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第五章 神威編
124話 カサドルを目指して
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夜。俺とエヴァは小さな森の近くで焚き火を囲み、進路を確認していた。
クエイターンを出発してはや三日。道中魔物との戦闘はあったが、盗賊団との遭遇はない。二人だけで身軽ということもあり、既にカサドルまでの道のりをもうあと一歩という距離まで進んでいる。
「みんな、順調かな」
昼間に狩ったはぐれのオークを火にかけながらエヴァが呟く。
今までずっと一緒に居ただけに、居ないのがまた新鮮なんだろう。三日前にクエイターンで別れたばかりとは言え、暫く会っていない気がするのは俺もそうだ。
「シエラ達は大きく迂回しながら領地の境に沿うように行くって言ってたからまだ遠いだろうな。レオとリュウは逆に最短距離の一番危険なルートだから、俺達よりも早く着いてるかもな」
実際、そのルートを通るのはやめろと言ったんだが……レオの勢いは止められない。おまけにあの二人は俺達六人の中でも特に強い。レオは勿論だが、リュウもあの臆病さが無ければレオといい勝負だろう。遭遇し、戦闘して勝利するところまでは良い。だが、もし目を付けられていたら、俺達もウェヌス盗賊団と真っ向から勝負する事になる。
「早く会いたいな~ あ、そうだ。新技の練習しよ!」
雰囲気が暗くなりそうだったのを察してか、雰囲気を変える様にエヴァが明るく提案する。
「ああ、言ってたやつか。よし、やるか!」
◇
「このルートだとあと二日はかかりそうですよ。もう三日は夜通し走ってますから、ある程度は時間短縮出来ているはずですが……」
「レオ達やクロト達のルートを考えると、わっちらが一番遅いでありんすね」
ゴンザレスとエリザベスが引く馬車に揺られながらシエラとリンリは夜間も進んでいた。
本来なら夜間こそ危ないのだが、アルバレス公爵領のギリギリを進んでいるのと、支部から大きく離れているおかげで多少の無茶が出来た。
一番安全であり、機動力を必要としないという観点からシエラとリンリが馬車を使って移動する事になっている。
「ゴンザレス、エリザベス。悪いでありんすが頑張りなんし」
休憩は何度か取っているが、それでも馬にとってはかなりの負担。ゴンザレスとエリザベスは不満げに嘶いたが、足を止めようとはしない。
一種の意地なのか、それとも信頼関係からなるのもなのか……とにかく足を進める。
◇
「……むぅ……はっ! ここは! グガー」
ウェヌス盗賊団アルバレス支部。
レオの攻撃によりアジトも壊滅的なダメージを受けたが、辛うじて無事な部屋でレオとリュウが眠っていた。
「あんなにボロボロなのに、すごい元気ね……」
二人が眠っている隣でサエは自分の怪我の具合を見ていた。
外傷は無かったものの、壮絶な痛みの記憶はすぐには消えず、現在は痛覚も通常に戻っているはずなのに、感覚的にはまだ痛い気がしてくる。とはいえ体も一時期に比べればかなり落ち着いた事で心の余裕は取り戻している。
「……ん、ここどこ……?」
さっきまで寝言を呟いていたリュウが上体を起こして目覚める。まだ寝ぼけている様子だが、正真正銘目が覚めたようだ。
「ウェヌス盗賊団のアジトよ。ていうかもう大丈夫なの? まだ夜が明けたぐらいよ」
「そんなに寝てたのか俺」
「あれだけ消耗してたわけだから、むしろ早すぎだと思うけど……」
サエが驚異の回復力に驚いている間もリュウは体の調子をみている。ある程度寝れば回復出来る生命力の高さがリュウの強みでもあり、その強みは当然この男も持っている。
「レオ……レオ! ……レオ!」
「…………」
「あ、強そうな奴が居た」
「何っ!?」
一向に起きる気配を見せなかったレオは、リュウのたった一言で飛び起きる。
「え、あんた達化物じゃないの」
「ん? おいリュウ、強いやつはどこだ」
「まぁまぁ、そんな事より……俺達気絶してたみたい。あのめちゃくちゃ強かったあいつにやられたんだ。もう二度と戦いたくねーよ……」
「……思い出した。あいつはまだこの辺にいるか?」
レオは両腕をグーパーグーパーしながら呟く。
「居ないよ。居たらこんな呑気に寝れないって」
「……チッ、全身いてーな」
「……むしろ痛いで済んでるのがおかしいのよ。普通もっと寝込むでしょ!」
「そう言えばリュウ、支部長はどうした?」
「多分死んでる。地下は崩れて瓦礫に沈んだから」
「そうか。大剣野郎が地下に少女が囚われてるとか言ってたが、それは?」
「そこに居るよ」
「ん……お前誰だ?」
今気づいたようにレオはサエを見る。
「え、今気づいたの?」
「お前があの大剣野郎が言ってたやつか」
「大剣野郎……エルデナの事!?」
「ああ?」
「エルデナ! その大剣使いの名前!」
「名前までは知らねーよ。まだその辺で伸びてるんじゃないか?」
それを聞くや否やサエは部屋を飛び出し、アジトを駆け下りていく。
「ところでレオ、どうするんだよ! 顔見られたどころか支部潰しちゃったぞ。本部来るよ……来ちゃうよ来ちゃうよ!!」
怒りに燃えていた頃とは打って変わって弱気に戻ったリュウが先の事を心配し、頭を抱える。
「本部も潰せば……」
「バカじゃないのぉ?? あのハザックとか言う奴にボコボコにされたばっかりでしょ!?」
「あの時は疲れてた」
「はぁ……とりあえずクロトと合流しようよ。戦うにしたって流石に二人じゃ無理だよ」
リュウがため息をつきながら呆れたように言う。ちょうどそこへサエが重い足取りで部屋へ戻ってくる。
「あ、何しに行ってたの?」
「エルデナ達が居るかと思って行ったんだけど、居なくなってた」
「やっぱり死んでなかったか」
「そうだ、サエちゃんだっけ? 改めて俺はリュウ、こっちはレオ。俺達、他にも仲間がいるから合流しようと思うんだけど、どうする?」
「……街までは同行させてもらうわ、でもそこまでね。私はもう仲間なんて信用しないし、要らないから」
「……? そっか、じゃあ出発しよう」
「ちょっと待て、修行したい」
「まずは二人共寝なさいよ!!」
◇
クロト達がクエイターンを出発してから四日後。
クロトペアは既にカサドルを捉えており、あと数時間もあれば到着するところまで来ていた。シエラペアも順調に進んで行き、カサドルまであと一日あれば到着するという所まで来ている。一方レオ、リュウ、サエは約半日をかけて体を回復させていた。
深夜、全快というわけではないがある程度の回復も済ませたレオ達三人はカサドルを目指してアジトを出発した。そして陽も高く昇った頃……
「ねぇ、ここどこかわかってる?」
三人はアジトを抜け、森の中を進んでいた。レオを先頭に迷いなく進み、カサドルを目指して黙々と歩く。
「いや?」
「リュウは?」
「さぁ?」
「迷ったのね」
「いや?」
「ははは、サエちゃん。いくらなんでも迷ってなんか……」
「いや、迷ってるわよ。だってもう何時間もこの森から抜け出せてないわ」
「サエちゃん。俺も実はレオと会ってそんなに時間は経ってないんだけど、レオは強いし何もかも規格外だから大丈夫だよ! ちょっと怖いけどね」
「任せとけ」
「過大評価だわ。こんな小さな森すら抜けれてないのに大丈夫なわけないじゃない!」
「いや?」
「あんたはさっきから同じ事ばっかりじゃない!」
「……おい、リュウ」
「……?」
「ちょっと空飛んでこい」
「やっぱ迷ってるんじゃない!!」
◇
「見えたな。あれがカサドルだ」
クロトペアは何度目かの丘を超えると、遂に街が目に入った。まだ距離はあるが、もうその姿を目に捉えている。
「……すごいね」
栄えた大きな街の向こう側には異常なほど大きな森が広がっている。木の高さが建物の約三倍まで成長し、黒い幹に深い緑色の葉がびっしりとついている為か、森はかなり暗い印象を受ける。
街と森の間に地面をせり上げて作った様な壁があり、森を大きく囲っている。
「あれって……フォルトゥレス!」
「フォルトゥレス?」
「アルバレス公爵領の名物の一つ。大魔森を大きく囲む巨大な壁で、大魔森から魔物が侵入してくるのを防いでるんだって」
「てことは……あの森が大魔森か。噂には聞いてたけど本当にでかい森だな」
「早く行こっ!」
「ああ」
◇
「おーい、なんか見えたかー?」
上空へ飛び上がり、周囲を見回しているリュウに下からレオが声をかける。サエは呆れて倒れた幹の上に腰掛けている。
「ずーっと遠くの方に街っぽいのが見える!」
一方向を指さしながらリュウも大声で答える。
「おい、行くぞ」
「……私が先頭歩くから、あんたは私に付いてきてくれる?」
「わかった」
◇
「でかい街だな」
大きいアーチ状の門をくぐると、セントレイシュタンやアイゼンウルブスと同じく綺麗な町並みが広がっていた。とはいえ雰囲気は今まで見てきた街とは少し違った。
商人が露店を広げているのは同じだが、置いている物が違う。専ら商人達が売っているのは武器や防具。それを見ている人達も冒険者のような格好をしている。
「カサドル……というかアルバレス公爵領の街は冒険者が多くて、自然と冒険者に需要がある物が多く並ぶんだね」
若干面白くなさそうな声色でエヴァが解説する。たしかにエヴァの好きそうな物はあまり並んでなさそうだ。
「予定通りなら明日にシエラ達が到着するはずだ」
「レオ達はもう着いてるはずだよね」
「とりあえず冒険者ギルドに行ってみるか。二人が居るかもしれない」
露店を見渡しつつ、街の奥へ入っていく。
売られているものは殆ど武器や防具で、見回しても店ごとに特に大差はなさそうな品揃えだ。立ち止まって見る程の店も見受けられない。質の高い武器屋を探してたんだが、残念ながら露店では期待できなさそうだ。
エヴァも興味なさそうに歩いているが、たまに装飾なんかが売られてると名残惜しそうに見つめている。
「ちょっと見ていくか?」
「見ていく」
声のトーンとは裏腹に顔を輝かせながらトコトコと走っていく。デートするにはこの場所はダメだな。
◇
「団長」
コムラ公爵領内には、支部とは別にウェヌス盗賊団の本部が存在する。地中に隠れたアジトで、コムラ公爵ですらその存在は把握出来ていない。そのアジトの中で最も深い場所、つまりは最奥部。団長である〈毒蛇〉のゼノン・ディリティリトと副団長である〈煌龍〉のハザック・エードラムしか入る事を許されていない部屋が存在する。
「アァ?」
紫色の髪を腰辺りまで伸ばした青年が石の玉座に腰掛けている。伸びた髪はボサボサで野性味に溢れている。そこにアルバレス公爵領にある支部へ行っていたハザックが帰ってきた。
「私です」
「ハザックか。なんだ?」
「アルバレス支部が落ちたようです」
「落ちただァ?」
ゼノンは少し身を乗り出し再度聞く。
「ええ、それにつられる様にエレノア支部も」
「やったのは誰だ?」
「エレノア支部は公爵のティアナ・エレノア率いる軍隊に。アルバレス支部は二人の男に」
ゼノンの指先からじわじわと粘液性の高い液体が染み出し、石の肘掛けを泡立たせながら侵食していく。
「待て待て、エレノアの方はまだしも、アルバレスはたかが二人にやられたのか?」
「支部長ラファーム、及び三剣獣を含めて全滅でした」
「……そうか。エレノアの方も報復が必要だが、それは後だ。先にその男達を探せ、オレが出る」
クエイターンを出発してはや三日。道中魔物との戦闘はあったが、盗賊団との遭遇はない。二人だけで身軽ということもあり、既にカサドルまでの道のりをもうあと一歩という距離まで進んでいる。
「みんな、順調かな」
昼間に狩ったはぐれのオークを火にかけながらエヴァが呟く。
今までずっと一緒に居ただけに、居ないのがまた新鮮なんだろう。三日前にクエイターンで別れたばかりとは言え、暫く会っていない気がするのは俺もそうだ。
「シエラ達は大きく迂回しながら領地の境に沿うように行くって言ってたからまだ遠いだろうな。レオとリュウは逆に最短距離の一番危険なルートだから、俺達よりも早く着いてるかもな」
実際、そのルートを通るのはやめろと言ったんだが……レオの勢いは止められない。おまけにあの二人は俺達六人の中でも特に強い。レオは勿論だが、リュウもあの臆病さが無ければレオといい勝負だろう。遭遇し、戦闘して勝利するところまでは良い。だが、もし目を付けられていたら、俺達もウェヌス盗賊団と真っ向から勝負する事になる。
「早く会いたいな~ あ、そうだ。新技の練習しよ!」
雰囲気が暗くなりそうだったのを察してか、雰囲気を変える様にエヴァが明るく提案する。
「ああ、言ってたやつか。よし、やるか!」
◇
「このルートだとあと二日はかかりそうですよ。もう三日は夜通し走ってますから、ある程度は時間短縮出来ているはずですが……」
「レオ達やクロト達のルートを考えると、わっちらが一番遅いでありんすね」
ゴンザレスとエリザベスが引く馬車に揺られながらシエラとリンリは夜間も進んでいた。
本来なら夜間こそ危ないのだが、アルバレス公爵領のギリギリを進んでいるのと、支部から大きく離れているおかげで多少の無茶が出来た。
一番安全であり、機動力を必要としないという観点からシエラとリンリが馬車を使って移動する事になっている。
「ゴンザレス、エリザベス。悪いでありんすが頑張りなんし」
休憩は何度か取っているが、それでも馬にとってはかなりの負担。ゴンザレスとエリザベスは不満げに嘶いたが、足を止めようとはしない。
一種の意地なのか、それとも信頼関係からなるのもなのか……とにかく足を進める。
◇
「……むぅ……はっ! ここは! グガー」
ウェヌス盗賊団アルバレス支部。
レオの攻撃によりアジトも壊滅的なダメージを受けたが、辛うじて無事な部屋でレオとリュウが眠っていた。
「あんなにボロボロなのに、すごい元気ね……」
二人が眠っている隣でサエは自分の怪我の具合を見ていた。
外傷は無かったものの、壮絶な痛みの記憶はすぐには消えず、現在は痛覚も通常に戻っているはずなのに、感覚的にはまだ痛い気がしてくる。とはいえ体も一時期に比べればかなり落ち着いた事で心の余裕は取り戻している。
「……ん、ここどこ……?」
さっきまで寝言を呟いていたリュウが上体を起こして目覚める。まだ寝ぼけている様子だが、正真正銘目が覚めたようだ。
「ウェヌス盗賊団のアジトよ。ていうかもう大丈夫なの? まだ夜が明けたぐらいよ」
「そんなに寝てたのか俺」
「あれだけ消耗してたわけだから、むしろ早すぎだと思うけど……」
サエが驚異の回復力に驚いている間もリュウは体の調子をみている。ある程度寝れば回復出来る生命力の高さがリュウの強みでもあり、その強みは当然この男も持っている。
「レオ……レオ! ……レオ!」
「…………」
「あ、強そうな奴が居た」
「何っ!?」
一向に起きる気配を見せなかったレオは、リュウのたった一言で飛び起きる。
「え、あんた達化物じゃないの」
「ん? おいリュウ、強いやつはどこだ」
「まぁまぁ、そんな事より……俺達気絶してたみたい。あのめちゃくちゃ強かったあいつにやられたんだ。もう二度と戦いたくねーよ……」
「……思い出した。あいつはまだこの辺にいるか?」
レオは両腕をグーパーグーパーしながら呟く。
「居ないよ。居たらこんな呑気に寝れないって」
「……チッ、全身いてーな」
「……むしろ痛いで済んでるのがおかしいのよ。普通もっと寝込むでしょ!」
「そう言えばリュウ、支部長はどうした?」
「多分死んでる。地下は崩れて瓦礫に沈んだから」
「そうか。大剣野郎が地下に少女が囚われてるとか言ってたが、それは?」
「そこに居るよ」
「ん……お前誰だ?」
今気づいたようにレオはサエを見る。
「え、今気づいたの?」
「お前があの大剣野郎が言ってたやつか」
「大剣野郎……エルデナの事!?」
「ああ?」
「エルデナ! その大剣使いの名前!」
「名前までは知らねーよ。まだその辺で伸びてるんじゃないか?」
それを聞くや否やサエは部屋を飛び出し、アジトを駆け下りていく。
「ところでレオ、どうするんだよ! 顔見られたどころか支部潰しちゃったぞ。本部来るよ……来ちゃうよ来ちゃうよ!!」
怒りに燃えていた頃とは打って変わって弱気に戻ったリュウが先の事を心配し、頭を抱える。
「本部も潰せば……」
「バカじゃないのぉ?? あのハザックとか言う奴にボコボコにされたばっかりでしょ!?」
「あの時は疲れてた」
「はぁ……とりあえずクロトと合流しようよ。戦うにしたって流石に二人じゃ無理だよ」
リュウがため息をつきながら呆れたように言う。ちょうどそこへサエが重い足取りで部屋へ戻ってくる。
「あ、何しに行ってたの?」
「エルデナ達が居るかと思って行ったんだけど、居なくなってた」
「やっぱり死んでなかったか」
「そうだ、サエちゃんだっけ? 改めて俺はリュウ、こっちはレオ。俺達、他にも仲間がいるから合流しようと思うんだけど、どうする?」
「……街までは同行させてもらうわ、でもそこまでね。私はもう仲間なんて信用しないし、要らないから」
「……? そっか、じゃあ出発しよう」
「ちょっと待て、修行したい」
「まずは二人共寝なさいよ!!」
◇
クロト達がクエイターンを出発してから四日後。
クロトペアは既にカサドルを捉えており、あと数時間もあれば到着するところまで来ていた。シエラペアも順調に進んで行き、カサドルまであと一日あれば到着するという所まで来ている。一方レオ、リュウ、サエは約半日をかけて体を回復させていた。
深夜、全快というわけではないがある程度の回復も済ませたレオ達三人はカサドルを目指してアジトを出発した。そして陽も高く昇った頃……
「ねぇ、ここどこかわかってる?」
三人はアジトを抜け、森の中を進んでいた。レオを先頭に迷いなく進み、カサドルを目指して黙々と歩く。
「いや?」
「リュウは?」
「さぁ?」
「迷ったのね」
「いや?」
「ははは、サエちゃん。いくらなんでも迷ってなんか……」
「いや、迷ってるわよ。だってもう何時間もこの森から抜け出せてないわ」
「サエちゃん。俺も実はレオと会ってそんなに時間は経ってないんだけど、レオは強いし何もかも規格外だから大丈夫だよ! ちょっと怖いけどね」
「任せとけ」
「過大評価だわ。こんな小さな森すら抜けれてないのに大丈夫なわけないじゃない!」
「いや?」
「あんたはさっきから同じ事ばっかりじゃない!」
「……おい、リュウ」
「……?」
「ちょっと空飛んでこい」
「やっぱ迷ってるんじゃない!!」
◇
「見えたな。あれがカサドルだ」
クロトペアは何度目かの丘を超えると、遂に街が目に入った。まだ距離はあるが、もうその姿を目に捉えている。
「……すごいね」
栄えた大きな街の向こう側には異常なほど大きな森が広がっている。木の高さが建物の約三倍まで成長し、黒い幹に深い緑色の葉がびっしりとついている為か、森はかなり暗い印象を受ける。
街と森の間に地面をせり上げて作った様な壁があり、森を大きく囲っている。
「あれって……フォルトゥレス!」
「フォルトゥレス?」
「アルバレス公爵領の名物の一つ。大魔森を大きく囲む巨大な壁で、大魔森から魔物が侵入してくるのを防いでるんだって」
「てことは……あの森が大魔森か。噂には聞いてたけど本当にでかい森だな」
「早く行こっ!」
「ああ」
◇
「おーい、なんか見えたかー?」
上空へ飛び上がり、周囲を見回しているリュウに下からレオが声をかける。サエは呆れて倒れた幹の上に腰掛けている。
「ずーっと遠くの方に街っぽいのが見える!」
一方向を指さしながらリュウも大声で答える。
「おい、行くぞ」
「……私が先頭歩くから、あんたは私に付いてきてくれる?」
「わかった」
◇
「でかい街だな」
大きいアーチ状の門をくぐると、セントレイシュタンやアイゼンウルブスと同じく綺麗な町並みが広がっていた。とはいえ雰囲気は今まで見てきた街とは少し違った。
商人が露店を広げているのは同じだが、置いている物が違う。専ら商人達が売っているのは武器や防具。それを見ている人達も冒険者のような格好をしている。
「カサドル……というかアルバレス公爵領の街は冒険者が多くて、自然と冒険者に需要がある物が多く並ぶんだね」
若干面白くなさそうな声色でエヴァが解説する。たしかにエヴァの好きそうな物はあまり並んでなさそうだ。
「予定通りなら明日にシエラ達が到着するはずだ」
「レオ達はもう着いてるはずだよね」
「とりあえず冒険者ギルドに行ってみるか。二人が居るかもしれない」
露店を見渡しつつ、街の奥へ入っていく。
売られているものは殆ど武器や防具で、見回しても店ごとに特に大差はなさそうな品揃えだ。立ち止まって見る程の店も見受けられない。質の高い武器屋を探してたんだが、残念ながら露店では期待できなさそうだ。
エヴァも興味なさそうに歩いているが、たまに装飾なんかが売られてると名残惜しそうに見つめている。
「ちょっと見ていくか?」
「見ていく」
声のトーンとは裏腹に顔を輝かせながらトコトコと走っていく。デートするにはこの場所はダメだな。
◇
「団長」
コムラ公爵領内には、支部とは別にウェヌス盗賊団の本部が存在する。地中に隠れたアジトで、コムラ公爵ですらその存在は把握出来ていない。そのアジトの中で最も深い場所、つまりは最奥部。団長である〈毒蛇〉のゼノン・ディリティリトと副団長である〈煌龍〉のハザック・エードラムしか入る事を許されていない部屋が存在する。
「アァ?」
紫色の髪を腰辺りまで伸ばした青年が石の玉座に腰掛けている。伸びた髪はボサボサで野性味に溢れている。そこにアルバレス公爵領にある支部へ行っていたハザックが帰ってきた。
「私です」
「ハザックか。なんだ?」
「アルバレス支部が落ちたようです」
「落ちただァ?」
ゼノンは少し身を乗り出し再度聞く。
「ええ、それにつられる様にエレノア支部も」
「やったのは誰だ?」
「エレノア支部は公爵のティアナ・エレノア率いる軍隊に。アルバレス支部は二人の男に」
ゼノンの指先からじわじわと粘液性の高い液体が染み出し、石の肘掛けを泡立たせながら侵食していく。
「待て待て、エレノアの方はまだしも、アルバレスはたかが二人にやられたのか?」
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