79 / 216
第三章 絆愛編
79話 大焦熱地獄
しおりを挟む
「な、何だ……」
さっきまで天に向けて切り立っていた岩山は崩れ、ゴブリンの巣は潰れた。岩山があった場所の地面は沈下し、巨大なクレーターの様になっている。
所々から緑色の手や足が瓦礫から突き出している事からさっきまで居た空洞だと言う事は辛うじてわかるが、もはや原型は無く、素の中に居たゴブリン達がこれで全滅してしまったのではと思うほどだ。
「レオ! ディーナスやエヴァを頼むぞ」
「何をするんだ?」
「確認したいことがある!」
俺は沈下した地面を観察する。なぜいきなり……いや、おおよそ雨刃かリンが、またはあのオーガが何かしたんだろう。
ならあの二人は普通に考えればこの岩の下。仮にオーガの攻撃によるものだとしても、あの二人が黙って下敷きにされるとは考えにくいが、まさか……
「おいっ!! 雨刃!! リン!!」
声は反響するのみで返事は無い……いや、今俺の声に反応するように石ころが動いたような。
再びカタカタっと石ころが動き……クレーターの中心部分の瓦礫が飛び、下から手が突き出される。すぐにもう一方も手も地面から抜け、その上半身が露になる。
赤色の皮膚。人間ではありえない筋肉量。頭部の角は二本の内一本折れてしまっている。全身から血を流し、荒い息を吐いてはいるが未だ健在。皇帝鬼……伝説級に匹敵する化物。
「仕留め損なってるじゃねーか……雨刃!」
それだけじゃない。
エンペラーオーガを筆頭にホブやスペルも瓦礫の下から這い出てきている。
「やってくれたな、針鼠男……小鬼は全滅か。ホブも半数はやられたし、ロードも死んだな。スペルは何体か無事だが、数匹生き残ってても意味が無い」
エンペラーオーガは自分の周りにいるゴブリン達の総数を数えながら呟いている。
全身の傷は既に修復が始まり、少しずつ力を取り戻している。完全に取り戻す前に勝負を決めたい所だが……
「しかしまぁ、良いとするか。あの針鼠男の代わりがそこにいるからな」
エンペラーオーガはキッと俺を睨みつけニンマリと笑う。その瞬間俺の全身に恐怖が走る。これが、伝説級にも匹敵する魔物の威圧。
空洞の中で会った時は力も未知数で雨刃も居た。何よりここまで直接的な敵意を向けられたわけじゃなかった。
だが、今あいつは瓦礫の中から這い出てくるだけでなく、それをものともせずに次の獲物を狙っている。こいつは……今殺さなければ絶対に不味い!
〈雷術奥義 雷化・天装衣〉
雷化し、テンペスターとシュデュンヤーを抜く。そしてそれと同時に突進。加えてテンペスターに雷を纏わせ、赤巨鬼に穿つ。
〈雷帝流 雷撃一閃・突〉
一直線に放たれた雷はエンペラーオーガの腕に当たると爆散し全身に電流を流す。
ほんの一瞬……一秒にも満たない時間ではあったが、麻痺によりエンペラーオーガの動きを止めた。今の俺は雷そのもの。一秒もあれば、余裕であいつに一撃入れれる!!
〈神鳴術 神鳴放電砲〉
エンペラーオーガの背後に回り込み、シュデュンヤーとテンペスターから雷撃大砲以上の高電圧で雷を放つ。
雷は激しい音を立てながら爆発し、辺り一帯に静電気を撒き散らす。だが、これで安心は出来ない。この程度で倒れるなら、さっきの崩落で死んでいるし、雨刃達が仕留め損なうわけがない。
「連撃行くぞ!」
〈雷帝流 稲妻剣〉
〈雷帝流 雷鋼剣・獄〉
「まだまだ……」
〈黒帝流 剣狼〉
〈黒帝流 双剣狼〉
〈黒帝流 打上剣狼〉
エンペラーオーガの周りを回りながら俺が使える剣技を叩き込む。
「レオから学んだこの技……」
エンペラーオーガの正面で足を止め、今一度両手に力を込める。レオ、お前の技『麒麟駆け』……もらうぞ。
「連撃は進化する!!」
右手には白き雷を……左手には黒き雷を……敵を滅する白黒の連撃剣。
〈雷帝流 白黒雷多連斬撃・獄〉
殆ど適当。型も技もあったものじゃない。だが、俺は両刀を振るい、休む間もなくエンペラーオーガに剣を叩き込む。白と黒が入り混じり、目にも止まらぬスピードを生む。
「おらぁぁぁぁ!!」
テンペスターとシュデュンヤーを重ねた一太刀を最後に、俺の動きは止まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
まるで、世界の時が止まったように、俺の息以外の音が聞こえない。俺が駆け出してから一分も経っていない。
「ぐ……ぐは……」
バチバチと帯電しながらもエンペラーオーガは膝を付き、血反吐を吐く。対する俺も両剣の剣先を地面につけ、がっくりと膝を付く。
「やってくれるな……ガキ。今の連撃、針鼠男にも勝る威力であった」
頼むからこのまま倒れろ……
これ以上やるなら、あれを使わなくちゃいけない。
「だが……俺を倒すには至らない!!」
エンペラーオーガは立ち上がり、その大木の如し足で蹴りを放つ。
俺は胴をもろに蹴られ、肺から空気が漏れ、体は宙に浮き、弧を描きながら飛び、地面に落ちた。
「ぐ……ごほ……ごほっごほっ……」
何故だ。
俺の頭に浮かんだのは痛みや疲労よりも一つの疑問。
雷化・天装衣を発動している間は俺の体質そのものが雷へと変化している。自然の雷を掴めないように、今の俺を蹴るなんて事出来るはずがない。だが、今あいつは確実に俺を蹴り飛ばし、痛みを与えて来た。あいつが特殊なのか、俺の雷化に何かが起きているのか。
「少々妙な技を使っているようだが……無駄だ」
雷化・天装衣の物理無視が発動していないのは謎だが、今は考えている余裕がない。一瞬でも気を抜けばこいつには勝てない。
「やるしかない……」
今までの戦いではあえて使ってこなかったが、伝説級相手に悠長な事は言ってられない。まずは周りのホブやスペルを潰す!!
「開け!! 地獄の門よ。来い、地獄の狂気!」
〈等活地獄〉
右手のあざが黒き光を放ち、視界を黒く染める。
次第に光は弱くなり、再びエンペラーオーガやホブゴブリン、スペルゴブリンが何事も無いように現れる。
俺が味わってきた地獄の中で、等活地獄は最悪だった。比較的“痛み”を与えてくる地獄が多いのに対し、この地獄は変化球。自我を失い、敵味方の区別すら出来なくなる催眠地獄。
「お、おい! お前達、何をしている!」
ホブゴブリンはお互いに殴り合い、スペルゴブリンは無差別に火球を放つ。この地獄は仲間同士を殺し合わせる最悪の地獄。
「ぐのぅ! ガキめ!! なにをしたぁぁぁっっ!!」
「ちょっとした地獄巡りだ。お前もすぐに連れて行ってやるよ」
今日は魔力を使いっぱなしだ。残りの魔力的に次の門が最後になる。だが、同時に開ける地獄の門は一つまで。次の地獄を開けば、さっき開いた等活地獄の門は閉じ、ホブやスペルが意識を取り戻してしまう。なるべく時間を稼いで数を減らしたいところだが……
「おぉらぁぁ!!」
目の前にまで迫ったエンペラーオーガの巨拳が俺に向けて放たれる……が、巨拳は俺には当たらなかった。燃え盛る炎柱が俺の視界を覆い、エンペラーオーガとの間に立ち塞がる。
「な、なんだ……」
「大丈夫か! 雨刃さんと一緒にいた……ブロンズの!」
「あ、ああ……」
向かって右側から現れ、俺を助けてくれたのはフーバ・ガイエン。〈三首の鬼〉のリーダーで、メンバーのラフとドダラも居る。
「少し遅かったようですね。ランシエ」
「そーでもねーだろう。ブロンズの坊主が粘ってくれたお陰で」
フーバ達の近くから〈蒼紅の絁〉の二人も現れる。レオ達も加えればあの数のホブやスペルも相手に出来る。
「フーバ!」
「あぁ? なんだ!」
「俺がこのオーガをやるから、残ったホブゴブリンやスペルゴブリンを頼む!」
「……わかった! だがそのオーガ、ただのオーガじゃ……」
「頼んだぞ!」
俺は再び右手の甲に刻まれた地獄の鍵に魔力を集める。
八つある地獄の内、俺が開ける事が出来る地獄は七つ。最後の地獄である無限地獄だけは、俺じゃ開けない。
だが、その一つ下の地獄を開く事は出来る。その地獄はどんな強者でも耐える事の不可能な地獄。クリュが盗賊団を滅ぼし、俺がヴァントにてアンデットを全滅させた焦熱地獄の更に上の地獄だ。
「おのれ、ガキが……舐めた真似を!」
「行くぞ! エンペラーオーガ! ……開け! 地獄の門よ!! 来い……全てを燃やし、全てを溶かし、全てを退ける地獄究極の炎よ!」
〈大焦熱地獄〉
俺が右手を地面に叩きつけると同時に鉄の杭が地面、丁度エンペラーオーガの股下から突き出る。
鉄の棘は股から脳天に向けて一直線に伸び、エンペラーオーガを串刺しにする。
「まだ……だぞ……!」
続けてその鉄の棘を支柱とし、各方向に更に細かい棘が全身を突き破るように飛び出す。エンペラーオーガは内部から全身を貫かれ、その場に縛り付けられる。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、な、なんだこれは……」
「大焦熱地獄……でも、俺が味わったのとは少し違うな」
俺は自分が味わった大焦熱地獄を思い返しながら、そのおぞましさに思い出すのをやめる。
棘で串刺しにされたエンペラーオーガはそれだけでも死にそうであったが、大焦熱地獄は止まらない。足元から吹き出した黒い炎がエンペラーオーガを嬲る様に全身を這いずり回り、エンペラーオーガを焼く。
「う、ぐおぉぉ……うぐぁぁぁぁ……」
全身を這いずり回る黒炎にエンペラーオーガはなす術も無くただ焼かれる。
だから使いたくないんだよな、地獄の鍵。アンデッド相手ならまだしも、生身の生物相手ってなると……だが、一度出た黒炎は対象を焼き尽くすまでは止まらない。俺の意思でも。
次第にエンペラーオーガの皮膚は焼け焦げ、爛れて落ちていく。肉は焼け落ち、血は燃え尽き、骨は黒く炭化する。
「クソがァァァァァァ」
エンペラーオーガは最後の断末魔を残し、物言わぬ燃えカスと変わった。
「はぁ……はぁ……これで……良かったんだ……」
周りの状況も優勢だ。
大焦熱地獄の門を開いた事で等活地獄の効果は消えたが、ホブゴブリンやスペルゴブリンは正気を取り戻す前に半数がフーバや〈蒼紅の絁〉のベポやランシエによって倒された。
残る半数も現在掃討中だ。
「クロト……! クロト!!」
この声は……エヴァか? でも……俺はそろそろ限界だ。エヴァの声を最後に俺は気を失い、そのまま倒れた。
後は、任せた。
さっきまで天に向けて切り立っていた岩山は崩れ、ゴブリンの巣は潰れた。岩山があった場所の地面は沈下し、巨大なクレーターの様になっている。
所々から緑色の手や足が瓦礫から突き出している事からさっきまで居た空洞だと言う事は辛うじてわかるが、もはや原型は無く、素の中に居たゴブリン達がこれで全滅してしまったのではと思うほどだ。
「レオ! ディーナスやエヴァを頼むぞ」
「何をするんだ?」
「確認したいことがある!」
俺は沈下した地面を観察する。なぜいきなり……いや、おおよそ雨刃かリンが、またはあのオーガが何かしたんだろう。
ならあの二人は普通に考えればこの岩の下。仮にオーガの攻撃によるものだとしても、あの二人が黙って下敷きにされるとは考えにくいが、まさか……
「おいっ!! 雨刃!! リン!!」
声は反響するのみで返事は無い……いや、今俺の声に反応するように石ころが動いたような。
再びカタカタっと石ころが動き……クレーターの中心部分の瓦礫が飛び、下から手が突き出される。すぐにもう一方も手も地面から抜け、その上半身が露になる。
赤色の皮膚。人間ではありえない筋肉量。頭部の角は二本の内一本折れてしまっている。全身から血を流し、荒い息を吐いてはいるが未だ健在。皇帝鬼……伝説級に匹敵する化物。
「仕留め損なってるじゃねーか……雨刃!」
それだけじゃない。
エンペラーオーガを筆頭にホブやスペルも瓦礫の下から這い出てきている。
「やってくれたな、針鼠男……小鬼は全滅か。ホブも半数はやられたし、ロードも死んだな。スペルは何体か無事だが、数匹生き残ってても意味が無い」
エンペラーオーガは自分の周りにいるゴブリン達の総数を数えながら呟いている。
全身の傷は既に修復が始まり、少しずつ力を取り戻している。完全に取り戻す前に勝負を決めたい所だが……
「しかしまぁ、良いとするか。あの針鼠男の代わりがそこにいるからな」
エンペラーオーガはキッと俺を睨みつけニンマリと笑う。その瞬間俺の全身に恐怖が走る。これが、伝説級にも匹敵する魔物の威圧。
空洞の中で会った時は力も未知数で雨刃も居た。何よりここまで直接的な敵意を向けられたわけじゃなかった。
だが、今あいつは瓦礫の中から這い出てくるだけでなく、それをものともせずに次の獲物を狙っている。こいつは……今殺さなければ絶対に不味い!
〈雷術奥義 雷化・天装衣〉
雷化し、テンペスターとシュデュンヤーを抜く。そしてそれと同時に突進。加えてテンペスターに雷を纏わせ、赤巨鬼に穿つ。
〈雷帝流 雷撃一閃・突〉
一直線に放たれた雷はエンペラーオーガの腕に当たると爆散し全身に電流を流す。
ほんの一瞬……一秒にも満たない時間ではあったが、麻痺によりエンペラーオーガの動きを止めた。今の俺は雷そのもの。一秒もあれば、余裕であいつに一撃入れれる!!
〈神鳴術 神鳴放電砲〉
エンペラーオーガの背後に回り込み、シュデュンヤーとテンペスターから雷撃大砲以上の高電圧で雷を放つ。
雷は激しい音を立てながら爆発し、辺り一帯に静電気を撒き散らす。だが、これで安心は出来ない。この程度で倒れるなら、さっきの崩落で死んでいるし、雨刃達が仕留め損なうわけがない。
「連撃行くぞ!」
〈雷帝流 稲妻剣〉
〈雷帝流 雷鋼剣・獄〉
「まだまだ……」
〈黒帝流 剣狼〉
〈黒帝流 双剣狼〉
〈黒帝流 打上剣狼〉
エンペラーオーガの周りを回りながら俺が使える剣技を叩き込む。
「レオから学んだこの技……」
エンペラーオーガの正面で足を止め、今一度両手に力を込める。レオ、お前の技『麒麟駆け』……もらうぞ。
「連撃は進化する!!」
右手には白き雷を……左手には黒き雷を……敵を滅する白黒の連撃剣。
〈雷帝流 白黒雷多連斬撃・獄〉
殆ど適当。型も技もあったものじゃない。だが、俺は両刀を振るい、休む間もなくエンペラーオーガに剣を叩き込む。白と黒が入り混じり、目にも止まらぬスピードを生む。
「おらぁぁぁぁ!!」
テンペスターとシュデュンヤーを重ねた一太刀を最後に、俺の動きは止まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
まるで、世界の時が止まったように、俺の息以外の音が聞こえない。俺が駆け出してから一分も経っていない。
「ぐ……ぐは……」
バチバチと帯電しながらもエンペラーオーガは膝を付き、血反吐を吐く。対する俺も両剣の剣先を地面につけ、がっくりと膝を付く。
「やってくれるな……ガキ。今の連撃、針鼠男にも勝る威力であった」
頼むからこのまま倒れろ……
これ以上やるなら、あれを使わなくちゃいけない。
「だが……俺を倒すには至らない!!」
エンペラーオーガは立ち上がり、その大木の如し足で蹴りを放つ。
俺は胴をもろに蹴られ、肺から空気が漏れ、体は宙に浮き、弧を描きながら飛び、地面に落ちた。
「ぐ……ごほ……ごほっごほっ……」
何故だ。
俺の頭に浮かんだのは痛みや疲労よりも一つの疑問。
雷化・天装衣を発動している間は俺の体質そのものが雷へと変化している。自然の雷を掴めないように、今の俺を蹴るなんて事出来るはずがない。だが、今あいつは確実に俺を蹴り飛ばし、痛みを与えて来た。あいつが特殊なのか、俺の雷化に何かが起きているのか。
「少々妙な技を使っているようだが……無駄だ」
雷化・天装衣の物理無視が発動していないのは謎だが、今は考えている余裕がない。一瞬でも気を抜けばこいつには勝てない。
「やるしかない……」
今までの戦いではあえて使ってこなかったが、伝説級相手に悠長な事は言ってられない。まずは周りのホブやスペルを潰す!!
「開け!! 地獄の門よ。来い、地獄の狂気!」
〈等活地獄〉
右手のあざが黒き光を放ち、視界を黒く染める。
次第に光は弱くなり、再びエンペラーオーガやホブゴブリン、スペルゴブリンが何事も無いように現れる。
俺が味わってきた地獄の中で、等活地獄は最悪だった。比較的“痛み”を与えてくる地獄が多いのに対し、この地獄は変化球。自我を失い、敵味方の区別すら出来なくなる催眠地獄。
「お、おい! お前達、何をしている!」
ホブゴブリンはお互いに殴り合い、スペルゴブリンは無差別に火球を放つ。この地獄は仲間同士を殺し合わせる最悪の地獄。
「ぐのぅ! ガキめ!! なにをしたぁぁぁっっ!!」
「ちょっとした地獄巡りだ。お前もすぐに連れて行ってやるよ」
今日は魔力を使いっぱなしだ。残りの魔力的に次の門が最後になる。だが、同時に開ける地獄の門は一つまで。次の地獄を開けば、さっき開いた等活地獄の門は閉じ、ホブやスペルが意識を取り戻してしまう。なるべく時間を稼いで数を減らしたいところだが……
「おぉらぁぁ!!」
目の前にまで迫ったエンペラーオーガの巨拳が俺に向けて放たれる……が、巨拳は俺には当たらなかった。燃え盛る炎柱が俺の視界を覆い、エンペラーオーガとの間に立ち塞がる。
「な、なんだ……」
「大丈夫か! 雨刃さんと一緒にいた……ブロンズの!」
「あ、ああ……」
向かって右側から現れ、俺を助けてくれたのはフーバ・ガイエン。〈三首の鬼〉のリーダーで、メンバーのラフとドダラも居る。
「少し遅かったようですね。ランシエ」
「そーでもねーだろう。ブロンズの坊主が粘ってくれたお陰で」
フーバ達の近くから〈蒼紅の絁〉の二人も現れる。レオ達も加えればあの数のホブやスペルも相手に出来る。
「フーバ!」
「あぁ? なんだ!」
「俺がこのオーガをやるから、残ったホブゴブリンやスペルゴブリンを頼む!」
「……わかった! だがそのオーガ、ただのオーガじゃ……」
「頼んだぞ!」
俺は再び右手の甲に刻まれた地獄の鍵に魔力を集める。
八つある地獄の内、俺が開ける事が出来る地獄は七つ。最後の地獄である無限地獄だけは、俺じゃ開けない。
だが、その一つ下の地獄を開く事は出来る。その地獄はどんな強者でも耐える事の不可能な地獄。クリュが盗賊団を滅ぼし、俺がヴァントにてアンデットを全滅させた焦熱地獄の更に上の地獄だ。
「おのれ、ガキが……舐めた真似を!」
「行くぞ! エンペラーオーガ! ……開け! 地獄の門よ!! 来い……全てを燃やし、全てを溶かし、全てを退ける地獄究極の炎よ!」
〈大焦熱地獄〉
俺が右手を地面に叩きつけると同時に鉄の杭が地面、丁度エンペラーオーガの股下から突き出る。
鉄の棘は股から脳天に向けて一直線に伸び、エンペラーオーガを串刺しにする。
「まだ……だぞ……!」
続けてその鉄の棘を支柱とし、各方向に更に細かい棘が全身を突き破るように飛び出す。エンペラーオーガは内部から全身を貫かれ、その場に縛り付けられる。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、な、なんだこれは……」
「大焦熱地獄……でも、俺が味わったのとは少し違うな」
俺は自分が味わった大焦熱地獄を思い返しながら、そのおぞましさに思い出すのをやめる。
棘で串刺しにされたエンペラーオーガはそれだけでも死にそうであったが、大焦熱地獄は止まらない。足元から吹き出した黒い炎がエンペラーオーガを嬲る様に全身を這いずり回り、エンペラーオーガを焼く。
「う、ぐおぉぉ……うぐぁぁぁぁ……」
全身を這いずり回る黒炎にエンペラーオーガはなす術も無くただ焼かれる。
だから使いたくないんだよな、地獄の鍵。アンデッド相手ならまだしも、生身の生物相手ってなると……だが、一度出た黒炎は対象を焼き尽くすまでは止まらない。俺の意思でも。
次第にエンペラーオーガの皮膚は焼け焦げ、爛れて落ちていく。肉は焼け落ち、血は燃え尽き、骨は黒く炭化する。
「クソがァァァァァァ」
エンペラーオーガは最後の断末魔を残し、物言わぬ燃えカスと変わった。
「はぁ……はぁ……これで……良かったんだ……」
周りの状況も優勢だ。
大焦熱地獄の門を開いた事で等活地獄の効果は消えたが、ホブゴブリンやスペルゴブリンは正気を取り戻す前に半数がフーバや〈蒼紅の絁〉のベポやランシエによって倒された。
残る半数も現在掃討中だ。
「クロト……! クロト!!」
この声は……エヴァか? でも……俺はそろそろ限界だ。エヴァの声を最後に俺は気を失い、そのまま倒れた。
後は、任せた。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる