最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第四章 傷痕編

119話 拷問

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「んー……大丈夫かなぁ……」


 クエイターンに着いた翌日の朝。日が昇る少し前に俺達は二人一組に分かれて出発した。最後までリュウは恨めしそうにこっちを見ていたが、仕方がないんだ。
 現在は小さな森の中で一休みしている。エヴァもまだ復活したばかりで本調子とは言えないので、少しずつペースを上げていけばいいと、少しゆっくりめに動いている。


「どうしたの?」

「リュウとレオ、大丈夫かなと思って」

「レオは改めて言う必要ないけど、リュウだってああ見えて強いし、大丈夫だよ」

「うーん、それはそうだけどなぁ。だからこそ……ウェヌス盗賊団に手を出さなければいいんだけど」

「……確かに」


 それこそシエラとリンリは何事もなさそうなんだがなぁ……





「レ、レオ? どうしたのどうしたの!!」


 同じく森で休憩を取っていた……というよりリュウが無理矢理取らせた休憩中に突然レオが立ち上がり銀月を構えたのだ。
 辺りを探るように目を動かし、何かに警戒している。


「静かにしろ、居るぞ」

「居るってなにが……!?」


 リュウが叫んでいる途中にヒュっと空を切る音が聞こえ、リュウのすぐ隣の木に矢が刺さっていた。


「……矢……矢ぁ!?」

「来るぞ!」


 予言通り草むらや木の影から一斉に男女の集団が現れた。その数、十から二十前後。
 その中の三人の男が一斉にレオに斬りかかる。レオは特に驚く様子もなく静かに狙いを定めて……


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃とらぶり』〉


 見事に三人同時に斬り捨て、更には斬撃の衝撃波で周りをも威圧する。


「リョウ! 戦え! 死ぬぞ!」

「リュウだよ! 誰だよリョウって! あぁぁ!もう!」


竜鎧装りゅうがいそう 右腕アーム


 リュウも腹を括ったように右腕に鎧を纏う。
 一人の男が斬りつけてくるナイフをその腕でガード、そのまま払い除けて女が放った矢の軌道を腕でずらして避ける。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『狂乱の太刀』〉


 無差別に放たれた四つの斬撃が木の枝や地面を削り、前方に群がる奴らを牽制する。


「ぐへぁぁ」


 リュウの拳が男の顔面を捉え、そのまま投げ飛ばす。


「こ、こいつら……強い!」

「一旦退くぞ! ラファーム様に報告だ!」 


 勝ち目が薄いと悟ったか、襲撃者達は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。


「逃げるなら最初から来るな」

「でも……どうしよう? 顔とか見られてるよ。アレがウェヌス盗賊団だとしたら……」

「……追う」

「ま、待って! 支部に手を出せば本部が動くって……」

「クロトに伝えてくれ。『おれはウェヌス盗賊団と戦ってみたい。じゃあな』って」

「な、何言ってるんだよ お前それ自分が犠牲になるってことだぞ!」

「犠牲? 何言ってんだ。おれは強者と戦う為にここまで来たんだ。相手が国も手を出せないほどの盗賊団? 上等!」


 それだけ言い残し、レオは自分の荷物を担いで盗賊団が逃げた方に走っていった。


「あーー!!もう! クロトに怒られても知らないからな!」





「オラァ! 起きろ!」


 水を顔にかけられ、その冷たさにサエは目を覚ます。
 一番に目に入ってきたのはウェヌス盗賊団と思わしき若い男と、パンツェ達にラファームと呼ばれていた男。相変わらず葉巻をくわえており、サエを見て不敵に笑っている。
 周りを見ると、石レンガで出来た部屋で窓はない。サエ自身も天井から吊るされた鎖で手を拘束されている。両手を上げている形だ。


「こ、ここは……」

「ウェヌス盗賊団アルバレス支部アジト……俺様の城さ。プリティガール、ようこそ?」

「何が目的よ……なんで……なんでパンツェ達を使ってまで私を!」


 食って掛かるサエの頬をガシッと掴んで黙らせ、ラファームは静かに呟く。


「粋がっちゃぁいけないよ、プリティガール」


 強い力で抑えられ、拘束されており抵抗も出来ない。
 そしてラファームの恐怖を覚える程の笑みにサエは委縮し、潜在的に抱えている不安や恐怖が大きくなっていく。


「俺様がお前を連れてきたのはお前が俺様達ウェヌス盗賊団を狙っていたからだ。パンツェ達〈猿狩り〉は元々俺様と契約している冒険者パーティよ。稀に現れる自分の力量も弁えずに俺様達に逆らってくる自惚れたバカを狩るために、あの街に置いていた言わば刺客……危険の芽は若いうちから摘んでおく。いくら俺様達が強くたって敵を侮らないのが最強の秘訣だ」

「む……むぅ……」

「おっと、これじゃ喋れねぇか」


 ラファームは手を離し、サエの口を解放する。


「確かに私はウェヌス盗賊団に固執していた。でも今は違う!仲間が出来たから……」

「おやおやぁ? その“仲間”に拘束され、殴られたのをお忘れかぁ? プリティガール」

「…………」


 思い出したくない現実を突き付けられ、サエは思わず歯を食いしばりながら俯く。


「危険を排除するだけでなく、俺様の趣味も同時に兼ねるという賢い方法さ。プリティガール、君はもう助からない。諦めな」

「……趣味?」

「ふふふ、はははっ! 気になるかい? いいだろう! 教えてやる。君みたいな小娘に希望を与えて絶望に叩き落とす、そんな様を見ながら酒を飲む。それが俺様の趣味さ」

「…………ゲス野郎」

「一つ良い事を教えてやろう。あの時、お前達が我々に遭遇した時、パンツェがなぜ一度君を逃がしたと思う?」

「……」

「それはね、あの一連の中でお前の中に信頼や仲間への絆が一層大きくなっただろう? そしてラスカが矢に撃たれ、お前は混乱した。そこへ〈猿狩り〉の登場での安堵、そして裏切り……最高だろう? 希望が湧いただろう? その希望がバラバラに打ち砕かれただろう?」

「…………ッ」

「俺様はその絶望を肴に酒を飲む。特にプリティガールの様に気の強そうな女は楽しみ甲斐がある。せいぜい楽しませてくれよ?」


 ラファームは気持ち悪い程のニヤケ顔でサエを一瞥した後、近くの棚に入っている錠剤サイズの小さな魔石を取り出し、無理矢理サエの口に放り込む。
 口と鼻を塞がれ、不覚にもその魔石を飲んでしまったサエの体にすぐに変化が訪れる。


「な、なにこれ……体の中が……気持ち悪い」

「今の魔石はプリティガールの魔力の流れを掻き乱す魔石さ」


 ラファームは魔石を崇める様に掲げ、うっとりしながら見つめる。


『体に流れる魔力は魔術を使うだけだなく、人間の生命活動にも関与しているのではないか』


「昔の偉人が唱えた一説だ。……例えば痛み。人間の皮膚を叩くと、それなりの痛みはあるが、失神したり絶叫する程の痛みはないだろう。しかしそれは魔力が皮膚を防御しているからではないか……という説」

「な、何を言って……」

「その説が本当なのかどうか、それは未だ解明されてはいない……が、その説を後押しするようにこんな魔石が生まれた。今プリティガールが飲んだ魔石さ。魔力の流れを掻き乱し、痛みを数倍にまで引き上げる……いや、引き上げるというよりも本来の状態へ戻すと言った方が正しいか。その他にも生命活動に支障をきたらせる……表の世界では所持すらも禁忌に触れる。まぁ体験してもらう方が早い」


 話についていけないサエを他所にラファームは袖をまくり、サエに近づく。


「う……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ラファームの拳がサエの無防備な腹を躊躇なく殴る。ラスカの打撃に比べれば全く痛くない程度の威力だったが、今のサエには激痛。腹部から痛みが伝わり、全身が痺れ、痛みが駆け抜ける。


「ぐ……がぁッ!」


 そのまま拳を捻って腹に食い込ませる。本来なら痛くも何ともないだろうが、今のサエは吹く風すらも激痛に変わる。


「プリティガール……まだまだ壊れないでくれよ? 俺様の大事な“玩具”なんだから……」





 ウェヌス盗賊団アルバレス支部地下。
 サエが居た拷問部屋とは別の部屋。部屋というよりは廊下の壁に檻が埋め込まれているような形で、細長い部屋に牢屋がズラッと並んでいる。そんな牢屋の中には老若男女問わず多くの人間が入れられており、皆ウェヌス盗賊団討伐を目指した者や、過度に縄張りに近づきすぎた結果、ラファームの玩具にされている。
 そんな牢屋の一室に新しく入れられた少女、サエがいた。


「随分な姿になっちまったな」


 そこへ〈猿狩り〉のメンバー、エルデナがやってきた。普段持っている大剣を今は持っていない。
 一方サエは全身、服すらもボロボロで、現在も魔石の影響で全身に小さな痛みが走っている。うつ伏せに倒れ、起き上がる体力も気力もない。目からは無意識に涙が流れている。


「…………」

「あの強気な娘がここまでやられると、無惨なものだ。ラファーム様は容赦ねぇからな」

「……何しに来たの」


 乾ききった生気のない声でサエが尋ねる。


「……謝りたかったのと、感謝……をな」

「…………」

「お前から見れば俺達は酷い奴らだろう。なんせ最初から裏切るつもりでお前に近づいたわけだからな」


 サエの入っている牢屋、その正面の壁にもたれながら腰を下ろし、胡座をかきながら話を続けるエルデナ。サエはエルデナの方を見ようとするも、痛みに顔を歪める。


「ただ、俺達も心の底からお前を裏切りたいと思っていたわけじゃない、少なくとも俺はな。この前クレフィが話していた事を覚えてるか?」

「…………この、前?」

「俺達は元々五人のパーティだったんだ。そいつもお前に似てちっこいくせに生意気な奴で……パーティ名も違う名前で、心通った五人で次々と依頼を成功させていった」


 「今思えば有頂天になってたんだな」と、虚空を見つめながら思い出に耽るようにエルデナは呟く。


「そんな時、未だ誰も達成していない、それどころか受ける事すらしない依頼があると言う噂を聞いた。俺達の評判もそこそこで、渋々受理してもらった。それがお前が最初受けようとしていたウェヌス盗賊団討伐の依頼だ」

「……それって、もしかして」

「無理に喋らなくてもいいぞ、それだけでも痛いだろ」

「……なっ、ナメないで! この程度……っ」

「……話は戻すが案の定俺達は失敗した。あのラファームやオルセイン達を前に手も足も出なかった。何より数が違ったからな。そしてお前と同じようにここに連れてこられた。ちょうどその時は使える手駒を探していると言う事で俺達が選ばれたんだ。もちろん反発した。その結果、そいつは俺達の前で散々拷問にかけられたあと殺された。次にラスカが標的になったが、実際に拷問されるよりも前にパンツェが手駒になる事を了承した」


 エルデナの表情は苦痛そのもので、それがいかに不本意で、逃れようのない事だったのかを物語っている。


「パンツェの事を恨んではいない。仕方がない、パンツェはメンバーを守る為に最善の選択をした。恨む権利なんて、何もしなかった俺には無い……」


 サエは痛みの走る体を無理矢理起こし、エルデナと目を合わせる。


「俺自身、ラスカが無事ならそれでいい。ラスカはパンツェに懐いてるからな。パンツェがあっち側である限りは従うだろう。だから俺も諦めている。これから先この生活が大きく変わる事は無いだろうという事もわかっている。ただ、お前と過ごした数日間はあの頃に戻ったようだった。それだけ、礼を言いたくてな。……すまん、長話しちまった」

「……本当に、諦めてるの?」


 体中がプルプルと震え、声も震えている。
 希望も何もない地下牢の中で、完全に心が折れていたサエの目に僅かに光が宿る。エルデナの苦痛と、パンツェへ残る僅かな信頼が、再びサエの心を動かそうとしていた。


「ああ、そうだ。お前は諦めてなさそうだな」

「当たり、前よ……」


 不意に自分の体が支えられなくなり、再び仰向けに倒れる。その衝撃でまた痛みが走り、小さく呻く。サエは諦めていない。一度は諦め、絶望したが、彼女の性分がそれを許さない。自分が奪われたものを、踏みにじられたものを、そのままにしておく事を許さない。
 裏切られ、拷問にかけられ、全てが敵になったとしても、彼女の心は強く、強者で在ろうとする。


「最後まで諦めないところが、本当に似ている」

「何を話しているのですか?」


 そこへ、足音を響かせながらパンツェが現れる。普段の優しい雰囲気が少し残っているが、顔は険しい。エルデナもちらりと見るだけで振り向いたりはしない。


「なに、ここのルールを教えてやってたんだ。ところで次は?」

「ラファーム様が“上質な玩具”を連れてきた事で大変お喜びになり、暫くは休暇をとってもいいとおっしゃられました。暫くはここに滞在します」

「ほぅ、そうかい。じゃあ俺もゆっくりさせてもらうとするぜ」


 エルデナは立ち上がり、サエには一瞥もくれずに去っていった。エルデナに続くように去っていったパンツェは最後に憐れむような、悲しむような……そんな目をして去っていった。





「ここか……」


 レオとリュウがウェヌス盗賊団を撃退してから約半日。
 森の中にそびえる崖の前にレオは立っていた。特に休む事もせずに追ってきた為、疲労も溜まっているだろうが、そんな様子は全く見せない。
 崖をよく見ると所々切り取られたような綺麗な四角の穴があり、その中に部屋がある事がわかる。
 鬱蒼とした森の中心にそびえ立つ崖。その崖をくり抜くようにして作られたのがここ、ウェヌス盗賊団アルバレス支部だ。


「結局追いつけずにここまで来ちまった」


 一本の刀のみを腰に携え、レオはそこへ入っていく。
 森の中と入ってもその崖の正面は広場のようになっていて、正面から入ればすぐに中から気づかれてしまうだろう。


「……来たか」


 案の定崖の中から矢が飛び出し、レオのすぐ足元の地面に突き刺さる。


「出てこい! ウェヌス盗賊団! 全員おれがぶった斬ってやる……!」
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