最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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最終章 戦争編

192話 最悪の再会

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「もし相手がこの戦争・・・・で望む結果が俺達の全滅ではなく帝国の陥落だとしたら……?」

「私達を倒す事が目的じゃないって事?」

「いや、当然こちらの人数を減らすのは目的に含まれてるだろうが、全滅までは望んでいない。それよりも遂行したい目的があるのだとしたら」

「私達が数人残ってても、帝国の機能が停止してれば後からでも全滅は容易……て事は向こうは確実にこっちの頭を取りたい」

「アンデッドや魔物の軍隊で騎士団や兵士をここに釘付けにし、デルダインと言う最強の札を切る事で俺達すらもここに足止めしている。その隙にあいつらはいくらでも王を取れる」


 俺の予想が的中したことを知らせるように俺達の頭上を巨大な生物が通り過ぎ、そのまま城下街を素通りして城へ向かっていく。
 慌てて見上げれば、巨大な翼と尻尾を持つ生物が突風を巻き起こしながら翼をはためかせて飛んでいる。
 ドラゴン。しかも、グラキエースドラゴンよりも一回りは大きいし、確実に強い。そして一瞬ではあるがその背に数人の人影が見えた。


「やっぱりそう言う事か!」


 突然現れたドラゴンに動揺が広がるが、それ以上に軍隊を抑え込むのに必死だ。城に居る戦力は近衛兵とリュウ、サエ、サーキン。誰が乗っているかまでは確認出来なかったが、少なくともジガルゼルドは居るだろう。戦力で言うと少し不安だ。ジガルゼルド一人でも俺とエヴァの全力を意にも介さなかった。


「クロトッ!」

「レオか、どうした!」


 レオが一気に数十の敵を斬り捨てて、振り返りながら俺に声を掛けてくる。


「エヴァリオンと城に向かえ! どうもおれ達はそっちに行く余裕はなさそうだ」


 見れば、敵の軍団の上空にはもう一体のドラゴンが飛翔している。こちらは骨や腐肉を纏ったドラゴンで、先程のドラゴンよりはいくらか小さい。そしてその足元から、見知った顔がいくつか見える。
 四魔王のアリス、リヴァ、それに厄災フランケンポール。その他にも魔族の姿がいくつか確認出来る。


「ここは私達に任せて下さい」

「すぐに加勢に行きなんし!」

「……わかった。ここは任せるぞ」


 仲間達にこの場を任せ、俺はエヴァを抱えて城に向けて一気に飛ぶ。雷の移動法を使えばすぐに城までたどり着ける。だが、ドラゴンは既に城に到達し、その巨体をぶつける事で城を破壊して内部に体半分を突っ込んでいる。中の人も城も無事じゃないが、全滅するような被害でもない。せいぜい半壊。リュウ達なら絶対に無事だ。


「エヴァ、きっとあそこに大魔人……ジガルゼルドが居る」

「うん、それ以外にも何人かいたよね。そっちは私が何とかして見せるから、任せて」

「ああ、頼むぞ」





「何!? 急に城がめっちゃ揺れたわよ」

「この匂い……七色の竜だ」

「それってあんたが探してるやつ?」

「そう!」


 城に待機する事になっていたリュウ、サエ、サーキン、ライラックはドラゴンの衝突で城が半壊した衝撃で異常事態を察知していた。


「どうやら相手は城門からこの城に侵入してくるのではなく、空路を用いて直接城に乗り込んできたようですね」

「誰よ、城門さえ守ってれば絶対大丈夫なんて言ったのは!」

「……ごめんなさい」

「皆さん、すぐに上に向かいましょう。恐らく相手は玉座の間に……」


 サエがぽかぽかと若干の場違いな効果音を出しながらリュウを責める横で、ライラックが冷静に先導する。
 それと同時に雷が落ちるような衝撃と音で何かが飛来し、砂埃を巻き起こす。その砂埃を払いながら現れた二人を見て、一同少しホッとする様な表情を見せる。


「あれ、なんでみんなこんなところに居るの? 上はどうなってるの?」


 飛来した二人、クロトとエヴァが不思議そうに四人を見る。対する四人も、不思議そうにクロト達を見ている。


「なんでこんなところに居るの? はこっちの台詞よ! 二人こそどうしたのよ。さっき城外に出て行ったばっかりじゃない!」

「大魔人を乗せたでかいドラゴンが城に直撃した。向こうは他の皆に任せてこっちに来たんだ」

「そう。私達も丁度向かおうとしてた所よ!」


 何故そんなに自信満々なのかはわからないが、クロトの言葉にサエも応える。そして何故か右手だけはリュウをぽかぽかと叩いている。


「ともかく急ぎましょう。上に居るのは大魔人で間違いないのでしょう? 私達で太刀打ち出来るか不安な所でしたが、クロト殿らが来てくれたのであればそれも問題ないでしょうし、急がなければ相手が何を企んでいるのか」

「そうだ、すぐに上へ行くぞ」


 クロトとエヴァが走り出し、四人もその後に続く。


「相手の企みに心当たりがあるので?」


 階段を駆け上り、廊下を置き去りにしながらサーキンが尋ねる。
 因みにクロト、エヴァ、サーキン、そして竜鎧装を発動させたリュウの速度に追いつけない為、サエはリュウに、ライラックはサーキンに担がれて高速で玉座の間に向かっている。


「あいつらは派手に宣戦布告をした事で目的を俺達人類の絶滅だと錯覚させた。だが、真の目的はエルトリア帝国の陥落。もっと具体的に言えば王族の全滅だ」

「そんな事して何になるの? 状況が変わるようには……」

「馬鹿ね! それは……馬鹿ね!」

「サエちゃんもわかってないんじゃん……」

「なるほど、国が国としての機能を失えばこちらは大混乱。魔族との戦争なんて言ってられなくなりますね」

「統治を失った帝国が再起するまでにはかなり時間がかかるはずだ。そして再起する前に俺達は魔族の強襲でやられる。今回の戦争もこの戦力が集められたのは結局のところ帝国があったからこそだ。帝国が陥落すればここまでまとまった戦力はもう集まらない。仮に俺達だけが団結してもこの物量で攻められればどうする事も出来ない」

「なるほど、相手は最初からこちらを全滅させるよりも確実な勝ちの道を見据えていたわけですね」


 そうこう話しているうちに玉座の間の扉の前に到達する。ここに来るまでにも多くの近衛兵が倒れていたが、玉座の間を守っていた近衛兵は先程の衝撃で殆ど倒れている。もはや戦力には期待出来ない。ここに居る六人が最後の砦だろう。


「行くぞッ!」


 扉を蹴り破ると、数日前に来た頃とは打って変わって、豪華なシャンデリアではなく半壊した天井から空が出迎える。まず目が行くのが巨大なドラゴンの顔。ここから見えるのは肩辺りから頭部までで、本体の大きさはその数倍あるのだろう。
 そして次に目が行くのが正面に倒れた玉座と一人の男。そしてその男に首根っこを掴まれ、足掻いているもう一人の男。大魔人ジガルゼルドと皇帝だ。


「クロト!」

「わかってる……」


〈雷術 雷槍〉


 すぐにジガルゼルドを照準し、雷槍を放つ。雷槍の速度は雷と同等。故に数秒と掛からずにその距離を詰めてジガルゼルドへと届く。そのはずだった。
 だが、雷槍は横から噴射された爆炎によって防がれ、爆発を伴って消える。邪魔をしたのはドラゴンの近くで立っていたフードを深く被った魔族だ。これまで殆ど姿を見せてこなかった四人目の四魔王。下で姿を見てないとは思ったが、ジガルゼルドの側近をしていたのか。


「これは……」


 サーキンは言葉を無くすのもわかる。玉座の間は赤を基調とした装飾で記憶に残って居るが、この場に関しては別の赤が嫌と言うほどこの玉座の間を彩っている。
 ジガルゼルドに首を掴まれ藻掻いている皇帝はまだ生きているだろう。しかし、皇帝を守る為に配置されていた近衛兵達は、至る所で致死量の血を流しながら倒れている。
 皇帝とジガルゼルドの近くには腰を抜かした大臣。そして俺の眼前には、見覚えのあるブロンド色の髪の青年が倒れている。


「……ライラック」

「わかってます」


 すぐにライラックが治療しようと駆け寄る。


「……駄目だわ。死んでる」


 ライラックは首を横に振りながら俺を見上げて言う。


「イーニアス……」


 将来はこの帝国を背負って立つ皇帝となるはずだった男。正直、学園での思い出は最悪なものだったが、目の前で死んでいるのを見ると、素直に流せない自分も居る。イーニアスを護衛していたパトリック達も見当たらないが、この部屋の半分は瓦礫の山に埋もれている。死体を発見する事さえこの状況じゃ厳しい。
 少なくともこの部屋で生きているのは皇帝と大臣だけだろう。敵は大魔人ジガルゼルドに四人目の四魔王。後は以前捕らえ、デルダインによって取り返された〈色彩魔女〉ラプツェラ。そして巨大なドラゴン。


「来るのが遅かったな? クロト・アルフガルノ」

「ようやく直接戦えるな、大魔人」

「クロト、待って!」


 無意識のうちに一歩二歩と前に進んでいた俺を、エヴァが腕を掴んで止める。ジガルゼルドと俺の間には最後の魔王が立ち塞がっている。どちらにせよあいつを倒さないとジガルゼルドとは戦えないんだろう。


「ジガルゼルド様、クロトは俺が貰ってもいいですか?」

「元よりその予定だ。だが少し待て」


 ジガルゼルドが少し腕に力を入れると、皇帝が声にならない悲鳴をあげながらピクリとも動かなくなる。その瞬間に俺達の負けが確定した。国は機能を失う。エルトリア帝国が陥落し、魔族と戦う準備を整える時間は最早無い。
 この戦争に勝つには、ここで大魔人を確実に殺さなければならない。


「さて、これで心置きなく……」

「ヴァ、ヴァールハイト様! いや、大魔人ジガルゼルド様! 約束通り貴方に協力しました! この私を王にしてくれると……」


 ブルックス大臣がジガルゼルドに縋る様に這い寄ると、まるでゴミを見るような目でブルックスを見つめる。話の内容から察するにヴァールハイトだった時に動きやすいよう大臣ブルックスを懐柔していたのだろう。


「ああ。王でも何でも、勝手になると良い。……死者の世界のな」


 最早殺しに全く躊躇の無い動作で、虫でも払うように腕を払う。途端にブルックスがもがき苦しみ、大量の鮮血を噴き出しながら地面をのた打ち回って絶命する。正直、イザベラさんの事もあっていずれはこの手でと思っていた相手なだけに、何の感傷も生まれてこない。だが、そうだとしても、決していい気分にはなれない。


「さて、待たせた。そして想像通り、お前が私の最後の敵になったな。クロト」

「エルトリア帝国の機能を停止させるのがお前達の狙い……気づきはしたが阻止出来なかった」

「悔やむ事は無い。むしろここでお前達が私を殺さなければならない理由が増えただろう? 全力で殺し合おうじゃないか」

「ああ、今すぐ殺してやるよ」


 俺が歩みを進めると、それに合わせて最後の魔王が立ち塞がる。先程の言葉通り、こいつは俺と戦いたいのだろう。


「クロトはくれてやる。存分に再会を楽しむと良い」

「ありがとうございます……」

「誰だか知らんが、どけよ。用があるのは後ろの男だけだ」

「あんまりじゃないか、クロト。実に五年ぶりの再会だというのに」


 魔王がフードを脱ぎ、その顔を晒す。顔の左半分に大きな火傷の後が広がっているが、見覚えのある顔だった。だが、俺の理性が違うと吠える。吠えてはいるが、心のどこかでは理解している。その顔を視認した途端、俺は目が離せなかった。死んだはずのその男の顔に。


「リ……ック……なのか……?」
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