは自然に囲まれ、丘の下には確かに大都市が見える。少し離れた場所にあるようで、本当に外れにあるんだなと理解する。


「ガウガウ!」


 ドスンドスンと地を揺らしながらジャイアントウルフは俺のすぐ横で止まると、おすわりしてまるで撫でてほしそうに頭を垂れている。


「お前、俺の知り合いなのか? 俺はお前なんて知らないぞ?」

「ガウガウ!」


 まるで何年も一緒に居たかのようになついてくるジャイアントウルフ。生まれてから今まで、ジャイアントウルフに会った記憶なんて全く無い。会うだけならまだしも、守られる理由なんて全く思いつかない。
 あんまりにもなつくので俺はモフモフした頭をなでてみる。ふわふわとした毛並みは心地よく、ずっと撫でていたいと思わせる程だ。


 すると次の瞬間、ジャイアントウルフが僅かに光を帯びる。


「ガウ、恩人よ。お久しぶりです。覚えていらっしゃいますでしょうか?」


 ん、なんだ。俺の聞き間違いか? 今、こいつが喋ったような……


「どうなさいました? 恩人よ」

「こいつは面白え、まさか覚醒か?」


 俺がしどろもどろしているとヴァランが出てきて声をかける。


「覚醒?」

「ああ、魔物は信頼出来る主人と出会うと覚醒する事があるんだ。覚醒すると言語を話せるようになったり、身体能力や魔術も大幅に強化されるんだ。もともと超級だったこいつは伝説級の手前ぐらいまでは強くなってるんじゃないか?」

「な、まじかよ。でもなんで……だいたい恩人って……俺は助けたことないぞ? ジャイアントウルフなんて」

「何をおっしゃいます。二年前、森で足を怪我し、動けずにいた我を助けてくれたではありませんか」


 二年前……森……怪我……ウルフ……!?


「まさかあの時の!?」

「はい! 思い出していただけましたか」

「こんなちっちゃかったウルフか!?」

「はい!あの頃は子供で……」

「なるほどな。思い出した」


 リブ村がミノタウロスに襲われる日。森に農薬の材料を取りに行った時に倒れていたウルフがジャイアントウルフの子供だったなんて予想だにもしてなかった。あの時はただのウルフと何の違いも無かったはずだが。
 すっかり忘れてた。


「……っとそれはそれとして、俺は今すぐエルトリア城下町に戻りたい。イザベラさんを処刑なんて許せるわけがない」


 俺はジャイアントウルフを見て、微かな希望を期待してみる。


ご主人様マスター、我にお乗りください。我の足ならここからエルトリア城下町まで一週間足らずで到着出来ます」

「……! 頼む!」


 俺は迷いも無くジャイアントウルフに飛び乗る。改めて乗るとでかい。二メートルぐらいはあるか。


「エヴァ、ついてくるだろ?」

「もちろん。そんな話聞かされて、黙ってられない」


 俺は腕を差し出し、エヴァを引き上げて乗せる。


「……クロト。処刑を止めるには武力行使しかないだろう。それは帝国そのものを敵に回すのと同じ行為だ。お前の覚悟は本物なんだろうな?」

「……?」

「忘れもんだ!」


 と、ヴァランが何かを投げる。
 咄嗟に掴み、その慣れ親しんだ握り心地に安心感さえ感じる。俺の相棒、テンペスターだ。


「……ありがとう」

「処刑執行日は今からぴったり一週間後。クロト、それにエヴァも……行く宛に困ったらここへ戻って来い。いつでも歓迎してやる」

「……ああ、世話になった。改めて必ず礼はする。……行ってくれ!」

「了解!」


 途端ものすごい速度で走り始める。
 必死に捕まっていないと吹き飛ばされそうだ。二、三回ジャンプしただけでセントレイシュタンを通り過ぎ、平原を走り出す。


「ところでお前! 名前は!」


 吹き付ける風に顔が引きつり、風の音以外は何も聞こえない。
 風に負けないように大声で話しかける。


ご主人様マスター。覚醒関係にある者はお互いに念話が可能です》


 念話……どうやってやるんだよ。んーっと……


《あーあー、聞こえてんのか? これ》

《はい! 聞こえております》

《よし。お前、名前はあるのか?》

《いえ、ありません》

《そうか……じゃあ俺がつけてやる。んー……よし、今日からお前はアルギュロスだ》

《アルギュロス……ありがとうございます!ご主人様マスター


 ジャイアントウルフ、もといアルギュロスは貰った名前が嬉しいのか更に速度を上げる。これなら、きっと間に合う。間に合うはずなんだ。
 正面から吹き付ける風が、俺の心をざわつかせる。不安と怒りと焦りがかわるがわる俺の心を乱そうと騒ぎ立ててくる。


「大丈夫だよ、クロト。大丈夫……」


 腰に回されたエヴァの手がぎゅっと俺を掴み、自分を安心させるように呟いた言葉が、少しだけ俺の心を落ち着けてくれる。


「ありがとう、エヴァ」





 時は少々遡り、イザベラの処刑が宣告された頃。


「イザベラ先輩!」

「エイ……ナ……?」

「ひ、ひどい……いくらなんでもここまでするなんて……」


 イザベラは地下牢に幽閉され、皇子によって暴力の限りを尽くされていた。
 地下牢の冷たい床の上で横たわるイザベラに、以前の様な明るく優しい雰囲気はなく、この冷たい地下牢が全てを凍てつかせてしまっているようだ。


「エイナ……聞いて……」

「……はい」

「あなたに遺言を二つ残すわ。まず、天馬騎士団ペガサス・ナイツの皆に……これから何があっても負けないで。この国は間違いなく腐敗の一途を辿ってる。でも、腐敗は一部だけで、切り離せばまだ正常な道に戻れる。もしそれを貴女達が出来なくても、腐った国にも民はいる。民を守るのが私達の仕事よ。エイナ……私が居なくなった後はあなたが次の団長よ。後の事は、よろしくね」

「…………はい」


 イザベラの話を真剣な目で聞きながらも、エイナの目から大粒の涙が落ちる。


「こらこら、泣かないの。二つ目は……」





 更に場所は変わり、軍会議室。
 龍騎士団ドラゴン・ナイツ、団長のアランと剛力将軍のファリオスが居た。


「何が国家反逆罪だ! 人の死を笑う人間が許されて、それをたしなめた奴が殺される? そんな馬鹿な事が……」

「静かにしろ」

「俺は……俺はあの時何もしなかった。団長だから、公平に物事を測る立場だから……クソ! 吐き気がする! この国にも、自分自身にも!」

「静かにしろと言っているんだ!!」


 ドンッという机を叩く音と怒鳴り声が響く。


「……ファリオス将軍」

「気持ちは皆同じだ。大臣の好き勝手のせいでイザベラは死ぬ。だがここで反旗を翻したところで潰されるのが関の山。ここまで状況を用意された後じゃ、イザベラを救うのは不可能だ。今は耐えろ。俺達まで死んだら、イザベラの死は無駄になる」

「……はい、すいませんでした」





 アルギュロスの宣言通り、エルトリア帝国には一週間で辿り着いた。道中はアルギュロスに無理を言って最速で進み続けてもらい、分けて貰った食料で凌ぎ、寄り道もせず最短距離でここまで来た。
 街の様子を確認しながら、状況を確認するまでは正体を隠そうという事になり、マントとフードで顔を隠し、アルギュロスのジャンプで壁内に侵入した。


「空気が、重いね……」

「……ああ」


 街一帯が黒く、重い空気に纏わりつかれてるみたいに、活気がまるで失われていた。商人どころか、出歩く人も殆ど居ない。


「イザベラさんは老若男女問わず皆から好かれていたんだ。そんな人が処刑されたってなったら、街の空気も重くなるさ」


 そう、俺達は間に合わなかった。着いたのは処刑されてから一日が経った後だった。


ご主人様マスター、本当に……」

「違う」


 そのせいでアルギュロスがかなり自分の事を責めているが、アルギュロスのせいじゃない。


「魔族にも勝てない。雪崩も防げない。あろうことかアルギュロスやヴァランに守ってもらわなきゃ自分の命も守れない。……イザベラさんを殺したのは……」


 後悔と、怒りと、悲しみと。自分が今どんな感情なのか、それすらもよくわからない。やり場のない、やりきれない気持ちが無意識に雷となって俺の身体から微弱に放出される。


「俺だ。俺なんだ。……俺が雪崩に巻き込まれなきゃ、のんきに気絶なんてしてなかったら! もっと早く目覚めていれば間に合ってた!! なのに、なのに俺は……俺がイザベラさんを殺……」

「やめてクロトッ! クロトが悪いんじゃない。自分を責めるのは止めて。……ほら、行こう?」


 唯一この街に入ってから出会えた噂好きの商人が、イザベラさんのお墓が建てられている事を教えてくれた。せめて最後に挨拶だけでもしたくて、俺たちは国民区の大通りを抜け、イザベラさんの墓がある騎士団区へ向かう。


 普段なら商人の露店と道行く人でごった返している大通りも今はひっそりしている。


「まるで……街全体が泣いてるみたいだ」


 俺達は更に歩き、遂に騎士団墓地まで辿り着いた。殉職した騎士団員や名誉の死を遂げた兵を永遠に眠らせてやる場所。昔、イザベラさんが教えてくれた。
 その奥に他より少し大きめの墓石があり、名前を見ればそこがイザベラさんの眠る墓石だとわかる。本来罪人として処刑されたイザベラさんに墓が作られる事など無いはずだったが、剛力将軍であるファリオス・デルガルドンが反対を押し切って建てたそうだ。これも商人が教えてくれた。
 会った事も無いが、剛力将軍にはいつか感謝を伝えたいな。


 途中で買ったガザニアの花を墓へ添えて俺は膝を付き、祈る。


『今まで、ありがとうございました。この御恩は二度と忘れません』


 俺は立ち上がり、ふと空を見上げる。灰色の空から黒い雨が降ってきた。


「……クロト」

ご主人様マスター……」

「俺は……学園へは戻らない。誰よりも強くなって、全てを守れるだけの力を付ける。弱さも甘えも、全て捨てる。……この国を外から叩き潰してやる」


 痛いほど握りしめた拳が、行き場のない怒りが、俺の決意を強くする。その決意に呼応するかのように遥か上空で雷が大きな音と光を発しながら天を割る。


「エヴァ、一緒に来るか? それとも、学園に……」

「私は一緒に居るよ。ずっと一緒に居る。クロトを、一人にはしない」

「ありがとう……戻ろう。ブルーバードへ」
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