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最終章 戦争編
210話 私の仲間
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〈至天破邪剣征流奥義 突破の型 『神薙麒麟暴』〉
レオの全身全霊を賭けた一撃が永竜に炸裂する。
数十にも及ぶ斬撃は自慢の鱗が弾いていてくれたが、それも長くは続かず、嵐のような斬撃を受けて鱗は砕け散り、赤い血が噴き出す。元々、レオとナイアリスは首の一点のみを攻撃し続けており、頑丈な鱗も連撃を受けて脆くなっていたのだ。
しかし、レオの猛攻は当然それでは終わらない。永竜が反撃しないのを良い事にレオの斬撃は肉を抉り、首を断ち切ってしまうのではと思えるほどの激しさだ。
「ちッ、ここまでか」
しかし、その巨体故に、首に攻撃を仕掛けられる時間は限られている。レオの体が落下を始めると同時に斬撃は止み、首に深すぎる傷を負った永竜は痛みに悶えている。
「とどめはお前だろ」
いつの間にか永竜と取っ組み合っていたはずのリュウの巨体が無くなっており、はるか上空で人型に戻って槍を構えている。レオの連撃とサエの拘束。それらがリュウが動く一瞬の隙を作り出した。
リュウは一点に狙いを定めて一気に急降下。勢いを落とす事無くレオが作った傷を突き刺し、その勢い故か、リュウは体ごと永竜の中へと浸食し、直後に反対側の首から皮膚を突き破って出現する。
永竜は完全に首を槍で貫通され、いくら厄災の竜と言えど、こうなってしまえば勝負は決まっただろう。
「……やった、良かった……はっ! リュウ、何喜んでんのよ! こんなの当たり前でしょ!」
空中でガッツポーズをしているリュウを安心した、それでいて泣きそうな表情で見つめていたサエが、レオとナイアリスに横目で見られているのを感じて態度を一変させる。
だが、「トーゼンでしょ! トーゼン!」と叫びながらも、サエの表情は喜色満面の笑みだった。
「これで主要な奴は全員倒したのか?」
「もうアンデットも動いてないわ! リヴァも討たれたのね。じゃあ、後は……」
四人は無言で城の方を見つめる。そこで行われているであろう大魔人とクロトの戦いに想いを馳せる。
◇
「クロト! エヴァ!」
シエラとリンリが玉座の間に到着し、周囲の状況を把握しようと試みる。まず目に入るのはクロト。氷の塊の前でまるで生気が抜けた抜け殻の様に全く動きが無い。そしてそれを見下ろしているジガルゼルド。片腕を失い、もう片腕は血で真っ赤に染まっている。それを視界に捉えると同時にシエラは何をすべきかを理解し、後ろについてきているリンリの方を向く。
「リンリ!」
「わかってる!」
〈焔鱗〉
〈我流奥義・改 竜舞ノ太刀〉
リンリはすぐにシエラの意図を理解し、切り札でもある〈焔鱗〉を発動させ、炎を振り回してジガルゼルドに斬りかかる。ジガルゼルドは詰まらなさそうな表情で、まるで当たり前だと言わんばかりに素手でそれを受け止める。が、リンリの暴力的なまでの炎舞と気迫に一歩、また一歩と徐々に後退していく。
その隙にシエラはクロトに駆け寄り、様子を見る。最初はクロトはジガルゼルドの攻撃を受けたのかと思ったが、すぐにクロトの生気が抜けている理由を理解して動けなくなる。氷塊の前で生気を失ったクロトが虚ろな目で見ている先、氷塊の中にはエヴァが居た。胸部が赤く染まっており、素人が見ても大怪我だと理解出来る。更に医術をかじっているシエラならばすぐにそれがもはや助かりようのない致命傷だという事もわかる。
「クロト! 状況を教えなんし!」
シエラが揺さぶる様にクロトに話しかけるが、最早テンペスターを握る気力も無いのか、揺さぶった振動でテンペスターがクロトの手から落ちる。カランという乾いた音だけが虚しく玉座の間に響く。
「エヴァは……死んだ……」
少ない情報の中から、あのジガルゼルドの腕に付着した血はエヴァのものだろうとシエラは素早く理解する。更には傷からして心臓を一突き。間違いなく致命傷のはずだ。だが、氷の中では詳しい状況を完璧に知り得ることは出来ない為、望みを完全に捨てるわけにもいかない。そもそもなぜ氷の中に居るのか。氷はエヴァの術。つまりはエヴァ自身が氷の中に自らを封じ込めたという事になる。
「氷の中に自分を閉じ込める意味。そもそも即死なら氷結の余裕は無い。……仮にこの氷結が傷口を塞いでいるとしたら? 体内の血すらも完全に凍らせれば出血多量で死ぬ事は無い。でも、確実に仮死状態に陥って……仮死? だったら! ……クロト! エヴァはまだ……」
シエラが自分の思考を整理して言い聞かせるように口に出して考えをまとめる。そしてクロトに自分の仮説を説明しようとしたその時、シエラの言葉を掻き消すようにリンリが吹き飛んで来る。この短い攻防の中でもジガルゼルドに手も足も出なかったのか、かなりのダメージを受けている。それでも、血反吐を吐きながらなんとか立ち上がろうと藻掻いている。
リンリの攻撃はジガルゼルドに片手で完封され、更には単純な体術で簡単にあしらわれる。それはシエラが加勢しても同じことだ。リンリがジガルゼルドを少しでも足止めしてくれている間に、クロトの戦意を復活させる。それだけがジガルゼルドに勝てる唯一の希望、ひいてはこの戦争に勝利する唯一の突破口なのだ。
「リンリ! 大丈夫でありんすか?」
「う、うん……それよりクロトさんとエヴァさんは……」
「わっちが何とかしてみるでありんす。もう少しだけ時間を……」
「わかってる。任せて」
再びリンリが奮い立ち、ジガルゼルドに向かっていく。そんな中、サーキンの回復を終えたライラックが異常事態を感じ取ってシエラの元に現れる。
「これはどういう?」
「丁度いい所に来てくれんした。手伝いなんし。今エヴァは……」
「なるほど、わかったよ。私の力が必要なんだね」
シエラが説明するよりも早くライラックはエヴァを包む氷塊に駆け寄る。この状況とクロトの様子。そしてシエラがライラックを指名した事。それだけで自分の力でこの状況を打開出来るのだと理解したのだ。
「話が早くて助かりんす。……クロト! エヴァは死んではいんせん。それどころか生きる為にこうして戦っているでありんす。エヴァは必ずわっちらが助けるでありんす。だからあいつを、ジガルゼルドを倒しなんし!」
「エヴァが……?」
クロトの目に僅かに生気が戻るのを感じ、シエラは力強く頷く。
シエラはこの二人をずっと近くで見て来た。だからこそ、クロトとエヴァが強い絆で結ばれ、お互いを強く必要としながら支え合っているのを嫌と言うほど理解している。もしも片方が欠けてしまったら、もう片方も簡単に瓦解するのが目に見えている。だからこそ、ここでエヴァを救う事が、この戦争に勝つ事にも、クロトを救う事にも繋がる。戦闘の面ではジガルゼルドが相手じゃシエラはきっと役に立てない。だから、ここがシエラの戦場なのだ。
「エヴァは必ずわっちらが助けんす! だからあいつに勝って!」
「……ああ!」
◇
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
激流を纏った剣技がジガルゼルドに肉薄するが、炎剣と同じくジガルゼルドに傷一つ付ける事すら出来ない。それはリンリの攻撃が弱いわけではない。純粋にジガルゼルドの肉体の強度と、魔力による鎧が硬すぎるのだ。
クロトの〈赤雷一閃〉級の爆発力が無ければ傷付ける事すら叶わない。
〈我流奥義 白虎ノ太刀〉
器用に水流と火炎を切り替え、ジガルゼルドに温度差攻撃を仕掛けていく。いずれもジガルゼルドに傷一つ付けることすら叶わず、更に速度を速めても当然の様に捌かれる。
リンリの攻撃ではジガルゼルドの肉体の強度を破れない。リンリの最高速度ではジガルゼルドの動体視力を振り切れない。加えてリンリの体力もそう多くは残っていない。アリスとの戦いでかなり消耗した後、休む間もなくここまで来ている。当然奥義級の技を連発すればそれだけリンリの戦える時間も短くなってしまう。
「単調な攻撃だ」
「意外なのがお好みならこれでもどうぞ……!」
〈我流 麒麟ノ太刀〉
「フッ、話にならん」
レオの〈神薙麒麟暴〉を模した技で、複数の斬撃で斬りかかるも、完全に見切られていては効果は薄い。そもそも射程範囲から一瞬で抜けられるジガルゼルドに攻撃を当てる事すら難易度が高い。
リンリとしても、ジガルゼルドに通用しない技を無駄打ちする事は出来ない。だからこそ奥義級の技を連続で使用したわけだが、リンリのこれまでの勝利に貢献してきた〈竜舞ノ太刀〉、〈時雨ノ太刀〉、〈白虎ノ太刀〉が揃って効果無しともなれば、リンリの勝率は限りなく低くなる。
「時間稼ぎをして何になる? お前程度の力では私を倒す事は出来ない」
「……ってます」
「……?」
「そんな事はわかってます。この部屋に飛び込んだ時点で状況は私でも理解出来ました。でも、私はただの時間稼ぎで良いんです。私がここで粘れば粘るほど、下の戦場で私の仲間が勝つまでの時間を稼げます。私の仲間は皆強くて、元は敵だった私にも優しい人達ばっかりで……そんな人達相手に、貴方は一人で戦わなければならない! 後で必ず皆が勝ってくれると思えば、私は敵わない相手にだって立ち向かっていける……!」
「……そうか、つまらん奴だな」
ジガルゼルドは受け一辺倒なのはここまでだと言わんばかりに拳を握り、リンリへ肉薄する。と同時にリンリは炎剣を地面に叩きつける事で炎を膨張。その一瞬の隙に後方まで下がってジガルゼルドの拳から逃れる。
「エンリ、これが最後になっても良い……だから、力を貸して。仲間を守る為に……もう誰も失わない為にッ!」
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
再び炎が消え、水流を纏う。もう体力的にも技を出せるのはこれが最後になってしまうだろう。ジガルゼルドが攻勢に出た以上、これ以上食い止めるのももはや無理だ。その悟りから最後の全身全霊を賭けて最後の攻防を仕掛ける。
「炎の魔剣とその水流。……そうか、お前はアリスが気まぐれで奴隷にした双子の片割れか」
「……ッ!」
リンリの猛攻を捌きながらも、ジガルゼルドが口を開く。
リンリの事はアリスの報告でジガルゼルドも当然知っている。事実としてエンリとリンリを始末するように言ったのもジガルゼルドだ。その事にジガルゼルドの方から触れてこられ、リンリの表情が険しくなる。
「アリスの報告では両方殺したと聞いていたが、なるほど、情が移って妹の方だけでも逃がしたか」
「黙れ……!」
リンリの丁寧な剣の軌跡が突然乱れ、直線的な剣へと変化する。心の動揺を抑えきれるほど、リンリの精神は成熟していない。
「はははッ! その水剣は姉の忘れ形見か? いつまでも未練がましいものだ」
「黙れ!!」
リンリのコントロールが鈍り、炎と水の入り混じった魔剣が誕生する。因果関係にある属性を組み合わせる事は、イメルガとソレメガの様に爆発的な威力を生み出す。しかし、それは両方の属性が、もう片方の属性に負けないように出力を上げ続けるからこそ可能なだけで、今のリンリの様に調整に失敗しただけでは半端な力しか生まれない。
「全く……半端な力でえらい所まで来てしまったな。あの時姉と一緒に死んでおくのがお前にとっても幸せだっただろうに」
「エンリを殺した事は……絶対に許しません。死んでおいた方が幸せだったのかどうか、それも生き残ってしまった私にはわかりません。でも……生き残ったからには! エンリが生きれなかった分も、私はこの人生を完遂します。エンリが見れなかった分も綺麗な景色を見て、おいしいものを食べて、いろんな思い出を作って……あの世でエンリにたくさん話して聞かせるんだ! その為に、大魔人ジガルゼルド……あなたは倒さなきゃいけません!」
リンリが深呼吸と共に冷静さを取り戻す。そしてリンリの最後の魔力を燃やして炎を生み出し、グローザーを握り直して一気に距離を詰める。
ジガルゼルドは余裕の笑みで全く警戒していない。そしてジガルゼルドはたかが奴隷に興味が無く、リンリの滅多に聞く事の無い多弁にも違和感を覚えない。だから気づかない。リンリが精一杯注意を自分一人に向けようとした事など。
「クロトさん、後は頼みます」
先述の通り、リンリは最後の〈時雨ノ太刀〉で魔力も体力も尽きていた。故に、この炎剣はただのはりぼて。
リンリがジガルゼルドに迫り、衝突する刹那。リンリは小柄な体を利用してジガルゼルドの攻撃を潜り抜け、すぐに戦線から離れる。そして、そこで初めてジガルゼルドは視界にクロトを認識する。黒雷で作り出した弓を構え、引き絞る。殺意の籠った鋭い眼をジガルゼルドに突き刺し、狙いを定め、そして放つ。
〈黒雷術 鳴雷・獄覇弓〉
モード閻魔を開放したクロトの文字通り最強の一撃がジガルゼルド目掛けて迸る。ジガルゼルドは体を捻って回避を試みるが、速度の上で雷には敵わない。半身を貫かれる形で直撃し、あまりの威力に流石のジガルゼルドも膝を付く。
「シエラ、リンリ……ありがとう。ここからが本番だ」
レオの全身全霊を賭けた一撃が永竜に炸裂する。
数十にも及ぶ斬撃は自慢の鱗が弾いていてくれたが、それも長くは続かず、嵐のような斬撃を受けて鱗は砕け散り、赤い血が噴き出す。元々、レオとナイアリスは首の一点のみを攻撃し続けており、頑丈な鱗も連撃を受けて脆くなっていたのだ。
しかし、レオの猛攻は当然それでは終わらない。永竜が反撃しないのを良い事にレオの斬撃は肉を抉り、首を断ち切ってしまうのではと思えるほどの激しさだ。
「ちッ、ここまでか」
しかし、その巨体故に、首に攻撃を仕掛けられる時間は限られている。レオの体が落下を始めると同時に斬撃は止み、首に深すぎる傷を負った永竜は痛みに悶えている。
「とどめはお前だろ」
いつの間にか永竜と取っ組み合っていたはずのリュウの巨体が無くなっており、はるか上空で人型に戻って槍を構えている。レオの連撃とサエの拘束。それらがリュウが動く一瞬の隙を作り出した。
リュウは一点に狙いを定めて一気に急降下。勢いを落とす事無くレオが作った傷を突き刺し、その勢い故か、リュウは体ごと永竜の中へと浸食し、直後に反対側の首から皮膚を突き破って出現する。
永竜は完全に首を槍で貫通され、いくら厄災の竜と言えど、こうなってしまえば勝負は決まっただろう。
「……やった、良かった……はっ! リュウ、何喜んでんのよ! こんなの当たり前でしょ!」
空中でガッツポーズをしているリュウを安心した、それでいて泣きそうな表情で見つめていたサエが、レオとナイアリスに横目で見られているのを感じて態度を一変させる。
だが、「トーゼンでしょ! トーゼン!」と叫びながらも、サエの表情は喜色満面の笑みだった。
「これで主要な奴は全員倒したのか?」
「もうアンデットも動いてないわ! リヴァも討たれたのね。じゃあ、後は……」
四人は無言で城の方を見つめる。そこで行われているであろう大魔人とクロトの戦いに想いを馳せる。
◇
「クロト! エヴァ!」
シエラとリンリが玉座の間に到着し、周囲の状況を把握しようと試みる。まず目に入るのはクロト。氷の塊の前でまるで生気が抜けた抜け殻の様に全く動きが無い。そしてそれを見下ろしているジガルゼルド。片腕を失い、もう片腕は血で真っ赤に染まっている。それを視界に捉えると同時にシエラは何をすべきかを理解し、後ろについてきているリンリの方を向く。
「リンリ!」
「わかってる!」
〈焔鱗〉
〈我流奥義・改 竜舞ノ太刀〉
リンリはすぐにシエラの意図を理解し、切り札でもある〈焔鱗〉を発動させ、炎を振り回してジガルゼルドに斬りかかる。ジガルゼルドは詰まらなさそうな表情で、まるで当たり前だと言わんばかりに素手でそれを受け止める。が、リンリの暴力的なまでの炎舞と気迫に一歩、また一歩と徐々に後退していく。
その隙にシエラはクロトに駆け寄り、様子を見る。最初はクロトはジガルゼルドの攻撃を受けたのかと思ったが、すぐにクロトの生気が抜けている理由を理解して動けなくなる。氷塊の前で生気を失ったクロトが虚ろな目で見ている先、氷塊の中にはエヴァが居た。胸部が赤く染まっており、素人が見ても大怪我だと理解出来る。更に医術をかじっているシエラならばすぐにそれがもはや助かりようのない致命傷だという事もわかる。
「クロト! 状況を教えなんし!」
シエラが揺さぶる様にクロトに話しかけるが、最早テンペスターを握る気力も無いのか、揺さぶった振動でテンペスターがクロトの手から落ちる。カランという乾いた音だけが虚しく玉座の間に響く。
「エヴァは……死んだ……」
少ない情報の中から、あのジガルゼルドの腕に付着した血はエヴァのものだろうとシエラは素早く理解する。更には傷からして心臓を一突き。間違いなく致命傷のはずだ。だが、氷の中では詳しい状況を完璧に知り得ることは出来ない為、望みを完全に捨てるわけにもいかない。そもそもなぜ氷の中に居るのか。氷はエヴァの術。つまりはエヴァ自身が氷の中に自らを封じ込めたという事になる。
「氷の中に自分を閉じ込める意味。そもそも即死なら氷結の余裕は無い。……仮にこの氷結が傷口を塞いでいるとしたら? 体内の血すらも完全に凍らせれば出血多量で死ぬ事は無い。でも、確実に仮死状態に陥って……仮死? だったら! ……クロト! エヴァはまだ……」
シエラが自分の思考を整理して言い聞かせるように口に出して考えをまとめる。そしてクロトに自分の仮説を説明しようとしたその時、シエラの言葉を掻き消すようにリンリが吹き飛んで来る。この短い攻防の中でもジガルゼルドに手も足も出なかったのか、かなりのダメージを受けている。それでも、血反吐を吐きながらなんとか立ち上がろうと藻掻いている。
リンリの攻撃はジガルゼルドに片手で完封され、更には単純な体術で簡単にあしらわれる。それはシエラが加勢しても同じことだ。リンリがジガルゼルドを少しでも足止めしてくれている間に、クロトの戦意を復活させる。それだけがジガルゼルドに勝てる唯一の希望、ひいてはこの戦争に勝利する唯一の突破口なのだ。
「リンリ! 大丈夫でありんすか?」
「う、うん……それよりクロトさんとエヴァさんは……」
「わっちが何とかしてみるでありんす。もう少しだけ時間を……」
「わかってる。任せて」
再びリンリが奮い立ち、ジガルゼルドに向かっていく。そんな中、サーキンの回復を終えたライラックが異常事態を感じ取ってシエラの元に現れる。
「これはどういう?」
「丁度いい所に来てくれんした。手伝いなんし。今エヴァは……」
「なるほど、わかったよ。私の力が必要なんだね」
シエラが説明するよりも早くライラックはエヴァを包む氷塊に駆け寄る。この状況とクロトの様子。そしてシエラがライラックを指名した事。それだけで自分の力でこの状況を打開出来るのだと理解したのだ。
「話が早くて助かりんす。……クロト! エヴァは死んではいんせん。それどころか生きる為にこうして戦っているでありんす。エヴァは必ずわっちらが助けるでありんす。だからあいつを、ジガルゼルドを倒しなんし!」
「エヴァが……?」
クロトの目に僅かに生気が戻るのを感じ、シエラは力強く頷く。
シエラはこの二人をずっと近くで見て来た。だからこそ、クロトとエヴァが強い絆で結ばれ、お互いを強く必要としながら支え合っているのを嫌と言うほど理解している。もしも片方が欠けてしまったら、もう片方も簡単に瓦解するのが目に見えている。だからこそ、ここでエヴァを救う事が、この戦争に勝つ事にも、クロトを救う事にも繋がる。戦闘の面ではジガルゼルドが相手じゃシエラはきっと役に立てない。だから、ここがシエラの戦場なのだ。
「エヴァは必ずわっちらが助けんす! だからあいつに勝って!」
「……ああ!」
◇
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
激流を纏った剣技がジガルゼルドに肉薄するが、炎剣と同じくジガルゼルドに傷一つ付ける事すら出来ない。それはリンリの攻撃が弱いわけではない。純粋にジガルゼルドの肉体の強度と、魔力による鎧が硬すぎるのだ。
クロトの〈赤雷一閃〉級の爆発力が無ければ傷付ける事すら叶わない。
〈我流奥義 白虎ノ太刀〉
器用に水流と火炎を切り替え、ジガルゼルドに温度差攻撃を仕掛けていく。いずれもジガルゼルドに傷一つ付けることすら叶わず、更に速度を速めても当然の様に捌かれる。
リンリの攻撃ではジガルゼルドの肉体の強度を破れない。リンリの最高速度ではジガルゼルドの動体視力を振り切れない。加えてリンリの体力もそう多くは残っていない。アリスとの戦いでかなり消耗した後、休む間もなくここまで来ている。当然奥義級の技を連発すればそれだけリンリの戦える時間も短くなってしまう。
「単調な攻撃だ」
「意外なのがお好みならこれでもどうぞ……!」
〈我流 麒麟ノ太刀〉
「フッ、話にならん」
レオの〈神薙麒麟暴〉を模した技で、複数の斬撃で斬りかかるも、完全に見切られていては効果は薄い。そもそも射程範囲から一瞬で抜けられるジガルゼルドに攻撃を当てる事すら難易度が高い。
リンリとしても、ジガルゼルドに通用しない技を無駄打ちする事は出来ない。だからこそ奥義級の技を連続で使用したわけだが、リンリのこれまでの勝利に貢献してきた〈竜舞ノ太刀〉、〈時雨ノ太刀〉、〈白虎ノ太刀〉が揃って効果無しともなれば、リンリの勝率は限りなく低くなる。
「時間稼ぎをして何になる? お前程度の力では私を倒す事は出来ない」
「……ってます」
「……?」
「そんな事はわかってます。この部屋に飛び込んだ時点で状況は私でも理解出来ました。でも、私はただの時間稼ぎで良いんです。私がここで粘れば粘るほど、下の戦場で私の仲間が勝つまでの時間を稼げます。私の仲間は皆強くて、元は敵だった私にも優しい人達ばっかりで……そんな人達相手に、貴方は一人で戦わなければならない! 後で必ず皆が勝ってくれると思えば、私は敵わない相手にだって立ち向かっていける……!」
「……そうか、つまらん奴だな」
ジガルゼルドは受け一辺倒なのはここまでだと言わんばかりに拳を握り、リンリへ肉薄する。と同時にリンリは炎剣を地面に叩きつける事で炎を膨張。その一瞬の隙に後方まで下がってジガルゼルドの拳から逃れる。
「エンリ、これが最後になっても良い……だから、力を貸して。仲間を守る為に……もう誰も失わない為にッ!」
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
再び炎が消え、水流を纏う。もう体力的にも技を出せるのはこれが最後になってしまうだろう。ジガルゼルドが攻勢に出た以上、これ以上食い止めるのももはや無理だ。その悟りから最後の全身全霊を賭けて最後の攻防を仕掛ける。
「炎の魔剣とその水流。……そうか、お前はアリスが気まぐれで奴隷にした双子の片割れか」
「……ッ!」
リンリの猛攻を捌きながらも、ジガルゼルドが口を開く。
リンリの事はアリスの報告でジガルゼルドも当然知っている。事実としてエンリとリンリを始末するように言ったのもジガルゼルドだ。その事にジガルゼルドの方から触れてこられ、リンリの表情が険しくなる。
「アリスの報告では両方殺したと聞いていたが、なるほど、情が移って妹の方だけでも逃がしたか」
「黙れ……!」
リンリの丁寧な剣の軌跡が突然乱れ、直線的な剣へと変化する。心の動揺を抑えきれるほど、リンリの精神は成熟していない。
「はははッ! その水剣は姉の忘れ形見か? いつまでも未練がましいものだ」
「黙れ!!」
リンリのコントロールが鈍り、炎と水の入り混じった魔剣が誕生する。因果関係にある属性を組み合わせる事は、イメルガとソレメガの様に爆発的な威力を生み出す。しかし、それは両方の属性が、もう片方の属性に負けないように出力を上げ続けるからこそ可能なだけで、今のリンリの様に調整に失敗しただけでは半端な力しか生まれない。
「全く……半端な力でえらい所まで来てしまったな。あの時姉と一緒に死んでおくのがお前にとっても幸せだっただろうに」
「エンリを殺した事は……絶対に許しません。死んでおいた方が幸せだったのかどうか、それも生き残ってしまった私にはわかりません。でも……生き残ったからには! エンリが生きれなかった分も、私はこの人生を完遂します。エンリが見れなかった分も綺麗な景色を見て、おいしいものを食べて、いろんな思い出を作って……あの世でエンリにたくさん話して聞かせるんだ! その為に、大魔人ジガルゼルド……あなたは倒さなきゃいけません!」
リンリが深呼吸と共に冷静さを取り戻す。そしてリンリの最後の魔力を燃やして炎を生み出し、グローザーを握り直して一気に距離を詰める。
ジガルゼルドは余裕の笑みで全く警戒していない。そしてジガルゼルドはたかが奴隷に興味が無く、リンリの滅多に聞く事の無い多弁にも違和感を覚えない。だから気づかない。リンリが精一杯注意を自分一人に向けようとした事など。
「クロトさん、後は頼みます」
先述の通り、リンリは最後の〈時雨ノ太刀〉で魔力も体力も尽きていた。故に、この炎剣はただのはりぼて。
リンリがジガルゼルドに迫り、衝突する刹那。リンリは小柄な体を利用してジガルゼルドの攻撃を潜り抜け、すぐに戦線から離れる。そして、そこで初めてジガルゼルドは視界にクロトを認識する。黒雷で作り出した弓を構え、引き絞る。殺意の籠った鋭い眼をジガルゼルドに突き刺し、狙いを定め、そして放つ。
〈黒雷術 鳴雷・獄覇弓〉
モード閻魔を開放したクロトの文字通り最強の一撃がジガルゼルド目掛けて迸る。ジガルゼルドは体を捻って回避を試みるが、速度の上で雷には敵わない。半身を貫かれる形で直撃し、あまりの威力に流石のジガルゼルドも膝を付く。
「シエラ、リンリ……ありがとう。ここからが本番だ」
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そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
もしかして寝てる間にざまぁしました?
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私、寝てる間に何かしました?
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4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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